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【被ばく遺伝】不安解消へ啓発推進を(6月17日)

 東京電力福島第一原発事故による被ばくが「遺伝に影響する」との懸念が県民の間に根強い。県の調査で明らかになった。医学的に「次世代以降に影響する可能性は低い」とされているものの、不安を抱えたままの人が依然いるのが実情だ。出産、子育て期を迎える若者や女性を中心に、きめ細かな啓発をさらに進めていく必要がある。
 5日に開かれた県の「県民健康管理調査」検討委員会で2つの調査結果が示された。「こころの健康度・生活習慣に関する調査」で、約60%が「今後生まれる子や孫へ影響の可能性が高いと思う」と答えた。回答者は原発事故当時、避難区域などにいた16歳以上の男女約7万3千人。
 また、全県で約6千8百人が答えた「妊産婦に関する調査」では、出産を考えていない人に理由を聞いた。「放射線の影響が心配なため」が約15%いた。出産を考えている人でも、60%近くが「放射線と健康リスクに関する情報」の提供を望んだ。
 広島、長崎の原爆投下後に妊娠した人が産んだ子(被ばく二世)への遺伝的影響を調べた調査がある。がんや白血病などの病気が増えたとの結果は出ていない。放射線を少しずつ浴びて遺伝子に傷がついても、修復機能が働く。県民の被ばくは外部、内部とも広島、長崎やチェルノブイリ原発事故と比べて、かなり低く次世代への影響は考えにくい-。県放射線健康リスク管理アドバイザーを務める長崎大教授の高村昇さんは本紙日曜日付連載「放射線 放射性物質Q&A」や講演などで繰り返し説明する。
 検討委員会は「妊産婦に関する調査」の結果を受けて、「継続的な情報発信」「心配を取り除き福島で産み育てていく環境づくり」の重要性を訴える。同感だ。ただ、問題なのは、科学的な知見に基づく情報や知識を、効果的にどう伝え、浸透させるかだ。
 学校教育では放射線に関する教育が始まっている。だが、義務教育を終えた十代後半以降の若者には学ぶ場が少ない。不安を抱えたままでは出産にためらいを捨て切れまい。ストレスにもつながる。
 県など公的機関の公表内容を素直に受け止められない県民もいよう。ならば、被ばく二世、二世の子どもを招いて語り部をお願いしてはどうか。広島、長崎で悩みや不安を乗り越えて出産、子育てをした人らから話を聴く機会を設ける。子育てサークルや職場などさまざまな場面が想定される。若者の不安を解消し希望を与える貴重な教えとなるに違いない。(鞍田 炎)

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