そこが聞きたい:繰り返される慰安婦論争 大沼保昭氏
毎日新聞 2013年06月19日 東京朝刊
まともな学者なら右寄りの方も、一部強制があったことは認めています。各国の被害者が示し合わせたわけでもないのに、細部は違ってもほぼ同一の証言をしており、多くの方々がだまされて慰安婦とされたことは間違いありません。「文書の証拠がないから事実がなかった」というのは学問的に全くの誤りです。それなのに決して学問的でない主張を一部の政治家が信じてしまい、問題をさらに悪化させてしまいました。
−−メディアの責任にも言及されましたが、今後メディアはどのような役割を果たすべきなのでしょう。
もう少し日本のよい面を報道して国民を元気づけましょうよ。工業デザイン、ファッション、建築、映画、アニメ、漫画。日本が評価されていることは山ほどあります。乳幼児死亡率を低くする母子手帳のシステムは、国際社会で高く評価されている。日本社会の安全性や社会サービスの質の高さはもちろんです。メディアは対論、激論など両極の意見をぶつけて対立をあおるのではなく、一見対立する人々の共通点を探り、報道されない多様な意見もすくい取ってほしい。慰安婦問題についても本格的な検証報道を考えるべきでしょう。
−−日本政府は今後、慰安婦問題にどう取り組むべきでしょうか。
政府は90年代にそれなりの謝罪や努力をしましたが理解されませんでした。広報の意志と能力が決定的に不足したからです。政府とアジア女性基金がやったことを、ドイツなど欧米の国々の戦後補償の在り方と比較して冷静に発信すべきでした。
−−アジア女性基金の償いとして、踏み込んだ内容のおわびの手紙=2=に首相が署名して渡したことがあまり知られていません。
この点は本当に残念です。そういうことすら日本政府は発信しませんでした。基金のメンバーが「もっと広報しましょう」と言うと官僚組織から必ず止められた。国会答弁や外国との交渉が複雑化するのを避けたかったのでしょう。発信すれば波風は立ちますが、避けていたら何も変わりません。
−−健全な批判をすれば中国や韓国に聞いてもらえますか。