東浩紀責任編集メールマガジン「ゲンロンサマリーズ」
野間易通 『金曜官邸前抗議』 |
橘木俊詔、迫田さやか 『夫婦格差社会』 |
伊勢田哲治 『倫理学的に考える』 |
開沼博 『漂白される社会』 |
柄谷行人 『哲学の起源』 |
白井聡 『永続敗戦論』 |
高野秀行 『謎の独立国家ソマリランド』 |
ポール・ド・マン 『読むことのアレゴリー』 |
【サービス終了のお知らせ】ゲンロンサマリーズは、友の会第3期末をもって終了します。2013年6月28日配信号が最終回となります。ご愛読ありがとうございました。
【バックナンバー】
・東浩紀のゲンロンサマリーズ動画 vol.003
・東浩紀のゲンロンサマリーズ動画 vol.002
・東浩紀のゲンロンサマリーズ動画 vol.001
★文章版はこちら!
【ゲンロンサマリーズって何?】
・新刊人文書の要約とレビューをコンパクトにまとめてお届けするメルマガサービス。
・取り上げるのは、話題の人文書新刊。リクエストも受け付けています。
・「5分で読める」「内容について友達に話せる」ことがコンセプトです。
・弊社代表の東浩紀が選書から監修。厳選されたスタッフが要約します。
・配信は毎週火曜日と金曜日の月8回(第5火曜日、金曜日は休刊)。年間配信回数は96回!
【読むためには?】
・クラスにかかわらず、ゲンロン友の会のすべての会員にお届けします(入会はこちら)。
・会員のみなさまには、My友の会ページでバックナンバーもご覧いただけます。
・会員のみなさまには、毎月末に発行する当月発行8回分のEPUB版をご利用いただけます。
・会員以外の方には、ゲンロンサマリーズのみの有料メルマガサービスもご用意しております。
【特徴は?】
・要約はこのように箇条書き。キーワードは太字にマーキングで強調されています。
・とにかくわかりやすく手短に要約。
・要約は1冊平均約650~700字です。1冊の内容が100分の1以下に圧縮されています。
・レビューではさらに踏み込んで対象書の背景や著者の経歴などを解説。
・要約とレビューを読むだけで、1冊読みきった気になれる!
詳しくはこちらをご覧ください。
【読者さま・著者さま・関係者さまからの声】
・「拙著が、このような優れた若手の仕事の一環と接触できて、実はとても喜んでいます。」
(ゲンロンサマリーズ vol.51『動物に魂はあるのか』著者、金森修さま)
・「すばらしい要約とレビューでした。「自分ってこんなにいいこと書いていたのか」と思わず思ってしまいました(笑)
いろいろと事象を詰め込んだ本でしたので、こうしてまとめていただけると、自分としても勉強になります。」
(ゲンロンサマリーズ vol.38『ハクティビズムとは何か』著者、塚越健司さま)
・「需要を上回って供給されるのが当たり前の時代になってマーケティングが必要になってきたわけですが、マーケティングは需要を探ろうとして社会を対象とするうちに、他領域の思考もとりこんで、次第に社会の理論にも近いことをやっていくようになったところが面白いと思います。しかも現実を偶有性の世界としてとらえるとなると、これは哲学的な話になります。
そもそも供給過剰ということが経済における不確実性を生み出したわけで、歴史的必然などなく現実は常に人間が作り出すものだというスタンスには、人間を自由な存在として捉える姿勢もあるように思っています。
石井淳蔵さんは『マーケティングの神話』で理論の基盤をつくり、その後はその応用問題をやっておられるようです。」
(ゲンロンサマリーズ vol.32『マーケティング思考の可能性』について。匿名希望さま)
【サンプル】
会田誠『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』
ゲンロンサマリーズ vol. 061(2013年1月4日配信)
責任編集:東浩紀
いつもご愛読ありがとうございます。
東浩紀のゲンロンサマリーズは毎日大量に出版される人文書の中からこれはというものを選んで要約とレビューをお伝えしているメールマガジンです。
今回とりあげるのは『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』(会田誠著、幻冬舎刊)です。森美術館での大々的な個展や映画『駄作の中にだけ俺がいる』の公開でも話題の現代美術家が、日常からアートとは何かという根源的な問いまで綴った好エッセイです。この本を読むと著者の並々ならぬ知性と教養の深さがご理解いただけます。レビュアーはカオス*ラウンジの黒瀬陽平さん。鈴木成一装丁の本自体もお奨めの一冊です。
5分でわかる要約とレビュー、どうぞお楽しみください。(河村)
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◎ 5分でわかる要約とレビュー
