Interview:インタビュー

『君と彼女と彼女の恋。』プレイレビュー企画より シナリオライター/小説家“田中ロミオ”氏からのコメント

 2006年か2007年くらいまでだと思う。エロゲー業界は無敵の市場で、何をしてもお咎めなしの無法時代だった。大勢のならず者どもがやりたい放題、コンテンツ・ビジネス界を荒らしに荒らしていた。業界のいたるところに山師とアウトローの姿が見受けられたし、ニトロプラスだけでも“虚淵玄”や“鋼屋ジン”や“奈良原一鉄”や“下倉バイオ”がいた。こういった無法者たちが、メインストリームからかけ離れた問題作を次々と開発し、メーカー経営者を恐怖のどん底に沈めていた暗黒時代があった。良い時代だった。本作を終えて、思い出すのはそんな頃の記憶ばかりだ。

 『スマガ』に触れた時も感じたことだが、下倉バイオというのは問題意識のライターだと思われる。この文章はプロモーションに使われるのだろうからネタバレは避けるが、実は似たような問題意識を私も持ち、ゲーム作りに活かしたことがある。そんな体験があるからか、本作を終えた時、拉致された外国で奇跡的に日本人に出会ったかのような親近感を覚えた。よく見ればペンネームの感じも似ている。ということで無法集団ニトロプラスで私に最も近いライターは誰かと問われれば、断然下倉バイオということになるのだった。

 問題意識というのは、流行ジャンルである学園ラブコメを素直に作れないという一種の精神的な病だ。なぜ主人公は努力もせずにモテモテなのか、なぜ主人公と親友とヒロイン五人という様式美が強固に成立しているのか、いろいろとあるがそういった約束事に何か仕込まないと気が済まないのである。エンターテイメント作品なんだから独自性など求めず直球で作れないのか、と四次元殺法コンビのアスキーアートを引き合いに出して責め立てる輩がいるが、そんな難しいことを言われても困る。それは呼吸をするのと同じくらい、我々にとって自然のことだからだ。ビューティフルなことにニトロプラスではこの病気を治さなくても良い(治さない方が良い)。結果、2013年現在においてもこのようなゲームが世に出てくることができたわけだ。

 問題作の部類に入る。

 本作は様々な興味深い試みをしているが、その中には今の市場では禁忌とされているものも含まれる。ユーザーの反応は楽しみというより率直にこわい。今という時代によくやったものだと感心してしまった。いわば羊の皮をかぶった狼、好青年の仮面をつけたロリコンというわけだ。逮捕だ。

 こんなにも野心的な作品は、エロゲーを愛してきた人にこそ触れてもらいたい。週末は本作を遊んでメタメタに打ちのめされ、心身ともにリフレッシュだ。

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