(1)私が「在特会」(在日特権を許さない市民の会)など差別主義者、排外主義者たちをとくに意識したのは北朝鮮による拉致問題の「現場」であった。「家族会」などのデモに参加した彼らは異常なシュプレヒコールを叫んでいた。「国民集会」などでいつも感じる強い違和感にも共通する。「これでは国民運動にならないどころか、特定の政治イデオロギーが排外主義に結びつきかねない」ー私はそう思っていた。横田滋さん、早紀江さんも当時から憂えていた問題である。
「滋 去年の6月だったか、東京でのデモ行進で、私たちの知らない団体が参加していて、『在日朝鮮人は東京湾に放り込め!』なんて怒鳴っていてテレビのニュースでも映されたのです。拉致と直接関係ない在日の人にまでそんな言い方をするのはよくない。節度が必要です。
早紀江 デモはもちろん自由参加ですが、シュプレヒコールの文句は、これとこれって最初から幾つかのパターンが決められていてそれを言います。あんな言葉が出ると、家族会はそこまで言うのかと誤解されるからまずいと思う」(『めぐみへの遺言』、幻冬舎、2012年)。
(2)事態はさらに深刻な様相を呈してきた。2月に東京・新大久保、大阪・鶴橋で行われたデモでは、聞くに耐えないシュプレヒコール(「殺せ、殺せ、朝鮮人」「南京大虐殺ではなく鶴橋大虐殺をやる」)や殺人教唆のプラカード(「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」「朝鮮人首ツレ毒ノメ飛ビ降リロ」「糞食い民族」「ハヤククビツレ チョウセンジン」など)が掲げられた。まさに品性低俗な民族差別の恥ずべき内容である。評論家のなかにはこうした下品な集団は無視すればよいとの意見もあった。私もそう判断していた。しかし彼らの行動は一線を超えた。「表現の自由」はある。しかし夜中にマイクでわめき、おらびあげる自由がないのと同じように、もはや彼らの行動を放置するわけにはいかない。彼らの吐く言葉を直接に聞いた人たちだけではない。伝聞で知った日本人も韓国人も不快感を示している。こうした思いから、まずは国会で集会を開こうと決めた。
(3)3月14日に参議院議員会館で開催した「排外・人種侮蔑デモに抗議する国会集会」には、定員200人のところに250人以上の人たちが集まった。私たち賛同議員11人(集会当日)は政治的な思想や心情はそれぞれ異なる。韓国や北朝鮮との間に深刻な国際問題があるにせよ、「在特会」らの扇情排外主義の言動は放置できないとの一点で一致したのである。韓国国内で行なわれてきた右翼団体の行動を私たちが容認するものでないことは当然の前提である。私が問うているのは、日本人による人種差別、排外主義の恥ずかしさとその政治的役割である。私は集会で「この一回では終らせない」と発言した。そこで「差別的デモ・街宣に抗議する会」からの相談を受け、デモ申請を受付ける東京都公安委員会に署名をもってコースの変更などを申し入れることになった。(3月22日記。適宜、補筆、加筆します)
(1)
総選挙の結果、再び自民党・公明党の政権が復活することになった。民主党の歴史的敗北により、日本は「新復古主義」(戦争経験を根拠とする抑制の意志薄弱な好戦主義=注1)路線が勢いづき、改憲志向が具体的に進められる局面に入った。その一点においても民主党の責任はあまりにも重い。「自公」は「維新」「みんな」を巻き込み、13年参議院選挙で勝利する目的を達成するまでは慎重に、しかしメディアを利用しつつ、改憲要件(憲法96条=注2)の緩和へと進むだろう。
注1〈「彼らの精神は実際の戦場で生死を賭けさせられたつらさを知らないだけに、経験を欠いた戦争意識の塊が全社会に瀰漫することになる。経験を欠いた欲望は無闇に昂進する。戦闘経験を持たない者の戦闘意欲は、実態の過酷さという抑制の根拠を内部に持たないために、徒にひたすら燃え上がるばかりである」。藤田省三『全体主義の時代経験』〉
注2〈第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。〉
(2)
