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ワクチン接種 勧奨中止の波紋

6月17日 22時30分

松井亜紀記者

ことし4月に法律に基づく定期接種に追加された子宮頚がんを防ぐワクチン。
このワクチンについて、厚生労働省は今月14日、全国の自治体に対して対象者にはがきなどを送って接種を呼びかけるのを、一時、中止するよう勧告しました。
医療機関では保護者が相談に訪れ、接種を取りやめる動きも出ています。
なぜ、接種呼びかけを中止したのか、その背景と影響について、厚生労働省を担当している松井亜紀記者が解説します。

子宮頚がんワクチンとは

子宮頚がんは、子宮の入り口の表面の細胞にがんができる病気です。
20歳から39歳までの若い女性がかかるがんの中で、乳がんに次いで多く、国内では年間9000人近くが発症し、おととし1年間でおよそ2700人が死亡しています。

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厚生労働省によりますと、子宮頚がんワクチンは導入から間もないことから、がんそのものを予防する効果については現段階では証明されていません。
しかし、ヒトパピローマウイルスのうち、子宮頚がんの50%から70%の原因とされる2つのタイプの予防効果があり、性交渉によってウイルスに感染したり、がんに移行する前の段階の病変が発生したりするのを予防する効果があるとされています。

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アメリカやオーストラリアなど、海外の多くの国で公費による接種が行われています。
厚生労働省は子宮頚がんワクチンについて、3年前から基金を作って費用の一部を助成していましたが、ことし4月から法律に基づいて行われる定期接種に加えました。
定期接種に加えられたことで、自治体は接種対象の小学校6年生から高校1年生までの女子全員にはがきなどで案内を送って積極的に接種を呼びかけるほか、費用の9割を国が負担することになりました。

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接種後の副作用の報告は

接種のあと、発熱したり失神したりしたという報告は、ことし3月までに864万回の接種が行われたなかで1968件あり、このうち重篤だと報告された件数は357件だということです。
接種を受けたあと、慢性的な痛みが出たり、歩行が困難になったりする子どももいて、保護者や医師などが、ことし3月に団体を発足させました。
団体は、国に対して、ワクチンの接種を中止して副作用の情報を積極的に提供することや、重い副作用が出た場合の医療費の補助などを求めています。

今回の議論の経緯

今回、厚生労働省の専門家会議は、ワクチンの接種後、全身の慢性の痛みが出たり、歩行が困難になったりしたおよそ60例について、カルテなどをもとに因果関係があるかどうかなどの議論を進めました。
その結果、専門家会議は「10例から20例は回復しておらず、なかには接種との因果関係が否定できないものもある」と判断しました。
しかし、会議の複数の委員からは「こうした症状が出る原因や、どれくらいの割合で症状が出るか分かっておらず、接種によるメリットをなくすべきではない」として接種を継続すべきだという意見が相次ぎました。

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これに対して、会議の座長を勤めた国際医療福祉大学の桃井眞里子副学長が「現段階では、痛みについて的確な情報提供ができないので、接種する選択肢は残しつつ、積極的な接種の呼びかけは一時中止して、痛みの原因を解明したほうがよいのではないか」と指摘しました。
そのうえで、出席していた委員7人のうち、座長と、製薬会社から50万円以上の講演料などを受け取っていた1人の委員を除く5人で、接種をそのまま継続すべきか、積極的な接種の呼びかけを、一時、中止すべきか採決が行われました。
その結果、3対2で「接種の呼びかけを中止すべきだ」という結論が決まりました。
会議のあと、桃井座長は「臨床試験の時には分からなかった全身の慢性の痛みが二桁程度でていて、未回復のものもあることを重視した結果だ。 安全性に問題があるという判断ではなく、国民に対して責任ある対応をするために情報収集を行い、再び積極的な勧奨ができる状態にしていくということだと理解してほしい。がん予防のメリットを選びたい人については、接種してもらっても構わない」と話していました。

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勧奨中止の影響は

これを受けて、医療機関では保護者が接種を見合わせる動きが出ています。
東京・府中市にある診療所には、今週、ワクチンの接種を受ける予定だった中学2年生の子どもを持つ母親が相談に訪れていました。
この中で、医師は「接種したあと全身の痛みが続くケースが報告されていて、安心して受けてもらうためにも、その頻度などが明らかになるまでは接種を待ってはどうか」と説明し、母親は接種を見送ることを決めました。

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母親は「国の対応は分かりづらく、親としては受けさせていいか迷う。
ワクチンでがんを予防できるなら受けさせたいが、短期間、接種を控えても病気のリスクが高まるわけではないということなので、しばらく控えたい」と話していました。
診療所の日野佳昭医師は「予防接種を中止するという指示ではないので、保護者に納得してもらうのは難しい。安心して接種を受けてもらうことが大事なので、しばらく待つよう説明していて、実態としては接種中止ということだ。検証を進め、なるべく早く再開してもらいたい」と話していました。

どう判断すればいいのか

厚生労働省結核感染症課の正林督章課長は、積極的な呼びかけを中止した理由について「ワクチンに重大な危険性があるというわけではなく、接種するかどうか国民が判断するときにリスクについてのデータが不十分なためだ。厚労省としても、できるだけ早く、痛みを伴う副反応がどれくらいの頻度で起こるのかなどの国内外のデータを集めて専門家による評価を行って公表するつもりだ。それまでの間、どうしても不安がある場合は一時的に接種を待つことも選択肢に判断してもらいたい」と話しています。

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厚生労働省は、今後、研究班を設置して接種後に痛みを訴えているケースについて、因果関係や頻度の実態調査を行い、積極的な接種の呼びかけを再開するかどうか判断したいとしています。