先日、クラブから「2011年度決算について」というリリースが出されました。
Jリーグは、Jクラブの健全経営を促進するために、2005年度からクラブの貸借対照表(B/S)と損益計算書(PL)の概略を一般公開している。これは毎年恒例。
それに先がけて発表というところにはやはり意味合いを感ぜざるを得ないわけですが、ひとまずはクラブ発表の中にある、『「伝統あるクラブに相応しい成績を、従来とは異なる収益構造で達成するという難易度の高いコミットメント経営」へのシフト』というチャレンジの中身を読み解くことにしたいと思います。
なぜそんなことをする必要があるのか?
サポーターなんて、そんなことはせいぜい茶飲み話や酒の肴程度のものでいいのではないかという向きもあると思いますが、このへんを懐に呑んでおかないと、またいろいろなことがあった時に、たいへんなことになるのではないかと思っています。
中村俊輔の移籍の時もしかり、松田の契約非更改の件もしかり、補強やマリノスタウンの話もしかり。ざっくりそのへんは皆が理解して、さらには「サポーター」としてやるべきことは何があるのかを、それぞれがそれぞれの立場で、しっかり認識しておく必要もあるのではないかと。
またクラブライセンス制度の導入が来年に控えています。
この導入は2013年からでありますが、各種の猶予期間のようなものがあり、実際に経営状態がJリーグにふさわしからずということでペナルティを受けるのは、まだしばらく先となります。
- 3期連続の当期純損失(赤字)を計上していないこと
(2012年度-2014年度の3年間以降で算定 )
- 債務超過でないこと
(2014年度から算定)
実際は、再来年度の収支から適用されるものですので、「この決算によって累積損失は拡大しておりますが、クラブライセンス制度の施行までに、すべての累積損失を解消する方策の見通しは立っております」という嘉悦社長の言葉をそのまま受け取っておくとして、累積損失10億超というところを、どのように一掃するのか、その方法についても少し想像しておくのもよいのではないかと思います。
なお、今年のはじめに、エル・ゴラッソ主催のセミナー「EGアカデミー」にゲストとして登壇させていただきました。
その際に、湘南の社長の真壁さんや、今や慶応の教授となっている元FC東京の社長の村林さん、さらには経営コンサルタントの矢島展弘などとお話しさせていただき、そこで様々な貴重なお話をお聞きさせていただきました。このへんも踏まえて、未来予測・・・といってもたぶん1-2年のうちにおこりそうなことを推測してみたいと思います。
※以降、数値の単位はすべて百万円となります。
1.2011年度のマリノスの収支-売上減少の正体-
こちらまずは、クラブの発表した数字を見てみましょう。
◇表1:2011年度PL
ただ、これだけだと比較対象がないので、過去の数字と比較したものを出してみましょう。
◇表2:2011年度の営業収益の比較データ
昨年2011年度だけ見ると、マリノスの売上は健闘していたと見てよいでしょう。
昨年といえば、まずは前年末の松田騒動で一部の人が「年チケ不買」とか呼びかけていたころです。自分のまわりでも、松田や山瀬、その他の選手についていって、多くの女子サポがゴール裏からいなくなっていきました。
そして何よりも3月の東北大震災でサッカーどころではない状態が続いていたということもあります。(ただし全ゲーム数は消化はしました。また、聞くところによると同年プロ野球は観客動員をほとんど減らさなかったそうです。)
そのような事情を鑑みて、この6年間で最高順位だったということも特に効果を表さずに、入場料は減少。J全体の観客数も減っているため、分配金も減っています。
ただし、これをカバーして、その他の売り上げが前年比113%という数字を出しています。
その他の売上というのはグッズ販売やアカデミーの授業料などです。これは大健闘ですね。
さて、表2には、2007年度との比較データも入れてあります。2007年というのは、左伴さんが社長の最後の年で、実質の指揮は齋藤さんがとられていた年です。
おぼえていますか?
早野監督就任で、早野やめろとか左伴は引責とかみなさんクラブにメールやFAX流していた年ですよ。
また、マリノスタウンに完全移転した年でもあります。今では、皆がその素晴らしいクラブハウスに感謝してやまない、あのマリノスタウンですが、当時はその賃借料の問題で、それが選手強化(年俸確保)の妨げになるということで、左伴さんに辞めろ辞めろとやっていましたね。果たしてあれは正しかったのでしょうか?