自民党は大敗した09年総選挙に比べても、比例区で219万票減の1662万票、小選挙区で166万票減の2564万票という得票だった。全有権者に占める得票率=絶対得票率は15・9%(09年は18・10%)にすぎない。ところが獲得議席は、比例区57(前回55)、小選挙区237(前回119)と合計で294議席を占めた。小選挙区では43%の得票で79%の議席を獲得したのだ。田中角栄内閣で小選挙区制が導入されようとしたとき「4割の得票で8割の議席」と問題が指摘されたが、その通りの結果となった。一方、政権与党であった民主党は09年に比べて、比例区で2021万票!減の963万票(30議席)、小選挙区で1987万票!減の1359万票(27議席)という結果だった。ちなみに10年参議院選挙の比例区得票1845万票と比べても882万票も少ない。自民党は255万票増えている。単純に計算してもこのままでは来夏の参院選挙でも民主党には厳しい結果が出ることになる。総選挙結果を13年参議院選挙に当てはめれば、民主党は「1人区」で全敗、合計でも17議席と改選数は半減する。「自公」は参議院でも過半数を占めることになる。歴史的にいえば民主党の消長というレベルではなく、憲法改正をはじめとして戦後民主主義の価値が根底から覆る可能性が現実のものとなる条件が生まれる。
(3)
私は選挙期間中、北海道6区(佐々木隆博)、東京11区(太田順子)、神奈川3区(勝又恒一郎)、和歌山2区(坂口親宏)徳島2区(高井美穂)、福岡8区(山本剛正)の各候補を応援した。とくに私が09年総選挙で立候補した東京11区には3回応援に入った。すべての候補者は誰もがどこでも真剣に訴えていた。投票日が近づくにつれ、街頭での反応はどんどんよくなっていた。民主党離れがあるとはいえ、固い支持者が「孤立無援」に見える候補者を身振りで支援してくれたのだろう。私が経験した10年参院選に比べてもチラシを面前で破られたり、捨てゼリフで罵倒されることもなかった。だがそれは底を打った支援者と候補者との関係だったのかもしれない。ある駅頭では朝6時半から8時過ぎまでチラシを配った。政権交代選挙では約2000枚のチラシが有権者に受け取られたが、今回は約400枚と5分の1である。ここに選挙戦の実体が象徴的に表現されていた。高井美穂さんが最終盤の個人演説会で涙を流しながら「悔しい」と訴えていたのは、子育て支援など政権交代の果実が道半ばにして挫折することへの痛恨の思いである。会場の男も女も涙を流していたのは、単なる感傷ではない。すべてが民主党の責任であるとはいえ、多くの候補者や支援者の政権交代への期待が失われたわけではない。
(4)
自民党本部の各階には「参議院任期満了まであと○○○日」という紙が貼られている。7月28日が「その日」である。東京ではその日の前に都議選がある。自民党は改憲勢力を参議院でも3分の2の勢力に増やしたい。しかし安倍自民党にとって参院選は「鬼門」として苦い記憶がある。2007年の選挙では改選64議席が27議席減の37議席と大敗した。衆院選挙はそもそも来夏の参議院選挙と連動していた。日本の「国のかたち」が争われる「最終決戦」が迫っている。「脱皮できない蛇は滅びる」(フリードリッヒ・ニーチェ)。衆議院57議席、参議院88議席の合計145議席の民主党は「解党的出直し」をしなければならない。一部幹部が強がりで語る「純化路線」=排除の論理が強行されるならば、党の存立はさらに危ういものになる。消費増税をふくめ公約にない政策を進めてきたことに対する国民の批判は強い。なぜ選挙で壊滅的敗北を経験したのか。その根源的責任を掘り下げる新執行部でなければ「脱皮」などできない。有識者の意見を聞きつつ、「党再建委員会」を設置して、外部に開かれた選挙総括を各県連レベルから積み上げることだ。同時に都議選、参院選に向けて衆院選挙候補者の再吟味をふくめた公認を急ぎ、地域から地道な活動を進めていくことである。「所謂(いわゆる)時来れりと称するものは、多くは真の時機に遅れたる時なり」(福沢諭吉)。「真の時機」をしっかりと掴まなければならない。私は自分の立ち位置を再確認し、これまでどおり「独航の精神」で志を同じくする仲間とともに行動する。
