新小児科医のつぶやき

2013-06-21 風疹の疫学みたいなもの

昨日は今日のエントリーを書くのにエライ手間がかかってしまい、ズルズルと時間切れになり遺憾ながら自然休載になってしまいました。ついでに気力も消耗してしまったので明日も休載にさせて頂きます。ではでは国立感染症研究所

これからチョット面白いデータがあったので紹介しておきます。


今年の流行の凄さ

まず今年の週別の患者数です。

去年と較べて目を剥くような数になっているが判って頂けるかと思います。累積数も当然凄い事になっているわけで、

上のグラフではかえって判り難いのですが、昨年の患者発生数も多くて、

今年とはスケールが違うのですが、それまでに較べて患者発生数が急カーブに増えている事が確認できるかと思います。当然ですがこのデータも参考にして厚労省は風疹対策を考えた事になります。近年では2000年代の初め頃に流行があったはずですが、この時は統計が十分でなかったようで、IASRの2000〜2005年の風疹および先天性風疹症候群の発生動向とその関連性に、

2000年第1週〜2005年第52週までに全国約3,000の小児科定点から感染症発生動向調査に報告された風疹症例について、報告内容に加え、自治体からの任意の提供情報、学会発表、論文等で公表されている情報も併せて解析した。2000〜2003年までは年間2,590〜3,120例の報告(2000年3,120例、2001年2,590例、2002年2,984例、2003年2,794例)であったが、2004年には4,247例と約1.5倍に急増した。ただし、第30週以降はむしろ2000〜2003年より2割強減少した。2005年は、年間889例(暫定値)の報告に留まった

推測値ですが、2004年が多かったようで4247例としています。ザッとの比較ですが、昨年が2000〜2005年の流行期と同じぐらい、今年はさらに爆発と言う感じでしょうか。あくまでもIASRの推測ですが、2000〜2005年までの患者数は16604例です。これに対し昨年と今年の23週(6/12)までで12494例となっており、このままでいくと2000〜2005年までの6年間の患者数を2年で軽く上回る勢いになっています。


有効抗体価と発症年齢

風疹の有効抗体価はHI検査で32倍以上とされています。有効抗体価保有率が高いほど流行を防げる事になるのですが、今年の年齢別の患者数と有効抗体価保有率をグラフにして見ます。まずは男性です。

グラフは有効抗体価保有率が2012年、患者数が2013年なので年齢と患者数が1年ずれるのは適宜脳内置換してください。年齢によって有効抗体価保有率のアップダウンが激しいのですが、最も低いのが22歳で48.1%になっています。続いて低いのが35歳の57.8%です。そういう目で見ると、有効抗体価の低い年齢層が全体の流行を引っ張っているように見えなくもありません。ただなんですが男性の20〜40歳部分を拡大すると、

有効抗体価保有率が高い年齢の方が「やや」患者発生数が少ないようにも見えなくはありませんが、言うほどの差もなさそうな気もしないでもありません。これが女性になるとさらに微妙になり、

どうなんだろうと言うところです。ここで興味深いのは都道府県別の今年の累積患者数です。

埼玉、千葉、東京、神奈川と大阪、兵庫の5都府県で10102例中7880例を占めています。もちろんこの5都府県を合わせた人口も多いのですが、いわゆる大都市圏であり、人口密集地帯ぐらいの表現は可能です。平たく言うと人口密度が高い比較的狭い地域に患者発生が偏っているんじゃなかろうかです。有効抗体価保有者は流行をブロックする壁になるはずなのですが、ある一定数以上に患者が増えると、流行阻止の有効な壁になっていないのではないかです。

例えば有効抗体価保有率が90%と言っても10人に1人は感染するわけです。ある仕事場なりに20人いて、そこで1人風疹が発生すると1人には感染する可能性が出てくるです。さらに言えば、仕事場よりさらに物凄い密集が生じる通勤電車なんかでは、ラッシュ時には1両あたり300人以上が乗車していると聞きますから、そこに1人の風疹患者がいれば1両300人として、