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『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』幻冬舎、2012年11月四六判、282ページISBN 978-4-344-02280-5 C0095定価:本体1600円+税
■ 著者紹介(本書より) 会田誠(あいだ・まこと) 1965年10月4日新潟県生まれ。1991年東京藝術大学大学院美術研究科修了。ミヅマアートギャラリーでの個展を中心に国内外の展覧会に多数参加。近年の個展に「天才でごめんなさい」(森美術館、東京、2012年)、「Diena ir naktis」(Contemporary Art Centre、ヴィリニュス、リトアニア、2011年)、グループ展に「Bye Bye Kitty!!!-Between Heaven and Hell in Contemporary Japanese Art」(Japan Society、ニューヨーク、2011年)など。著書に『カリコリせんとや生まれけむ』(幻冬舎)『MONUMENT FOR NOTHING』(グラフィック社)など。制作や日常に密着したドキュメンタリー映画に「≒会田誠」(B.B.B.inc.)、「駄作の中にだけ俺がいる」(Z-factory Inc.)がある。 |
■要約
【現代美術家・会田誠について】
・筆者は、過激な作風と強烈なアイロニーで日本の現代風俗を描く現代芸術家である。
・代表作として、戦時中の「戦争画」を模した《戦争画RETURNS》や、切腹する女子高生を浮世絵風に描いた《切腹女子高生》など。
・本書は、筆者のアーティストとしての体験をもとに、制作日記や海外滞在記などのスタイルで綴られたエッセイ集である。
【「現代美術」と詐欺】
・公開制作の為に滞在した北京で、なぜか怪しげなリウマチ特効薬のCM撮影に巻き込まれ、出演することになった。
・詐欺同然のCM内容に良心の呵責を感じながらも、このオンエアを録画して編集すればアートになるのでは、と思いつく。
・詐欺師に訴えられるリスクはあるが、仮に訴えられたとしても、そのこと自体も作品のエピソードとして語ることができるのではないか。
【東京のアート】
・渋谷駅の高架下のホームレスと落書きへの対策として、渋谷区が『春の小川』というファンシーな壁画を描いた。
・渋谷区からは、壁画の維持管理を理由にホームレスの立ち退きを要求する張り紙も出された。
・これに反対したアーティストたちによって抗議運動が起きた。
・ホームレスや落書きを、ファンシーな壁画(アート)によって追い出そうとする公権力の欺瞞に憤ったのだ。
・アートとはホームレスや落書きのように、なくそうとしても生えてくる雑草的なものではないか。
・公的なアートと雑草的なアートが衝突したこの一連の出来事自体が、日本におけるアートの現状をリアルにあらわしている。
【「日本画」について】
・日本画が岩絵具で描かれるものだという考えは、明治期に生まれた。
・西洋を模した近代化を進めながらも日本の固有性を求めた結果、西洋にはない岩絵具という素材が選ばれたのだ。
・そうした近代化の産物としての日本画は、菱田春草の『落葉』で完成し、それ以上発展する可能性はない。
・日本画の本当の素晴らしさは素材ではなく、イラストのような薄さと軽さにある。
・もし、現代で岩絵具を使った日本画を描くならば、その反時代性を自覚しなければならない。
【藤田嗣治について】
・藤田嗣治は、戦前、パリで、日本特有の描画法と西洋絵画を融合させ活躍した国際的なアーティストである。にもかかわらず、彼は国内の画壇から排除された。
・同様のことは、現代日本を代表するアーティストである村上隆にも言える。
・藤田は戦後、フランスへ行ったまま二度と日本へ帰らず、ひたすら架空の少女を描き続けた。
・成人男性が精神的自画像を幼女に託しているという点で、藤田の描く少女は、現代アーティスト奈良美智の作品に酷似している。
・三人とも、日本人の描法特有の美質と、日本の村社会的な欠点に自覚的だった国際人、という共通点が見出せる。
■レビュー
本書から見えてくる筆者の姿は「本音の現代美術家」という言葉がぴったりだ。一般に、コンセプチュアルな現代美術は無意味に難解でとっつきにくいもの、という印象がある。そもそも、現代美術という舶来の文化がなかなか根付かない日本においては、建前では現代美術を文化として認めつつも、本音の部分では少なからず、ゴミを法外な値段で売る詐欺のようなもの、と感じている人も多いだろう。
本書に登場する、現代美術をめぐるエピソードや筆者の随想の数々は、煎じ詰めれば「現代美術なんて詐欺みたいなもん」という身も蓋もない本音の吐露である。現代美術を生業とする著者本人によるそのような本音の吐露は、ともすれば悪趣味な自嘲や無責任な居直りに取られかねない。しかし、筆者の意図するところはもう少し複雑である。
