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【コラム】

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 かつて大蔵省に、海軍士官としてレイテ沖海戦に従軍した経験のある主税局長がいた。「元帥」のあだ名で呼ばれていたこの局長が、国会の委員会で地下経済について質問された時、こんな“名答弁”をしたそうだ▼「わからないからこそアンダーグラウンド・エコノミーなのであって、わかっていれば国税当局がとっくに課税しているわけであります」。質問者は二の句が継げなかったという▼税務当局から逃れようとする現代の地下資金はカリブ海のケイマン諸島などタックスヘイブン(租税回避地)に流れ込む。国境の壁に守られ、マネーロンダリングやテロ資金を隠匿する舞台装置は「魑魅魍魎(ちみもうりょう)の跋扈(ばっこ)する伏魔殿」(志賀櫻著『タックス・ヘイブン』岩波新書)だ▼同書によると、ケイマン諸島への日本の直接投資額は米国とオランダに次ぐ三位。日本企業も租税回避に力を入れていることは明白だ。この秘密のベールの一端がはがされるかもしれない▼国税庁は豪州の税務当局を通じ、タックスヘイブンに財産を持つ日本人のリストを大量に入手、本格調査に入ると宣言した。身に覚えのある向きは戦々恐々だろう▼タックスヘイブンを舞台にした強欲なマネーゲームは大規模な金融危機を引き起こし、収拾のために血税が投入されてきた。富を吸い込むブラックホールをふさぐ知恵にノーベル経済学賞を授けたい。

 

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