2013年6月19日(水)

シリア内戦を泥沼化させるヒズボラ ~レバノン・ヒズボラ支配地ルポ~

鎌倉
「出口の見えないシリアの内戦。
特集ザ・フォーカスは、内戦を激化させる大きな要因となっている、隣国レバノンのイスラム教シーア派組織『ヒズボラ』に焦点をあてます。」


激しい戦闘が続くシリア。
一時は劣勢と見られていたアサド政権側が、このところ勢いを盛り返し、各地で攻勢に出ています。
その原動力となったのが、アサド政権を支援するために参戦した隣国レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」です。

ヒズボラ最高指導者 ナスララ師
「我々は最後まで戦う。」

レバノンとシリアの国境付近で何が起きているのか。
ヒズボラが支配する地域にカメラが入りました。
シリアに戦闘員を送り出す家族たち。

親族
「彼の殉教は誇りです。」

一方で、シリアの内戦を拡大させるとしてヒズボラへの批判も高まっています。
ヒズボラによるシリア内戦への参戦は、この地域に何をもたらすのか。
レバノンからの報告です。

髙尾
「先月(5月)、レバノンのシーア派組織『ヒズボラ』がシリアのアサド政権側にたって参戦を表明。
これをきっかけにアサド政権側が巻き返しを強め、シリアの内戦の泥沼化に拍車がかかる要因となっています。」

鎌倉
「今日(19日)は、この『ヒズボラ』の実態に迫ります。」



黒木
「『ヒズボラ』はアラビア語で『神の党』を意味します。
1982年に、当時レバノンを占領していたイスラエルに対する武装闘争を行う組織として結成されました。



軍事力は国軍をしのぐとも言われていまして、レバノン南部や東部を支配しています。
イスラエルへの攻撃を繰り返してきたヒズボラは、アメリカやイスラエルから『テロ組織』に指定されています。




レバノン南部の山間部には、イスラエルとの武装闘争の際にヒズボラが築いた地下トンネルが今も残っています。
今回、NHKに取材が許可されました。
7年前、イスラエルが侵攻した際にもヒズボラはここからゲリラ攻撃を仕掛けました。
イスラエル軍を苦しませたヒズボラは、アラブ世界で“英雄”と称賛されました。


そのヒズボラ、同じシーア派のイランから財政や軍事の両面で支援を受けていまして、シリアのアサド政権とも密接な関係にあります。

これがヒズボラが内戦に参戦した理由だとされています。」

鎌倉
「シリア情勢に大きな影響を与えているヒズボラの参戦。
そのヒズボラの本拠地で何が起きているのか。
NHKの取材班は、ヒズボラが実効支配するレバノン東部に入りました。」

シリア内戦に参戦 ヒズボラ本拠地はいま

ベイルートから車で3時間。
レバノン東部のシリアとの国境沿いの町ヘルメルです。
ヒズボラの拠点の1つです。
町で見かけるのが、最高指導者のナスララ師の肖像画。
中にはシリアのアサド大統領と並んだものもあります。
シリアとレバノンの国境線。
ここにはフェンスすらありません。

別府支局長
「こちらの水路がレバノンとシリアの国境線になります。
ご覧のように幅はおよそ5メートル。
私の後ろがシリア、そして手前がレバノンになります。」


ヒズボラの戦闘員たちは、自由に国境を越えて、シリアでの戦闘に参加しています
先月から今月(6月)にかけて、ヘルメルからは、隣国シリアのクサイルに向け、数千人ともいわれるヒズボラの戦闘員が送り込まれました。
クサイルは、シリアの反政府勢力が、レバノンからの武器を調達する拠点となっていました。
ヒズボラの支援を受けたアサド政権の部隊は、数週間にわたって攻撃を続け、今月5日、クサイルを奪還したのです。

