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生活保護のリアル みわよしこ
【政策ウォッチ編・第29回】 2013年6月21日
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みわよしこ [フリーランス・ライター]

「子どもの貧困対策法」は貧困の連鎖を断ち切れるか?
衆議院・厚生労働委員会での攻防(下)
――政策ウォッチ編・第29回

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 朝日氏は、参考人発言の終わり近くで、戦後間もない時期の厚生省(当時)による貧困研究にも言及した。朝日氏によれば、当時すでに、「最低生存費」と「最低生活費」を区分しての研究が行われており、貧困の連鎖に関する指摘もなされていた。最低生存費の水準で生活している子育て世帯では、母親の知能が優れていても、子どもは十分に発達することができない。しかし、最低生活費の水準で生活している子育て世帯の場合、母親の知能が劣っていても、子どもには中程度の発達がみられたという。ちなみに当時、世帯の経済状態がそれ以上に良好であっても、子どもの発達に関しては大きな差はなかったそうだ。

 子どもの生存を保障し、生育環境を良好にするためには、子どものいる世帯に現金を「バラマキ」すればいい。なぜ、それではいけないのだろうか?

生存権の保障を求めた
「朝日訴訟」とは何か

 ここで、朝日氏が承継を試みた「朝日訴訟」について、簡単に説明しておきたい。1963年生まれの筆者が小学校・中学校に通っていた時期、社会科の教科書には、憲法第25条(生存権規定)と朝日訴訟に関する記述が必ずあった。1985年ごろを境に、学校教科書には記載されなくなっているようだが、貧困や社会保障に関心を向ける人々にとっては、現在も避けて通ることのできない重要な訴訟である。

 原告の朝日茂氏は、1913年に生まれた。日中戦争に従軍し、肺結核に罹患して帰国した。その後は国立療養所で生涯を送り、1964年に亡くなった。

 朝日茂氏の生涯を支えていたのは、生活保護制度であった。昭和21年に成立した生活保護法(旧法)、昭和24年の生活保護法(新法)には、長く続いた戦争による戦傷病・飢餓への対策という一面もあった。

 1961年の生活保護基準策定まで、最低生活費は「マーケット・バスケット方式」によって算出されていた。

 「その消費水準で暮らしている人々は、買い物に行くと、何をどれだけ購入するのか」

 に注目した方法である。しかし、前ページで紹介した朝日健二氏の参考人発言によれば、そこで考慮された消費は、

 「新しいパンツは1年に1枚、新しい肌着は2年に1枚」

 といったもので、到底、憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を実現したと言えるものではなかった。食についても、この事情は同様であった。

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


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急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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