「三流どころ」政治家の小細工

7f05a6d6メディアの伝える報道に世論がまったく反応せず、それどころか逆方向に問題が進む例が最近は増えている。報道の質が、総じて高い日本人の見識と釣り合わない例が多いのだ。

一つの興味深い例がある。復興庁の幹部の暴言騒動だ。ある幹部が匿名で「クソ左翼」などとツイッターでつぶやいたと、13日に毎日新聞が報道。各メディアがこの幹部を批判する形で追随し、「被災者を批判した」と一方的に断罪して、幹部は更迭された。(写真は暴言復興庁幹部にまとわりつく、アワプラネットテレビの白石草代表。同サイトの映像より)
ところがネットで観察する限り、問題を冷静に受け止める声が大半だ。幹部の暴言は愚かだが、言わせた状況にも目を向ける必要があると、バランスのある見解を示す人が多い。そもそも、批判したのは「左翼」で被災者ではないし、たいした問題ではないので騒ぎ続ける人はほとんどいない。この世論動向を眺めたためか、メディアの続報もほとんどない。

私は「復興庁幹部暴言騒動・役人「叩き」ではなく仕事を「減らす」で福島を救え」という記事を書いた。この騒ぎは「子ども・被災者支援法」(参議院の解説文書)を推進する人々、また情報源になった自称市民メディアのOurPlanetTV(以下アワプラ)という左派系市民団体が「はめた」面もあると推測した。この幹部は、この法律を担当していた。それを裏付ける情報が次々に出ている。

この幹部は3月に国会で行われた集会に出席。そこで罵られ「左翼のクソどもから、ひらすら罵声を浴びせられる集会」と、つぶやいてしまった。この集会には福島瑞穂(社民党)、川田龍平(みんなの党)、谷岡郁子(みどりの風)と、この法の具体的内容の設定を求める参議院議員が出席。同法推進の議員連盟には、徳永エリ(民主党)、照屋寛徳(社民党・衆議院)議員が並ぶ。

パネリストは東大大学院教授の島薗進氏、小児科医の山田真氏、前双葉町長の井戸川克隆氏で、FOEジャパンなどが主催した。このアワプラ、そして岩上安身氏のネットテレビが中継した。

これらの集会のメンバーは放射能、エネルギー問題を追いかけていた私から見ると、とてつもなく偏向している。放射能をめぐってデマと言われかねない不正確な情報を拡散し続けた人々だ。

そして推進する議員は(本人と支持者には失礼ながら)、政策立案能力と政治力で、はっきり言えば「三流どころ」の人々だ。その失言、問題行動からうかがえる資質の低さは名前をネット検索すれば、一目瞭然だろう。これらの人々が身を引く方が、政治的に良策と思うのだが。

この法律の内容は「具体策の策定は、行政に委ねる」と要約できる、とてもいい加減なもの。国会議員がやるべきことは官僚を吊るし上げることではなく、欠陥法を作り直すことだ。それなのに福島議員などは、この復興庁幹部について個人名を上げて「仕事をしていない」と批判していた。(アワプラの記事

こうした人々の参加した集会は、官僚に対する罵声だらけになっただろう。「サヨク」「クソ」とのレッテル貼りはよくないが、理性の通じない人々にプレシャーを受け続けたこの幹部が気の毒になる。

小策士、小細工に溺れる

この一連の騒動の情報源らしいアワプラという団体は、この参事官のツイートを数ヶ月分記録をしてtogetter というまとめサイト上に公開した。これを見て私は粘着ぶりに「気持ち悪い」という印象を受けた。まとめを見ると、この幹部が休日返上で一生懸命仕事をしていたことがうかがえた。この人の仕事を、無駄な主張をする議員や市民団体が増やしていたのだ。

私と同様の感想を抱く人が多かったようだ。このコメント欄は、アワプラの意図と異なって批判だらけのいわゆる「炎上」状態になっている。その批判は、落ち着いたものが多い。

「なんでこれしきのtweetで処分されるんだろう。勤務時間内につぶやいていたわけじゃなし。マスコミの餌食になって、それに付和雷同するアホ政治家達の下らぬ政治主導の犠牲になったのかな」。私の意見と同じ、こんな批判が掲載されていた。

騒動には、笑い出すような影響が出ている。復興庁によれば、更迭された幹部の後任が決まらず、「子ども・被災者支援法」の具体策の策定は止まってしまった。官僚も人間だ。個人攻撃を受けるリスクがあるなら、担当になることを敬遠するだろう。勘違いする市民運動家が多いが、役人を変えても、主張に正当性がなければ、政策は大きく動かない。

