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俺の妹がこんなに可愛いわけがない ~とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク)~/第3話「とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク) 前編」
2013-06-21 00:00
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「げっ! 人がいる!?」
こちらに向かって駆けてきたウニ頭が、俺たちに気付き目を丸くした。
「逃げるなこらぁ――ッ!!」
バチバチバチィッ!
茶髪娘が放った激しい電撃が、彼の背後から迫り来る。
「ああああ! このバカ!」
ウニ頭は即座に反転し、電撃に向かって『右腕』を突き出す。
着弾、目を開けていられないほどのスパーク。
光と轟音が収まり……おそるおそる目を開けてみると、そこには無傷のウニ頭が、俺たちを守るように立ちふさがっていた。
「ふぅ〜〜〜……っぶねぇ――」
彼は右腕を突き出したままで、安堵の息を吐く。
一方、俺の後ろで事を見届けた桐乃はといえば……。
「おぉ……これが『幻想殺し(イマジンブレイカー)』かぁ。こんなに近くで見られてラッキー」
余裕だなコイツ。
ウニ頭が俺たちに向かって振り返り、心配そうに聞いてきた。
「オイ、怪我はないか?」
「たぶん大丈夫……だよな?」
桐乃に問うと、こくんと頷く。
「ならよかった」
彼は、にっと爽やかに笑んでから、表情を厳しいものへと変える。
「ここは俺に任せて、早く逃げろ」
「ちょっと待て!!」
茶髪娘からツッコミが入った。
「アンタ、私を悪役みたいに扱うってどういうわけ!」
「一般人に向かって10億ボルトの電撃を放っておいてなに言ってんだ。どう見ても悪役だろ」
確かに今のこの娘、自販機蹴ってそうな悪い面構えをしているな。
「10億ボルトの電撃を喰らって平然としているアンタのどこが一般人なのよ! そもそもいまのはアンタが……!」
「キレるたびに身体をビリビリさせるのやめろ! 一般の方が怯えるから!」
「ぐぬっ……!」
彼女が身体にまとうスパークが弱まっていく。
「……これでいいでしょ」
「……まだパチパチしてんな」
「くっ!」
バチン! と、一際強い電撃がほとばしる。
どうやら彼女の感情とリンクしているらしい。
怒っているのがわかりやすくて便利だな。この機能、俺の妹にもあればいいのに。
彼女は、「ふん、わかったわよ」と不機嫌そうに鼻を鳴らしてから「……すぅ、はぁ……」と数回深呼吸。
それで完全に、彼女がまとっていたビリビリは収束した。
「これでどう?」
「……ふぅ、やっと安全になったか」
「だから、人を危険物扱いすんなっての」
冷や汗を拭ったウニ頭に、茶髪娘がツッコむ。
そのやり取りには、どこか痴話喧嘩めいた雰囲気があって、俺の警戒心が薄らいでいった。
本人の台詞どおり、別に悪いやつというわけじゃないんだろう。
というか、よく見なくてもこの人って、さっきからさんざん俺たちの話題にのぼっていた――
「美琴さん」
桐乃が、彼女に声を掛けた。
「えっ?」
「御坂美琴さん、ですよね。それと、上条当麻さん」
「はい? 俺たちのことを知ってんの?」
桐乃が『上条当麻』と呼んだウニ頭は、きょとんと目を丸くしたが、『御坂美琴』と呼ばれた女の子は「あっ!」と桐乃を指差した。
「もしかして……」
「高坂桐乃です。今日、一緒にニコ生に出る」
「や、やっぱり!」
美琴はあからさまに『やっば……!』という顔になった。
掌で側頭部を叩いて、
「うわー、やっちゃった。あー、その、なんていうか……初対面でひどいところを……」
しょんぼりと落ち込む。
その様子は普通の女の子にしか見えず、さっきまで怒りとともにスパークしていた女と同一人物だとは思えない。
美琴は上条をギロッと睨む。
「アンタのせいで、誤解されちゃったじゃない」
「むしろ正しく認識してもらえたよーな……」
バチッ!
