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		河北春秋
 この欄で以前も紹介した写真家大石芳野さんの写真集『土と生きる』は、被災後の福島が被写体だ。ページを繰ると胸をえぐるような写真が幾つも並ぶ▼相馬市の乳牛農家の畜舎。「おせわになりました」「姉ちゃんには大変おせわになりました」「原発さえなければ」。白いチョークの走り書きがベニヤ板の壁に残る。自殺した男性の遺書だ
 ▼大石さんは華奢(きゃしゃ)な体に首からカメラ、右肩にもう1台、左肩に機材を入れた重いバッグを提げ駆け回った。「せき立てられるように、何を置いても現地を訪ねなければ」と心情を書いていた▼原発の再稼働をめぐって、自民党の高市早苗政調会長が「福島原発も含めて死亡者が出ている状況にない」と、講演で語ったという。強い批判を浴びて、ぶぜんとした表情で発言を撤回し、謝罪した
 
 ▼放射線被曝(ひばく)による直接的な死は、確かにそうだろう。しかし、自死に追い込まれた人や、避難生活中に病死した人など、福島県民の震災関連死は、被災県で最多の1415人を数えた▼事故を小さく見せ、再稼働を急ぎたい焦りがあるのだろう。それにしても被災の実情を知らない人のようなので、大石さんの言葉を贈りたい。「何を置いても現地を」−。高市さん、どうぞ被災地へ足しげく。
 
2013年06月21日金曜日
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