河北抄

 欧米には主食のパンにまつわる名言が少なくない。「平穏に食べる堅いパンの1切れは、不安と共に食べるごちそうに勝る」。童話作家イソップの言葉だ。詩人ゲーテは「涙と共にパンを食べた者でなければ、人生の味は分からない」と語った。

 日本人なら「パン」を「にぎり飯」に変えれば、ピンとくる。飢えた震災時、やっとありつけた安心感は生涯忘れられない。悲しみをこらえるため、涙と一緒にのみ込んだ被災者もいただろう。
 おにぎりを看板にした農家レストランが先月、仙台市若林区蒲町に開店した。震災の津波で大きな被害を受けた農事組合法人、仙台イーストカントリーの直営店「おにぎり茶屋 ちかちゃん」だ。

 法人が荒井地区で生産するひとめぼれ、もち米が材料。客が注文してからにぎるため、いつもほかほかだ。しかも大きさは市販の倍ほど。二つ食べたら、もうおなかいっぱい。
 「混じりけのない味を求め遠方からの客も多い」と店員の佐々木こづ恵さん。手のひらと手のひらをしっかり合わせてにぎる。消費者と生産者をつなぐ、おむすびには「合掌の心」が込められている。(2013・6・18)

2013年06月18日火曜日

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