過熱する「憎悪」:ベビーカー押してヘイトスピーチ ネットの「まつり」路上へ−−ジャーナリスト・安田浩一さん
毎日新聞 2013年06月18日 東京朝刊
在特会を長く取材してきたが、最近の運動は「娯楽」の要素を強めている。16日のデモでは「朝鮮征伐大行進」や、デモの主催者の名を冠した「桜田祭り」という言葉があり、不快感を覚えた。以前は、内容には共感できなくとも「奪われた権利を取り戻す」という彼らなりの「危機感」があった。
参加者は、必ずしも「貧しく仕事がない若者」ばかりではない。サラリーマンや主婦、公務員など多様だ。ただし「自分たちは被害者」という意識は共通する。社会の主流から排除され、言論は既存メディアに奪われ、社会福祉は外国人がただ乗り−−という思い込みや憎悪でつながる。
彼らをつなげているのがインターネットだ。ネット上で個人を攻撃する「まつり」を、そのまま路上へ持ち出している。攻撃の対象は「在日」でなくとも、「マスゴミ」「生保(ナマポ)」(生活保護受給者)でもいい。
彼らは「愛国者」を自称しているが、本当は「国から愛されたいと渇望する者たち」ではないか。経済成長が望めず、社会が不安定化する中で、自分たちが守られているという実感を求めている。だがそこには、自らが傷つけている他者の痛みへの想像力と、差別者だという自覚が決定的に欠けている。(談)
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■人物略歴
◇安田浩一(やすだ・こういち)
ジャーナリスト。1964年静岡県生まれ。週刊誌、月刊誌記者を経てフリーに。在特会を追いかけたルポ「ネットと愛国」(講談社)で講談社ノンフィクション賞を受賞している。