韓国ソウル(Seoul)の地下鉄駅に掲示された顎矯正手術の広告(2013年5月22日撮影)。(c)AFP/JUNG YEON-JE
【5月28日 AFP】韓国の美容整形への執着は、一般的な目と鼻の美容整形を超えて、数か月間の苦痛を伴う回復を要する過激な外科手術の導入にまで進んでいる。
テレビ番組で大勢の著名人が美容整形に「新たな人生」を与えられたと自慢げに語り、路上から地下鉄駅、雑誌や人気サイトなどで広告が美容効果を絶賛している。
■医療目的の手術を美容のために
だが、顎矯正手術は、本来「美容」用途ではない。
先天性の顔面変形や、顎の反対咬合や過蓋咬合が強すぎるために正常に物をかむことが出来ない人びとのための全身麻酔を用いる外科手術で、回復には数か月の期間がかかり、永続的な顔のしびれや顔面麻痺など、さまざまな合併症を引き起こす危険性がある。
この手術は、骨を削るため、結果として顎のラインをスリムにする──そしてこのことが韓国の成長する美容産業の目にとまった。
国際美容外科学会(International Society of Aesthetic Plastic Surgeons)の資料によると、韓国は、国民1人あたりの美容外科手術件数が世界で最も多い国の1つ。
大勢の著名人たちが顎矯正手術を行い、テレビのトーク番組に出演して仕事とプライベートの「転機」になったと語った。中には、医師から報酬を受け取って手術を受けた人もいるという。
顎矯正手術の件数をまとめた公式な統計はないものの、最近のある研究では、医療目的と美容目的を合わせ、韓国で年間5000件の手術が行われていると推計されている。同研究によると、手術を受けた患者の52%が、顔のしびれなどの感覚障害になったという。
■手術後の後遺症も
韓国、ソウル(Seoul)の消費者保護当局によると、顎矯正手術に関連した苦情の件数は、2010年の29件から12年には89件に急増した。だが、術後の問題については、実際にはそのほとんどが届け出されていないとみられている。
ある医療消費者サイトのユーザーは「口が左方向に動き続け、顎のあたりがしびれる」と述べ、変形した口の写真を掲載した。「唾液が口から垂れていても、感じることができない」
昨年8月、23歳の大学生が顎矯正手術後に自殺した。遺書には、手術後に食べ物をかめなくなったこと、涙腺が損傷して涙が流れなくなったことなどに絶望したと書かれていた。
ソウルの医療ミス専門の弁護士、Shin Hyon-Ho氏は、顎矯正手術により、慢性的な顎の痛み、口の変形、歯並びのズレ、物をかめなくなったり、笑顔をつくれなくなるなどの症状が出ていると語る。
■韓国の美容整形人気、その理由
大韓整形外科学会(Korean Society of Plastic and Reconstructive Surgeons)の医師によると、顎矯正手術の美容目的での流行はおよそ4年前、ソウルの歯科が美容効果の大がかりな宣伝を行ったことがきっかけだったという。
人気が高まるにつれ、美容外科医も顎矯正手術を始め、手術費用は下落。ますます多くの人が支払える金額になった。
「この手術はもともとは歯科的な変形を矯正するために開発された。だが、見た目を良くするためにこの手術をする人を責めることはできない。特に韓国のように、女性にとっては美しさが全てに勝る所ではね」と、匿名を条件に取材に応じたある医師は語った。
この手術の広告はどこにでもあり、そしてあからさまだ。
「最もえり好みする女性たちに選ばれた顎矯正手術クリニック」と、ソウルの地下鉄駅の壁に張られた典型的な広告には書かれている。「あなた以外のみんなが、もう手術しましたよ」と、バス停留所の広告は警告する。
ソウルのある議員が1月、美容外科手術を受けることのできる最低年齢を法律で定めるよう提案した。だが、法では問題の根本を解決することが出来ない、と高麗大学校(Korea University)のLim In-Sook教授(社会学)は指摘する。
「韓国は男性支配の強い国で、女性は就職や結婚、人生のさまざまな局面を乗り切るために、頭脳と美の両方を、あるいはしばしば頭脳よりも美しさを求められる」と、同教授は語る。
同教授によれば、美容整形は、超競争社会の韓国において、優位性を獲得する手段の一つとして認められている。「だからわれわれの体の全ての部位が、美容整形の対象となる。現在は顎だが、明日には何が矯正の対象となっているだろうか」(c)AFP/Jung Ha-Won