会社の従業員が仕事で生み出した発明、「職務発明」はだれのものか。いまの法律では特許権は従業員にある。ところが、安倍政権はこれを会社に移す方向で見直すことを閣議決定した。[記事全文]
1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が昨年は1・41となった。人口を維持するのに必要な出生率は2・07とされ、遠く及ばない。出産期の女性の人口が減ってい[記事全文]
会社の従業員が仕事で生み出した発明、「職務発明」はだれのものか。
いまの法律では特許権は従業員にある。ところが、安倍政権はこれを会社に移す方向で見直すことを閣議決定した。
そんな施策の見直しは、技術革新を阻み、頭脳流出を招きかねない。特許権はこれまで通り従業員に残すべきだ。
米国のほかドイツや韓国では日本と同様に、考え出した従業員のものだ。英国やフランス、中国などでは、研究のための資金や環境を提供した会社のものとしている。
日本で注目が高まったのは、10年ほど前に起きた青色発光ダイオード(LED)の特許をめぐる訴訟だった。
日亜化学工業で青色LEDの開発にたずさわった中村修二氏が退職後、自らの特許権にもとづく「相当の対価」を求めて日亜を訴えた。
東京地裁は判決で中村氏の請求通り、200億円の支払いを日亜に命じた。会社の利益に対する貢献度を5割と算定した。
営業など中村氏以外の貢献をより重視した東京高裁で8億4千万円の支払いで和解したが、経団連は「将来、巨額の対価を求める訴訟が多発しかねない」として、特許権を会社に移すよう政府に求めてきた。
今回の政権の方針はその要望に沿ったものだ。実現すれば、会社は従業員に報奨金などでむくいることになる。「権利にもとづく対価」が、会社裁量の「ごほうび」に変わる。
だが、日本ではかねて、従業員の知的生産に対する評価が低かった。
青色LEDをめぐっても、在職中の中村氏への特許の報奨は1件につき登録時と成立時に1万円ずつ。退職時の年収も約1500万円で、海外の研究者仲間は「奴隷か」とあきれた。
そのほかの企業でも、「会社が正当に評価してくれない」との不満から訴訟が頻発した。しかし、04年の特許法改正で、会社側と従業員が対価について話し合い、契約で定めることが推奨されてからは、大きな訴訟は起きていない。
いまの時点で訴訟リスクをおそれて従業員から特許権を奪おうというのは、あまりに近視眼的だ。従業員の夢をそこない、組織の消耗品パーツのように扱う国・企業と思われては、有能な人材の蓄積は望めない。
独創性が問われるグローバル競争の時代、まず組織の利益ありき、では発想が古すぎる。発明の母は、組織ではなく、個々の人間の創造力なのである。
1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が昨年は1・41となった。
人口を維持するのに必要な出生率は2・07とされ、遠く及ばない。出産期の女性の人口が減っているため、生まれる子どもの数は過去最低となった。
それでも出生率そのものは、05年に1・26にまで落ち込んだ後、30歳代以降の出産が増えたことで、ゆるやかに回復している。昨年は前年より0・02の上昇で、1・4に届いたのは16年ぶりだ。
子どもを持ちたければ、悩むことなく生めるようにする。そのために、「子育て重視」の雰囲気を社会全体で醸し出し、後押ししたい。
まずは家庭、すなわち夫の協力である。
「イクメン」という言葉が朝日新聞に初めて登場したのは08年1月だが、流行語大賞のトップテンに入った10年以降、すっかり定着した。今や男性が赤ちゃんを抱っこして、一人で外出している姿も珍しくない。男女の役割分担を強調する考え方が薄まったのなら、歓迎だ。
ただ内閣府の調査によると、社会の中で満足していることを聞かれ、「家庭が子育てしやすい」をあげる人は8・2%と、5年前からあまり変わらない。
カギを握るのは職場のあり方だ。子育て中の若い社員に、ムダな残業をさせていないか。上司や同僚が、意識するだけで雰囲気は変わろう。
政治の世界でも子育て支援はずっと傍流だったが、民主党政権は「チルドレンファースト」を掲げ、安倍政権も保育所の待機児童対策を打ち上げた。
国の調査では、夫婦が予定する子どもの数は平均2・07で、理想の2・42を大きく下回る。最大の理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」で、6割にのぼる。消費増税を財源とする子育て支援を、この意識の改善につなげるべきだ。
なにより、結婚したくても経済的な理由であきらめる「非婚化」への対応が急務である。生涯結婚しない人の割合は男性で2割、女性で1割を超えた。35年には男性で3割、女性も2割近くまで上がる見通しだ。
この傾向を食い止めるには、若者の雇用安定が欠かせない。30歳代の男性では、正規雇用だと7割弱が結婚しているのに、非正規の場合は24%にとどまっているのが現状だ。
結婚して子どもを2〜3人生んでも、安心して暮らせる。そんな雰囲気が社会に広がってこそ、「成長戦略」は成功したといえよう。