「……なんでもないです」
「ふん」
美琴は、小さな電撃をおさめるや、バカ丁寧な口調で桐乃に話しかける。
「初めまして、高坂桐乃さん。御坂美琴です。いまちょぉ〜っと変なトコ見せちゃったけど、普段はそんなことないから」
「ああ、大丈夫大丈夫。誤解とかしてないです」
「えっ?」
「『とある魔術の禁書目録(インデックス)』も『とある科学の超電磁砲(レールガン)』も、読破済みなので、美琴さんのことも、上条さんのことも、よぉ〜〜〜〜〜〜〜〜っく知ってます!!」
両拳を握りしめ、キラキラした眼差しで美琴を見つめる。
「え、えーと」
リアクションに困っている様子の美琴に、黒子が言った。
「お姉様、本当ですのよ。先ほども、わたくしと桐乃さんとで、お姉様トークをしておりましたの。フフフ、彼女、わたくしと互角に張り合える逸材ですわよ」
「そ、そう」
引いてる引いてる。
「いやぁ〜、それほどでも」
おまえも照れるな。黒子は褒めているつもりなのかもしれんが、まったく自慢できんぞ。
「……うむむ、私も『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を読んでおけばよかった。学園都市でも売ってるかな」
「わたくしも未読ですが、初春の話によると、アンチスキルの間でも大流行しているそうですわね」
↑アニメ『とある科学の超電磁砲S』第一話より。
(C)鎌池和馬/冬川基/アスキー・メディアワークス/PROJECT-RAILGUN S
「あ、そうなんだ」
「あのー」
上条が、出来の悪い生徒のように片手を挙げた。
「…………俺、電撃文庫編集部に呼ばれて来ただけで、ぜんぜん事情がわからないんですけど」
「あら? まだいたんですのこの類人猿は?」
「俺だって、帰れるもんなら帰りたいけどな」
と、上条は頬を掻く。
女どもから電撃を撃たれたり、冷たい言葉を浴びせかけられたり……妙に親近感のわくやつだな。
美琴がちょっと考えて言った。
「とりあえず、高坂さんたちを控え室に連れていきましょう」
「お言葉ですが、控え室はたったいまお姉様が破壊してしまったのでは?」
「あっ」
そうだったとばかりに口を開ける美琴。
「ってか、桐乃でいいですよ。あたしも美琴さんって呼んでるし」
「そーね。じゃ、お互いもうちょっと軽い感じで」
「りょーかい」
「いまスタッフに確認いたしましたの。お姉様と桐乃さんは、直接スタジオへ行って欲しいとのことです」
黒子が携帯を切りながら言った。
「俺たちは?」
俺が聞いた。
「新しい控え室を用意してくださるそうですので、そちらへ。一番奥の部屋なので、すぐにわかると思いますの」
「じゃあ、私たちはスタジオに向かいましょう」
「はーい。あたしぃ、美琴さんと喋りたいことチョーたくさんあるんだ!」
女たちは、楽しくお喋りしながら行ってしまった。
――男二人を残して。
「……………………」
「……………………」
男二人、無言で顔を見合わせる。
……いかん、妙に気まずいぞ。
上条がぽつりと呟いた。
「……結局、俺への説明がなかった」
その気持ちはよーっくわかる。なんの説明もなしに、いつのまにか騒動に巻き込まれているとか……。
あるよね、そういうこと。
「な、なら俺から説明するよ」
「……助かる」
俺たちは、淡々と自己紹介をしながら控え室へと向かった。
*
控え室は、長テーブルとパイプ椅子が備え付けられたシンプルな部屋だった。
部屋の中央壁面には、桐乃と美琴の等身大POPと液晶テレビがある。どうやら生放送が映っているようだ。
「お、桐乃のPOP。なかなかいいできじゃないか」
あやせが欲しがりそうだな。
上条が、美琴のPOPのそばでしゃがんだ。
「さっきもさ、こうやって御坂のPOPを眺めてたら、いきなり本人が入ってきて電撃を撃たれたんだ。ひどいと思うだろ?」
「あー……でもさ、それって照れ隠しみたいなモンじゃないのか?」
「……そんな、直撃すると死にかねない照れ隠しがあってたまるか」
普通ならそうなのかもしれんが、俺の妹に美琴と同じ能力があったら、間違いなくやると思う。
俺と上条は、テレビの真正面に並んで座った。
で、今回の企画について説明したのだが……
