発明の名称 |
悪臭の低減方法 |
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発行国 |
日本国特許庁(JP) |
公報種別 |
公開特許公報(A) |
公開番号 |
特開平11−346761 |
公開日 |
平成11年(1999)12月21日 |
出願番号 |
特願平10−156469 |
出願日 |
平成10年(1998)6月4日 |
代理人 |
【弁理士】 【氏名又は名称】遠山 勉 (外4名)
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発明者 |
新井 久美 / 中崎 清彦 |
要約 |
目的
構成
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特許請求の範囲
【請求項1】 悪臭を発する物質に、キャンディダ属、イサチェンキア属またはピヒア属に属する微生物の培養物を接種し、前記悪臭を発する物質において前記微生物を増殖させることを特徴とする、悪臭を低減する方法。 【請求項2】 前記悪臭を発する物質が生ごみであることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項3】 前記微生物がキャンディダ・クルーゼイvar.トランシトリアであることを特徴とする請求項1または2記載の方法。 【請求項4】 前記悪臭を発する物質において前記微生物に偽菌糸を形成させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 【請求項5】 悪臭を発する物質に適用することにより悪臭を低減させるための微生物製剤であって、キャンディダ属、イサチェンキア属またはピヒア属に属する微生物の培養物を含む製剤。 【請求項6】 前記微生物がキャンディダ・クルーゼイvar.トランシトリアであることを特徴とする請求項5記載の製剤。
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発明の詳細な説明
【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、悪臭を発する物質の悪臭を低減する方法に関するものである。また、この方法において使用できる微生物製剤に関するものである。 【0002】 【従来の技術】近年、家庭用の生ごみ処理装置が多数市販されているが、生ごみの処理には悪臭の発生の問題がある。この問題に関し、ここ数年来、EM菌を用いれば嫌気条件下で悪臭の発生を抑制しながら生ごみ処理が可能であるとして、EMリサイクルシステムが市場に出ているが、悪臭発生の抑制効果があるときとないときがあり、悪臭の発生の問題は未だ十分に解決されているとは言えない。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、生ごみなどの悪臭を発する物質の悪臭を低減する方法を提供することを目的とする。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、嫌気条件下で悪臭の発生が抑制されているときの微生物相を詳細に観察し、その中で大勢を占めている微生物のそれぞれを純粋培養して生ごみに接種することにより、悪臭低減に効果のある微生物を特定するに至り、本発明に到達した。 【0005】すなわち本発明は、悪臭を発する物質に、キャンディダ属、イサチェンキア属またはピヒア属に属する微生物の培養物を接種し、前記悪臭を発する物質において前記微生物を増殖させることを特徴とする、悪臭を低減する方法(本発明方法)を提供する。 【0006】悪臭を発する物質としては、生ごみを挙げることができる。 【0007】本発明方法において、微生物は、好ましくは、キャンディダ・クルーゼイvar.トランシトリアである。また、悪臭を発する物質において微生物に偽菌糸を形成させることが好ましい。 【0008】また、本発明は、悪臭を発する物質に適用することにより悪臭を低減させるための微生物製剤であって、キャンディダ属、イサチェンキア属またはピヒア属に属する微生物の培養物を含む製剤(本発明製剤)を提供する。 【0009】本発明製剤において、微生物は、好ましくは、キャンディダ・クルーゼイvar.トランシトリアである。 【0010】 【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態について詳説する。 【0011】本発明方法は、悪臭を発する物質に、キャンディダ属、イサチェンキア属またはピヒア属に属する微生物の培養物を接種し、前記悪臭を発する物質において前記微生物を増殖させることを特徴とする。 