| 発明の名称 |
海底泥土層の改良方法 |
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| 発行国 |
日本国特許庁(JP) |
| 公報種別 |
公開特許公報(A) |
| 公開番号 |
特開平8−209669 |
| 公開日 |
平成8年(1996)8月13日 |
| 出願番号 |
特願平7−14066 |
| 出願日 |
平成7年(1995)1月31日 |
| 代理人 |
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| 発明者 |
杭岡 潔 |
| 要約 |
目的 ヘドロなどの軟泥層で被覆され漁場の老朽化や富栄養化が進展した海底泥土層を健全な土壌に改良し、復活させることを目的とする。
構成 対象の海底泥土層を海底方向(上下方向)に複数区分し、最上層の第1層から順次揚泥装置200により、掘削揚泥した後再び海底へ揚泥した泥土を落下堆積させることによって、当初の配列と全く逆転配列した泥土層を形成する。 |
特許請求の範囲
【請求項1】 砂層や軟泥層で形成された海底の泥土層であって、かつ、表層にヘドロなどの汚泥層が堆積された海底泥土層の改良方法であって、該海底泥土層を海底方向に複数段に区分し、該区分された複数段の区分泥土層のうち最上段第1層の海底泥土層を、竪型スクリュコンベヤと該竪型スクリュコンベヤの下部外周に同軸状に旋回自在に配設され該竪型スクリュコンベヤの泥土取込口前方の泥土を掘削し攪拌流動化する旋削装置とからなる揚泥装置により攪拌流動化して揚泥した後、該竪型スクリュコンベヤ上端部の排泥口より排出落下させて該第1層の海底泥土層の混合均質化を行った後、該揚泥装置の下端部を第2層の海底泥土層に沈降せしめて前記第1層と同様に該第2層の海底泥土層を揚泥、排出落下ならびに均質化を実施して該第2層を前記第1層の上に堆積させることによって該第1層と該第2層とを逆転反転させ、第3層以降の海底泥土層についても順次同様な手順で揚泥、排出落下ならびに均質化を繰り返して前記区分された複数段の海底泥土層の上下間配列順序を完全に逆転させる海底泥土層の改良方法。 【請求項2】 揚泥される泥土に固化剤を混入して混練・固化処理を行う請求項1記載の海底泥土層の改良方法。 【請求項3】 揚泥される泥土にバクテリアや活性菌などのEM菌を混入して土壌の改良を行う請求項1記載の海底泥土層の改良方法。
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発明の詳細な説明
【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ヘドロなどの汚泥層が被覆された海底泥土層の改良方法に係り、ヘドロ浚渫作業を行うことなく海底泥土層を改良する方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】日本の沿岸に接する港湾は、工業を始めとする産業立地の有利性に基づいて大工場に隣接し、河川を通じて流れ込む様々な汚染や汚濁物質に加えて、養殖漁業が盛んな静穏域においては、魚介類の養殖などによる餌料残渣や排渫物の有機物質の堆積がさらに加わり、海底表層の悪化を招いている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】このような沿岸海域では、有機底泥や、いわゆる、ヘドロなどの汚泥層が健全な砂層または軟泥層の表面を被覆し、水質の汚濁、無酸素水塊の発生、富栄養化などが起り、水産業、とりわけ、養殖業にとって生産性の阻害や病害の発生など好ましくない現象が生じ、環境の観点からは、海岸線や海底の汚泥化、悪臭の発生、透明度の低下などの由々しき問題を発生させている。このような自然の浄化力を超えた負荷による弊害を除去するため、様々な対策がとられているが、どれも決定的な手段となっていない。その中で比較的良い効果をもたらすと考えられる浚渫による表面汚濁層の採取除去は、高コストであるうえ浚渫された汚濁物質の埋立地の確保難や浚渫による海洋拡散による二次的弊害、除去後の浚渫泥の処理問題が厄介であり、必ずしも決定的な解決策とはなっていない。 