「御坂がおまえの妹と一緒にニコ生に出るってのはわかったんだが、やっぱり俺が呼ばれた理由がわからない……」
「俺だって同じだよ」
「妹に付いて来いって強制されたんじゃなかったか?」
「そうなんだけど、そのあとで俺にも電撃文庫編集部から『ここに来い』っていう手紙が来たんだ」
「へえ……とすると、やっぱわからねえな」
「俺たちがここにいなくちゃいけない理由があるんだろうか?」
俺は上条と顔を見合わせる。
「……やれやれ。なんか、嫌な予感がするぜ」
「奇遇だな、俺もだ。この建物に入った瞬間から、不幸の気配がする」
不幸の気配ってなんだよ。
このとき俺が『とある魔術の禁書目録』をすでに読んでいたならば、一目散にこの男の側から逃げ出していたことだろう。
こいつの言う『不幸』は、マジでシャレにならないからな。
しかし哀しいかな、このときの俺は、上条当麻という自分以外の『主人公』と少し話をして、気を許してしまっていた。
同じ電撃文庫作品の主人公同士、女難の相持ち同士ということで、仲間意識を抱いていたのかも知れない。
それが不幸の始まり。
この件で俺は、ジャンル違いの連中とコラボするとロクなことにならねーという教訓を得ることになるのだが。
そいつは、もう少しだけ先の話になる。
「なぁ、上条って、普段なにやってんの?」
「入院してる」
「えっ?」
「最近はもうほんと、戦ってー、大怪我してー、入院してーの繰り返しだよ」
上条は、がっくりと肩を落とす。仕事に疲れたサラリーマンのようであった。
「…………へ、へえ」
いかん、地雷を踏んだか。
そういやこいつ、バトル系作品の主人公なんだっけ。
「特に8月と9月はマジでひどかった。常に新しい敵と戦ってた気がする。映画の時系列もまさかの9月だし、直後に大覇星祭で死闘を繰り広げた俺のスケジュールはいったいどうなってんだ。作者は俺とはいむらきよたか先生を酷使しすぎなんだよ」
「おまえも苦労してんだなぁ」
「まぁな。でもさ、俺もここに来る前に『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の動画をちらっと見てきたんだけど、おまえがきりもみ回転しながら吹っ飛んでたぞ」
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アニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』第一〇話より。
アニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』第一〇話より。
「……あー、あれなぁ」
「相当ヤバそうな敵だったなアレは。聖人の使う『天使の力(テレズマ)』を思い出した。……アックアとどっちが強いかな」
「……いや、確かにあやせは2巻のボスキャラだが、魔術師でも能力者でも聖人とやらでもない」
あやせが比較されているアックアというのがどんなヤツか知らないのだが、『天使』というワードといい、やっぱり思い込みの激しい美少女だったりするのだろうか。
それならちょっと見てみたいな。
「話を戻そうぜ。入院はご愁傷さまだけど、そんなに頑張ってるなら、上条って結構モテるんじゃないか?」
バトルものの主人公は、戦闘のたびにフラグを立て、たくさんの現地妻を作るものだと聞いている。
俺はちっともモテないから、ぜひともコツなどお聞かせ願いたいもんだ。
ところが、上条は片手をぶんぶんと振って、
「いやいや、ぜんっぜん、ちっっっっともモテませんから!」
「マジで?」
「マジマジ。たしかに女の子との出会いは盛りだくさんだけど、おまえの言うような素敵展開はいっさい俺には起こりませんから! じゃなきゃ『不幸だ』なんて口癖にはなりませんから!」
上条は、オーバーな仕草で全否定した。
俺は再度確認する。
「そっちはヒロインが超たくさんいるらしいじゃん。モテないっつっても、一人くらい……たとえばよくある設定だけど、美少女と一つ屋根の下で暮らしていたりしないの?」
「……女の子の居候がいるっちゃいるが、アレ(インデックス)は食欲の化身だ……」
上条はぼそりと呟く。
こいつ、かわいそうなやつだったんだな……。