(1) 統一教会(正式名称は世界基督教統一神霊協会)の文鮮明教祖が9月3日に92歳で亡くなった。私は四半世紀を超えて統一教会と闘ってきた。拉致問題解決に取り組むひとりとして、文鮮明氏が朝鮮戦争の動乱をきっかけに北朝鮮から韓国に移動し、そこで宗教団体を設立、反共産主義の立場から行動しつつ、生地(平安北道定州)に郷愁を覚えていたことに、南北朝鮮に生きる人たちの歴史の重みを感じている。
(2) 1954年に韓国で設立された統一教会は「混淫教」の流れをくみ、当初からスキャンダルにまみれていた。教祖の女性問題などが社会問題となったからである。密入国した信者が日本で布教をはじめ教団が設立されたのは1959年。東京都の認証をえて宗教法人となったのは1964年。そのころから強引な布教とマインドコントロールで社会問題となっていく。朝日新聞が「親泣かせの原理運動」と報じたのは1965年7月7日である。
(3) 60年代は親子問題として、70年代は「全国大学連合原理研究会」(大学原研)の活動を通して早稲田大学、青山学院大学など全国の学園問題として、80年代は悪質な霊感商法として社会問題となり、90年代にはタレントなどの合同結婚式参加をきっかけとして霊感商法、珍味売り、花売りなど「すべて」の行動の問題点が社会に明らかとなっていった。その起動力は文鮮明教祖のカリスマ性にあった。日本の信者に大きな傷跡をつけるきっかけは1975年に文鮮明教祖から発せられた送金命令である。統一教会幹部の証言によると、それからの10年間に毎月20億円、合計2000億円が教祖のもとに届けられた。「先祖の因縁」話などを利用した霊感商法など詐欺的行為による。警視庁の厳正捜査により、いまは公然と行うことはできないが、長年にわたって獲得したノウハウがあり、いつ再開するかは予断を許さない。ちなみに被害相談額は2001年までの25年間に1100億円を超えている。
(4) 日本の政治を歪めたのも統一教会である。冷戦時代に韓国に続き日本でも国際勝共連合が結成(1968年)され、最高時には衆議院、参議院で150人を超える「勝共推進議員」が生まれた。統一教会信者は公設、私設秘書としていまでも永田町に送り込まれている。文鮮明教祖が「竹島」に上陸しただけでなく、天皇陛下役の幹部が文氏に拝跪する儀式があることも幹部によって暴露された。いずれ世界が韓国語で統一されるなど基本的に民族宗教といえる側面がある。北朝鮮の平壌にある普通江ホテルの経営、合弁事業の平和自動車の経営や香港を経由しての送金など、「アジアプロジェクト」と呼ばれていた経済行為には今後も注目する必要がある。
(5) 信者たちはいたって真面目な人たちが多い。矛盾あるこの日本社会にあって精神の拠り所に統一教会を求めたのだろう。だが日本が朝鮮半島を植民地支配したことへの贖罪意識や「万物復帰の教え」などを通じて霊感商法などの反社会的行為にかき立てられてきた。自己破産や自殺者も生んだ矛盾を解決しなければならないとの思いを抱く信者も多い。生まれたときから信者として育てられた二世のなかには矛盾を抱える者もいる。「信教の自由」(憲法20条)の視点からも捉えていかなければならない。
(6) 「教祖は一代かぎり」とはカルト理論の基本である。ポスト文鮮明をめぐっては数年前から親子、兄弟間(3男VS4男、7男)の激しい対立が表面化している。教祖の逝去をきっかけに跡目争いはさらに激化していくだろう。なかでも教団の重要な資金源となってきた日本の教会でも対立はさらに深化していくだろう。カリスマ教祖の逝去というこの機会に純粋な宗教団体として生まれ変わることを心から期待したい。そうではなく霊感商法などを再開し、日本社会にさらなる被害をもたらすなら、統一教会に反対する弁護士、ジャーナリスト、父母などの関係者は宗教法人格の剥奪をめざし行動していくだろう。私も国会議員として引き続き統一教会を監視、批判していく。
参議院本会議で消費増税法案が採決されるなら反対票(青票)を投じることを再び表明する。
