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【発明の名称】 |
スラグ微生物担体及びこれを用いた水底覆砂方法 |
【発明者】 |
【氏名】近澤 文一郎 【住所又は居所】福岡県北九州市八幡東区川淵町9の27 太平工業株式会社八幡支店内 【氏名】池崎 英二 【住所又は居所】福岡県北九州市八幡東区川淵町9の27 太平工業株式会社八幡支店内 |
【課題】微生物を長期間水底に保持し、更に増殖させて、微生物を水中に徐々に拡散させると共に、水底に堆積したヘドロに直接作用させることで、例えば、湖、沼、池、堀、河川、水槽、又は海の環境改善のみならず、魚介類又は海藻の育成にも寄与可能なスラグ微生物担体及びこれを用いた水底覆砂方法を提供する。
【解決手段】スラグ微生物担体10は、製鉄所、非鉄金属の製錬所、及びごみの溶融炉のいずれか1又は2以上から発生する多孔質スラグ11に微生物を担持したものである。スラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法は、スラグ微生物担体10を容器15に入れた状態で水底に沈める。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 製鉄所、非鉄金属の製錬所、及びごみの溶融炉のいずれか1又は2以上から発生する多孔質スラグに微生物を担持したことを特徴とするスラグ微生物担体。 【請求項2】 請求項1記載のスラグ微生物担体において、前記多孔質スラグは砂状物からなっていることを特徴とするスラグ微生物担体。 【請求項3】 請求項1記載のスラグ微生物担体において、前記多孔質スラグは多孔質の砂状物を団結させて塊状としていることを特徴とするスラグ微生物担体。 【請求項4】 請求項2及び3のいずれか1項に記載のスラグ微生物担体において、前記多孔質スラグは、前記製鉄所からそれぞれ発生する高炉水砕スラグ及び製鋼急冷スラグのいずれか1又は2であることを特徴とするスラグ微生物担体。 【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項に記載のスラグ微生物担体において、前記微生物は、光合成菌、酵母菌、乳酸菌、糸状菌、及び放線菌のいずれか1又は2以上を含むことを特徴とするスラグ微生物担体。 【請求項6】 請求項1〜5のいずれか1項に記載のスラグ微生物担体において、前記多孔質スラグは、更に前記微生物の栄養源を担持していることを特徴とするスラグ微生物担体。 【請求項7】 製鉄所、非鉄金属の製錬所、及びごみの溶融炉のいずれか1又は2以上から発生する多孔質スラグに微生物を担持したスラグ微生物担体を、容器に入れた状態で水底に沈めることを特徴とするスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法。 【請求項8】 請求項7記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記多孔質スラグは砂状物からなっていることを特徴とするスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法。 【請求項9】 請求項7記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記多孔質スラグは多孔質の砂状物を団結させて塊状としていることを特徴とするスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法。 【請求項10】 請求項7〜9のいずれか1項に記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記容器を前記水底に沈めた後、該容器から前記スラグ微生物担体を放出することを特徴とするスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法。 【請求項11】 請求項7〜10のいずれか1項に記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記水底に沈めた前記スラグ微生物担体上を、スラグ砂及び天然砂のいずれか1又は2で覆うことを特徴とするスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法。 