放送日は毎週月曜日から木曜日の午後8時~8時29分、再放送は翌週午後1時5分~1時34分
2013年2月20日(水曜)再放送2月27日(水曜)
カキコミ!深層リサーチ File9 大学生の発達障害(2)
●出演者
小島慶子さん(タレント・エッセイスト)
高橋知音さん(信州大学教育学部教授)
渡辺 大さん(俳優)
ナレーション:河野多紀さん
大学で学ぶ発達障害のある学生たち
山田:ハートネットTV「カキコミ!リサーチ」です。小島慶子さんとともに生放送でお送りしていきます。テーマは「大学生の発達障害」。2月4日に1回目の放送をしました。今日はその反響をもとに番組を進めてまいります。ゲストをご紹介します。前回に引き続いて、俳優の渡辺 大さんです。そして信州大学教授で発達障害のある学生の現状や支援に詳しい高橋知音(たかはしともね)さんです。
山田:前回の放送後たくさんのカキコミが届きました。タイトルだけご覧いただきましょう。
小島:ご自身の経験を書きこんでくださった方が多くて、「ぼくはアスペルガー症候群?」「成績優秀なのにレポートが苦手……」「失敗=傷つくだけ、学べない」「困ってること」などなど。番組をご覧になって「実はわたしも」、あるいは「もしかしてぼくも」というカキコミもたくさんいただきました。
山田:こんな深刻な声もありました。
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音穏(20代)
大学在学中に発達障害の診断がおりました。しかし、大学側からの支援は受けることが出来ませんでした。それどころか担任の教授からは迷惑だからと退学を勧められました。発達障害からうつ病、パニック障害を併発し結果退学しました。
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渡辺:一般的に知られるようになったのは、ごく最近のことであって、理解度も、大学の支援もまだばらつきがあるのは、残念ですね。
山田:まだまだ理解が進んでいない大学がある。高橋さん、現状はどうなっているんでしょうか。
高橋:全国一律のガイドラインというものはないので、どうしても対応にばらつきが出てしまうところがあると思います。ただ去年一つ動きがあり、文部科学省で「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」というのができ、そこで報告書が出され、大学でも担当者を置いて対応するように、情報発信をして配慮するようにと、大学の方に通知されています。
小島:それを受けて、今までまったく関心を持っていなかったり、対応していなかった大学も動き出すってことですか。
高橋:そうですね、そういった動きが出てくると思います。
山田:本当に大きな一歩だったと思います。大学で学ぶ発達障害のある学生たち、どんな問題を抱えているんでしょうか。カキコミからまとめてみました。こちらご覧いただきましょう。
「提出物の締め切りを忘れる」「掲示板での連絡を見落とす」「時間割が組めない」など、自分で決めて動くことがうまく行かない。それから、「講義を聞きながらノートをとることができない」「同時に複数のことをするのが難しい」。そして、研究室など、「コミュニケーションが苦手」でつらい、といった困難があると。
小島:誤解されてしまうということに加えて、それを誰にも相談できないので孤立してしまうと、非常に多くの方が悩んでいました。ひとつご紹介します。アスペルガー症候群の大学生です。
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かなさん 10代
コミュニケーションが上手くいかず、いつも孤独です。レポート等も、いつ、どこにという具体性がないと行動できません。いつも孤独なため、友達に聞くという手段さえとれないでいます。同じ苦しみ同士分かり合える場ができればいいなと思います。
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山田:こうしたカキコミから取材を進めたところ、学生たちの孤立感を和らげるための場をつくっている大学がありました。
発達障害のある学生の“自助会”
(VTR)
京都大学の校舎の一室。毎週水曜日、発達障害のある学生が集まります。学校生活で起きる問題を気軽に話し合う“自助会”の活動。メンバーの学部や学年はさまざまです。
主宰しているのは大学の障害学生支援室です。同じ障害のある学生がどう学んでいるか知りたいという声を受け、2011年に立ち上げました。
村田:学内で孤立してしまう、そういった学生たちの居場所ということで、精神的にも物理的にも居場所になればいいなということでスタートしています。
1年前に「広汎性発達障害」の診断を受けたばかりの男子学生です。この日、先輩と話していたのは、周りの人とうまくコミュニケーションがとれないという悩みでした。
男子学生:面白い人がいると「面白いですね」「楽しいですね」って言っちゃうんですけど、バカにしてると思われるんですよ。
先輩:楽しそうに言わないの?