第1に理論的問題がある。高齢社会の日本モデルを構築するために税制を改革することは当然の道である。しかしデフレ下に消費税増税を行っても税収は増えない。消費税が5パーセントに上がったときも、内需は落ち込み、法人税や所得税も減少したため、消費増税分が相殺されてしまった。現在のように消費が冷え込む状況が続くなかで増税すれば、さらに経済は停滞するだろう。いま消費増税することは生活=人間破壊の道である。「人間破壊」とは文学的修辞ではない。消費税が3%から5%にあがった97年度には消費税滞納額は前年度より25%、98年度には34%も増加した。職業別の増加率は自営業者が最高で43%である。自営業者の自殺原因でいちばん多いのは「資金繰りに困って」だ。ちなみに自殺者が年間3万人を超えたのは、1998年が最初である。まさに生命を守るためにも消費増税を許してはならない。経済学者のレスター・サローもこう分析している。物価が持続的に下落するデフレ状態の日本で消費税増税が議論されていることは「クレージーだ。消費が減るだけで、不況を永遠に引きずることになる」(朝日新聞、2010年6月25日)。消費増税はたとえば地方税化することをふくめた抜本改革として提起し、国民がイメージできる社会福祉の具体的見取り図をまず明らかにしなければならない。ところが民主、自民、公明の「3党合意」は玉虫色の解釈をそれぞれが行い、問題となった「附則第18条2項」では、文字通り増税分を公共事業に回せることを謳っている。社会福祉を充実させるための消費増税だとスッキリ言い切ることさえできないのだ。「さっさと不況を終わらせろ」というノーベル経済学賞のポール・クルーグマンも、いま増税をやるべきではないと強調している。国際的に経済理論を見渡しても、日本政府のようにデフレ下で増税路線を取るのは少数派であり、異常なのである。
第2に「現場感覚」である。有権者や参議院選挙で私に投票してくれた38万3834人の支持者を裏切ることはできない。衆議院選挙や参議院選挙を闘った板橋区(東京11区)を歩き、商店街で話を聞けば「上げなければ仕方ないね」の声もまれに聞こえるが、それは「財政が大変だから」という諦めのため息なのだ。しかしこのような現実主義的意見は少数で、反対意見が圧倒的だ。渋谷や板橋でミニ集会を開いたときには、消費増税に賛成する意見は1人だけだった。札幌、福岡、大阪などで聞く意見も同様だ。日々の暮らしのなかからの切実な思いを政治に反映するのが国会議員の役割である。原理的にいえば政党とは国民の利益を実現するために行動する組織だ。党のために党があるのではない。私の理解と有権者(支持者)の意志が一致した以上はためらうことなく反対を表明する。そうしなければ有権者への裏切りである。執行部は「一般の法案とは違う」から賛成せよと言う。しかし「この国のかたち」にかかわる法案だからこそ、賛成するわけにはいかない。私には一つの原則がある。党の方針が現実と齟齬(そご)をきたしていると判断したときにどうするか。生活の香り漂う現実を選択する。なぜなら灰色の理論よりも緑豊かな世界にこそ人間の真実があるからだ。
(2012年8月8日)
6月26日(火)衆議院で消費増税法案が採決される。やがて参議院での審議がはじまり、いずれ採決が行われることになる。ここに私の立場を表明する。消費増税法案に反対する。理由は2つ。第1に理論的問題がある。財政再建を行い、高齢社会の日本モデルを構築するために税制を改革することは当然の道である。しかしデフレ下に消費税増税を行っても税収は増えない。消費税が5パーセントに上がったときも、内需は落ち込み、法人税や所得税も減少したため、消費増税分が相殺されてしまった。現在のように消費が冷え込む状況で増税すれば、さらに経済は停滞するだろう。いま消費増税することは生活=人間破壊の道である。消費増税は地方税化するなど抜本改革として提起し、国民がイメージできる社会福祉の具体的見取り図をまず明らかにしなければならない。第2に「現場感覚」である。有権者を裏切ることはできない。衆議院選挙を闘った板橋区(東京11区)を歩き、商店街で話を聞けば「上げなければ仕方ないね」の声もまれに聞こえるが、それは「財政が大変だから」という諦めのため息なのだ。しかしこのような現実主義的意見は少数で、反対意見が圧倒的だ。渋谷や板橋でミニ集会を開いたときには、消費増税に賛成する意見は1人だけだった。札幌や福岡で聞く意見も同様だ。日々の暮らしのなかからの切実な思いを政治に反映するのが国会議員の役割である。原理的にいえば政党とは国民の利益を実現するために行動する組織だ。党のために党があるのではない。私の理解と有権者(支持者)の意志が一致した以上はためらうことなく反対を表明する。そうしなければ有権者への裏切りである。執行部は「一般の法案とは違う」から賛成せよと言う。しかし「この国のかたち」にかかわる法案だからこそ、賛成するわけにはいかない。私には一つの原則がある。党の方針が現実と齟齬(そご)をきたしていると判断したときにどうするか。生活の香り漂う現実を選択する。なぜなら灰色の理論よりも緑豊かな世界にこそ人間の真実があるからだ。