そして、この法律は前回記事で指摘したように、無意味で、ただ財政負担を増やすだけの悪法だ。

「策士策に溺れる」という慣用句が世にある。一連の騒ぎは、小細工をめぐらせた人々の意図と異なり、混乱を広げただけのようだ。そして一連の騒動は今福島を守り、生活をしている方々にとって何の関係もない東京でのばか騒ぎだ。とても残念なことだ。

混乱で利益を得る人は誰か

しかし復興問題で「何も決まらない混乱状態」を望む人は多いのかもしれない。その方が利益を得られるためだ。その形はさまざまだが、この騒動の登場人物を観察すると、それが浮き彫りになる。

一部の空想家にとっては、自分の脳内につくった妄想の福島・被災地を救う、自己満足につながる。「私は正義の立場に立って、悪い国を懲らしめる」という構図は、確かにカタルシス(心の浄化と快感)をもたらすものだ。

一部の政治家にとっては、悪とした官庁を叩き続けることが、注目を集める方法になる。政策、実績で勝負できない議員が、「子ども・復興支援法」で騒ぐ。今はちょうど、参議院選挙前だ。

一部の市民団体は、「悪い政府」と戦い続けることが、存在価値を産み、支援者の支持、そして金銭支援を受けやすい。

政府の補助金は、新しい利権を産む。この法は、必要とは思えない政府支出を増やすものだ。一連の騒動には少数の弁護士が参加する。弁護士業界にとって、政府の補償が増えることは、新しいビジネスチャンスが広がる。また「子どもを救え」と主張する左派系市民団体が熱心に活動をする。この人らも復興に絡む支出を、享受できる機会が増えるだろう。

もちろん、これらの人々が自分の利益だけで動いているとは思わない。「困った人を救え」と真剣に考えているだろう。しかし同時に、したたかに自分の利益を追求することも配慮しているようだ。人間はたいてい、いくつもの顔を持つものだ。

「被災者を救え」という叫びに、冷静に向き合う

東日本大震災と原発事故で、「被災者を救え」と声高に叫ぶことで、冷静な議論を妨げる場面が、あらゆる場面で多かったと思う。その叫びの大半は善意から発せられたことだろうし、日本人なら誰もが福島・東北の被災した同胞を救うことを願う。

しかし復興には労力と費用が必要だ。その負担を冷静に検証しようという主張が、「被災者を救え」という正義の叫びで、かき消されることはなかっただろうか。あふれる正義の言葉が、異論をためらわせる空気をつくってしまったのだ。そして、日本では「空気」といわれる、場の関係者の行動を強制する集合意志が頻繁に発生し、冷静であるべき意思決定をゆがめることが頻繁に起こる。

ちなみに、「子ども・被災者復興法」は、衆参両議院の全会一致で採択されたそうだ。ユダヤ人の格言に「全員一致の意見には気をつけろ」というものがある。なぜなら人は必ず意見が違うものであるからだ。ユダヤ人によれば「全員一致」とは、どうでもいいことを決めたか、もしくは採決が、買収などでゆがめられた可能性があることを疑わなくてはいけないという。この格言の通り、同法は民主党政権下の国会に蔓延した「異論は認めない」という、理性からかけ離れた異様な空気の下で、ゆがめられた形で決まったように思える。

復興庁幹部の暴言騒動から学ぶべき教訓の一つは「正義を声高に叫ぶ人に気をつけよう」ということだ。復興問題で「被災者を救え」という言葉を受け止めた上で、その「救い方」を詳細に検証しなければならない。正義を語る人が、実は、別の目的で動いている可能性がある。このおかしな法律だけではなく、同じ状況が他の場面でも頻繁に起こっているかもしれない。

「正義の言葉」を聞きすぎると、日本の最優先課題である福島・東北の被災地の復興が遅れてしまう。復興を正義を語る人が遅らせている面があるのだ。

(追伸)暴言ツイートの復興庁幹部に21日午後、停職一ヶ月の行政処分が加わったという。国家公務員の信用失墜行為ということだが、口頭注意など、多様な処分はあり、あまりにも重すぎであるように思う。誰も問題にしていないし、この公務員に迷惑をかけた人々は何も批判されていないのはおかしい。

石井孝明
経済・環境ジャーナリスト 
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