後述していきますが、この年はマリノスのマネジメントにとって、最後の幸せな年でした。
さて、その2007年との比較です。
広告料収入が当時の半分以下になっていることが、すぐに目に飛び込んできます。その他は大きな変動はありません。J配分金に関しては不可抗力です。
この数字を2005年からまとめたのが次の表です。
◇表3:2005-2010営業収入(内訳) [矢島 展弘さん作成]
※クリックして拡大
こちらには、2011年度の数字は反映されてませんが、ポイントをまとめてみると・・・
(1)2007年以前に比べてマリノスの売上は、30%も落ち込んでいる。
(2)その減少の原因のほとんどは広告売上で他は致命的な変化はない。
(3)広告売上は2007年以前の半分以下。
・・・となります。
2.「広告売上」とは何か
待てよ、広告売上ってユニフォームのスポンサーとかスタジアムの看板のことだろ?それが半分以下になっているというのは全然実感がないんだけど・・・という方もいらっしゃると思います。
確かに私たちファン・サポーターにとってはそう思えるでしょう。
◇表4:マリノスの広告売上とスポンサー状況
マリサポには本当にマメな人がいて、wikipediaにユニフォームスポンサーをまとめてくれている人がいます。
それに、各年度の広告売上をつけてまとめてみたのが上の表4です。
2007年までが広告費が25億円で推移していたオールドデイズ・バッド・グッドデイズの時代です。ところが翌年2008年から様相が変わります。
2007年の広告売上が2005年からの最高の数字26億円だったのが、いきなり18億円に減少。さらに翌年には13億円と減少。わずか2年で広告売上が半分になってしまいました。
広告売上はマリノスの売上の半分を占める主力の収益減です。それがわずか2年で半減してしまう。苦しくなるのは当然です。
いったい何があったのか?上の表4を見ても、その答えは出てきません。ユニフォームの胸と背中はNISSANとANAの当時の盤石の布陣。しいていうなら、ユニフォームのサプライヤーが、長年お付き合いしてきたadidasさんからNIKEに変ったことくらい。
そのNIKEへの変更は、結局サプライヤースポンサード料がadidasを上回ったからというのが、当時の報道だったはず。adidasさんは、NIKEにかわる年に、お別れの巨大ポスターを作ってマリノスに別れの挨拶をしていました。合理的に考えて、サプライヤー料がNIKEの方が高額だったという以外に変る理屈が見当たりません。
ちなみに、ユニフォームスポンサー料ってどれくらいなのでしょうか。もちろん詳しい数字はわかりようはありませんが、報知新聞の報道によると年間5千万円が相場で、今年の三栄建築設計さんは「3年間で推定5億円」ということだそうです。
(参考:ギラヴァンツ北九州のスポンサー価格)
そうすると年1億6千万円くらい。背中とパンツと袖、それぞれあわせて、2億円から3億円というところがユニフォームスポンサー料でしょうか。
さて、ユニフォームスポンサーで3億円という価格なのに、2007年から2009年までに広告売上はなんと13億円も減ってしまった・・・・これっておかしくないですか???
しかも特にスポンサーが激減したということもない。他にもスポンサーはたくさんあると思いますが、この年あたりに何か大きなスポンサーが減ったというのは、思いつくかぎり、全く見当たりません。
さて、ここでちょっと興味あるお二方の発言を紹介しましょう。
まずは前述の湘南の真壁社長。EGアカデミーの中で、真壁さんは次のようなことを述べていました。「クラブライセンス制度で、3期連続損失や債務超過を言われても、いわゆるビッグクラブは実際にそういう状態になっていても全く問題ないはず。彼らはいかようにでもなんとかできるから。」
その湘南に「移籍」して、がんばっていらっしゃった左伴さんも次のようなこと述べています。
国は責任企業の赤字補填を認めているので、Fマリノス時代も日産からお金を出してもらって運営してきた。しかし、経営者としては後ろめたさをもってきた。
ようするに、大きな親会社がいるクラブチームというのは、赤字を出してもそちらが補てんしてくれるわけですね。この補てん費が、広告費という名目で出されているというわけです。
先ほどの広告費の合計で、あえて胸スポンサーを外したのにお気づきの方もいらっしゃるかと思います。そうです、あの胸スポンサーのNISSANの価格だけが、定価がない金額のスポンサー料なわけです。
真壁社長が言われていたのは、そういうことで、3期連続損失しても、「今年は赤字を出すと困るので・・・」という名目で、例えばその年だけ2年分もらっちゃうとかしちゃえばいいわけなのです。
かつて、自分はクラブの集客というのは勝敗と関係ないところがポイントといろいろなところで書いてきました。だから勝敗じゃなくて地元密着なのだ!