6月25日(月)今夕、衆議院で代議士会が開かれる。野田首相が「いのちをかける」と進めてきた消費増税法案。前原政調会長が一方的な規約解釈で党内論議を断ち切ったため、多くの議員に深い不信感が残っている。私もまたその一人だ。議論以前のルールに問題があった。採決で反対や棄権を表明する議員は70人にのぼる可能性がある。それを切り崩すため「小沢一郎夫人書簡」が利用されている。その内容の多くがデマであることはツイッターで明らかにしてきた。夫人は数年前から自宅に不在なのに小沢氏の行動を具体的に書けるはずがない。しかも「放射能が怖くて逃げた」というのはまったくのデマゴギーだ。筆跡への疑問もある。鑑定に意味がないのは政界には多くの代筆屋がいるからだ。議員や夫人は多数の支援者に直筆の手紙を出すが、なかなか執筆する時間のゆとりはない。そこで筆跡を似せた代筆屋に依頼する。そんな世界なのだ。オウム逃走犯の手配写真や似顔絵と実物がまったく異なっていたように、ここでも「市民の眼」が大切だ。ご自身の「眼」で判断していただきたい。右が私の入手した夫人の文字で、左があちこちに送付されている「週刊文春」掲載手紙の文字だ。
6月15日(金)オウム特別手配犯・高橋克也容疑者の身柄確保、逮捕について。
(1)地下鉄サリン事件実行犯の送迎役、仮谷清志さん拉致監禁事件の運転手役、VX殺人・殺人未遂事件の実行犯などの容疑で逃走していた高橋容疑者が殺人容疑で逮捕された。17年間も逃走してきた平田信、菊地直子に続く高橋の逮捕で、オウム真理教事件に大きな区切りがついた。
(2)捜査当局は高橋が居住してきた川崎を中心にローラー作戦を進めてきた。同時に警察庁は全国の警察に、インターネットカフェ(漫画喫茶)、コンビニ、路上生活者への関心を高めるよう指示してきた。高橋が東京・大田区蒲田の漫画喫茶店長からの通報で逮捕に至ったのも、こうした捜査の成果である。
(3)高橋の周到な逃走準備と運が幸いしてこの10日間の逃走が可能だった。蒲田は川崎から電車に乗っても5分ほどの距離だ。渋滞を調査する防犯カメラのある幹線道路ではなく、路地などをたどって都内に入った可能性がある。神奈川県警、警視庁をはじめとした全国警察の総力捜査と世論喚起で高橋逮捕に至った。
(4)14日に参議院の法務委員会で滝実法務大臣が所信を表明した。そこでオウム真理教についてこう語った。「オウム真理教については、引き続き、団体規制法に基づく観察処分を適性かつ厳格に 実施することにより、公共の安全の確保に努めてまいります」。当局がオウム分派の「アレフ」「ひかりの輪」も同根と見ていることがわかる。事件はいまだ継続中だ。
(5)オウム真理教事件は高橋容疑者逮捕で大きなエポックを迎えた。しかしオウム事件は終わっていない。残党組織である「アレフ」には昨年だけでも200人近い新規信者が入った。「ひかりの輪」をふくめ、いまだ1500人ほどのオウム信者がいることに注目しなければならない。なぜ若者たちがオウム真理教のようなカルト(熱狂集団)に入るのか。地下鉄サリン事件から17年経過しても問題は解決していない。
5月22日(火)3月8日に77歳で亡くなった森稔さん。森ビル会長として、既成概念に捕われない都市開発を行ってきた。東京のシンボルとなった六本木ヒルズや中国の上海環球金融中心など、その活動はこれからの都市開発の方向性を示すものでもあった。2010年に当時は社長だった森さんにお話を聞く機会があった。私が提案した高齢社会の居住モデルにも関心を示してくれた。印象的だったのは、専門家に作成してもらい持参した高齢者向けの高層住宅のデッサンをじっと見ていた姿だ。関心を持ってくれたことはすぐわかった。森さんはデッサンを内ポケットにしまっていた。その森さんが、斬新な発想による高齢社会に対応したモデル都市を見ることなく亡くなったことは残念でならない。当時のインタビュー(「週刊朝日」掲載)を森ビルの許可を得たのでここに紹介する。