【0004】 【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するために、本発明においては、砂層や軟泥層で形成された海底の泥土層であって、かつ、表層にヘドロなどの汚泥層が堆積された海底泥土層の改良方法であって、該海底泥土層を海底方向に複数段に区分し、該区分された複数段の区分泥土層のうち最上段第1層の海底泥土層を、竪型スクリュコンベヤと該竪型スクリュコンベヤの下部外周に同軸状に旋回自在に配設され該竪型スクリュコンベヤの泥土取込口前方の泥土を掘削し攪拌流動化する旋削装置とからなる揚泥装置により攪拌流動化して揚泥した後、該竪型スクリュコンベヤ上端部の排泥口より排出落下させて該第1層の海底泥土層の混合均質化を行った後、該揚泥装置の下端部を第2層の海底泥土層に沈降せしめて前記第1層と同様に該第2層の海底泥土層を揚泥、排出落下ならびに均質化を実施して該第2層を前記第1層の上に堆積させることによって該第1層と該第2層とを逆転反転させ、第3層以降の海底泥土層についても順次同様な手順で揚泥、排出落下ならびに均質化を繰り返して前記区分された複数段の海底泥土層の上下間配列順序を完全に逆転させることとした。また、第2の発明では、さらに揚泥される泥土に固化剤を混入して混練・固化処理を行うようにした。さらに、第3の発明では、揚泥される泥土にバクテリアや活性菌などのEM菌を混入して土壌の改良を行うこととした。 【0005】 【作用】本発明においては、海底の泥土層を高さ方向に複数段に区分し、最上段の第1層から最下段層に向けて順次以下の操作を行う。すなわち、まず、第1層中へ揚泥装置の下端部を埋没させて稼動し第1層の泥土を旋削装置で攪拌流動化した後竪型スクリュコンベヤで吸入した後揚泥し、上端部の排泥口より排出落下させることによって第1層にある泥土を混合均質化する。次に、揚泥装置を第2層まで埋没させ、同様に攪拌流動化、揚泥、排出落下させることにより、第2層の泥土は第1層の泥土の上に堆積し、第1層と第2層は逆転される。以下第3層、第4層と順次同様な操作を繰返すことにより、当初上から順に第1層、第2層、…、第n層に形成されていた海底泥土層は全作業終了後は上から順次第n層、第(n−1)層、…、第2層、第1層のように配列が完全に逆転され、汚染されていない健全な最下段の第n層が表層になり、海底泥土層の改良が実施される。第2の発明では、各層の流動性を考慮して揚泥の際に固化剤を混入して竪型スクリュコンベヤによる揚泥中に混練を行って揚泥した泥土に対する固化処理を行ってから再び海底へ戻すことにより、排出落下の際の泥土の拡散を防止各段の泥土層の置換を円滑に行う。さらに、ヘドロなどの軟泥など汚濁物質で汚染された泥土の健全化を図るためEM菌(有用微生物:Effective Micro-organisms )を、特に表層を主体に汚染度の進んでいると思われる泥土層へ混入して海底へ戻すことにより、その後の微生物の活動により汚染泥土の健全化が達成される。 【0006】 【実施例】以下図面に基づいて本発明の実施例の詳細について説明する。図1〜図10は本発明の実施例に係り、図1は泥土改良船の全体側面図、図2は操業中の泥土改良船の全体側面図、図3は揚泥装置の全体側面図、図4は揚泥装置の部分断面側面図、図5は旋削装置の側面図、図6は図5のA−A視の平面図、図7は図5のB−B視の平面図、図8は海底泥土層の改良方法の作業手順を示す説明図、図9は泥土改良船の作業を示す平面説明図、図10は竪型スクリュコンベヤの要部縦断面図である。本発明に使用する揚泥装置200は、図1〜図2に示すように、泥土改良船1に搭載され主として竪型スクリュコンベヤ210と竪型スクリュコンベヤ210の下部外周に旋回自在に配設された旋削装置216とから形成され、泥土改良船1の船尾または船首に立設された柱脚2の頂上の滑車3を経由して巻上装置4によって昇降されるワイヤロープ4aを介して懸垂される吊り下げロッド10の下端に締結され、吊り下げロッド10から張設された昇降台車12の車輪12aが柱脚2に沿設されたガイドレールを転動することにより昇降自在に懸架される。 