有効抗体価保有率 感染可能な人数
95% 15人
90% 30人
85% 45人
80% 60人
75% 75人


これに駅のホームまで加えると、有効抗体価保有者の感染ブロックの壁をすり抜けられてしまうんじゃなかろうかと思っています。そうやって電車とかホームで感染した者は仕事場でさらに感染を広め、これがまた電車に乗って広げて行く感じです。そのためかどうかは確証がありませんが、風疹患者が増えるのは10代の後半からの傾向があるように見えます。

小中学生が電車通学する割合は比較的低いと思いますが、これが高校生になると割合が増え、さらに高校を卒業し大学なり社会人になれば通勤電車の利用率が上昇し、これに連動して患者数が増えているみたいな見方です。逆に大都市圏以外では通勤がクルマであったり、通勤電車自体のラッシュがさほどでなかったりしますから、大都市圏に較べると患者発生数は少なめで、なおかつ流行の拡がりもそれなりなんじゃなかろうかです。もちろんこの推測は今日のデータを見ただけの感想に近いものです。ただなんですが、もしこの推測がある程度正しければ流行を抑えるには、

  1. 有効抗体価非保有者に根こそぎワクチンを接種する
  2. 蔓延した風疹が自然に抗体保有者を増やす

1.をするにも風疹対策用のワクチンは250万本ほどですから、正直なところ焼け石に水程度かもしれません。なんちゅうか、「Stop the 風疹! みんなワクチンを打ちましょう(数は全然足りまへんけど)」ってな感じです。


そうそう小児科開業医としては違った面の心配をしています。風疹流行阻止のために成人への接種が増えるのは良いとしても、真剣にやれば250万本では全く足りません。そうなると小児の定期接種用の200万本に手をつけないだろうかです。手を付けなくても既に安定供給に問題を起こしそうな状況になりつつあります。そうなれば小児の定期接種がスムーズに回り難くなります。小児の定期接種を優先してくれたら嬉しいですが、たぶんワクチン配給となれば成人の任意接種も小児の定期接種もあんまり差をつけずに行われそうな気がします。そう言う事は、予防接種をやっていると

    よくあること!

小児の場合、病気としては風疹は成人より軽症の事が多いのですが、麻疹はかなり怖いというところです。それと有効抗体価保有率を見ていると学校や保育所、幼稚園レベルの流行がいつ起こっても不思議なさそうにも思えます。まさにどうなる事やらです。末端の開業医が出来る事は実態をありのままに受け入れるしかありませんから、心配してもどうしようもないというところです。それにしてもワクチンは毎年、毎年、必ず何かが起こる気がしています。

hanssachshanssachs 2013/06/21 08:48 いつも読ませていただいていますが、コメントははじめてです。
私は関西の600床以上の病院に勤務していますが、先日院内の感染対策委員会に出席して驚かされました。感染症の発生動向で風疹が0なので質問したところ、ペア血清で有意なもののみ報告しており、外来で明らかなものは血清検査もしないので0になりますとの回答を委員長(感染症科の部長)がしたのです。風疹は全数報告で、血清学的検査は診断に必ずしも必須ではないし、今時ペア血清というのも古いというか・・・、本当に困りました。
ですから風疹の実態はもっと多いのが現実だと思います。

お産はやめました。お産はやめました。 2013/06/21 09:19 なくなるのがわかって接種勧奨をしているわけですから、夏には大人用にワクチンが輸入されるものと思っています。(なぜかGSK)

なんの根拠もありませんが。

京都の小児科医京都の小児科医 2013/06/21 09:24 風疹の臨床診断は難しいという認識はあります。

今回も報告があるようですが・・・
<速報>風疹髄膜脳炎を発症した成人男性の1例
http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/rubella-iasrs/3319-pr3982.html
昔、大学で風疹脳炎の1例(小児例)がありました。