という論理なのですが、マリノスのような大きな親会社のいるところは、経営や下世話なファイナンスの話に限ると、そうでもないのです。宣伝目的の子会社の
チームが勝てなかったら、損失補てんなどできるわけありませんよね。
よくも悪くもマリノスのこれまでの栄光を支えてきたのは、こういう仕組みがあるわけです。
3.日産からの支援の中身
ざっくり推定ですが、たぶん日産はマリノスに20億くらいのお金を「広告費」として支払ってきた。しかも、それはチームの強化方針とかによって上下してきたということ。
そしてこれも推測にしかすぎませんが、たぶんその「広告費」は2005-2007の半分くらい(20億→10億)になっているのではないでしょうか。
なぜ、2008年になって、突如日産からの「支援」が半減したのかといえば、答は簡単です。
→日産2007年度決算:グローバル販売台数は過去最高
→日産2008年度決算:世界経済の減速と特に円高による赤字決算
この翌年、マリノス以上の歴史をもつ名門日産自動車野球部が廃部になりました。かつて、カルロス・ゴーンは「都市対抗野球こそが日本の企業文化の象徴だ」と語ったということですが、その野球部が廃部になるというのはショッキングな出来事でした。
◇表5:日産自動車連結決算とマリノスの広告収入の関係
こうやってみると、一目瞭然ですね(笑)
なお2011年は東北大震災の影響で国内の車販売台数が顕著に減りました。キャッシュを確保するために、こちらの広告費が削られたというのは十分考えられることです。
また参考のために、表5には対ドル円相場も書いておきました。風が吹けば桶屋は儲かる、円が上がればマリノスは厳しくなる、ということです。
そして、この2011年、背中のスポンサーが入りませんでした。
これまでフリューゲルスの合併から苦楽をともにしてきた全日空が、前年2010年に「これまでに経験したことのない大変厳しい」状況となり、前年から1000億のコスト削減をしてきたところにここもはいってしまったということだと思います。
さらに長期観点の話をすれば、日産がマリノスに出してもらっているお金が、「広告費」という名目ですから、それなりにその費用対効果は問われるでしょう。ところが、日本国内ではだんだんクルマは売れなくなっています。そうすると同じ金額だったら海外に振り分けたほうが広告費としては効率がよいでしょう。
国内の自動車は、現在エコカー補助金の効果もあって、軽やハイブリッド車などの低燃費自動車が売れています。しかし、エコカー補助金の原資は、遠くない将来に無くなる見込みです。
各自動車会社は、その後の国内市場では販売数量が大幅に低下するとみています。それは、今までの経験則に基づいています。
国内全体をみても、少子高齢化、人口減少、若者の車離れなど、自動車業界にとっては決して前向きな市場環境ではありません。
日経記事;『日産、国内生産能力15%減 神奈川の1ライン停止』に関する考察
4.マリノスタウンは本当に経営を圧迫しているのか?
さて、以前からまことしやかに語られている「マリノスタウンの賃料で経営が圧迫されている」というのは本当なのでしょうか?
