社説
G8首脳宣言/期待と評価を得たとはいえ
欧州債務危機が小康状態にある中で世界経済の再生に向け、日米欧の8カ国がどんな指針を示すのか。英国・北アイルランドで開かれた主要国(G8)首脳会議の焦点の一つだった。 首脳宣言は世界経済の成長見通しについて「引き続き弱い」と指摘し、最優先課題として「成長と雇用の促進」を挙げた。 ただ、中でも欧州のマイナス成長・失業問題に、力強いメッセージが打ち出せたのかといえば、とてもそうは言えない。 経済の立て直しをめぐり、当の欧州連合(EU)内で成長重視派と緊縮財政派との路線対立があり、そうした事情に配慮せざるを得なかったからだろう。 その中で首脳宣言が一定の評価をしたのは、成長と財政再建の両立をうたった安倍政権の経済政策「アベノミクス」に対してだ。各国首脳から「精力的な計画」「経済再生の良き手本」と、賛辞が相次いだという。 だが、そのことはけん引役を欠く世界経済の現状の裏返しと言える。欧州の債務問題はなお火種を抱えており、米国に回復の兆しが見られるとはいえ、これまでのけん引役だった中国は景気減速が著しい。日本の「復活」に期待を寄せるほかに手だてがない証しでもある。 一方で首脳宣言は、財政赤字が先進国で最悪水準にある日本に、名指しで再建の道筋を示す中期財政計画の策定を求めた。 アベノミクスに「強い期待と高い評価が得られた」と、安倍晋三首相は胸を張ってばかりもいられまい。 期待と評価は、世界経済に果たす責任がこれまで以上に重くなったことを意味し、国際社会からも財政再建という重い宿題を突き付けられたことになる。 首相はアベノミクス半年間の実績を強調したものの、成長戦略がまとまり三本の矢が出そろったのは、つい先ごろのことで、緒に就いたばかりと言える。経済財政運営の手腕が真に問われるのはこれからである。 国内では、円安による輸入原材料の高騰からくる商品の相次ぐ値上げ、投資家らの心理を不安定化させる株価の乱高下と、アベノミクスの「副作用」が既に顕在化している。 国際社会から期待と注文を受けたこの機に、再スタートを切る意味でも、首相はいったん立ち止まり、足元の経済財政状況を見つめ直すべきではないか。 財政再建という課題の解決は容易ではない。G8で首相は環境が整えば予定通り消費税率を引き上げる意向を示し、記者会見では社会保障を含め歳出の無駄を省くと明言した。実現可能な歳入歳出改革の工程表をじっくり練り上げる必要があろう。 首脳宣言は、環太平洋連携協定(TPP)をはじめ、野心的な貿易協定の早期締結を目指す方針も明記した。 経済成長の原動力として自由貿易推進を重視したためだが、7月にTPP交渉に初参加する日本には先行交渉国との間にハンディがある。早期にこだわらず、国益を守れるかどうかを判断基準に交渉に臨むべきだ。
2013年06月20日木曜日
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