ついでながら、、海外の風疹ワクチンの輸入は難しいのでしょうか。
新型インフルエンザワクチン(2009H1N1)のときはたしか数ヶ月で輸入できたような記憶ですが・・・

SeisanSeisan 2013/06/21 10:44 全国各地で成人に対する風疹(含有)ワクチンの公費補助が始まりましたね。
大阪でも、妊娠希望女性&妊婦の夫という対象でワクチン公費補助をしておりますが、まず、この対象では風疹の流行を抑制することはできません。さらにはCRSの発生の抑制も不可能です。

問題なのは、一番抗体保有率が低く、流行の中心となっている30代前後の男性がほとんど対象となっていないこと。配偶者の妊娠が確定されて(厳密には母子手帳が発行されて)からの男性側の接種では、CRSはもう起こってしまっている(8-12週の風疹感染が一番CRSリスクが高いので)、ということです。

ただ、ワクチンの絶対数の不足は困りますね。
昨年まで3-4期の臨時接種がありましたから、大体500万本/年まで供給量は増やせると思いますが、それがほぼ限界でしょう。

また、日本以外のワクチンメーカーでは、ほとんど風疹単独ワクチンは作っていません。麻疹風疹ワクチンなんて日本にしかなく、ほぼ全量がMMR(麻疹・風疹・おたふくかぜ混合)ワクチンです。
で、少し年配の先生方はよく御存じだと思いますが、MMRワクチンは厚生省および日本のワクチン行政にとって深いトラウマを刻み込んだワクチンですから(いや、ウイルス抗原は3種類とも日本で使われているものと違う系統なんですけどね)、私には、厚労省が緊急輸入を認めるとは思えません。

そのうち、「CRSの予防を鑑み、成人へのワクチン接種を優先させるため、MR2期接種をしばらく控えて、流行終息後に再開させます」なんて本末転倒なことを言いだすんじゃないか(2期接種の年齢では、1期を受けている小児の抗体は十分残存しているため)と予想します。

京都の小児科医京都の小児科医 2013/06/21 11:22 >で、少し年配の先生方はよく御存じだと思いますが、MMRワクチンは厚生省および日本のワクチン行政にとって深いトラウマを刻み込んだワクチンですから(いや、ウイルス抗原は3種類とも日本で使われているものと違う系統なんですけどね)、私には、厚労省が緊急輸入を認めるとは思えません。

>そのうち、「CRSの予防を鑑み、成人へのワクチン接種を優先させるため、MR2期接種をしばらく控えて、流行終息後に再開させます」なんて本末転倒なことを言いだすんじゃないか(2期接種の年齢では、1期を受けている小児の抗体は十分残存しているため)と予想します。

確認ですが・・・
1.MMRワクチン緊急輸入を
2.2期MRワクチンを成人に
の2点を提言されている専門家もしくはグル―プはおられるのでしょうか

京都の小児科医京都の小児科医 2013/06/21 11:26 >厚労省が緊急輸入を認めるとは思えません。

日本のお笑い型医療行政に関心をもっています。
さらに確認ですが・・・
厚労省が緊急輸入を認める法的権限は何法に基づくものもので
どこで議論されているのでしょうか

僻地産科医僻地産科医 2013/06/21 11:54 愛知県って電車自体が他の大都市に比べて発達してません。
東京、大阪の患者数の多さはやはり電車かなと。

検査屋検査屋 2013/06/21 12:43 私の地元では抗体検査は7000円。検査は外注の為、後日結果を聞きに行かねばなりません。
ワクチンは単独が品切れのため必然的にMR、費用は9000円。
妻が妊娠中の夫のみ後から3000円の補助がでます。
つまり職場に妊婦さんがいても補助の理由にはなりません。
対策が必要、って大騒ぎしているわりに、高い壁を感じます。
見ず知らずの人の為に1万7000円(税込)自腹きれますか?ってことですよね。