マリノスタウンはJ屈指のみならず、世界に誇れるクラブハウスです。バルサもミランもクラブワールドカップの時はここを練習場に使うのはご承知のとおりですが、駅からのアクセスやピッチの数、施設の素晴らしさ、何よりもヨコハマのど真ん中にあるという象徴性、そして日産自動車のグローバル本部の隣にあるというところも(笑)、いうことなしです。
しかし、ここの賃料が高いために、選手補強にまわせるお金が減るというならば、それは本末転倒ではないかということも肯くこともできます。
それでは、マリノスタウンの賃料というのはどれくらいなのでしょうか。
ところで、ネットのニュースって新聞社の方針により、一年ぐらいで削除されてしまうので、ソースとして個人のブログに頼ることも出てきてしまいます。
マリノスタウンの賃貸借についても、いろいろ新聞に出てきていてましたが、それも消えてしまっているため、あんまりたよりたくありませんが(笑)、ソース2ちゃんの情報を以下に引用してみます。
○土地賃貸料
みなとみらい61街区 敷地面積45,600m^2
定期借地契約により、月額700円/m^2(2004年11月29日付神奈川新聞)
従って賃貸料は、年間3億8300万円。
○建設費
グラウンド、スタンド、クラブハウス、店舗等で20億円超。
日産自動車が負担し、マリノスは10年で返済。
従って年間2億円(金利は不明)
○合計して年間5億8300万円(維持費含まず)。
社長の発言に今までの3.5倍掛かるとある。ならば昨年までは
年間1億7千万円弱になる。
東戸塚が1億4千万か1億5千万と言われていて、新子安の本社ビル
及びユースの練習場が加わるから、当たらずといえ遠からずか。
年間6億弱から現時点での広告費収入1億円を引いて、5億円がMTの
年間負担になります。新聞報道の5億円はこれかな。
忘れていけないことは、東戸塚と新子安の負担がなくなること。
追加負担分は3億3千万円強でしょう。
→横浜F・マリノス part343
以上が神奈川新聞の新聞報道における数値と照らし合わせて出てきた数字ですが、ところが、違う情報もあります。こっちは自民党の県議の方です。
同用地は、横浜市から日産自動車株式会社へ10年間3億円で貸し、日産自動車が8億円で施設整備し、日産自動車から横浜マリノス株式会社へ年間1億円で貸しています。横浜マリノスは、賃貸料1億円、メンテナンス費0.8億円など含め、年間3億円で運用しています。
→沢田力のブログ
どちらが正しいのかはわかりませんが、3-5億円/年間というところで、これからの推察ではいったん落ち着けてしまっておきます。なお、この土地は横浜市から定期賃借で借りているところで、2015年にその契約がいったん切れます。
ただし、この定期賃借といえども、この契約は延長可能で、現在空地に草がぼうぼうと生えている光景が目立つみなとみらいでは、マリノス側(日産)が望めば、普通に契約延長となるだろうことが予測できます。特に建造物がこの定期借地にあわせて減価償却させていると思われますので、その建物分の賃借料がなくなるのは日産にとってもマリノスにとってもおいしいと思われますので。ここをあえてほしがっているのはベイスターズファンだけかもしれません(笑)
それでは以下に、その賃借料がマリノスの経営にどれくらい影響を及ぼしているかをチェックしてみましょう。
2005年から2010年(それと今回発表の2011年)のJリーグの各クラブの経営状況を抜粋してまとめたものです。
◇表5:2005-2011年までのマリノスの経営状態
マリノスタウンの借地とか建築物の賃借料が事業費か一般管理費のどちらに計上されているかはわからないのですが、通例ですと一般管理費かと思います。
ところが、2006年から賃料が発生しているはずのマリノスタウンの経費推定3~5億が負担になっている姿は一般管理費の数値からは見えてきません。
もしかすると事業費に計上されているのかとも思いました。こちらは2007年から、人件費が2億程度圧縮されています。ただこれは少し考えにくい。
ちなみにこの年は、奥大介、久保竜彦、ドゥトラが出た年でもありますが、人件費(選手もスタッフもいっしょくたになっています)19億円というのは、Jリーグで2番目の人件費(1番は浦和レッズ)です。ようするに、マリノスタウンがあったとしても、ここまではこれまでの収支構造からすれば、この時点ではなんにも問題なかったわけです。
通常の経費削減効果と約15%の人件費圧縮で、マリノスタウンの賃料その他は吸収できていたわけですから。この数値分析、当時左伴さんを責め立てていた人はよく吟味してくださいね(笑)
ところが問題は翌年2008年です。
ここから表5に少しデータを付け加えていきます。
◇表6:クラブの経営体制と貸借状況の推移
マリノスが大きく舵を切ったのは2008年なのは間違いありません。この年、いくつかの大きな収益構造と資産状況の変化が表れています。
(1)広告売上が一挙に8億円減→翌2009年さらに5億円減(2007年間半減)