こんなに頑張って戦っているのに、美少女とフラグ一つ立たないなんて。
「まぁ、俺が不幸だからこそ助けられたやつもいるし。そう考えれば、悪いことばっかじゃないけどな」
そう言って笑った上条の笑顔は誇らしげで、素直に格好いいと――
「あー! それにしても出会いが欲しい! 俺も一回くらい女の子にモテてみたい!」
――そう思ったらこの台詞で台無しだ。
やれやれ、こういうトコは、普通の男子高校生なんだが。
ほんとにコイツ、何度も死線をくぐり抜けている戦士なのかね。
「あーあ、おまえはいいよなあ、可愛い妹がいて! あとで紹介してくれ!」
「断る」
「即答!?」
「おまえのような不幸人間に、妹はやれん」
「ぐぬぬ……なんという正論……俺がおまえでも絶対そう言う……」
思いのほか精神ダメージを喰らっている様子の上条に、俺は励ますつもりでこう言ってみた。
「でも、美琴さんには好かれてるんだろ?」
そう聞いたとたん、上条が眉をひそめた。
「目ぇ、大丈夫か? さっきのやり取りを見てどうしてそんな台詞が出てくるんだ?」
「結構仲よさそうに見えたけどな」
なんというか、痴話喧嘩っぽくて。
「好かれているなら、会うなり電撃ぶっぱなしてきたりはしないだろ?」
まあ、一理ある。あるんだが……俺の特殊な経験を総動員して考えると……そうでもないような……気が……。
「じゃあ、二人はどんな関係なんだ?」
「…………うーん、そう言われてもな。色々複雑なんですよ」
上条はかなり考えてから、口を開いた。
「男前で、頼りになるやつだとは思ってる」
「……それ、間違っても本人に言うなよ」
美琴がコイツに言われたい台詞は絶対にコレジャナイ気がする。
「なんで?」
上条は不思議そうな顔をしていた。
こりゃ、前途多難だな……。
「それよりこのテレビ、なんのためにあると思う?」
上条が指差したのは、部屋の中央にデンと置かれた液晶テレビだ。
ニコ生とやらで放送している番組が映っているようだ。
「もしかしなくても、桐乃と美琴さんがトークをしているところを、これで見ろってことじゃないか?」
「やっぱそうか。でも、それって……俺たちが見てるってこと、向こうは知ってんのか?」
「……さあ」
知らなかったら、どうだというんだ?
「……まあいいか」
「まあいいよな」
実際はまあよくなかったのだが、それはさておく。
俺たちはそれからさらに雑談を続ける。
ちょうど上条から『男の一人暮らし用簡単レシピ』について教えてもらっていたとき、テレビからこんな声が聞こえてきた。
『次の番組は、「俺の妹」×「超電磁砲」! とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク)! ゲストは電撃文庫が誇る人気ヒロインのお二人、御坂美琴さんと高坂桐乃さんです! お二人のガールズトークを、生でみなさんにお届けします!』
「おっ、そろそろ始まるみたいだぞ」
「はぁ〜〜〜〜〜、不幸の予感がひしひしとするが、見るしかないんだろうなぁ」
「おーう」
俺たちは、いまいちやる気なく、液晶テレビを覗き込む。
『それではお呼びしましょう。どうぞ〜〜〜♪』
そうして、俺の妹と御坂美琴の対談番組が、ついに始まったのだった。
*
「こんにちわ、みなさん! 高坂桐乃です!」
「こ、こんにちは……御坂美琴です」
「美琴さん、ってわけで今日はよろしく!」
「こちらこそよろしく……って、アンタすごく慣れてるわね」
「まぁね〜、こういうイベントもう何度もやってるし。美琴さんも十回くらいやれば慣れると思うよ」
「いやいや、そんなに何度も出演する予定はないから」
どうやら、テーブルを挟んで対談する形式らしい。
司会のお姉さんが、画面の端に控えているのだが……桐乃のことだから、自分で仕切りたがるだろうな。
短い間に仲良くなったようで、さっきよりも二人のやり取りが自然になっている。
「さて、今日は電撃文庫が誇る美少女であるあたしたちのガールズトークを、みなさんにお届けするわけだけど!」
「美少女って……自分で言うか」
「事実じゃん」
「まあそうだけどさ」
それを見ていた俺たちが、ぼそっと呟く。
「……やなコンビだな」
「まったくだ」
画面の向こう側で、美琴がこう言った。