【0012】本発明において、悪臭を発する物質とは、腐敗して悪臭や不快臭を発し得る有機質の物質を意味する。例としては、家庭から排出される生ごみ(厨芥類)等の有機質廃棄物が挙げられる。有機質廃棄物は、コンポスト化処理し肥料として土壌還元することによってリサイクルが可能である。さらに具体的には、生ごみ、家畜の糞などが挙げられる。 【0013】本発明において使用される微生物は、キャンディダ属、イサチェンキア属またはピヒア属に属する微生物である。 【0014】このような微生物の例としては、キャンディダ・クルーゼイ(Candida krusei)、キャンディダ・クルーゼイvar.トランシトリア(Candida krusei var. transitoria)、イサチェンキア・テリコラ(Issatchenkia terricola)、イサチェンキア・オシデンタリス(Issatchenkia occidentalis)、イサチェンキア・スクツラタ(Issatchenkia scutulata)などが挙げられる。微生物は、好ましくは、キャンディダ・クルーゼイvar.トランシトリアである。 【0015】一部の微生物には、テレオモルフ(完全世代)とアナモルフ(不完全世代)とを有するものがあることが知られており、同一の微生物でも両世代別に別の属・種名を有することがある。本発明においては、テレオモルフおよびアノモルフの少なくとも一方が上記属に属する微生物が使用可能である。 【0016】培養物とは、増殖可能な微生物を含むものであれば特に制限はなく、例としては、微生物の増殖に適した培地で微生物を増殖させた微生物を含む培養液、この培養液から得られた菌体、この培養液または菌体を低温乾燥や凍結乾燥などにより乾燥したものなどが挙げられる。 【0017】培養物の接種の方法は、微生物が悪臭を発する物質において増殖可能であれば特に制限はなく、例えば、培養物を、悪臭を発する物質に混合または散布することによって接種を行うことができる。 【0018】微生物を増殖させるための条件は、悪臭を発する物質の種類や微生物の種類によって適宜決定される。 【0019】例えば、キャンディダ・クルーゼイの場合には、温度が20〜40℃、好ましくは30〜40℃、pHが2〜6、好ましくは3〜6の条件が挙げられる。また、悪臭を発する物質の含水率は、通常、70〜80%である。さらに、嫌気条件でも好気条件でもよい。 【0020】好ましくは、悪臭を発する物質において微生物に偽菌糸を形成させる条件にすることが好ましい。このような条件は、当業者であれば容易に決定できる。本発明方法を生ごみのコンポスト化に適用する場合には、微生物の培養物を接種する他は、従来のコンポスト化操作と同様に実施でき、従来のコンポスト化装置において実施可能である。このようにして、悪臭を抑制した生ごみのコンポスト化が可能になる。 【0021】また、有機質廃棄物の貯蔵時に適用した場合も悪臭を抑制することが可能になる。 【0022】本発明方法に使用される微生物は芳香臭を発生する能力があり、悪臭の抑制は、発生した芳香によるマスキングによって奏されるものと考えられる。 【0023】本発明製剤は、悪臭を発する物質に適用することにより悪臭を低減させるための微生物製剤であって、キャンディダ属、イサチェンキア属またはピヒア属に属する微生物の培養物を含むものである。 【0024】本発明製剤において、悪臭を発する物質、微生物および培養物については、上記に説明した通りである。本発明製剤は、バーミキュライトなどの担体や、微生物活性化のための栄養基質をさらに含んでいてもよい。 【0025】本発明製剤の形態は、特に制限されず、例えば、乾燥製剤を挙げることができる。本発明製剤の調製は、微生物製剤の調製に関し公知の方法によって行うことができる。例えば、微生物の増殖に適した培地で微生物を増殖させた微生物を含む培養液、または、この培養液から得られた菌体を低温乾燥や凍結乾燥などにより乾燥する方法などが挙げられる。 【0026】本発明製剤は、使用時に、悪臭を発する物質に、混合したり、散布したりすればよい。本発明製剤の悪臭を発する物質への添加量は、悪臭を発する物質の種類、微生物の種類、製剤の種類などに基づいて適宜決定される。 【0027】 【実施例】以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明する。 (1)コンポスト化処理過程の生ごみの性質の検討生ごみのEMリサイクルシステムでは、生ごみにEM菌を混合し密閉することで、生ごみからの不快臭(悪臭)の発生を抑制することができるとされている。