筆者は、現代美術に対してぶつけられる素朴な本音にこそ、リアリティーを感じている。だからこそ、日本において日本人がリアルな現代美術をつくっていくためには、むしろ積極的に本音に晒されるべきだと考える。根拠薄弱な建前を疑い、身も蓋もない本音を受け入れながら、それでも現代美術家であるということ。それこそが「日本の現代美術」の出発点なのである。
○要約・レビュー:黒瀬陽平(くろせ・ようへい)
1983年生まれ。美術家、美術評論家。梅沢和木、藤城嘘らとともにアーティストグループ「カオス*ラウンジ」を結成し、代表を務める。『思想地図』、『ユリイカ』などに評論を寄稿。
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◎ 編集部より
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・今回のゲンロンサマリーズはいかがでしたか? 幻冬舎の本書特設サイトでは、本書の10~33ページまでが公開されています。興味を持たれた方は、ぜひ、購入の際の参考にご覧ください。
http://webmagazine.gentosha.co.jp/aidamakoto/utsukushisugiru.html
■
・CINRA.NETでは、会田誠氏のインタビュー「会田誠が語る『アート』の未来」を読むことができます。
http://www.cinra.net/interview/2012/12/31/000000.php
・ORICONSTYLEのサイトで公開されている会田誠氏のインタビューからは、会田氏の作品への取り組み方を窺い知ることができます。代表作品のフォトギャラリーもありますので、ぜひご覧になってください。
http://www.oricon.co.jp/entertainment/interview/page/283/
・cakesで購読できる会田氏のインタビューでは、会田氏の机にスポットを当てています。会田氏の机の写真を見ることができますので、クリエイターの机に興味がある方、必見です。
■
・今年3月31日まで開催されている会田氏の個展「天才でごめんなさい」公式サイトでは、インタビューやトレイラー映像などが公開されています。展覧会へ足を運ぶ前の予習におすすめです。
http://www.mori.art.museum/contents/aidamakoto_main/
・同展会期中、会田氏の活動の資金的サポートをお願いする「会田誠:平成勧進プロジェクト」も開催中です。
http://www.mori.art.museum/contents/aidamakoto/
・美術評論家の椹木野衣氏による同展のレビューが公開されています。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/121203/art12120312190001-n1.htm
■
・レビュアーの黒瀬陽平氏は、『日本2.0』に収録されている椹木氏、東との鼎談「3.11後の悪い場所」に参加されています。ぜひ読んでみてください。
・ゲンロンサマリーズでは以前、会田氏と親交のあるアーティスト集団Chim↑Pomの『芸術実行犯』(idea ink)をご紹介しました。友の会会員の皆様には、ゲンロンショップのMy友の会ページでゲンロンサマリーズのバックナンバーを全てお読みいただけます。
■
・次回配信は1月8日(火)の予定です。次はクラウス・ドッズ『地政学とは何か』(NTT出版)を取り上げる予定です。今後のラインナップなどは、http://genron.co.jp/summaries/ で随時告知いたしますので、こちらもぜひご覧ください。
・リクエストや感想はいつも心待ちにしております! tomonokai@genron.co.jp やTwitterアカウント(@genroninfo )まで、いつでもお気軽にお寄せください。
・友の会のみなさまに、12月に配信した8回分のEPUBファイルをご用意しました。入会するとダウンロードできます。
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◎ ゲンロンライブラリー
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このコーナーでは『ゲンロンエトセトラ』などゲンロンの既刊からお勧めの記事をピックアップし、分割して掲載します。
今回から『ゲンロンエトセトラ #5』に収録されている市川真人さん、高橋源一郎さん、東浩紀の鼎談「震災から文学へ」を8回にわたってお届けします。一度読んだ方も、はじめての方も、さらに広がるゲンロンの世界をお楽しみください!