男子学生:こっちは本当に楽しいと思って、真摯に「それはおもしろい意見だ」と言おうと思っているのに。特に先輩に言うと怒られます、少し年上の人。
先輩:表情から読み取れるメッセージと、口で言っているメッセージがずれてるから、「こいつは嘘をついている」「本心を言っていない」という前提で理解されるから……。
先輩:授業終わった後、みんなで飯食いに行くわけですよ。
男子学生:あれ苦手ですねぇ。
先輩:その時に、僕が食いに行こうとしているやつに声かけて食いに行くやつがおるんです。
男子学生:それあります、よくあります。
男子学生:(ここに)来れば変な話ができる、普段できないような。僕に非があるわけではなかったって言うとあれですけど、こういうかみ合わなさを体験している人が、僕以外にもいるんだと知ると、安心する。
ここでは自分の悩みをそのまま受け止めてもらえます。自己否定に陥りがちな学生が、自分を見つめ直すきっかけになるのではないかと、大学では考えています。
村田:ひとりだけで生きていくと、起こったトラブルや物事自体も自分のせいなんじゃないかというふうに捉えてしまうと思うんですが。そうではなく(障害の)特性ゆえに、他の人との意思の疎通ができなかったり、行動の仕方が変わってしまったり。何か問題が起こっているという見方ができると、次、同じようなトラブルが起こったときに、どういう対処をすればいいのか。あるいは社会に出ていくにあたって自分の苦手なところ、得意なところ何なのかってことを知るきっかけになればと思っています。
“だめだ”ではなく“違い”
渡辺:こういうのがあると、自分の悩みと似た悩みがあったり、客観的に見れる。その悩みにぶつかれるというのは良いですよね。
山田:そうですよね。自助会を主宰する障害学生支援室の村田さんは「高校の休み時間みたいな場を」と話していて、何でも言い合えるような場所を作りたい、と。これは発達障害のある学生にとっては心強い場所なんじゃないでしょうか。
高橋:どうしても大学の中では、自分と同じようなことを考えている人が少ない、少数派という感じになってしまうと思うんですが、この自助会の場では、ある意味、多数派になれるわけですから。そういった中で、自分が同じようにできないことが、これは“だめだ”ってことじゃなくて“違い”なんだという。そういう認識に変わる場になるんじゃないかと思います。
山田:“だめだ”じゃなくて“違い”。これは大きな違いですね。
小島:「他の人ってこう思っているんじゃない?」「自分にもこんな経験があるんだ」という具体的な体験を通して話しあえる場を大学が作ってくれると、「自分だけじゃないや」と思えますよね。
山田:悩んだときに、「ちょっとあそこ行ってみよう」という場所が、あるのとないのとでは、大きな違いだと思うんですね。ちなみに支援室の村田さんも自助会には必ず参加していて、学生から「障害のない人はこんなときどう思っているのか」と聞かれて説明することがあるそうです。
高橋:村田さんの存在も大きいと思うんです。と言うのも、「違うよね」ということを共有するだけで安心はできるんですが、じゃあ自分たちと違う多数派の人たちはどうなのかってことが、やっぱりわからないところがある。村田さんを通して、どういうことなのか知ることで、具体的にどうしていったら良いのかということのヒントにもなるんだと思います。
山田:自己理解につながると。
高橋:そうですね。多数派の状況と自分の状況の違いを知ることで、自己理解も深まっていくと思います。
山田:そうした学生の自己理解をサポートし、問題に向きあっていく力を大学の入学前から身につけてもらおうと、障害のある子どもたちの大学進学を支援するプロジェクトが始まっているんです。自分ができることを、自分自身で気づいてもらおうという取り組みです。
養うのは“自己理解”と“自分で説明できること”
(VTR)
東京大学の先端科学技術研究センター。障害のある子どもの就学支援プロジェクトを主宰する、中邑賢龍(なかむらけんりゅう)教授です。 プロジェクトでは、毎年夏、進学を希望する子どもたちを集め、大学生活などを体験させています。そこで子どもたちが学ぶのは、障害により生じる問題を最新のテクノロジーで解消できるということ。さらにそれを自分で周りに説明できなければならないと、中邑さんは教えています。
中邑:「テクノロジーをここまで僕は使う。ここからは自分で頑張る。その理由は、自分はこういう障害があるからだ」と。やはり、きちんと本人が自分の状況を、勉学あるいは生活も含めて、説明しながら折り合いをつけていく力が必要だと思うんですよね。
中邑さんたちのプロジェクトに参加し、去年大学に入学した齊藤真拓(さいとうまひろ)さん(21)です。子どもの頃、アスペルガー症候群の診断を受けました。つけているのは、雑音を取り除くヘッドホン。障害による聴覚過敏で必要な声を聞き分けられないため、着用を認めてもらっています。さらに、ノートや答案用紙の書き方も他の学生とは違います。文章を手で書くということだけが極端に苦手なため、パソコンを使うことを許可してもらっているのです。
齊藤:書字困難というかたちになるんですけども、手書きで書くと内容の方にも支障が出てしまって、内容の方が重要であるという大学側との協議によってそういうふうに。
ーー勉強もスムーズにいきますか?