また、EMリサイクルシステムに限らず、嫌気性生ごみ処理の中には、不快臭が抑制される場合があることがわかっている。そこで、生ごみの嫌気性コンポスト化処理の一つとしてEMリサイクルシステムの方法を採用し、嫌気性コンポスト装置としてEMバケツを用いて、不快臭の発生の抑制に関与する条件の特定を試みた。また、EM菌の代わりにEM菌を米糠や糖蜜を基質として増殖させたEMボカシを用い、EMボカシを混合しなかった実験と比較してEM菌の有効性についても検討した。 (a)実験方法コンポスト原料の生ごみとしては、給食センターから入手したおかず残さを用いた。おかず残さは一時に大量に入手し、挽肉器で磨砕して一回使用量ずつフリーザーバッグに入れ−20℃で冷凍保存した。これを実験のたびごとに解凍して用い、一連の実験で生ごみの質が変わらないように留意した。生ごみ中の炭素および窒素の元素分析値はそれぞれ44.9%および3.8%で、C/N比は11.8であった。またpHは5.60で、含水率は77.0%であった。生ごみに混合したEMボカシは市販されているもの(有限会社出頭米穀製)を用いた。EMボカシ中の炭素および窒素の元素分析値はそれぞれ44.9%および2.8%でC/N比は16.0であった。またpHは5.82で、含水率は21.5%であった。 【0028】反応には嫌気的なコンポスト化が実現できる装置としてEMバケツ(EMサポートエース、岐阜プラスチック工業株式会社製)を用いた。EMバケツはポリエチレン製で、EM菌を用いた嫌気的な生ごみ処理システム用に市販されている。 【0029】バケツは、容量15Lの円筒形で下方にはざるが敷かれており、生ごみの上から落としぶたをして生ごみの水分を切ることができるようになっている。また落としぶたを上から固めるように押しつけることで、原料の嫌気状態を作り出している。バケツの底にはたまった液を除去するためのコックがついている。また、上ぶたはしっかりとはまり、外部との通気が遮断されている。 【0030】生ごみのEM処理システムとして推奨されている方法に従い、生ごみ2400gにEMボカシ48gを入れよく混合したものを原料とした実験(Run A-1)と、生ごみのみを原料とした実験(Run A-2)を行った。コンポスト化時間は10日間、コンポスト化温度は室温とした。1日に1回の割合で装置の蓋をあけ、生ごみの状態および生成するにおいを記録した。また、固相を均一になるようによく攪拌混合した後、30g程度のサンプルを採取してpH、含水率、微生物相を測定した。pHは、サンプル3gを蒸留水27mlに懸濁させ、ホモジナイザーにより104rpmで10分間ホモジナイズしたもののpHをpH電極を用いて測定することにより求めた。含水率は、65℃で3日間乾燥させたときの、重量減少から求めた。 【0031】微生物相の測定には希釈平板法を用いた。培地は、下記表1に示す組成のポテトデキストロース(potato dexstrose)培地に塩酸を加えて、生ごみの平均的なpHである4.0にpHを調整した培地を用い、サンプルを接種して好気条件下において培養した。培養温度は30℃とし、培養日数は7日間とした。 【0032】 【表1】
微生物相は細菌および酵母のそれぞれの菌体濃度を区別して測定した。微生物の菌体濃度は、単位乾燥試料重量当たりのコロニー形成数(CFU/g−ds)として示した。 【0033】(b)結果EMボカシを加えた生ごみをコンポスト化したRun A-1および生ごみのみをコンポスト化したRun A-2におけるにおいの変化を表2に示す。表中、○は芳香あり、×は芳香なしを示す。 【0034】 【表2】表2 においの経時的変化───────────────────────日数 0 2 4 6 8 10───────────────────────Run A-1 × × ○ ○ ○ ○Run A-2 × × ○ ○ ○ ○───────────────────────Run A-1およびRun A-2のいずれも2日目までは、芳香臭は生成しなかったが、4日目以降はいずれも芳香臭を生成していることが分かった。また、容器のふたを開けた時は芳香臭が認められたのに対し、生ごみを攪拌混合した時には、強い有機酸臭が発生したことから、芳香臭は生ごみの表面でのみ生成していると考えられ、悪臭の抑制は、表面で生成される芳香臭によるマスキングの効果によるところが大きいと考えられた。また、生ごみの表面には、酵母の偽菌糸の発生が観察された。 【0035】Run A-1およびRun A-2におけるpHおよび含水率の経時変化を図1に示す。Run A-1およびRun A-2ともに、pHはコンポスト化開始と共に低下し、4日目で約3.9となってその後ほぼ一定となった。