【請求項12】 請求項7〜11のいずれか1項に記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記多孔質スラグは、前記製鉄所からそれぞれ発生する高炉水砕スラグ及び製鋼急冷スラグのいずれか1又は2であることを特徴とするスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法。 【請求項13】 請求項7〜12のいずれか1項に記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記微生物は、光合成菌、酵母菌、乳酸菌、糸状菌、及び放線菌のいずれか1又は2以上を含むことを特徴とするスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法。 【請求項14】 請求項7〜13のいずれか1項に記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記多孔質スラグに、更に前記微生物の栄養源を担持することを特徴とするスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば、水質及び水底の土壌環境を改善するためのスラグ微生物担体及びこれを用いた水底覆砂方法に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、例えば、湖、沼、河川、又は海の中でも、特に閉鎖水域における水質又は底質は悪化しており、その問題解決のため、例えば、閉鎖水域に、有用な微生物を液体を使用して散布したり、また微生物を土団子に混ぜて投入して、その浄化を行っている。しかし、この場合、散布後すぐに液体が水中に拡散したり、また土団子が水底に沈むまでに水中で分散するため、微生物が水底に到達する割合が少なく、到達してもすぐに水中に分散して水流で流され、その機能を十分に発揮できない。 一方、製鉄所からガラス状の砂状物質として発生する高炉水砕スラグ及び転炉急冷スラグは、近年枯渇又は採取禁止で不足している天然砂の代替として、コンクリート用骨材だけでなく、例えば、覆砂材、干潟材、又は浅場材としての活用が期待されている。 そこで、従来から、スラグ又は汚泥を使用して微生物を付着させ、例えば、湖、沼、河川、又は海の水質又は底質を改善するための微生物担体が提案されている。 【0003】 例えば、特許文献1には、1mm以上5mm以下に粒度調整した多孔質の高炉水砕スラグと水硬性無機質バインダーとを混練して所要の形体に成形し、これに微生物を固定化させる微生物担体が開示されている。 また、特許文献2には、粒状の高炉水砕スラグと合成樹脂とを混練して成形し、これに微生物を固定化させる微生物担体が開示されている。 そして、特許文献3には、汚泥を造粒して乾燥した後、有機物粉末を添加して焼成したものであり、焼成前に微生物を有機粉末に添加、又は焼成後に微生物を担持した微生物担体が開示されている。 【0004】 【特許文献1】特開平5−50085号公報 【特許文献2】特開昭63−296891号公報 【特許文献3】特開平9−256号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、砂採取後の穴埋め又はヘドロ上の砂層形成のように、水底環境の改善を図るための覆砂には、数十トンから数万トンもの大量の砂が必要である。 このため、特許文献1に開示された微生物担体では、バインダーが別途必要であるため、費用がかかり経済的でない。また、混練の際に、多孔質となった高炉水砕スラグの表面がバインダーで被覆されるため、微生物が生息する気孔又は凹凸が減少し、多孔質となっている高炉水砕スラグの機能を十分に発揮できない懸念がある。 また、特許文献2に開示された微生物担体は、高価な合成樹脂が必要であり、費用がかかり経済的でない。また、特許文献1の場合と同様、混練の際に、高炉水砕スラグの表面が合成樹脂で被覆され、微生物が生息する気孔又は凹凸が減少し、その機能を十分に発揮できない懸念がある。 そして、特許文献3に開示された微生物担体は、スラグではなく汚泥を使用するので、焼成して粒子を焼結させるためのエネルギーが必要となって不経済であり、しかも汚泥の表層部に気孔又は凹凸を形成しづらいため、微生物が生息できない懸念がある。 このように、前記した微生物担体では、水質又は底質の改善を図るための機能が発揮できないだけでなく、コスト又はエネルギーがかかり過ぎ、経済的に成り立たない。 