東電経営に危機感、財務リスクと退職者急増で-議事録で判明
6月18日(ブルームバーグ): 原子力損害賠償支援機構の運営委員会で損害賠償と廃炉・除染費用の負担増による財務リスクや退職者の急増で、東京電力 に経営悪化の懸念があるとの声が上がっていたことが分かった。東電の存続をめぐる同委員会での具体的なやり取りが明らかになった。
ブルームバーグ・ニュースは独立行政法人の情報公開法に基づく開示請求で、支援機構の第1回(2011年10月3日)から第23回(13年4月8日)までの運営委員会議事録を独自に入手した。
12年10月4日に第18回運営委員会では、出席者の1人が「会社の劣化が急速に進みかねないというのが、今の率直な認識」と発言。東電の経営側の立場から発言したこの人物は「辞める人の数が加速度的に増えているということだけではなくて、モチベーションの面でも会社は財務リスクを抱えたままではやれないというのが経営者の皆さんの総意」と指摘した。
この見解に対し、別の出席者は「青天井の財務リスクでは東電がもたないというのは誠にその通り」と同調し、「除染と廃炉の問題が国において、いまだにどう取り扱うのかがはっきりしない。これも当然、東電の経営と関連するが、この巨額な金額がさらに財務リスクを生むことになる」と述べた。
費用10兆円に倍増も東電は12年5月に策定した総合特別事業計画で高線量地域の除染・賠償費用の上限を5兆円と想定した。しかし、11月7日に発表された中期経営計画では、除染対象が低線量地域まで含まれるとその額は10兆円に倍増し、廃炉費用も1兆円を大幅に上回る可能性があると指摘した。
東電の下河辺和彦会長は中期経営計画発表時の記者会見で、今後必要になる費用が「1企業のみの努力では到底対応しきれない規模となる可能性が高い」と述べ、国に追加の支援を求めた。中計発表後の11月12日の運営委員会でも除染や廃炉の費用などについての議論が続いた。東電の嶋田隆取締役は「一番の悩みは、費用が確定するのを待っていると会社はもたないという状況」だと指摘。
嶋田氏は「こういう性格の費用については、制度的にこういう風に担保するということを本当は決めていただきたいと思うし、もし決まらないにしても選択肢の形で議論をして、書けるところまで書くということを求めたい」と訴えた。東電側は国に対して支援を求めているものの、これまでのところ具体的な策は示されていない。
7人の運営委員支援機構の運営委員会は弁護士の川端和治委員長のほか、東海旅客鉄道(JR東海)の葛西敬之会長など計7人の委員からなる。資金援助額の決定や機構の予算作成などは運営委員会の議決が必要になる。初代の運営委員長は下河辺氏が務めたが、12年6月に東電会長に就任したことから川端氏が委員長に就任した。
退職者の増加傾向について、東電の広瀬直己社長が12年11月12日の運営委員会で詳述。議事録によると、広瀬氏は、これまで離職者全体に占める30歳以下の社員の比率はこれまで25-30%だったのが、「この1年半は48-50%近い数」になったと述べた。
「一番気になる」点としては、「本社の私の比較的そばで働いていたような人間で、MBAを持っているような人間が辞めている」例を示した。その影響として「彼がいなくなってしまうのか、みたいなものが少し効いている」と説明した。さらに広瀬氏は「主だった辞める理由はお金」と発言。「やはりローンを抱えて子供が何とかという話をされてしまうと、われわれとしても何とも厳しいところがある」と明かした。
エネルギー業界専門の人材スカウト企業アースストリームのショーン・トラバース代表取締役は「現在、日本のエネルギー業界、とりわけ再生可能エネルギーの分野では能力のある人材が不足しており、今後より多くの東電社員が転職の機会を求め、さらに自分自身の市場価値を知ることになるだろう」と指摘。その上で「われわれのクライアントの間でも、東電社員は能力が高いため、採用を望む声が強い」と話した。
東電の村松衛常務は13年4月8日の運営委員会で、12年度の依願退職者数は11年度の470人に対し、12年度は710人だったことを明らかにした。12年3月の退職者数が170人で、このうち40人が本社要員とした上で、「高学歴層で退職の準備を進めていた人間が年度末で退職したという特徴があった」と説明した。東電は今年5月に総合特別事業計画の進捗(しんちょく)状況について発表。その中で依願退職者数が11年度が震災前に比べ3.5倍、12年度が5.3倍に増えたことを明らかにした。
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更新日時: 2013/06/18 14:21 JST