【0007】揚泥装置200を構成する竪型スクリュコンベヤ210と旋削装置216の詳細は、図5〜図7に示され、揚泥装置200は海底泥土層やその上に堆積する表層のヘドロなどの軟泥層からなる泥土を旋削装置216で掘削して細分化し、さらに攪拌流動化して竪型スクリュコンベヤ210で揚泥し、上部の排泥口より排出し、排泥管215aやこれに接続され伸縮自在なテレスコ管215bを経由して再び海底へ落下排出させるようにしたものである。本発明の実施例における竪型スクリュコンベヤ210は、図3〜図4に示すように、垂直な円筒状のケーシング211内にケーシング211と同芯状に周囲に螺旋状のスクリュ羽根213を取り付けた回転軸212を上下端の軸受を介して回転自在に軸承し、頂上の油圧モータ212aで可変速に回転駆動され、下部側面に設けた開口である泥土取込口(吸込口)214より取り込んだ泥土を排泥口(排出口)215より吐出し、前述したように排泥管215a、テレスコ管215bで落下排出させる。スクリュの回転数は400〜1200rpmで可変とする。竪型スクリュコンベヤ210の上部にある排泥口215には排泥管215aと伸縮自在なテレスコ管(テレスコピック管)215bが接続され、揚泥した泥土を排出する。 【0008】一方、旋削装置216は竪型スクリュコンベヤ210と同軸状に回転自在に配設され、油圧モータ216aおよび減速機216bを介して回転駆動される。すなわち、減速機216bの出力軸216cとフランジ同志の接合により連結された回転筒216dの下端に上部回転板216eが接合される。旋削装置216の本体は、図4および図5〜図7に詳細に示されるように、上部回転板216eと図6に示す3枚の下部張出板216fとを3本の支柱216gで接合し、上部回転板216e〜下部張出板216f間に3次元的にスパイラル状に湾曲したスパイラルアーム216hを受け渡して形成し、スパイラルアーム216hの側面に略等間隔に外側を向いた5つのアームビット217cを取り付けたものである。掘削ビット217は、上記のアームビット217cのほか、下部張出板216fの下面に2個〜3個取り付けられた下部ビット217aと支柱216gの下部に外側向けに取り付けた支柱ビット217bがある。支柱の断面は、図6に示すように、旋削装置216の回転方向(反時計方向)に対して、前方が細く後方が太いくさび形形状とし、支柱ビット217bやアームビット217cで削り取られた泥土が内側の竪型スクリュコンベヤ210の泥土取込口(吸込口)214へ導かれるよう配慮する。また、下部張出板216fが上部回転板216eと同様に円板とせず、3本の張出板とした理由も、上と同様に、下部ビット217aで削り取った底面部の泥土層をすくい上げて泥土取込口(吸込口)214へ導くための通路の確保のためである。 【0009】このように、旋削装置216は、本体の回転に伴って、硬い泥土層に対して、側面にはアームビット217cや支柱ビット217bで、側面には下部ビット217aで泥土層を少しずつ削り取り作業を継続していくので、能率よく、かつ、円滑に掘削作業が進行する。また、スパイラルアーム216hに取り付けたアームビット217cは各々高さと平面的取付角度が少しずつ異なっており、5つのアームビット217cは一度に泥土層に当接することなく、時間的に少しずつずれていくので、従来の浚渫装置のインレット装置に比べて回転トルクが当接ビットに集中することができ、強力な掘削が可能となる。 【0010】このような揚泥装置200を搭載した泥土改良船1による、本発明の海底泥土層の改良方法の作業の詳細について説明する。図8は本発明の海底泥土層の改良方法の作業手順を示したもので、海底泥土層を海底方向(上下方向)に複数段に、たとえば5段に区分し、図8に示すように第1層A、第2層B、第3層C、第4層D、第5層Eとする。各段の1層の高さは、竪型スクリュコンベヤの泥土取込口(吸込口)214の高さが通常400〜500mm程度であることを考慮し、約1000mm程度とする。