これは、反応初期において原料中に含まれていた細菌が有機酸を生成したためと推測される。含水率は、Run A-1およびRun A-2ともにコンポスト化開始後わずかに低下し、その後、日数経過とともにわずかに上昇したがいずれの実験でも含水率は74〜77%の範囲で推移しており、反応期間全体を通じて大きな変化は見られなかった。 【0036】微生物相については、寒天平板上に形成されるコロニーの形状観察から、2日目以降は優勢な微生物は3種類に限られていることが分かった。これは、Run A-1およびRun A-2とも同様で、EMボカシの添加の有無によらず生ごみ中には同じ微生物相ができていたことを示している。顕微鏡による観察により、これらの微生物は、桿状の細菌が1種類(LT1株)、および、酵母様の菌類が2種類(YT1株およびYT2株)であった。なお、生ごみ中の微生物相は原料とコンポスト化2日目以降では異なっており、原料中には種々雑多な微生物が見られた。 【0037】Run A-1およびRun A-2におけるLT1株、YT1株およびYT2株の菌体濃度の経時変化をそれぞれ図2および図3に示す。LT1株は、Run A-1およびRun A-2のいずれとも反応進行とともに速やかに増殖し、コンポスト化開始後4日目では約108CFU/g−dsにまで増殖した。いずれの実験においてもpHがコンポスト化2日目で急激に低下したのは、このLT1株が増殖し有機酸を生成したためと考えられる。その後、LT1株の菌体濃度は6日目でやや減少したが、その後はほぼ一定の値を維持した。YT1株は、Run A-1およびRun A-2のいずれともコンポスト化6日目で約107.5CFU/g−dsまで増殖し、その後一定となった。YT2株は、Run A-1では、コンポスト化6日目で1オーダ減少し、Run A-2ではコンポスト化8日目に1オーダ減少した。 【0038】以上のように、EMボカシの添加の有無によらず生ごみからは芳香臭が生成し、これが生ごみからの不快臭の発生を抑制するマスキング効果をもつことが分かった。また、芳香臭を生成している生ごみの微生物相を調べた結果、芳香の発生と関連して、LT1、YT1およびYT2の3株が優先的に増殖していることが分かった。 【0039】(2)芳香の生成に関わる微生物の特定(1)により、嫌気的コンポスト化処理過程において、芳香臭が生成し不快臭が抑制されている生ごみ中で優勢になっていることが判明した、LT1株、YT1株およびYT2株の3種類の菌株のうち、芳香臭の生成に主として関わっている菌株を特定するため、3種類の菌株をそれぞれ純粋培養し、γ線照射により滅菌した生ごみにこれらの菌株をさまざまな組み合わせで接種してコンポスト化を行い、芳香の生成を調べた。 【0040】(a) 方法原料は(1)で用いた生ごみと同一のものを10kGy/hのγ線で3時間照射することによって滅菌したものを用いた。 【0041】LT1株、YT1株およびYT2株の純粋培養には、下記表3に示す組成のISP No.2液体培地の全ての成分を3/10の濃度に調整した3/10濃度ISP No.2培地を用いた。培養温度は30℃、培養時間は24時間とし、180rpmで振盪培養した。培養終了後、培養液を10000rpmで10分間遠心分離して、集菌し、生理食塩水で2回洗菌して、原料生ごみへの接種菌体とした。 【0042】 【表3】
反応器は、一度に多くの実験ができるように、ポリプロピレン製の滅菌濾過器(Sterifil aseptic system, Millipore社製)を改良して用いた。滅菌濾過器は容量300mlの円筒形で上下2段重ねの構造になっており、上段の底部にはメンブランフィルタを支えるためのスクリーンがついている。このスクリーンがざるのような役割を果たし、水が切れるようになっている。反応器の上段部分に原料生ごみ約150gを入れ、純粋培養した菌を、全ての菌株、2株ずつの組み合わせ、および、各菌株単独の合計7通りで接種し、よく混合した。生ごみの表面に中蓋はしなかったが、スプーンなどで固めるように押しつけ、生ごみ中に隙間がないようにした。それぞれの場合において、好気条件および嫌気条件の両方の実験を行った。容器の蓋には4個所の小穴(直径4mm)が開けてあり、好気条件における実験では、このうちの1個所から外気を取り込むようにし、それ以外の穴はゴムキャップをして密閉した。外気を取り込む穴には孔径0.45μmのメンブランフィルタ(Cellulose Nitrate A045047A、東洋ろ紙製)を設けて通気孔とし、菌の混入のないようにした。嫌気条件の実験では、同じ通気孔から窒素ガスを流し入れ充填した後、通気孔にもゴムキャップをした。