安愚楽牧場:社長と弟が「私物化」…元社員が証言
毎日新聞 2013年06月20日 02時30分(最終更新 06月20日 02時44分)
「結局、姉と弟の会社に過ぎなかった」。和牛オーナー商法を巡る特定商品預託法違反事件の舞台となった安愚楽牧場(栃木県那須塩原市、2011年8月に経営破綻)で働いていた元社員の男性は語る。同牧場は逮捕された元社長の三ケ尻久美子容疑者(69)と実弟の元役員、増渕進容疑者(59)が1990年代に実権を握って以降、急速に規模を拡大させた。しかし、その実態は姉弟による経営の「私物化」だった。
「黙ってなさい。最終的に私が責任を取るから」。元幹部の男性は、意見を進言するたび三ケ尻容疑者からこう言われたという。
元幹部によると、安愚楽牧場は典型的な縦割りの組織だった。出資者オーナーについて知っているのはオーナー担当の社員だけ。牛の担当社員は牛のことしか分からず、「全てを把握していたのは社長とほんの一部の役員だけだった」。
同牧場はバブル前夜の81年、不動産業も手掛けていた三ケ尻容疑者の夫が創業。夫はその10年ほど前から那須町などの土地を買い回っていたといい、80年ごろ、「ここで牛をやることにした」と地元住民らに話し、驚かせたという。
夫の病死後、三ケ尻容疑者は90年に社長就任。自らはオーナーの勧誘を担当し、増渕容疑者には繁殖牛の面倒を見させた。宇都宮市などで始めたレストラン経営やホテルも好調で、牧場の盆踊り大会に有名演歌歌手を呼ぶほどだったという。
しかし、業績が上がるにつれ専横ぶりが目立つように。別の元幹部によると、牛が病気になった時など、治療法から新たな牛の調達に至るまですべて増渕容疑者の許可が必要だったという。
「牛の知識もないのに一人で全部決めたがった。たまに現場に来ては『何やってるんだ』と怒鳴る。現場は萎縮していた」。三ケ尻容疑者は反対意見を伝える社員を遠ざけるようになったという。
「勧誘が大変」が口癖だったという三ケ尻容疑者。元社員は「親族しか重用せず、組織の体をなしていなかった」と振り返る。【中川聡子、浅野翔太郎】