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■ニコ生思想地図〈出張編〉
震災から文学へ
市川真人+高橋源一郎+東浩紀
3.11から1年余の2012年4月14日。『日本2.0』の刊行が近づくなか、東京・新宿の紀伊國屋サザンシアターにて、「ニコ生思想地図」初の出張編が開催されました。ゲストは『日本2.0』の寄稿者である市川真人氏、高橋源一郎氏です。混迷が深まるいまだからこそ、言葉を扱う「文学」には、果たさなければならない役割がある――。危機の時代に届く言葉について、3人の文学者が語りました。(編集部)
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東浩紀 こんにちは、東浩紀です。本日はニコ生思想地図出張編「震災から文学へ」と題して、紀伊國屋サザンシアターよりお送りします。本日お招きしたおふたりは、僕の会社が手がけている「思想地図β」シリーズの次号『日本2.0』にともに原稿をお願いしています。高橋さんには小説、市川さんには新しい文学についてのマニフェストを依頼しました[★1]。で、本来であれば、今日はその原稿を踏まえたうえで議論させていただくはずだったのですが――。
高橋源一郎 ごめんなさい。
市川真人 ごめんなさい。
東 といった次第で、無理でした(笑)。というわけで今日は、おふたりがその原稿でどのようなことを試みておられるのかうかがいつつも、3.11という大きな事件に対して、文学になにができたのか、なにをするべきだったのか、それぞれの経験も踏まえながら語っていただこうと思います。
さて、まずはみなさんご存知かと思いますが、高橋さんは昨年の11月に『恋する原発』(講談社)という長編を発表されました。まず高橋さんから、なぜ震災を受けてこの長編を発表しようと思ったのか、またもう少し遡って、震災にあたってどのようなことを考えられたのか、お話しいただけないでしょうか。
バカバカしくてやってられない
高橋 3月11日に震災が起こって2、3日後、僕や東さんに、「ニューヨーク・タイムズ」から依頼が来ました。それでまず、「どうしよう」と思いました。なにかを言わなきゃいけない。でも、なにか言わなきゃいけないのだけれど、まずいことを言うとあとで困る。正直に言うと、そう思いました。その時点では、まだ地震があり、津波が起こって、原発が爆発したということしかわかっていませんでした。これからなにが起こるのかと言われてもとてもわからない。ただ、「ニューヨーク・タイムズ」からの依頼は、震災について、戦後日本という時代背景を踏まえて、文化の面から書いてほしい、というものでした。それならば書けそうな気もしました。ほとんど準備はありませんでしたが、自分でも考えなければいけない、考えたいと思っているときに依頼があり、書かないとすごく悔いが残るだろうと思って引き受けました。
『恋する原発』を書いたのは夏のことですが、そのきっかけのひとつは、川上弘美さんの「神様2011」[★2]という短編です。ふつう職業作家は依頼されてから原稿を書くのですが、「神様2011」は持ち込みだったそうです。つまり、川上さんはベテラン作家で読者もたくさんいるのに、まるで新人みたいに「これを載せてほしい」と持っていった。読んでみるとわかりますが、作中に明確なメッセージが打ち出されているわけではなく、震災後のある種の混乱、というより川上さん自身の混乱が文章のかたちになっています。本人もなにが書けるかわからないままで書いている。それを見て、やはり小説でもやれることはあるのだと思ったんです。
そのあとすぐ『恋する原発』に取りかかって、以前から構想があったこともあり、ここ10年くらいで一番早く、しかも一番集中して書けました。内容についてはあとで触れますが、作家は小説を書きながらものを考えるものなので、とにかく書かないと始まらない。そういう経緯で書かれたのが『恋する原発』です。
東 僕個人の感想をお話させていただくと、僕はこの『恋する原発』を読んで、80年代の高橋さんが戻ってきたように感じました。『恋する原発』の前作の『「悪」と戦う』(河出書房新社)は、どちらかと言うと道徳的なメッセージが強い作品でした。ですから、震災や原発事故を受けて小説を書くとなれば、やはりメッセージ性の強い作品になるのかと予測していたんです。しかし実際にページを開いてみたら、震災チャリティーのためにアダルトビデオを撮るという「バカげた」話が、すごくハイテンションな言葉遊びで描かれ続ける。『ジョン・レノン対火星人』(講談社文芸文庫)のころの高橋さんが戻ってきた、と感じました。そして、そこに逆に僕は勇気づけられる感じがしたんですね。
高橋 ありがとうございます。どうしてそういう作品になったのかというと、震災以降のこの国は、戦後ずっとおかしなシステムを放置していたツケが来ていますよね。実感として、「もうバカバカしくてやってられない、ふざけんな!」という思いがありました。それを小説にするとなると、シリアスな顔をして抗議したり、呪詛の言葉を吐くというふうにはならなくて、自分で書いていてもバカバカしいと思えるような作品になった。登場人物にも「震災チャリティーAVはないだろう」と言わせているんですが、僕もそう思います(笑)。社会が歪(ゆが)んでいる、間違っている、だからこういうふうに直しましょう、と建設的な提案をするのは、もちろん正しいことです。それによってこの国は少しよくなるかもしれない。それはとても喜ばしいことだと思うのですが、でもそれより先に、やってられない、もう本当にうんざりだ、と思ったこの気持ちを、まずなんとかしたかった。
市川 「うんざり」というのはなにに対する、あるいは誰に向けられた感情ですか?
