コラム:個人情報収集で露呈した米国「例外論」の限界
国際政治学者イアン・ブレマー
米国は世界に対して高尚な規範を唱えているのに、しばしば自分がそれを守れず矛盾に陥る。米国家安全保障局(NSA)が「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施していることが明らかになった件も、その例外ではない。長年にわたり組織的に外国人を監視してきたことが暴露されたこの一件で、サイバー攻撃などで国益を追求する国に対し、米国がそれをやめるよう説得することは難しくなった。
こうした米外交政策における矛盾は、なにも目新しいことではない。米国だけ特別だという「例外論」と表裏一体なのだ。米国はさまざまな行動や価値観の頂点にいると自負するあまり、何かに失敗すると、おかしな矛盾が生じることになる。米国には、市民の自由や人権、民主主義といった点で他の多くの国と本質的な違いがあるのに、これは全く残念なことだ。
プリズムが露見したことで、サイバー攻撃をめぐる問題で中国を追い詰めようとしていたオバマ政権のもくろみは大きく外れることとなった。米中双方が互いにサイバー攻撃を仕掛けているのは事実だが、両国には実質的な違いがある。
米国を狙ったサイバー攻撃では、報道によると、その9割以上が中国が発信源だという。アレクサンダーNSA長官は4月、議会に対し、米サイバー軍に新たに40部隊を編成中で、そのうち13部隊が攻撃作戦に従事することになると証言した。米国によるサイバー攻撃は米軍や情報機関が行い、主に中国のサイバー攻撃に対抗している。
一方、中国によるサイバー攻撃のかなりの割合が、商業目的であることが分かっている。国家資本主義の中国では、政府に民間セクターを支配する広範囲な権限が与えられており、国有企業の成功は政府のそれと一致する。中国企業は企業秘密や知的財産を狙うことで、海外企業との力の差を埋めようとしている。
しかし、米中の行動の違いに差がなくなれば、有利になるのは中国だ。このような状況で、情報を盗むなという米国の抗議にどうして中国が耳を傾けるだろうか。プリズムを暴露したエドワード・スノーデン氏は最近のインタビューで、2009年以降、NSAが中国本土と香港でハッキングを行っていると主張している。
冷戦時代、米国は核兵器によってではなく世論によって、ソ連に勝利した。ここでも同様の作戦を使うのが賢明ではないだろうか。 続く...