【0006】 本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、微生物を長期間水底に保持し、更に増殖させて、微生物を水中に徐々に拡散させると共に、水底に堆積したヘドロに直接作用させることで、例えば、湖、沼、池、堀、河川、水槽、又は海の環境改善のみならず、魚介類又は海藻の育成にも寄与可能なスラグ微生物担体及びこれを用いた水底覆砂方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 前記目的に沿う第1の発明に係るスラグ微生物担体は、製鉄所、非鉄金属の製錬所、及びごみの溶融炉のいずれか1又は2以上から発生する多孔質スラグに微生物を担持する。 【0008】 第1の発明に係るスラグ微生物担体において、前記多孔質スラグは砂状物からなっていることが好ましい。 【0009】 第1の発明に係るスラグ微生物担体において、前記多孔質スラグは多孔質の砂状物を団結させて塊状としていることが好ましい。 【0010】 第1の発明に係るスラグ微生物担体において、前記多孔質スラグは、前記製鉄所からそれぞれ発生する高炉水砕スラグ及び製鋼急冷スラグのいずれか1又は2であることが好ましい。 【0011】 第1の発明に係るスラグ微生物担体において、前記微生物は、光合成菌、酵母菌、乳酸菌、糸状菌、及び放線菌のいずれか1又は2以上を含むことが好ましい。 【0012】 第1の発明に係るスラグ微生物担体において、前記多孔質スラグは、更に前記微生物の栄養源を担持していることが好ましい。 【0013】 前記目的に沿う第2の発明に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法は、製鉄所、非鉄金属の製錬所、及びごみの溶融炉のいずれか1又は2以上から発生する多孔質スラグに微生物を担持したスラグ微生物担体を、容器に入れた状態で水底に沈める。 【0014】 第2の発明に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記多孔質スラグは砂状物からなっていることが好ましい。 【0015】 第2の発明に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記多孔質スラグは多孔質の砂状物を団結させて塊状としていることが好ましい。 【0016】 第2の発明に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記容器を前記水底に沈めた後、該容器から前記スラグ微生物担体を放出することが好ましい。 【0017】 第2の発明に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記水底に沈めた前記スラグ微生物担体上を、スラグ砂及び天然砂のいずれか1又は2で覆うことが好ましい。 【0018】 第2の発明に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記多孔質スラグは、前記製鉄所からそれぞれ発生する高炉水砕スラグ及び製鋼急冷スラグのいずれか1又は2であることが好ましい。 【0019】 第2の発明に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記微生物は、光合成菌、酵母菌、乳酸菌、糸状菌、及び放線菌のいずれか1又は2以上を含むことが好ましい。 【0020】 第2の発明に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法において、前記多孔質スラグに、更に前記微生物の栄養源を担持することが好ましい。 【発明の効果】 【0021】 請求項1〜6記載のスラグ微生物担体、及び請求項7〜14記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法は、製鉄所、非鉄金属の製錬所、及びごみの溶融炉のいずれか1又は2以上から発生する多孔質スラグの表層部の気孔又は凹凸を微生物の住処として使用できる。このため、従来のように、セメント、合成樹脂、又は接着剤のようなバインダーを使用することなく、また多孔質スラグを焼結するために焼成することなく、そのままの状態で経済的にスラグ微生物担体が得られる。 従って、微生物を長期間水底に保持し、更に増殖させて、微生物を水中に徐々に拡散させると共に、水底に堆積したヘドロに直接作用させることで、例えば、湖、沼、池、堀、河川、水槽、又は海の環境改善のみならず、魚介類又は海藻の育成にも寄与できる。 【0022】 特に、請求項2記載のスラグ微生物担体、及び請求項8記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法は、多孔質スラグが砂状物で構成されているので、多孔質スラグの表層部に、より多くの気孔又は凹凸を形成できる。 