「で? なんの話をするの?」
「ずばり、恋愛相談!!!」
「……はい?」
「企画名(タイトル)にも、そう書いてあるっしょ? 『とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク)』って。そしてガールズトークといえば恋バナ――ってことで『恋愛相談』、ってワケ」
「恋愛相談? えーと……アンタが、私に?」
「違うって、逆逆」
桐乃は、美琴を指差し、
「美琴さんが、あたしに、恋愛相談すんの」
次いで、自分の顔を指差す。
指の動きを目で追っていた美琴が、ひくっと表情をひきつらせた。
「はぁぁあぁあぁぁ――ッ? わ、わわわ、私が、アンタに恋愛相談ッ!?」
「うん、美琴さんってぇ〜、気になってるヒト、いるっしょ?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
ぼんっ、と、美琴は耳まで真っ赤になる。
なんとも可愛く、わかりやすい反応だった。
世間一般で『ニブい』などと言われている俺でさえ、一目瞭然で気付くほど。
「………………おい、上条さんよ」
『美琴の思い人候補』は、この発言にどう反応しているのかと当人を見やると……
「へー、御坂のヤツ、好きな人いたんだ」
「……お、おまえってヤツは!」
俺に驚かれるようじゃ、本当におしまいだぞオイ。
一方、画面の向こう側では桐乃と美琴のやり取りが続いている。
「美琴さん、いい加減認めちゃいなよ。ツンデレ台詞であたしをごまかそうとしても無駄だから。全巻読んでるから」
「く……ッ! じゃ、じゃあ……私に『気になってるヤツ』がいるとして!」
「『いるとして』ってか、いるケドね」
「いるとして!」
バン、と、テーブルを叩く美琴。
バチンと電撃がほとばしる。
「電撃やめてよ! ちょっとビリッとしたじゃん! ――ハイハイ『いるとして』ね。もうそれでいいから、で?」
「私に『気になってるヤツ』がいるとして……なんでアンタは、私に対して、そんなに上から目線というか……恋愛上級者みたいな態度なわけ?」
ちょっとパチパチしている美琴に、桐乃はしれっとこう言った。
「えっ? あたしの方が上だからだケド?」
「なっ!」
「あっ、もしかしてぇ〜、自分の方が上だと思ってたの? だとしたらゴメンね?」
クソうぜぇ。
やはりというか、俺の妹は余所様とコラボできるような人格をしちゃいなかったな。
美琴は依然としてバチバチしながらも、表情だけは取り繕って言った
「あー、謝らなくてもいいよ。でもさあ桐乃、アンタより私の方が上でしょ。戦闘力でも、恋愛面でも」
戦闘力は当たり前だろうが。
「私の方が電撃文庫作品のヒロインとしては先輩なんだから、むしろアンタの恋愛相談を私が聞いてあげるって形にすべきじゃない?」
「いやいや、美琴先輩に恋愛相談とか、小学生にした方がマシだし」
「しょっ……!」
本当のことでも、言っていいことと悪いことがあんだろ。
自分を一瞬で消し炭にできる能力者と、よくまあ平気で口喧嘩できるよなコイツ。
「……言ってくれるじゃない。……そこまで言うってことは、アンタはよっぽど恋愛経験豊富なんだ?」
「まぁね、もう15年も同棲してるしぃ」
「!!!」
「告白も、とっくの昔――具体的には2巻で済ませちゃったしぃ」
「はや……ッ!!!!」
「3巻ではラブホにも行っちゃった♪」
「らぶっ!!!!?????」
硬直していた美琴が、辛うじて呟いた。
「……ほ、ほんとに?」
「マジマジ。こんなんで嘘吐いたって、見てる人たちにはすぐバレちゃうでしょ? ねえ?」
と、指先を唇にあて、カメラ目線で「しぃ〜っ」と視聴者に口止めをする桐乃。
美琴がこっちの作品見てないからって、言いたい放題だなオマエ。
確かに嘘は言ってないけども。
「こっちはいまんとこ12巻出ててそんなカンジだけど、旧シリーズ22巻+外伝2巻+新約7巻+単行本1巻+アニメ特典3巻+スピンオフ8巻、計44冊も出てるそっちは、いまどんなカンジ?」
すげーな、そんなに出てるのかよ。
顔を真っ赤にしてプルプルしていた美琴が、勢い込んで言う。
「超電磁砲1巻ですでに手を握ったし!」
「嘘乙。電撃流そうとしただけじゃん」