高橋 政府の対応も、それを生んだこの国のシステムも、それを見逃してきた自分たちも含めて、このバカバカしさはなんだろうと。さらにその後、議論が硬直化していくバカバカしさ。あるいは、この国全体が自粛ムードに包まれていくバカバカしさ。そのうちひとつというわけではなく、ぶっちゃけどれも変だよね、と。もちろん、僕の作品がこの状況に対する正しい解答かというと、そうではないと思います。でも、いまこの時期に僕にできることは「もうバカバカしくてやってられない」と、誰に向かってと言うよりも、この空間に向かって、ひとこと言っておくことではないかと思ったんです。
東 よくわかります。世間では、震災を機に人々はまじめになり、社会について襟を正して考えるようになったと言われます。けれども思い返すと、実は日本は90年代後半くらいから、妙にまじめで窮屈な社会になっていたと思うんですね。とくに文学や思想はそうで、バカバカしいことが許されていたのは80年代までですね。当時はポストモダニズムと呼ばれる文化運動が盛んだったのですが、90年代に入るとその反省から、思想も文学もとてもシリアスになった。私見では高橋さんの作品にもその変化は表れていて、90年代も後半以降は、『日本文学盛衰史』(講談社文庫)[★3]のように、日本文学の全体を引き受けるような大きな仕事をされるようになっている。――そこに巨大な震災が起きて、なにもかもバカバカしくなったという。それは重要です。
危機と対峙するということは、すごく極端なこと、ときにバカバカしいことを考えることでもあるはずです。そういう「危機の思考」が、じつは90年代からゼロ年代にこそ忘れ去られていて、震災によってもう一度帰ってきたとも言えるのではないか。ひとつが『恋する原発』なのではないか。
日本人は震災の前から、社会をこうした方がいい、経済格差を解消しなくてはならない……と、ずっとまじめに議論してきました。しかし、今回それがすべて吹き飛んでしまった。もちろん、いまでも一生懸命まじめに考えている人たちを否定するつもりはない。ただ、いくらまじめに考えても、否応なくそれが吹き飛んでしまう瞬間というものがある。震災はそういうものとして現れた。
ここまでの話を受けて、市川さんはどうですか。
★1 『日本2.0 思想地図βvol.3』(ゲンロン)は2012年7月8日に刊行された。原稿は本鼎談の収録後に無事入稿され、高橋の小説「なんでも政治的に受けとればいいというわけではない」、市川の文学論「文学2.0」がともに掲載されている。
★2 川上弘美「神様2011」、『群像』2011年6月号、講談社。原型となった1999年発表のデビュー作「神様」とともに掲載され、同年9月に単行本化された。「神様」は近所に引っ越してきた「くま」と「わたし」の交流を描く寓話的な作品だが、「神様2011」は「神様」の文章を一部改変する形式で、「あのこと」(作中では明示されないが、震災および原発事故を指す)が起きた世界での、「くま」と「わたし」の交流が描写されている。
★3 高橋源一郎『日本文学盛衰史』、講談社文庫、2004年。日本近代文学史上に名だたる文人たちが総動員され、田山花袋がアダルトビデオの監督を務める、石川啄木が援助交際を行うなど、フィクションを交えた各人のエピソードの積み重ねによって語りが進められる長編小説。続編「日本文学盛衰史 戦後文学篇」は『群像』2009年10月号から2012年6月号まで連載された。
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◎ ゲンロン友の会情報
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・ゲンロンは、作家・批評家の東浩紀を中心として、言論誌『思想地図β』を発行する出版社です。従来の枠にとらわれないサービスを目指して、読者が交流するプラットフォームである「ゲンロン友の会」を運営しています。
・ゲンロンでは現在、次号『思想地図β vol.4』で特集する予定の「福島第一原発観光地化計画」が鋭意進行中です。
福島第一原発観光地化計画ポータルサイト:http://fukuichikankoproject.jp/
・現在、ゲンロンでは『ゲンロンエトセトラ #6』を鋭意編集中です。友の会のみなさまには1月中にお届けする予定です。
・ゲンロン友の会のポータルサイトを試験公開しました。