【0023】 請求項3記載のスラグ微生物担体、及び請求項9記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法は、アルカリ刺激を受けると固化する潜在水硬性を備えた多孔質スラグを使用しているので、従来のように、セメント、合成樹脂、又は接着剤のようなバインダーを使用することなく、また多孔質スラグを焼結するために焼成することなく、砂状物同士を団結(固結ともいう)させることができ、経済的に塊状にしたスラグ微生物担体が得られる。 また、バインダーを添加して混練を行わないため、隣り合う多孔質の砂状物間に形成される連通隙間だけでなく、その表層部の気孔及び凹凸も残存でき、有用な微生物を多孔質スラグに効果的に担持できる。なお、砂状物のフリーCaOによる砂状物同士の固結現象を、例えば、酸液を使用して中断することにより、隣り合う砂状物間及び表層部の空隙割合と塊状のスラグ微生物担体の強度のバランスを制御できる。 【0024】 請求項4記載のスラグ微生物担体、及び請求項12記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法は、多孔質スラグが製鉄所から発生する高炉水砕スラグ及び製鋼急冷スラグのいずれか1又は2であるので、その表層部に大小多数の気孔及び凹凸を備える多孔質スラグを使用できる。これにより、有用な微生物の住処が多くなるので、微生物を培養できると共に、微生物を長期に渡って少量ずつ海水中又は淡水中に放出できる。このため、このスラグ微生物担体を、例えば、海底覆砂上又はヘドロ中に散在することで、硫化水素の発生を抑制したり、水質又は土壌を浄化する効果が長続きする。 また、スラグ微生物担体から微生物がいなくなった後も、前記した各水砕スラグの成分である例えば、Ca、Fe、P、Si、N、C、及びOのいずれか1又は2以上が水中に溶出するので、微生物の繁殖又は海藻類の成長を助けるため、魚介類の育成にも有効である。 【0025】 請求項6記載のスラグ微生物担体、請求項14記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法は、多孔質スラグに更に微生物の栄養源を担持するので、多孔質スラグに担持された微生物の働きの活性化、また微生物の増殖に寄与できる。 【0026】 請求項11記載のスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法は、水底に沈めたスラグ微生物担体上を、スラグ砂及び天然砂のいずれか1又は2で覆うので、微生物を水底に長期間維持でき、微生物による浄化効果を長続きさせることが可能な覆砂ができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0027】 続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。 ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るスラグ微生物担体の説明図、図2は変形例に係るスラグ微生物担体の説明図、図3は本発明の第1の実施の形態に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法の説明図、図4は変形例に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法の説明図、図5は本発明の第2の実施の形態に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法の説明図である。 【0028】 図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るスラグ微生物担体10は、製鉄所から発生する砂状物からなる多孔質スラグ11に微生物を担持したものである。以下、詳しく説明する。 【0029】 製鉄所から発生するスラグとしては、高炉スラグと製鋼スラグを使用できる。 高炉スラグは、高炉で銑鉄を製造するときに生成する副産物である。 製鋼スラグは、例えば、転炉又は電気炉で鋼を製造するときに生成する副産物である。 この溶融状態の高炉スラグと製鋼スラグ(以下、単に溶融スラグともいう)から製造される多孔質スラグは、溶融スラグの冷却方法によって、水砕スラグ、風砕スラグ、及び徐冷スラグに分けられる。 【0030】 水砕スラグは、溶融スラグに水を吹き付けて急冷させたもので、ガラス質(非晶質)の砂状となったものであり、その表層部に大小多数の気孔及び凹凸が形成され、その内部に大小多数の気泡が形成されたものである。