「核のない世界」をめざすオバマ大統領が新軍縮構想を打ち出した。ノーベル平和賞を受けた大統領が2期目に入ってようやく、核世界の転換へ本格的に動き出したと受けとめたい。大統[記事全文]
景気や雇用の回復が順調なら、来年半ばごろに量的緩和を終わらせることができる――。米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、「QE3」と呼ばれ[記事全文]
「核のない世界」をめざすオバマ大統領が新軍縮構想を打ち出した。ノーベル平和賞を受けた大統領が2期目に入ってようやく、核世界の転換へ本格的に動き出したと受けとめたい。
大統領は、戦略核の配備数を現行条約から3分の1減らして1千発程度に落とす交渉をロシアと始める意向を表明した。
米国防総省は、長期目標として核の役割を「核攻撃を抑止する」ことに限定する考えなどを盛り込んだ指針を公表した。
核廃絶をめざしつつも、核の存在する間は抑止を維持する。それが、オバマ政権の基本方針だ。今回の方針もその枠内ではあるが、核の保有量、役割を減らすことに踏み出したのは重要な前進である。
ただ、「核のない世界」をめざすと熱弁をふるった、あのプラハ演説から4年余りたつのに、核廃絶への歩みはあまりにゆっくりでしかない。
大幅な核軍縮をもっと早く進めるには、核の均衡で世界は安定するといった冷戦型の思考から脱却することが大切だ。
米ロの安全保障環境は異なる。なのに両国が同時に同程度まで減らす核軍縮は、冷戦思考そのものである。ともに核システムが老朽化してきているのだから、せめて、それぞれが最低限必要と思う程度の数にまで、すすんで減らしていくべきだ。
米ロとも常時、核ミサイルを発射できる警戒態勢を今なお続けている。先制攻撃も可能なこの態勢維持には多くの核ミサイルが必要で、軍縮を阻んでいる。誤発射による世界破滅の危険もあり、この冷戦型配備を一刻も早くやめることだ。
核ミサイルとミサイル防衛(MD)は矛と盾の関係にある。ロシアが戦略核削減交渉に慎重なのも、米国のMDで自分の抑止力が弱まらないかと懸念しているからだ。
MDが軍縮の邪魔をしてはならない。米国や同盟国のMDの対象は北朝鮮やイランに限定し、戦略核を迎撃する機能は抑制する。そうした形で、米ロ、さらには中国も含めた大国間の矛と盾の軍拡競争を避ける工夫が不可欠である。
大統領は、戦略核より射程が短く、欧州に配備された戦術核の削減も提案した。だが、通常戦力で劣るロシアの方が大量に戦術核を保有する。通常戦力も含む包括的な軍備管理抜きに、交渉は進まないだろう。
ハードルは多いし、時間もかかる。だが、ここは、「核兵器がある限り、真に安全とは言えない」と強調した大統領の信念と指導力に期待したい。
景気や雇用の回復が順調なら、来年半ばごろに量的緩和を終わらせることができる――。
米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、「QE3」と呼ばれる金融緩和策の「出口」について、踏み込んだ見通しを示した。
事前には、市場の失望を恐れてうやむやに済ませるのではないかとの臆測も強かった。このため直後のニューヨーク市場では株式も米国債も売られた。
だが、議長はむしろ具体的に語ることで、行き過ぎた市場の思惑を鎮めようとした。妥当な判断だ。
最近の米国市場は異常だった。先月、議会証言で議長がQE3終了の可能性にさらりと触れただけで世界の市場に動揺が走り、東京の株価も急落した。以後、景気の良しあしより、QE3が終了する時期をめぐる推測で株価が騰落する「あべこべ相場」が続いた。
異様な市場の動きは、超金融緩和の矛盾が来るところまで来たことを示している。問題を先送りしても、後々の反動が大きくなるだけだ。市場が中央銀行に際限なく緩和をねだる「依存症」を徐々に矯正するのは必要なことでもある。
この1年ほど、日米欧の先進国で経済運営での中央銀行頼みが急速に深まった。これは何より政治の機能不全の裏返しだ。議会のねじれや選挙、ユーロ圏では加盟国の足並みの乱れと、事情は様々である。
しかし、根底にあるのは、経済を強化するには不可欠ながら有権者には不人気な構造改革などの政策に、時の政権が尻込みする民主主義の弱点だ。
勢い、本来は時間稼ぎでしかない金融緩和を万能薬のように過大評価し、中央銀行に圧力をかける。緩和で一服すると必要な改革を怠る。
こうした緩和依存症が広がれば、企業間の健全な競争も阻害し、活力を弱める。議長が景気回復を強調しつつ出口を明確に語った背景には、産業界に奮起を促す狙いもあるはずだ。
日本も学ぶべきことは多いだろう。
アベノミクスでは、大胆な成長戦略を打ち出す条件つきで極端な金融緩和を先行させた。
だが、財政出動を含む「3本の矢」のバランスが崩れれば、緩和のおねだりが強まる危険は常にある。
日銀は量的緩和の副作用や限界、そして出口についても率直に語り、政治にも市場や企業にも自立を促す努力を怠ってはならない。