齊藤:スムーズというよりは、まずこれが最低限。これでやっとみんなと並べるかなという気がします。
プロジェクトで学んだ“支援を勝ち取る力”
齊藤さんは、中学のころから大学へ進学したいという希望を持っていました。しかし文字を書くことだけが難しかったため、入学試験をどう受けるかが大きな問題でした。その解決を助けたのが、中邑さんたちの就学支援プロジェクト。齊藤さんは、パソコンを使って受験させてほしいと、自ら大学に配慮を求めることにしたのです。
齊藤:自分はこういうことが困難で、それは障害によるものだ。その点についてはどうしようもないのだが、こちらには学ぶ力があるし、用意がある。こういった支援をいただければ、私は正常に学びを受けることができるしその権利がある、と。やはりそれを勝ち取っていくための力というのは、だいぶ必要です。
パソコンでの受験が認められ、小論文の試験に見事合格。大学で学ぶという希望を叶えました。
齊藤さんは入学後も、自分の障害のことを大学へ積極的に伝えてきました。
所属する学科の藤田安一(ふじたやすかず)教授です。藤田さんは、齊藤さんを受け入れる準備を中心になって行ってきました。
藤田:僕としては初めてのケースだったものだから最初は心配をしました。齊藤くんが大学に入ってきて、教育を受ける環境がしっかり準備できるかなと。
齊藤さんは、ヘッドホンやパソコンを使って学びたいという要望を、藤田さんだけでなく授業を担当する先生ひとりひとりに自ら伝えていました。
藤田:彼自らが先生に前もって話もしているんですよね、私たちがその先生に話をする前に。最初からお膳立てをするということではなくて、齊藤くんと話し合いをしながら私たちにできることは何ですか、齊藤くんは齊藤くんでできることは何ですか、そのすり合わせでやっていったらいいと今は考えています。
大学で学び始めて1 年。齊藤さんは将来、福祉と経済効果の関係について研究したいと考えています。
齊藤:高校までの勉強と違って、本質的なところに入るのでおもしろいです。大学院に行って、修士と博士の資格をいただいて、研究者の一員になれたらいいなと思っています。
学生の発達障害 支援求める力
渡辺:ちゃんと自分の得手不得手をわかっていて、パソコンを使って補えさえすれば、彼の特性をすごく強めていくことが可能になるんですね。
高橋:障害があると言うとできない部分を見がちなんですが、できない部分は本当に限られていて、それ以外のできることはたくさんある。だから、できない低い部分を少し補うことができれば、高い能力の部分も発揮できるということなんですね。
小島:斎藤さんのように具体的に話してくださる方がいると、発達障害は人それぞれで、機能的に難しい部分さえクリアできれば、できることがたくさんあるという、発達障害そのものに対する一般的な理解も深まっていくと思うんですよね。大学側にも具体的な例がたくさん集まるといいんじゃないかなと思います。
山田:社会に出るにあたって大学でどんな力をつけるのか、というのが大事になってくるんですね。
高橋:斎藤さんのように、自分に必要なことをきちんと伝えられる、ということが、卒業後にも重要だろうなと思います。
小島:教授がおっしゃっていた「最初は何をしたら良いかわからなかった、不安があった」、あれは大学側にとっては率直な感想なのかもしれませんね。
高橋:躊躇される先生方もいるんですけれど、具体的にこの部分だけお願いします、と言えば「それなら良いよ」と言いやすいかなと思います。
渡辺:彼の場合はプログラムに参加して、自分の得手不得手がわかるけれども、自己理解というか、自分で判断するのは、なかなか難しいことですよね。
高橋:自分ひとりでそこをやっていくのは難しいですよね。
山田:そうすると、例えばVTRにあったようにテクノロジーを使って、支援する人も一緒に、伴走してもらいながら、というところが大事になってくるんでしょうか。
高橋:そうですね、専門知識を持っている人と一緒に考えていくことが重要だと思います。
小島:いろんなカキコミをいただいているんですが、中には「自分は助けが欲しいけれど、それをどうやって人に伝えたら良いのかわからない。」という方がいらして。とても歯がゆいと思うんですよね。
高橋:相談すれば良いってわかっていても、「どう相談するの?」となる。ですから支援者は相談の仕方も支援する、と。そういうことが必要なのかな、と思いますね。例えば、先生にお願いに行くにしても、最初は支援者が先生にお願いをするってことで良いと思うんですが、そこに学生さんも一緒に来て、お願いの仕方を見てもらう。次はそのお願いの仕方を、台本に書いて支援者と一緒に練習してみる。今度は台本なしで練習してみて、次は本当に先生に直接言ってみる。段階を追っていくことが重要だと思います。
山田:しかも、急がない、というのが大事になってくるんじゃないですか。
高橋:時間かかりますよね。だからやっぱり、すぐにできるというものでもないと思います。
社会へ出る不安
山田:発達障害のある学生からですね、社会に出て行くことでこんな不安の声がありました。