このような水砕スラグとして、炉から排出された溶融スラグを、水で急冷(水砕)した高炉水砕スラグ及び製鋼急冷スラグがある。この製鋼急冷スラグは、溶融スラグを直接水で急冷することなく、一旦機械的に細粒とした後、水で急冷することが、安定した製造を行う上で望ましい(例えば、特開2004−132673号公報)。 風砕スラグは、溶融状態のスラグに、水の代わりに空気を吹き付けて急冷させたものである。 徐冷スラグは、溶融状態のスラグを冷却ヤードに流して自然冷却し、岩状の塊となったものを所定の大きさに砕いたものである。 【0031】 なお、多孔質スラグとしては、前記した水砕スラグである高炉水砕スラグ及び製鋼急冷スラグのいずれか一方又は双方であることが好ましいが、風砕スラグ又は徐冷スラグを単独で使用することも、また水砕スラグと組み合わせて使用することも可能である。 このような多孔質スラグは、そのままの状態で、砂状の多孔質スラグとして使用することが可能であるが、好ましくは、例えば、造粒又は摩砕して、粒径を例えば1mm以上10mm以下程度にして使用する。 ここで、図1に、摩砕して粒の角をとった高炉水砕スラグからなる多孔質スラグ11を示す。砂状とした多孔質スラグ11の表層部には、大小多数のクレーター状の窪み(気孔又は凹凸ともいう)12が存在しており、微生物の住処として適していることが分かる。 また、高炉水砕スラグは、pH11〜12程度とアルカリが強く、そのままでは微生物が生存又は繁殖しにくいため、例えば酸で中和して、高炉水砕スラグの粒間の水のpHを、例えば、7以上9.5以下程度とするのが望ましい。 【0032】 特に、水砕スラグは、アルカリ刺激を受けると固化する潜在水硬性があるため自然に固結(団結)する。この性質を活用し、図2に示すように、多孔質の水砕スラグ(砂状物の一例)13同士を接触させ、隣り合う部分が固結した時点で酸液を使用し、その反応を実質的に止めて塊状の多孔質スラグ14とすることも可能である(固結制御)。なお、塊状となった多孔質スラグの形状は、例えば、直方体、立方体、球、又は円柱にしたり、また、平面視して、例えば、円形、楕円形、又は多角形にできる。この固結現象は、他の風砕スラグ又は徐冷スラグでも発生する。 これにより、水砕スラグ13の表層部の気泡に加えて、隣り合うスラグ13の間にも、外部へ開口した連通隙間(連続空隙又は連続隙間ともいう)が形成され、微生物の住処として有効である。 なお、水砕スラグは、その成分として、「Ca、Fe、P、Si、N」等を含んでおり、これらの成分が少しずつ水中に溶出することによって、例えば、有用な微生物、プランクトン、又は海藻の繁殖に効果がある。 【0033】 以上に示した構成の砂状の多孔質スラグ11又は塊状の多孔質スラグ14を、微生物を有する培養液に所定時間(例えば、5分以上2時間以下程度)浸漬して微生物を担持する。なお、多孔質スラグに、培養液を散布してもよい。 微生物としては、水質又は水底の底質を浄化可能なものであり、光合成菌、酵母菌、乳酸菌、糸状菌、及び放線菌のいずれか1又は2以上を組み合わせて使用するが、更に麹菌及び枯草菌のいずれか一方又は双方を組み合わせて使用することも可能である。なお、光合成菌、酵母菌、乳酸菌、糸状菌、及び放線菌のいずれか1又は2以上を組み合わせた菌として、例えば、従来公知の土壌改良資材である有用微生物群で構成されるEM菌(Effective Microorganisms菌:株式会社EM研究所及び有限会社サン興産業製)を使用することも可能である。 このように、複数の微生物を組み合わせて使用することにより、互いの効果を補完し合い、微生物の効果をより向上させることが可能になる。なお、微生物培養液の担持量は、例えば、使用する多孔質スラグの0.1質量%以上10質量%以下程度である。 【0034】 各菌の効果は、以下のように考えられる。 光合成菌(嫌気性)は、光又は熱を受けると、有機物、硫化水素、又は炭化水素を原料に、アミノ酸又は糖類を生成する。糖類は、植物又は他の微生物の肥料となる。 酵母菌(嫌気性+好気性)は、嫌気性雰囲気で糖類(光合成菌が生成した糖類も含む)を発酵させて、他の微生物の増殖又は植物の生育に必要な物質(ビタミンなど)を生成する。 乳酸菌(嫌気性+好気性)は、糖類(光合成菌が生成した糖類も含む)を原料として乳酸を生成する。また、有害な微生物の繁殖を抑え、腐敗を抑制する。 糸状菌(好気性)は、有機物を発酵させて、例えばアミノ酸又は有機酸を生成する。 放線菌(好気性及び嫌気性)は、グラム陽性であり、アミノ酸(光合成菌が生成するアミノ酸も含む)を原料として抗生物質を生成し、有害な微生物の繁殖を抑える。 