(2)事業費を10億円(!)削減・・・うち7億円は選手含む人件費
(3)総資産と総負債が10億円縮小→翌2009年さらに7億円縮小
マリノスというのは、これまで経常利益ベースで赤字を出したことがありませんでした。これは日産からの「広告費」の枠内で収支を成立させていたからに他なりません。2008年と2009年、マリノスは2年連続で経常利益±0という数字を計上しています。これはもう、この会社は普通に営業活動しているんじゃありませんよと宣言しているようなものです(笑)
ようするに、2007年途中からやってきた齋藤さんは、2008年度から強烈なコストカットをやったということです。広告売上が親会社の「赤字の補てん」だということは、その補てん額を極小にまで下げることに成功したということです。これはすごいことだと思います。もちろん経営の視点からの話ですし、これまで見てきたとおり日産本体の業績の急激な下降により、そうせざるを得なかったというところが本当なんでしょうが。
結論として、自分はマリノスタウンが経営圧迫の原因とは一概に判断できないという立場をとります。それよりも問題なのは、日産からの広告費つまり「支援」が半減している実情なのです。
5.人件費の現在と目指すべきコストパフォーマンス
齋藤さんのコスト圧縮は人件費も例外ではありません。当時、「これからは育成クラブを目指す」という言葉が各所から聞かれたのを覚えている人も多いでしょう。
その言葉どおり、人件費は2005-2006年当時と比較して半分程度まで圧縮されました。
2007年に人件費が浦和に次ぐ2位だったマリノスは、2008年にはなんと全18チーム中16位となります。最初、自分はJリーグから出されているPDFデータが間違いじゃないかと思いました。しかし、これは本当でした。翌2009年も16位。この数字は選手だけではなく、チームスタッフの人件費も入っている数字です。たぶん、大変だったのではないかと思います。
その後もマリノスは以前からたびたび触れているとおり、身もフタもない言い方をすれば、昨今のマリノスの低迷の原因の中心はここ以外ないことになります。
なお現時点で公開されているデータの最新となる2010年度は8位。だいぶ是正されてきてはいますが、これは別にマリノスが大きく人件費をあげた(≒選手獲得した)というわけではなく、J1チームの人件費が総じて下がっているというところが正しいです。
[2008年のJ1チームの人件費総額297億円→2010年度256億円と86%まで下がっているのです。これはこれで問題なのかもしれませんが、マリノスにとっては助かる話です(笑)]
◇表7:2010年度の各クラブの人件費の状況と、コストパフォーマンス
一目瞭然で、売上に比較して人件費率が低いことがわかります。齋藤社長が相当やりこんだときからの流れですね。ただ、これをもってして、マリノスタウンの経費3~5億円が高すぎるという根拠にはならないような。
見ておわかりのように、売上高人件費率が低い傾向は、浦和や東京といったチームにも共通する事態です。むしろ、マリノスは他のクラブと比較して、あれだけの施設を持ちながら人件費以外のコスト圧縮をがんばりぬいているという理解もできそうです。
それと、これはオマケとして、勝ち点1を稼ぐための人件費というのも表としてならべてみました。
マリノス、そこそこ優秀ですね(笑)
というか、この人件費のコストパフォーマンスを最大化することが、どの企業でも同じですがこれからの厳しいJリーグ環境の中では経営の鍵となるはずです。
6.マリノスの今そこにある未来
ここまでまとめてきて、今一度クラブライセンス制度と、それについての嘉悦社長のステイトメントの意味を考えてみましょう。
①3期連続の当期純損失(赤字)を計上していないこと
(2012年度-2014年度の3年間以降で算定 )
②債務超過でないこと
(2014年度から算定)
これがクラブライセンス制度のペナルティ事項ですが、これそのままだと横浜マリノス株式会社は抵触しまくります。
まず①の純損失を3年以上続けるとアウトについてですが、2005-2011の7年間で純損失を出さなかった年というのは、見事に数字あわせできた2008だけですのでアウト。
ただし、これまで真壁さんが指摘してきたとおり、この「利益/損失」というのは、親会社が助けてくれる限りほとんど意味をなさない数字です。ただし、あくまでも親会社がしっかりとフォローをしてくれるという前提ですが。
5億でも10億でも損失が出そうになっても、今年はカクカクシカジカの事情で・・・と「支援」を依頼し、支出してもらったお金で広告売上をあげていけば帳尻はあう話なのです。
ここで、注目してほしい収支の状況があります。2010年からマリノスは当期純利益で2年連続で3億と5億超の赤字を計上しています。あわせて9億近く。
そのため、累積損失が2008年まで1億2千万程度で止まっていたのが、なんと2011年には10億円にまで膨らんでいます。
