そこが聞きたい:繰り返される慰安婦論争 大沼保昭氏
毎日新聞 2013年06月19日 東京朝刊
私は中国、韓国でも、相手国側の問題点も批判しながら議論していますが、話が通じなかったことはありません。小泉純一郎首相(当時)が靖国神社に参拝した翌日、北京の清華大学で講演したことがあります。大学当局は厳戒態勢を取りましたが、会場は冷静で、建設的な議論ができました。政府も国民も、そしてメディアも過ちは認め、力みを捨てて客観的な事実を提示し、積もり積もった誤解を一歩一歩解きほぐす手間を惜しむべきではありません。
◇聞いて一言
今年1月、東京・銀座で米軍普天間飛行場へのオスプレイ配備に反対してデモ行進する沖縄県の市町村代表らに向かって、日章旗を掲げた集団が「売国奴」「中国の手先は出て行け」とののしった。町にもネット上にも一方的で攻撃的な言動が目につき、人と人の対立が深刻になってきた。対話の糸口はあるのだろうか。慰安婦問題に粘り強く取り組み、左右両翼から批判を受けてきた大沼教授の話を聞いて、この国の現実と向き合い、冷静に解決の道を探さなければと改めて考えた。
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■ことば
◇1 アジア女性基金
村山富市内閣時代の1995年に財団法人として発足し2007年に解散した。戦時中に旧日本兵相手の慰安婦とされたフィリピン、韓国、台湾、オランダ、インドネシアの計364人に、(1)首相の謝罪の手紙(2)国民の拠金から1人当たり200万円の償い金(3)政府の資金による1人当たり約120万〜300万円の医療福祉支援−−の「償い」を届けた。
◇2 首相のおわびの手紙
「いわゆる従軍慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題でございました。私は、日本国の内閣総理大臣として(中略)心からおわびと反省の気持ちを申し上げます」の文面で橋本龍太郎氏から小泉純一郎氏まで歴代首相4人が署名した。
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■人物略歴
◇おおぬま・やすあき
1946年生まれ。専門は国際法。元東京大教授。著書「『慰安婦』問題とは何だったのか」、「慰安婦問題という問い」(共編)。