また、麹菌(好気性)は、糖類を発酵させて、例えばアルコールを生成する。 そして、枯草菌(好気性)は、有機物を分解して腐敗を抑制するものであり、納豆菌がこの仲間である。 【0035】 また、微生物が担持された多孔質スラグ11、14に、微生物の栄養源となる例えば、糖蜜、米ぬか(米のとぎ汁)、油粕、及び骨粉のいずれか1又は2以上を担持する。なお、栄養源の担持量は、例えば、微生物培養液の担持量の10質量%以上300質量%以下(好ましくは、担持量の下限を50質量%、上限を200質量%とする)程度である。 この栄養源は、微生物を有する培養液に混ぜ、この混合溶液中に多孔質スラグを浸漬させて担持することも、また、培養液を多孔質スラグに担持する前に、栄養源を有する溶液中に多孔質スラグを予め浸漬させて担持することも可能である。 これにより、多孔質スラグ11、14に担持された微生物の働きの活性化、また微生物の増殖に寄与できる。 このようにして製造したスラグ微生物担体を、例えば、湖、沼、池、堀、河川、水槽、又は海の水質又は底質の改善に使用する。 【0036】 続いて、本発明の第1の実施の形態に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法について説明する。この水底覆砂方法は、微生物を担持した砂状のスラグ微生物担体を、例えば、湖、沼、池、堀、河川、水槽、又は海の水底に沈める方法である。 まず、図3に示すように、微生物入スラグ砂(砂状のスラグ微生物担体の一例)を、容器15に入れた状態で海底(水底の一例)に沈める。 この容器としては、金属製、布製、ゴム製、又はプラスチック製の網状又は袋状のものを使用できるが、底開き式のフレキシブルコンテナを使用することが望ましい。なお、容器が網状の場合、海底にそのまま沈めて放置することもできるが、袋状の場合、水底で微生物入スラグ砂を容器から放出した後回収するのが望ましい。 【0037】 容器15を使用して多量の微生物入スラグ砂を海底へ沈め、この微生物入スラグ砂を容器から放出して、覆砂が必要な海底の領域を覆う。 そして、微生物入スラグ砂による海底の覆砂が終了した後、微生物が担持されていないスラグ砂を、微生物入スラグ砂全体を覆うように海底へ沈める。このスラグ砂の輸送は、例えば、底開き式のバージ(例えば、プッシャーバージ)を使用することが好ましい。ここで、微生物なしスラグ砂の代わりに天然砂を使用することも、また微生物なしスラグ砂と天然砂を組み合わせて使用することも可能である。 これにより、海中への微生物の拡散を徐々に行うことができる。 【0038】 なお、図4に示すように、海底に覆砂した微生物入スラグ砂の上から、前記したスラグで構成されるスラグ砂の一部又は全部に前記した微生物を付着させた微生物付着スラグ砂を、微生物入スラグ砂全体を覆うように海底へ沈めることもできる。 この場合、海底へ沈める微生物付着スラグ砂の落下の際、微生物の流出を抑制できるように、底開き式のバージを使用して、一度に沈めることが好ましい。なお、この微生物付着スラグ砂は、例えば、バージ上に積載したスラグ砂に、微生物の培養液を散布することで製造できる。 【0039】 本発明の第2の実施の形態に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法は、微生物を担持した塊状のスラグ微生物担体を、例えば、湖、沼、池、堀、河川、水槽、又は海の水底に沈める方法である。 まず、図5に示すように、複数個の微生物入スラグ塊(塊状のスラグ微生物担体の一例)を、海底(水底の一例)に略等間隔に沈める。なお、微生物入スラグ塊を海底に沈めるに際しては、前記した容器を使用しなくても、また使用しても構わない。ここで、容器を使用する場合は、容器の種類に応じて、海底にそのまま沈めて放置したり、また容器から放出して海底に放置し、容器を回収することもできる。 このように、複数個の微生物入スラグ塊を海底に沈めた後、微生物が担持されていないスラグ砂を、微生物入スラグ塊全体を覆うように水底へ沈める。ここで、この微生物なしスラグ砂の代わりに天然砂を使用することも、また微生物なしスラグ砂と天然砂を組み合わせて使用することも可能である。 【実施例】 【0040】 次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例1〜5について説明する。 実施例1は、製造した砂状のスラグ微生物担体の浄化効果を調査した結果である。 まず、高炉水砕スラグを直径1mm以上10mm以下に造粒し、砂状とした多孔質スラグ8kgを製造した。