したがって、海底泥土層が5mを越え、例えば10m程度あったとしても区分数は5段に止めることとし通常は3〜5段程度にする。このようにして区分段数を決定した後、まず最初に旋削装置216が第1層A内で作業できる高さに揚泥装置200を巻上装置4でワイヤロープ4aを下降させ第1層Aの上部から下部へ沈下させながら旋削装置216ならびに竪型スクリュコンベヤ210を稼動する。旋削装置216および竪型スクリュコンベヤ210の操業により、第1層Aの泥土は旋削装置216のアームビット217cや下部ビット217aで掘削されて細分化され攪拌流動化しながら竪型スクリュコンベヤ210の泥土取込口214から竪型スクリュコンベヤ210内へ吸引されスクリュ羽根213によって揚泥され、排泥口215より排出され、排泥管215aやテレスコ管215bを経由して第1層Aの上に順次落下堆積される。以上のようにして、第1層Aの泥土をほぼ排泥しつくした段階で、次に旋削装置216を第2層Bの中へ上部から下部へ次第に沈下させながら同様な作業を行う。第2層の排泥作業が終了した段階では、図8(b)の第2工程に示すように、当初上からA、B、C、D、Eの順に配列されていた泥土は、第1層Aと第2層Bとが入れ替り、B、A、C、D、Eの順に配列される。 【0011】以下同様にして、第3層Cに旋削装置216を沈下して作業する第3工程、および第4工程、第5工程の作業を順次行うことによって、複数段に区分された各層の配列順序が逐次入れ替り、第5工程の全作業が終了した段階では、当初A、B、C、D、Eに配列されていた泥土層は完全に上下が逆転し、上から順にE、D、C、B、Aの順序に反転され、比較的汚染の大きい表層の第1層Aが最下層に、最も汚染度の少ない健全なE層が表層に転換される。 【0012】複数段に区分する各層の水平方向の広さは旋削装置216の掘削能力によって決定されるが、通常の場合、例えば1.5〜2m四方を目安とし、図9に示すように、土壌改良を必要とする海域を1.5〜2m四方の格子状に平面分割して、泥土改良船1に複数の揚泥装置200(図9の場合は4基並列)を設置して作業区分の終了とともに1区分だけ泥土改良船1を前進または後退するようにして作業を続けると効率的である。 【0013】上述の作業工程は第1層から第5層まで順次段階的に旋削装置216、すなわち揚泥装置200全体を沈下させて作業するようにしたが、第1層から第5層まで同一の沈下速度で旋削装置216を沈下させつつ作業を続行しても、結果的には上述したように全作業が完了したときには各段層は完全に逆転するので、このような作業方法でも差しつかえない。 【0014】一方、第2の発明では、竪型スクリュコンベヤ210のケーシング211の外周に注入管300を沿設して下端部をケーシング211内に貫通して設け、揚泥した泥土に固化剤を泥土量に応じて適当量混入して、海底へ再投棄する汚染泥土を固化し、無公害化するようにした。また、この注入管300に、固化剤の代りに汚染した土壌を改良して健全な泥土に変換させるバクテリアや活性菌などのEM菌(有用微生物群)を混入混練して土壌の改良をより効果的に行うこともできる。EM菌は有用微生物とも呼ばれ、腐敗した土壌に蘇生の方向性を持つ微生物を混入して、増殖させ抗酸化物質のレベルを高めて土中の空気や水を浄化させる働きがあり、具体的には、例えば光合成細菌、酵母菌、乳酸菌、麹菌などである。 【0015】以上説明したように、本発明の海底泥土層の改良方法によれば、従来の浚渫作業のように多大な採取汚泥の廃棄処理や埋立地確保など費用のコスト増を招くことなく、汚染した沿岸海域を覆う表層汚泥を海底に埋没させ、代りに健全な土壌を表層に反転させることが簡便容易に、かつ、自動的にできるので、沿岸海域の健全化を達成し、漁業資源の海の砂漠化を防止し、水質の改善と養殖場の再活性化を促進することができる。 【0016】 【発明の効果】本発明によれば、汚染された海底泥土層の蘇生化を促進し、養殖漁場の再活性化を図るとともに、地球環境を良好に保全し、生物生産を増大させることができる。
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