本サイトは、ゲンロン友の会会員の交流を目的として作成しました。
会員のみなさまには次の機能をご利用いただけます。
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(2)みなさまのプロフィールを公開できます。
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・音声配信「あずまんのつだっち大好き!」第3回を配信開始しました。友の会会員で、かつ津田大介さんのメールマガジン「メディアの現場」を購読されている方のみ聴取できます。聞いてみたい方はぜひ「メディアの現場」を購読してください。まぐまぐ・夜間飛行・ブロマガから最初の1ヶ月は無料で購読できます。お申込みは下記ページから。
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【これまでに紹介した本】
vol.086 岡本真一郎 『言語の社会心理学』 (4月5日配信予定) |
vol.085 藤田直哉 『虚構内存在』 |
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vol.084 杉田敦 『政治的思考』 |
vol.083 篠原資明 『空海と日本思想』 |
vol.082 ジェイムズ・グリック 『インフォメーション』 |
vol.081 今柊二 『ファミリーレストラン』 |
vol.080 美馬達哉 『リスク化される身体』 |
vol.079 アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート 『コモンウェルス』(上・下) |
vol.078 ニコラス・ワプショット 『ケインズかハイエクか』 |
vol.077 宇野邦一 『アメリカ、ヘテロトピア』 |
vol.076 リチャード・ネルソン 『月とゲットー』 |
vol.075 砂原庸介 『大阪』 |
vol.074 セルジュ・マルジェル 『欺瞞について』 |
vol.073 武村政春 『レプリカ』 |
vol.072 渡邉大輔 『イメージの進行形』 |
vol.071 ジャン=リュック・ナンシー 『フクシマの後で』 |
vol.070 西谷真理子編 『相対性コム デ ギャルソン論』 |
vol.069 西野嘉章 『モバイルミュージアム 行動する博物館』 |
vol.068 ダニエル・カーネマン 『ファスト&スロー』(上・下) |
vol.067 ダン・アリエリー 『ずる』 |
vol.066 大塚英志 『物語消費論改』 |
vol.065 小松美彦 『生権力の歴史』 |
vol.064 伊東豊雄 『あの日からの建築』 |
vol.063 井上達夫 『世界正義論』 |
vol.062 クラウス・ドッズ 『地政学とは何か』 |
vol.061 会田誠 『美しすぎる少女の乳房は なぜ大理石でできていないのか』 |
vol.60 キャス・サンスティーン 『熟議が壊れるとき』 |
vol.059 渡部直己 『日本小説技術史』 日本の文芸評論の集大成のような本です。(東) |
vol.058 津田大介 『ウェブで政治を動かす!』 |
vol.057 柘植あづみ 『生殖技術』 |
vol.056 原武史 『団地の空間政治学』 |
vol.055 さやわか 『僕たちのゲーム史』 |
vol.054 クリス・アンダーソン 『MAKERS』 アンダーソンは安定したクオリティなので取り上げました。(東) |
vol.053 小熊英二 『社会を変えるには』 小熊英二さんの大ベストセラーとなれば取り上げないわけにはいかないでしょう。(東) |
vol.052 山崎亮 『コミュニティデザインの時代』 山崎さんとはシンポジウムでご一緒したことがあって、面白い方だと思っていたので、彼の考えがよくまとまっている本を取り上げました。(東) |
vol.051 金森修 『動物に魂はあるのか』 とてもいい本です。『一般意志2.0』とも関係しているように思います。(東) |
vol.050 石破茂+宇野常寛 『こんな日本をつくりたい』 |
vol.049 檜垣立哉 『ヴィータ・テクニカ』 生権力とか生殖技術について興味を持っている僕自身が読まないといけない本です。(東) |