そうすると、クラブライセンス制度の②の事項からすると、再来年の2014年度までの3年間でおおよそ10億円の純利益をあげなければならないことになります。これは相当厳しい数字ですね。
通常の営業活動(広告収入を増やす・観客動員を増やす)を通じて、本当にそこまでできるのでしょうか。みな、これだけがんばっているのに、2年で10億の赤字を出してしまってるのにです。
ただ、自分は嘉悦さんという経営者の正直さや改革の意思を、この2年で10億の赤字発生で逆に感じているところもあります。これまでのパターンであれば、損失は出さないのがお約束でしたから、たぶん赤字部分は親会社とのごにょごにょにより穴埋めしてきたと思います。ところが、嘉悦さんはそれをまったくやらなかった、ということではないかと。
この決算によって累積損失は拡大しておりますが、クラブライセンス制度の施行までに、すべての累積損失を解消する方策の見通しは立っておりますことを最後に申し添えさせて頂きます。
→2011年度決算について
うむ、なるほど。しかし、こう書くからには、さらに秘策もあるのでないかとも(笑)
では、その秘策とは何かについても考えてみます。
<短期的な視点での債務超過の解消方法>
- 増資を行い資本のマイナスを解消する
- 借入金を資本金へ振り替える(デット・エクイティ・スワップ)
- 遊休資産の売却等の不要な資産のキャッシュ化
<長期的な視点での債務超過の解消方法>
- 経常利益がプラスになるように経営体質改革
もし長期的改善策が今年から毎年3億円の黒字を出せるようになれば、それはそれで万歳!です。
嘉悦社長の先にあげた心強い言葉には、「累積損失を解消」という表現がとられていて、「債務超過を解消する」とは書いてません。そのため、ファイナンス政策的な施策よりも、経営体質改善の方をなんとしてやるということかと読めます。
仮に、2010年なみの広告料+入場料と、2011年の絶好調のアカデミーとグッズ販売の数字をあわせると売上38億円。それに、経費を嘉悦社長の初年度2009年のレベルに抑えられれば確かに3億円の利益が確保できることになります。まずは、われわれにできることは、これに協力することです。
そのうえで、短期的な施策として累損の解消というより、債務超過の解消をしていく選択もあるのでないかとも考えています。
2008年末に神奈川新聞に出た記事です。
神奈川新聞は、ことマリノスに対しては辛辣なことを書く傾向があるので、内容には注意が必要ですが、少なくとも日産本社筋から拾ってきた情報がはいっているのは間違いないかと。
かつてマリノスは日産100%の子会社でしたが、2005年に42株(額面210万円)の第三者割当増資をしましたが、これはどちらかというと地域企業の出資により、各種の共存関係を得ていく性質のもので、ファイナンスとはほとんど関係ないものでした。
現在の資本金はこれにより3,070万円(日産の持ち株比率は93%)。これが果たして適正なものなのかはよくわからない。
参考のために、横浜ベイスターズは、資本金6億5千万円(DeNAが66.92%、ニッポン放送が30.77%、TBS HDが2.31%で計130万株)。
たとえばマリノスが第三者割当増資をどこかと行い、同時に日産からの借入金を株式に転換するスキームでやれば、たぶんたちまち債務超過は解消する。もちろん、そういうことに応じる企業があればだが。これはあくまでも妄想の域を出ないことです、念のため。
なんにしても一般論として、ファイナンス的な側面からすれば、強くて魅力があるクラブに、たくさんのファンとサポーターがいれば、そのチームにはお金をだそうという企業も出てくるわけです。
さらに、たぶん、リバプールとかミランとかそういうチームは、どんなことがあっても潰れることもなく企業として永続的していくと思います。なぜなら、そこにはたくさんのファンとサポーターがいるから。負けても勝っても、彼らはずっといるでしょう。クラブチームの最大の資産価値というのは、実はここにあるのでないかと考えています。
阪神や浦和レッズが、阪神電鉄や三菱自動車がつぶれたとしても、絶対に存続することでしょう。それは屈指のファンとサポーターの目に見えない資産価値が評価されているからです。
自分は映画もサッカーに負けず劣らず好きですが、映画の歴史を振り返ってもファンと歴史を兼ね備えた映画会社というのは決してなくならないのです。誰かがその資産価値を評価するからです。
このへん本論とはずれてはいってますが、永続的なクラブチームの発展を横浜F・マリノスに期待するならば、まずわたしたちはそのために何ができるかをそれぞれが考えて行動に移すことが必要かと思います。その方法論は様々です。
ただくさしたり批判するだけではダメだということを、親愛なるマリノスサポーターにずっと自分は言い続けてきてますが、そのためにもこれまで書いてきたようなクラブ経営の中身についての想像力も、たまにはもっていてもいいのではないかと考えます。
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