バカは強い
父の持ってきた縁談を私は素直に受けた。
兄達と違い、元来私は争いを好まない。
運命の悪戯か、私にとんでもないスキルが与えられたが、ダンジョンにいかない道があるならその方が断然いい。
私の美技を見せつけ、のんびり王族ライフとでも行こうか。
城に着くや否や、私達家族は城に仕える大勢に出迎えられた。
一体どれほど誇張された情報が流れているのだろう。
少しずつだが、不安になってきた。
「よく来た。さぁまずは食事を楽しんで下さい」
私たちを案内してくれた人物は副大臣だった。
申し訳ないさと、怖さと、恥ずかしいさがダイレクトに私の心臓をつつく。
母も恥ずかしそうだが、
父と兄達は純粋に楽しんでいる。
こういうときのバカほど羨ましいものはない。
食事の最中も私と母は遠慮をし、少ししか食べない。
しかし、バカ3人は今まで飢餓に苦しんでいたのかとツッコミたくなる勢いで食べ出した。
ライ兄さんに至っては料理にケチをつける始末だ。
「この葉っぱすげー苦いぞ。なんてものを入れやがる」
多分、それは飾りだ…
一旦家に帰りたい。
帰ってベッドで一休みしたい。
きっと母も同じことを考えているのだろう、
私と母は何度も顔を見合わせた。
ようやく苦しい食事は終わり、
私達は王の広間へ通された。
王の広間の景色を見て私の体は今日一番に冷え切った。
玉座へ続くレッドカーペットを片側100人ずつの鎧騎士が囲む。
玉座へと歩いて近づくほど、
騎士の鎧は豪華になり、その体つきもたくましい。
もしも今、王に切りかかろうものなら私は2秒であの世に行くことになるだろう。
兄を盾にすれば、5秒もつ。
今私の隣にいる騎士なんて、何もしなくても切りかかってきそうなほど威圧的だ。
「クイ・アルレリック。ようこそきた」
玉座の前に着くと、国王が早速口を開いた。
「その一番身長が低いのが、サイか?」
「そうです。
これが三男のサイです」
父さんは私の背中を押し、前に出した。
「ほう、これが一振りで山を割る男か」
ちょっと待て。
王よ何のことだ!?
「そうです。これが地元で【山割】の異名をとる、サイです。
兄達もこの歳でランクCのダンジョンに行く強者ですが、
サイは一振りで山を割り、二振りで空を割る!!」
この発言に周りは、おおっと歓声をあげた。
待て!!
父よ、私は山を切るどころか、蒔きとネギしか切ったことがない。
山を切れなんて言われても無理だぞ!!
そしたらどうする!?
料理を吐き出せば許してもらえるのか?
「それは凄い。今すぐその技を見せてくれ!!」
王が身を乗り出した。
父も振り返り、見せてやれと言わんばかりの顔をする。
私は困り果てたが、出来ることは一つしかない。
私は剣を抜き、
素振りを見せた。
流れる美しい剣。
文句無しの一振りだ。
おおっ!!
国王を含めた全員が同じ反応を示す。
それっ、もう一振り。
おおっ!!
…それっ。
おおっ!!
それっそれっ。
おおっ!!おおっ!!
それっそれっそれっそれ!!
わああああ!!
この縁談、
オルレリック家が勝ち取ったり!!
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