コンポスト化温度は30℃とし、2日に1回の割合で、無菌条件下に、容器の蓋を開け、発生する臭いを記録するとともに、固相を良く攪拌混合した。 【0043】(b) 結果測定結果を表4に示す。表中の○は芳香あり、×は芳香なしを示す。 【0044】 【表4】 表4 コンポスト化4日目の測定結果──────────────────────────────実験番号 接種菌株 コンポスト化条件 芳香の生成────────────────────────────── B-1 LT1, YT1, YT2 好気 ○ B-2 LT1, YT1, YT2 嫌気 ○ B-3 LT1, YT1 好気 ○ B-4 LT1, YT1 嫌気 ○ B-5 LT1, YT2 好気 × B-6 LT1, YT2 嫌気 × B-7 YT1, YT2 好気 ○ B-8 YT1, YT2 嫌気 ○ B-9 LT1 好気 × B-10 LT1 嫌気 × B-11 YT1 好気 ○ B-12 YT1 嫌気 ○ B-13 YT2 好気 × B-14 YT2 嫌気 ×──────────────────────────────芳香臭の生成は、全ての菌株を接種した実験、LT1株およびYT1株を接種した実験、YT1株およびYT2株を接種した実験、ならびに、YT1株のみを接種した実験で観察された。芳香臭が生成した実験は、すべてYT1株が接種菌株に含まれており、芳香臭の発生にはYT1株の寄与が大きいことが分かった。また、芳香臭の生成は、好気および嫌気のいずれの条件下においても観察され、芳香臭の生成は酸素の存在の有無によらないことが分かった。 【0045】YT1株のみを好気的条件下でコンポスト化した実験(Run B-11)の、YT1株の菌体濃度の経時変化を図4に示す。YT1株は、コンポスト化開始後速やかに増殖し、3日目で約109CFU/g−dsとなり、その後約109.5CFU/g−dsまで増殖して一定となった。 【0046】なお、YT1株の菌体濃度は、生ごみの表面の方が生ごみの内部よりも高濃度であることが確かめられた。 【0047】以上の結果から、芳香の生成にはYT1株の存在が必要であることが判明した。YT1株は、その分類学的性質の解析により、キャンディダ・クルーゼイ(テレオモルフは、イサチェンキア・オリエンタリス)であることが判明した。 【0048】(3)キャンディダ属またはキャンディダ属に関連する属に属する微生物の芳香発生能の確認上記(2)の結果から、キャンディダ属またはキャンディダ属に関連する属に属する微生物が芳香発生能を有するものと推定し、以下の株を理化学研究所から購入し、芳香発生能を調べた。なお、括弧内は別名である。 【0049】 【表5】 表5 試験菌株 Candida krusei (Issatchenkia orientalis) Candida krusei var. transitoria (Pichia fermentans) Issatchenkia terricola Issatchenkia occidentalis (Candida sorbosa) Issatchenkia scutulata (Pichia scutulata var. exigua)方法は、上記(2)(a)と同じ方法を用いた。但し、コンポスト化は好気条件で行い、芳香の発生は以下の3段階で評価した。 ◎:強く芳香を発生する。 ○:芳香を発生する。 ×:芳香を発生しない。 【0050】結果を表6に示す。 【0051】 【表6】 表6 芳香の発生──────────────────────────株名 芳香の発生──────────────────────────Candida krusei ○Candida krusei var. transitoria ◎Issatchenkia terricola ○Issatchenkia occidentalis ○Issatchenkia scutulata ○──────────────────────────Candida krusei var. transitoriaは特に芳香が強く、また、果物の香りに近い芳香が認められた他の株と異なり、ワインのような芳香が認められた。 【0052】以上の結果から明らかなように、生ごみに接種して増殖させたときに、キャンディダ属、イサチェンキア属またはピヒア属に属する微生物が芳香発生能を有することが確認された。従って、これらの微生物を使用することにより悪臭を効果的に低減することができると考えられる。 【0053】 【発明の効果】本発明により、生ごみなどの悪臭を発する物質の悪臭を効果的に低減することができる。
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