vol.048 若田部昌澄+栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 対談本にありがちな薄い内容ではまったくありません。(河村) |
vol.047 笠井潔 『8・15と3・11』 笠井さんとは昔からご縁があるのですが、久しぶりにガッツリした本を書かれたので取り上げました。(東) |
vol.046 pha 『ニートの歩き方』 phaさんがニートについての本を出すならチェックだと思って選びました。(東) |
vol.045 宮台真司監修、 現代位相研究所編 『統治・自律・民主主義』 宮台さんが僕と対談された『父として考える』でも、娘をよく善導しようという宮台さんの考え方が現れています。(東) |
vol.044 福井健策 『「ネットの自由」vs.著作権』 要約とレビューはネオローグの香月さんというベストメンバーです。(東) |
vol.043 中沢新一 『野生の科学』 |
vol.042 佐藤健二 『ケータイ化する日本語』 日本語の本なら面白そうだと思って取り上げました。(東) |
vol.041 山下祐介 『限界集落の真実』 山下さんはこの本からさらに進んだことも考えられているようなので、期待の意味も込めて取り上げました。(東) |
vol.040 加藤隆 『武器としての社会類型論』 目次を見ても非常に面白そうだったので取り上げました。(東) |
vol.039 マット・メイソン 『海賊のジレンマ』 |
vol.038 塚越健司 『ハクティビズムとは何か』 |
vol.037 藤井聡 『プラグマティズムの作法』 |
vol.036 小泉義之 『生と病の哲学』 |
vol.035 荻上チキ+ SYNODOS編 『日本の難題をかたづけよう』 ![]() |
vol.034 與那覇潤 『中国化する日本』 |
vol.033 小野善康 『成熟社会の経済学』 小野さんも重要な人なので取り上げました。(東) |
vol.032 石井淳蔵 『マーケティング思考の可能性』 |
vol.031 三浦展 『第四の消費』 |
vol.030 速水健朗 『都市と消費とディズニーの夢』 速水さんの新刊を取り上げないわけにはいかないでしょう。(東) |
vol.029 児玉聡 『功利主義入門』 |
vol.028 青木健 『古代オリエントの宗教』 |
vol.027 Chim↑Pom 『芸術実行犯』 |
vol.026 斎藤環 『世界が土曜の夜の夢なら』 |
vol.025 片山杜秀 『未完のファシズム』 |
vol.024 五野井郁夫 『「デモ」とは何か』 |
vol.023 萱野稔人編 『ベーシックインカムは 究極の社会保障か』 |
vol.022 藻谷浩介+山崎亮 『藻谷浩介さん、 経済成長がなければ 僕たちは幸せに なれないのでしょうか?』 |
vol.021 安田浩一 『ネットと愛国』 |
vol.020 市田良彦 『革命論』 |
vol.019 宮台真司 『きみがモテれば、社会は変わる。』 |
vol.018 高橋昌一郎 『感性の限界』 |
vol.017 松原弘典 『未像の大国』 |
vol.016 ドミニク・チェン 『フリーカルチャーを つくるためのガイドブック』 |
vol.015 金子勝+神野直彦 『失われた30年』 |
vol.014 新雅史 『商店街はなぜ滅びるのか』 |
vol.013 橘玲 『(日本人)』 |
vol.012 坂爪真吾 『セックス・ヘルパーの 尋常ならざる情熱 』 |
vol.011 東島誠 『〈つながり〉の精神史』 |
vol.010 坂口恭平 『独立国家のつくりかた』 |
vol.009 中川大地 『東京スカイツリー論』 |
vol.008 大澤真幸 『夢よりも深い覚醒へ』 |
vol.007 井上明人 『ゲーミフィケーション』 井上さんは昔GLOCOMにいたころから堅実に研究をされていました。いい感じの本です。(東) |
vol.006 國分功一郎 『暇と退屈の倫理学』 |
vol.005 佐藤栄佐久+開沼博 『地方の論理』 |
vol.004 津田大介 『動員の革命』 |
vol.003 佐々木俊尚 『「当事者」の時代』 |
vol.002 すが秀美 『反原発の思想史』 |
vol.001 東浩紀 『一般意志2.0』 |
(要約は弊社スタッフが行います)ご興味のある方は、こちらよりご連絡ください。