5月19日(土)北朝鮮による拉致問題のニュースが報じられた。「ネット記事の読み方」があることがわかる。あえていえば、誤読させられるから要注意である。ライブドアニュースなどで流れているのは共同通信発の記事だ。タイトルは「拉致で実務者協議要請 政府関係者、区議通じ伝達」。全文は以下の通り。〈松原仁拉致問題担当相に近い政府関係者が拉致問題打開のため、朝鮮労働党の実務者と協議したいとのメッセージを今月中旬に訪朝した東京都渋谷区議を通じて北朝鮮側に伝えていたことが18日、分かった。北朝鮮側は「松原氏を含め日本の政権の出方を注視したい」と回答を留保したという。複数の日朝関係筋が明らかにした。メッセージが伝えられたのは北朝鮮の対外交流機関、朝鮮対外文化連絡協会の黄虎男局長(日本担当)〉。これは記者が書いた原稿の要約だ。まずは元の文章を紹介する。〈松原仁拉致問題担当相に近い政府関係者が拉致問題打開のため、朝鮮労働党の実務者と協議したいとのメッセージを今月中旬に訪朝した東京都渋谷区議を通じて北朝鮮側に伝えていたことが18日、分かった。北朝鮮側は「松原氏を含め日本の政権の出方を注視したい」と回答を留保したという。複数の日朝関係筋が明らかにした。メッセージが伝えられたのは北朝鮮の対外交流機関、朝鮮対外文化連絡協会の黄虎男局長(日本担当)。黄氏は2002、04年当時、小泉純一郎首相と金正日総書記による会談でいずれも通訳を務めた。関係筋によると、この区議は地方議会関係者の訪朝団メンバーとして15日からの3日間の日程で訪朝。北朝鮮側に「拉致問題解決につながるなら北朝鮮でもどこでも行く」との政府関係者のメッセージを伝達した。北朝鮮側は「日朝関係を真剣に打開したいと考える人なら誰とでも会う」と応じた一方、松原氏が対北朝鮮強硬派であるとも指摘したという。拉致問題のほか、終戦前後の混乱で北朝鮮に残留した日本人の遺骨収集問題について意見交換。北朝鮮側は平壌市内などで遺骨が見つかり工事を止めている場所があると説明し「日本政府がこの問題に本気で取り組む意思があるのか確認したい」と語った〉。いくつかの解説を加える。この記事にある「政府関係者」は、松原大臣秘書のYM氏。訪朝団は14日に日本を出発して19日に帰国する。そのメンバーのひとりが17日に帰国、北京で共同通信の取材を受けている。区議が持参した大臣秘書の親書は対文協の黄虎男局長から上部に伝達された。ところが松原大臣の過去の言動が問題となった。「これまでの言動から見て共和国を破壊する目的がある。厳しく見ている」という。これは松原大臣が北朝鮮への人道支援に否定的な発言をしたことに対して「無分別な人気取り」と3月10日に朝鮮中央通信が評したことと同レベルだ。北朝鮮側はソン・イルホ対日大使が公言しているように、基本的には誰とでも会う。そこで北朝鮮側は「(松原提案)が本当なら言動で示して欲しい」「これからも注視している」と付け加える。実は北朝鮮側の思惑は個々人の政治家の言動レベルにはない。民主党政権がどこまで続くのかに注目しているのだ。北朝鮮に残された日本人遺骨問題、日本人妻の帰国問題、「よど号犯」引き渡し問題の交渉を通じて拉致問題へとつなげるために、現在交渉している中井元大臣のラインでいいのかどうかが問題なのだ。北朝鮮との交渉は、「ミサイル」「核実験」など諸問題との関係で進めなければならない。まさに難題だ。そうした情況にあって、日本サイドがどこまで腹を据えて交渉に臨むのか。まずは福田政権時代の日朝間合意にまで戻ることだ。北朝鮮側の評価はどうあれ、「あらゆる行動を取る」という松原大臣の方針は一般的には正しい。松原大臣周辺の行動に対して、拉致対策本部の幹部は「知らなかった」と怒っている。それはおかしい。日朝間はどのようなルートであっても実務者協議がはじまる条件を整備していくことだ。
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