ヘルメルの町には、シリアで戦死したヒズボラの戦闘員を称える横断幕が目立ちます。
この家では、ヒズボラの戦闘員だった親族がシリアで戦死したと言います。

親族
「彼の殉教は誇りです。」

一方、ヒズボラの出撃拠点となったヘルメルは、シリアの反政府勢力の攻撃にさらされるようになりました。
この家では、砲撃で20歳の女性が亡くなりました。

父親
「子どもをなくす気持ちは親にしかわからない。
とてもつらい。」



さらにレバノン国内では、ヒズボラへの反発が高まっています。
今月9日には、「ヒズボラ」に抗議する集会が開かれ、ヒズボラの支持者と衝突しました。




この衝突で、ヒズボラを批判するグループに犠牲者が出ました。
28歳のハシム・サルマーンさんです。
遺族は「ヒズボラ」への怒りを強めています。




「弟を殺したのはヒズボラです。
神の政党を名乗っていますが違います。
弟の死を無駄にしません。
ヒズボラに抗議し続けます。」

かつて、アラブ世界で“英雄”と呼ばれたヒズボラ。
シリア内戦への参戦は、レバノンへの戦禍の拡大を招いています。

ヒズボラ参戦で 地域への影響は

髙尾
「ここからは取材に当たった別府支局長に聞きます。
別府さん、ヒズボラの参戦で、シリアの内戦が周辺国に拡大するという国際社会が最も恐れていた事態が現実のものになりつつあるんではないでしょうか?」

別府支局長
「まさにそう言えると思います。
内戦は、政権側にはヒズボラが、そして反政府勢力の側には外国からのイスラム教スンニ派の勢力が荷担する構図になりました。
これにより戦闘は、ますます激しく、双方で残虐な行為が横行し、情勢は、一層混とんとしています。
戦闘の場所にしても、周辺国、特にレバノンに拡大しました。
リポートにもありましたようにヒズボラが出撃拠点とするレバノン側の町を狙ってシリア側から反政府勢力の砲弾が撃ち込まれています。
一方で、反政府勢力を支持するレバノン側の町に対し、アサド政権の部隊による越境攻撃も起きています。
こうした中、レバノン国内で、アサド政権を支持する住民と反政府勢力を支持する住民の間の抗争も激しさを増していて、かつて15年に及んだレバノン内戦のような事態になることも懸念されています。」

ヒズボラはなぜ 参戦に踏み切ったか

鎌倉
「レバノン国内での反発が起こるのは、当然予想されていたことだと思いますけれども、それでもヒズボラが参戦に踏み切ったのはなぜなんでしょうか?」

別府支局長
「ヒズボラは、長年イスラエルの占領に抵抗する勢力として、イスラエルにしか武器は向けない、としてきました。
それが、シリアの内戦に参加することで、反政府勢力、つまり同じアラブ人に銃口を向けているのです。
反発があることは覚悟の上、それでもなお、参戦を決めたのは、ヒズボラにとって、アサド政権の維持が死活問題だからです。
ヒズボラへのイランからの支援は、シリアを通ってきます。
アサド政権が、対立するスンニ派にとってかわられるわけにはいかないのです。
ただ、参戦の代償は大きく、スンニ派が主流の湾岸のアラブ諸国では、ヒズボラを新たにテロ組織に指定すべきではないか、といった声も出ています。」

シリア内戦激化 国際社会の対応は

髙尾
「ヒズボラの参戦で、シリア情勢、泥沼化する様子を見せていますが、G8でも足並みが揃わないということで、事態収拾のめどが立っていませんけども、国際社会はどう対応していくべきだと思いますか?」

別府支局長
「紛争の当事者が話し合い、政治的な解決策を見つけるための環境を整えることが何よりも重要です。
しかし、今、行われているのは、それとは全く逆の方向のことです。
ロシア、G8サミットに参加したプーチン大統領は、アサド政権に対する武器輸出を今後も継続する構えを改めて表明しました。
一方、アメリカ政府は今月、反政府勢力に対する軍事支援に乗り出す方針を決めました。
しかし、内戦では、どちらかが『善』、どちらかが『悪』ということはありません。
こうした中での軍事支援は、紛争をより激化させ、その代償を払うのは一般の市民です。
国連はかねてより紛争の火に油をそそぐことになるとして、双方への武器支援をやめるよう繰り返し訴えています。
アメリカやロシアといった大国がしなければならないのは、どちらかに加担するということではなく、紛争当事者を、話し合いのテーブルにつかせ、政治的な解決策を見つけるよう促すことです。
それが今、何よりも求められていると言えます。」

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