「キューブモンスター」の言いなりにならない生き方を、インドの寓話に学ぶ

2013.06.19 07:45
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今回紹介する『なぜ、ぼくのパソコンは壊れたのか?』(マイナク・ダル著、上原裕美子訳、日本経済新聞出版社)は、ビジネス書でもなく、自己啓発書でもなく、いわば型にはめることが少しばかり難しい作品です。無理やり定義づけるとしたら、「大人向けのファンタジー小説、もしくはライトノベル」というところでしょうか...?

と書いただけでは「そんなものを取り上げる価値があるのか?」と思われたとしても仕方がありませんが、あえて取り上げてみたことには理由があります。どこにでもいそうなビジネスパーソンを主人公としたストーリーには、いろんな人にあてはまるであろう「よくあるトラブルと、それを乗り越えるための方法」が投影されているからです。

まずは参考に、巻頭に記されている東レ経営研究所 特別顧問 佐々木常夫氏のコメントを引用しておきます。

この本はビジネスマンが仕事でも成果をあげ
家族とも絆で結ばれることで
人生総体として幸せになるためには
どうすればいいのかの近道を教えてくれる
(3ページより)


ストーリーは、ざっとご紹介すると次のとおり。


主人公のマユクは、大手家電メーカーのマーケティング・グループを統括するマネージャー。会社にとっての「厳しい年」を乗り越えるべく、仕事と家族に挟まれながら忙しい日々を送っています。ところが、ゆっくりランチする時間もないほどの状況下で、ストレスはたまっていくばかり。職場での人間関係も、妻とのコミュニケーションも、いつ崩壊してもおかしくないような状態です。

パソコンに謎のメールが送られてきたのは、そんなときのこと。しかも、なにげなく開いてみると、画面が真っ白に。慌てていると、「きみはキューブモンスターの言いなりか?」という文字が浮かびます。


と、こうしてストーリーが展開していくのですが、ここで著者がいう「キューブ」とは?


キューブ【cube】[名](スル)
オフィスの決められた場所で、デスクの前にはりつき、業務時間外まで座り続けていること。人との直接のコミュニケーション、自由な創造性、その他個人の表現活動は制限されている。そのため、キューブしている人は、目の前の仕事以外の生活のことを忘れるようになる。
(7ページより)


それはつまり、大半のビジネスパーソンにとっての「仕事のための場所」であり、キューブモンスターとは、その場所を中心とした日常に弊害をもたらす原因でもあるということです。

かくしてマユクのパソコンは謎のウィルスに感染しますが、かといってデータが破壊されるわけでもなく、大切な情報を漏らされるわけでもありません。一貫しているのは、彼がビジネス上の窮地に追い込まれたり、家庭内の問題に直面したりするたび、謎のメッセージを映し出すこと。

その内容はミステリアスで、しかもまるで彼が置かれている状況を熟知しているかのように的確。けれどそれ以前に、そもそもなぜそんなメッセージが一方的に映し出されるのか、理由はまったくわかりません。

というわけでマユクは苛立つのですが、あるときメッセージに従って行動してみた結果、日常を覆っていたひとつひとつの問題が解決されていくことに気づきます。

こうして、気がつけばメッセージは彼にとってかけがえのないものとなり、その人生は劇的に変化するというお話(ネタばらしをするわけにもいかないので、これ以上の記載は控えておきますが)。


本書の魅力は、ビジネスの現場にいる誰しもが直面するであろう問題への対処法を、わかりやすいプロットによって示している点にあります。先に触れたとおり舞台はインドの家電メーカーですが、克明に描写されるそのシチュエーションは、おもしろいほど日本の企業のそれに似ています。というよりも、世界各地のオフィスで、同じような光景が確認できるといっても過言ではありません。

いわば国籍に関係なく、すべてのビジネスパーソンに向けられた寓話であるということ。1時間もあれば読み通せてしまえますので、スッキリしたい昼休みなどに目を通してみると、意外な気分転換になるかもしれません。


(印南敦史)

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  • なぜ、ぼくのパソコンは壊れたのか?
  • マイナク・ダル|日本経済新聞出版社
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