そして、この多孔質スラグをバケツに入れた10リットルの0.1質量%希硫酸溶液中に10分間浸漬し、pH調整を行った。 次に、前記した多孔質スラグのうち1kgを、光合成菌を中心に、酵母菌、乳酸菌、更に糸状菌、放線菌からなる培養液に糖蜜100質量%溶液を混ぜた混合溶液に、60分間浸漬した。 【0041】 そして、20リットルの海水を満たしたガラス水槽2個を準備し、各水槽の底にそれぞれ1kgのヘドロを敷いた後、一方の水槽に前記した砂状のスラグ微生物担体1kgを投入し、他方の水槽に菌無しの砂状の多孔質スラグ1kgを投入した。ここで、スラグ微生物担体と多孔質スラグを水底に沈めるに際してはビニル袋を使用し、スラグ微生物担体と多孔質スラグを、それぞれビニル袋に入れて各水槽の底(ヘドロの上)に沈め、ビニル袋を逆さにしてヘドロ上を覆うように配置した。なお、ビニル袋は回収した。 次に、水底に沈めたスラグ微生物担体と多孔質スラグが隠れるように、スラグ砂3kgずつを各水槽に投入した。 各水槽を、常温の屋内に120日間放置すると、スラグ微生物担体を投入した水槽は、水もガラスも略透明であったが、多孔質スラグが投入された水槽は、ガラスが藻でくもり水も濁っていた。 【0042】 実施例2は、製造した塊状のスラグ微生物担体の浄化効果を調査した結果である。 まず、高炉水砕スラグを直径1mm以上10mm以下に造粒し、多孔質のスラグ(砂状物の一例)を、内側寸法が、長さ200mm、幅100mm、高さ50mmで、底が網状となった型枠に充填した。そして、型枠内のスラグに、上から散水して水が垂れない程度の湿り気を与えて蓋をし、これを恒温槽で24時間60℃に保持した。 これにより、複数のスラグ同士を接触させた状態で固結させ塊状の多孔質スラグとした。 そして、型枠を外し、直方体に固化した塊状の多孔質スラグ(以下、ブロックともいう)を、バケツに入れた10リットルの0.1質量%希硫酸溶液に10分間浸漬し、pH調整を行った。 製造したブロックは、空隙率40%で、その内部に表面へ繋がっている連通空隙が形成されていた。また、固結していない表層部では、元のスラグ表層部の空孔又は凹凸が確認された。なおこのブロックの圧縮強度は、500N/cm2 (51kgf/cm2 )で、水中に投入するブロック又は漁礁としては、十分の強度を備えていた。 【0043】 次に、得られたブロックを、光合成菌を中心に、酵母菌、乳酸菌、更に糸状菌、放線菌からなる培養液に糖蜜100質量%溶液を混ぜた混合溶液に、60分間浸漬してスラグ微生物担体を製造した。なお、比較のため、混合溶液に浸漬しないブロックも準備した。 そして、20リットルの海水を満たしたガラス水槽2個を準備し、各水槽の底にそれぞれ1kgのヘドロを敷き、一方の水槽に前記したスラグ微生物担体3個を投入し、他方の水槽に菌無しのブロック2個を投入した。 更に、水底に沈めたスラグ微生物担体とブロックが隠れるように、スラグ砂3kgずつを各水槽に投入した。 各水槽を、常温の屋内に90日間放置すると、スラグ微生物担体を投入した水槽は、水もガラスも略透明であったが、菌無しのブロックが投入された水槽は、ガラスが藻でくもり水も濁っていた。 以上のことから、本願発明のスラグ微生物担体を使用することで、微生物を長期間水底に保持し、微生物を水中に徐々に拡散させると共に、水底に堆積したヘドロに直接作用させることで、水質及び水底の環境改善が図れることを確認できた。 【0044】 ここで、本発明の第1、第2の実施の形態に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法を実際に実施する際の更に好ましい条件について説明する。 参考実施例1では、微生物を担持した砂状のスラグ微生物担体を水底に沈めた後、その上に微生物が担持されていないスラグ砂を覆う。 まず、砂状のスラグ微生物担体1トンを充填した底開き式のフレキシブルコンテナを、300袋(スラグ微生物担体の総重量300トン)準備する。そして、砂状のスラグ微生物担体が充填されたフレキシブルコンテナを、海底、川底、又は湖底のような水底に沈め、その底を開封して、砂状のスラグ微生物担体を水底に排出し静置する。この砂状のスラグ微生物担体の排出が終了したフレキシブルコンテナは、水中から引き上げて回収する。 このようにして、スラグ微生物担体による水底の覆砂が終了した後、微生物が担持されていないスラグ砂を、スラグ微生物担体全体を覆うように水底へ沈める。このスラグ砂の輸送には、底開き式のプッシャーバージを使用する。なお、プッシャーバージ上のスラグ砂の積載量は3000トンである。 これにより、従来よりも経済的に覆砂を実施でき、しかも水中における微生物の拡散を徐々に行うことが可能になる。 