「い、いっしょに海外旅行に行ったし! ハワイ!!」
「テロが起こったじゃん」
「!!!!!」
「結局指輪も渡してないじゃん」
「!!!!!!!!!!!!」
「やる気あんの?」
「…………………………」
容赦ねーな。
「…………………………あ、ある!」
魂が抜けかけていた美琴が、がばっと起き上がった。
「ほんとにぃ?」
「ほ、本当だって!」
「じゃあ聞くけど、ついこの間、カレといい感じにお話できそうなチャンスがあったよね」
「……アレか……あのときのことか……」
「あんとき美琴さんは、なにやってたっけ?」
美琴は、額に冷や汗を貼り付けて、
「……その……聖人と戦ったりとか……」
「はぁ〜〜〜〜〜〜っ……これだよ……」
「なにその溜息! どういう意味!!」
美琴はたまらず立ち上がり、桐乃に向かって人差し指を突き付ける。
桐乃は不遜に頬杖をついた。
「いや、あんときの美琴さんはカッコよかったよ? バトルシーンも、決め台詞も、マジイケメンだったよ? でも……」
「で、でも?」
「届くべき相手に、いまいち届いてないよね」
「くう……ッ!」
美琴は悔しそうに歯軋りする。相当効いている様子だ。
「禁書だけで36巻もあったのに、いままでなにやってたの?」
「無職の若者に説教する元総理みたいな言い草を……ッ!!」
偉そうにしてやがるけど、桐乃もあんまり人のこと言えんよーな。
「それと、これは読モとしての忠告なんだケド……」
桐乃は、美琴の足下を指差した。
「美琴さんって、いつまでルーズソックスはいてるつもりなの? 古くない?」
「ルーズソックスのことは言うなァァァ――――!!!!!」
バチバチバチバチィ――ッ!!!
スタジオに激しい電撃がほとばしり、画面が歪む。
暗転した画面を見て、ぽつりと上条が呟いた。
「……ついに御坂のタブーに触れるやつが現れてしまったか」
あとで聞いたところによると、冬服バージョンでは紺色のソックスになっているということだ。
長く続いた作品ってのは、大変だな。
*
荒れていた動画が復活すると、肩で息をする美琴と、青ざめている桐乃の姿が映った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「あぶな〜、死ぬかと思ったんですケド」
二人は向かい合って立っており、さっきまで座っていた椅子とテーブルは、焼け焦げ、少し壊れてしまっている。
美琴が呼気を荒げたままで、桐乃に指を突き付けた。
「アンタの主張はよーくわかった、いままでの私が恋愛的にふがいなかったことは認める。だから……」
「だから?」
「――――人生相談があるの」
奇しくも、桐乃が俺に対して言ったのと、同じ台詞だった。
桐乃は、いつかの俺と同じように、胸を張って宣言する。
「美琴さん。――あたしに任せて!」
こうして、この番組の本題……
電撃娘の人生相談が始まった。
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第4話「とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク) 後編」に続く。
次回更新予定日は6月28日12:00です。
※第3話「とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク) 前編」は7月11日23:59 で公開終了となります。
※第3話「とある電撃娘(コラボ)の人生相談(ガールズトーク) 前編」は7月11日23:59 で公開終了となります。
【お知らせ】
現在TVアニメが絶賛放送中!
高坂兄妹が活躍する、電撃文庫『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』全12巻、発売中です!
上条当麻と御坂美琴が暴れ回る、電撃文庫『新約 とある魔術の禁書目録』1~7巻、電撃コミックス『とある科学の超電磁砲』1~8巻、発売中です!
(C)TSUKASA FUSHIMI/ASCII MEDIA WORKS
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