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bluedaisukiさん 20代
件名:卒業後は不安
広汎性発達障害と診断され、今年、手帳を取得した聴覚過敏が特にひどい大学4年生です。これを書いている日、ついに卒業論文の提出も出来ました。理解のある職員に出会え、この人たちに支えられて4年間なんとかやってこれました。卒業を迎え、あらかじめ情報の少ない社会という名の環境に出ることは、怖いものに向かって背中を無理やり押されるようなものです。
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渡辺:社会に出たらより一層、自立を求められることが多いじゃないですか。守ってくれるものがなくなって、ハードルも上がっていくというのは、確かにつらいものがありますね。
小島:カキコミでいくつかあったのが、大学ではなんとかやっていけている、でもこの先、社会に出ることを考えると怖い、という。
山田:その大学での支援を、途切れさせないための取り組みを始めている大学があります。
(VTR)
富山市内のハローワークを訪ねてきたのは、富山大学で学生の支援を行っている、学生支援センターの桶谷文哲(ふみのり)さんです。就職が決まっていない学生について、卒業後の支援を頼みに来ています。
ハローワーク職員:本人さんは具体的にどんな仕事・職種と言ってらっしゃいますかね。
桶谷:今は事務に気持ちを向けていると聞いています。障害者雇用も、ようやく考え始めたところで、実際にハローワークで具体的な話をしていきながら、進めていければなと思っています。
富山大学では、卒業後1年を目安に、ハローワークなどと連携しながら就労支援をしています。大学の支援がなくなっても孤立しないように、地域の支援機関に移行する準備をしているのです。
桶谷:自分のことをわかってもらえて、しっかりとつながっているという感覚を在学中に持てることで、(卒業後の)就職活動にも少し安心してつながっていける。その中で社会的リソースにつながる道筋を本人さんと一緒に探していくことになります。
進路選択の支援
高橋:今、社会の中では発達障害のある方に対するいろんな支援の機関とか、制度も整ってきているんですが。ただ、そういったものは自分から求めていかないと、なかなか利用できない。小中高であれば、先生が声をかけてくれることがあるんですけれど、社会にいるとなかなかそこがない。そこを地域で専門機関がどう支えていくかが重要ですよね。障害者就業・生活支援センター、障害者職業センター、そういった機関も発達障害の方への支援も行っています。
山田:そうした中で、大学を出た後の進路についての不安も届いています。大学院修士2年の方です。
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アスピアさん 20代
件名:発達障害者の障害者枠での就職
アスペルガー当事者です。現在就職に向けて活動しています。しかし、障害者枠での仕事は単純作業が多く、この方向で自分はいいのかと思います。障害枠でなく、一般的な就職になると、まず採用まで行かない方が多く、採用されても、障害に対する理解やフォローは得にくいため、不適応を起こし、結果続かない、というのも聞きます。
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山田:ディレクターがアスピアさんに話を聞いたところ、「大学院まで行って学んだことを無駄にしたくない。自分のレベルに合う仕事がわからず進むべき道が定まらない」と。
渡辺:せっかく大学院まで出て、自分の特性がわかって、これからってときに、障害者って枠でくくって、単純作業ってわけられちゃうと、またそれも違うし。一般に合わせるのも難しいと思うし。本当に、葛藤があるなぁ、というのは見て取れますね。
小島:自立していくために職を得ることも大事だし、自分がやりがいを感じたり、得意分野を生かしたりということも、もちろんみんな望むことですよね。この時期の若者特有の悩みでもあり、加えて発達障害ならではの間口の狭さっていうところもあるのかなと思います。
高橋:自分に合った仕事、自分の得意を生かせる仕事に就けるか就けないかというのは、障害があってもなくても、関わりなく難しい課題だとは思うんですが。障害があると余計それが難しくなる。そうした中でも、自分の強みをどう生かしていくのかというあたりは、専門的な検査も使いながら、自分の特性をより良く理解するということが、自分に合った職業を見つける上でも役に立つと思います。
山田:「カキコミ!深層リサーチ」では、大学生の発達障害ということで、2回にわたってお伝えしてきました。高橋さん、最後に一言、発達障害のある学生に向けてメッセージをお願いできますか。
高橋:とにかく、「つながってください」ということが大事かなと思います。そこだけは頑張って、つながれば、さらにそれが広がっていく可能性もあると思います。
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