【0045】 参考実施例2では、参考実施例1の砂状のスラグ微生物担体の上に、一部又は全部に微生物を付着させたスラグ砂を覆う。 まず、参考実施例1と同様、砂状のスラグ微生物担体が充填されたフレキシブルコンテナを、海底、川底、又は湖底のような水底に沈め、その底を開封して、砂状のスラグ微生物担体を水底に排出し静置する。 そして、前記したスラグで構成されるスラグ砂の一部又は全部に前記した微生物を付着させた微生物付着スラグ砂を、スラグ微生物担体全体を覆うように水底へ沈める。このとき、水底へ沈める微生物付着スラグ砂の落下の際に、微生物の流出を抑制できるように、底開き式のプッシャーバージを使用して一気に沈める。なお、プッシャーバージ上には、3000トンのスラグ砂を積載し、これに微生物の培養液50トンを散布する。 これにより、従来よりも経済的に覆砂を実施でき、しかも微生物付着スラグ砂の落下の際の海中への微生物の流出も抑制できる。 【0046】 参考実施例3では、微生物を担持した塊状のスラグ微生物担体を水底に沈めた後、その上に微生物が担持されていないスラグ砂を覆う。 まず、長さ200mm、幅100mm、高さ50mm(約2.5kg)の塊状のスラグ微生物担体を、水底に10万個(約250トン)投入する。 このように、複数個の塊状のスラグ微生物担体を水底に沈めた後、微生物が担持されていない前記したスラグ砂を、底開き式のプッシャーバージを使用して、スラグ微生物担体全体を覆うように水底へ沈める。なお、プッシャーバージ上には、2500トンのスラグ砂を積載する。 これにより、従来よりも経済的に覆砂を実施でき、しかも水中における微生物の拡散を徐々に行うことが可能になる。 【0047】 以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のスラグ微生物担体及びこれを用いた水底覆砂方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。 また、前記実施の形態においては、スラグとして、製鉄所から発生する鉄鋼スラグを使用した場合について説明したが、非鉄金属の製錬所、例えば、銅、亜鉛、鉛、その他の製鉄以外の製錬所から発生するスラグを使用することも、また、家庭ごみ又は産業廃棄物を処理するごみの溶融炉から発生するスラグを使用することも可能である。この場合、非鉄金属の製錬所又はごみの溶融炉から発生するスラグを単独で使用することも、また製鉄所から発生するスラグに、非鉄金属の製錬所及びごみの溶融炉のいずれか一方又は双方から発生するスラグを組み合わせたスラグを使用することも可能である。 【図面の簡単な説明】 【0048】 【図1】本発明の一実施の形態に係るスラグ微生物担体の説明図である。 【図2】変形例に係るスラグ微生物担体の説明図である。 【図3】本発明の第1の実施の形態に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法の説明図である。 【図4】変形例に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法の説明図である。 【図5】本発明の第2の実施の形態に係るスラグ微生物担体を用いた水底覆砂方法の説明図である。 【符号の説明】 【0049】 10:スラグ微生物担体、11:多孔質スラグ、12:窪み、13:水砕スラグ(砂状物)、14:塊状の多孔質スラグ、15:容器
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【出願人】 |
【識別番号】000203977 【氏名又は名称】太平工業株式会社 【住所又は居所】東京都中央区新川一丁目23番4号
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【出願日】 |
平成17年5月27日(2005.5.27) |
【代理人】 |
【識別番号】100090697 【弁理士】 【氏名又は名称】中前 富士男
【識別番号】100090088 【弁理士】 【氏名又は名称】原崎 正
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【公開番号】 |
特開2006−326526(P2006−326526A) |
【公開日】 |
平成18年12月7日(2006.12.7) |
【出願番号】 |
特願2005−155709(P2005−155709) |
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