業界ニュース
独自AR技術で市場開拓
NTTコムウェア
提供:電経新聞社(2011/01/31)
ARとは拡張現実感のことで、コンピュータ(スマートフォンやタブレット端末など)を通して見る現実の環境に、文字や映像といった関連情報を付加する技術。スマートフォンで映画のポスターを撮影すると、出演者のプロフィール情報が表示されたり、プロモーション動画を視聴できるといった事例が挙げられる。NTTコムウェアでは現在、ARを駆使した動画配信ソリューションを展開しており、実証実験に傾注。その一方で、導入実績も積み上げている。同社の取り組みをまとめた。
市中に出回っているARの多くは、端末側のGPS機能を利用したものか、QRコードなどを応用したマーカ式と呼ばれるものだ。一方、NTTコムウェアが開発したARは画像認識技術をベースにしており、位置情報や特定のマークを必要としない。
同社NTTビジネス推進本部ビジネス企画部上位レイヤサービスグループスペシャリストの兵藤雄二氏は「画像そのものを認識し、認識した写真の大きさや形、歪みに合わせてコンテンツが流れるので、あたかも写真が動き出したような表現ができる」とその特長を説明する。
例えばスマートフォンで写真を撮影すると、手振れなどにより対象物が斜めに写ることがある。その場合でも、斜めになった枠組みの中で動画が映し出される。
同社ARソリューションは基本的にアンドロイドOSを実装した端末とARアプリケーションソフト、サーバで構成される。
同ソリューションはアンドロイド端末を主軸としており、フィーチャーフォンを対象にしていない。これは戦略的な選択と集中によるものだ。
要するにアンドロイド 、スマートフォンという新しい潮流を見据え、サービスをよりスピーディに投入する狙いからアンドロイド端末に特化したほうがいいと判断。これにより開発投資も絞ることができる。
仕組みはこうだ。ARアプリケーションをダウンロードしたアンドロイド端末で撮影した写真は、まずサーバへ送信される。サーバ側では、予め登録してあるデータと写真を照合し、紐付いた映像を重畳する。
同ソリューションが想定するビジネスモデルは2種類。すなわちシステムとして販売するパッケージ型と利用したいときにオンデマンドでサービスを購入するクラウド型だ。
パッケージ型は昨年9月に販売され、すでに小樽商科大学やBS―TBSが導入。一方、クラウド型は今年4月の販売を目指し実証実験を行っている最中だ。
NTTコムウェアCRM&ビリング・ソリューション事業本部営業企画部担当課長の山本亮氏はビジネスモデルを2つ用意した理由を「パッケージ型は、お客様のシステム投資が発生するが、ナビゲーションを組み込むなど奇抜なアイデアを反映させることが容易だ。一方、クラウド型はテンプレート化されたサービスになるが、ひらめきをすぐに実践したいお客様に適している」と話す。
小樽商科大学は、昨年9月に同ソリューションを活用した観光情報提供システムの実証実験を実施。同実験では、旅行者に対して小樽市内の観光地図とスマートフォンを貸し出した。地図に掲載された観光スポット画像を撮影すると、その場所の情報を動画で視聴できるというソリューションで、約300人の旅行者が体験。同社が行ったアンケート調査では、大半の旅行者が楽しく観光できたのでまた使いたいと回答したそうだ。
兵藤氏によると、利用者からは「動画だけでなく観光スポットまでのナビゲーションもほしい」「観光スポットで自分が撮影した風景写真から新たな情報が出てくると、もっとおもしろくなる」といった声が上がった。
ちなみに風景写真の画像認識は技術的なハードルが高い。この点について同社基盤技術本部研究開発部担当課長の宮下直也氏は「照明の問題が大きい。風景の場合、時刻によって太陽が移動し、風景の色彩も変化する。人間の目には同じ風景でも、画像認識は別物として処理してしまう」と説明する。
それはさておき、同ソリューションはBS―TBSも導入。ドラマ「ケータイ刑事 銭形結」(毎週土曜14時30分―15時放送)と来月公開される映画「ケータイ刑事3」のプロモーションに活用している。ドラマの場合は次週予告の際にテレビ画面に表示されるピースマークを撮影すると予告動画が視聴できる。映画の場合はポスターやチケットに印刷された3人のヒロインを撮影すると予告動画が流れる仕掛けだ。
BS―TBSではバレンタインに合わせ、森永製菓と共同で、森永製菓のチョコレート「カレ・ド・ショコラ」とARを連動させたドラマ「恋チョコ」も制作。チョコレートの包み紙などを撮影するとドラマの一部が視聴できる。
一方クラウド型については、現在実証実験に注力する。
例えば昨年12月にはジャズコンサートの公演を手がけるブルーノートジャパンとの実証実験を始動。公演スケジュールを紹介したフリーペーパに掲載されたアーティスト画像を撮影すると、アーティスト画像が動き出し、演奏シーンが再生される。再生後には、ブルーノート東京のホームページが表示され、チケット予約などができる。同実験は現在も進行中で3月末まで実施される。
また今月22日からは飯田産業が販売する不動産物件情報を掲載した新聞折込広告でも実証実験。広告に掲載されたモデルハウスの画像を撮影すると、モデルハウスを使った耐震実験の模様や飯田産業独自の耐震工法の解説動画が再生される。
今後の展望について兵藤氏は「現状のソリューションは一般ユーザを対象に楽しさ・おもしろさを追求しているが、技術精度を高めながらビジネスユースにも手を広げていきたい」と言及。「例えば作業現場で使う機器の操作を動画で示すといったアプリケーションを想定している」(宮下氏)。
ARに対する認知度は日増しに高まっている。それに比例して市場競争の加速も予想されるが、画像認識をベースにした同社のARは独自性が高く、競争力を担保しているようだ。
「お客様の多くが、撮影した対象物に歪みがあっても動作する当社のARに驚嘆される。競争力のある技術だと自負している」と山本氏は語る。