最高裁のある調査
2013年5月20日
今回は、最高裁判所が実施した、ある興味深い調査について、語っていきます。
ある新聞に、最高裁判所司法研修所が実施した初の調査で、民事事件において原告や被告または双方が弁護士をつけない、いわゆる「本人訴訟」の2割近くについて、担当裁判官が、「弁護士がいれば、結論に有利に影響した可能性がある」と考えていることが分かったことが掲載されていました。
また、被告が弁護士をつけずに敗訴した訴訟の約3割についても、「弁護士がいれば、より適切な主張や立証ができ有利になった」と担当裁判官が考えていることも分かったそうです。
さらに、この調査により、弁護士をつけない本人訴訟では和解率が低い点も判明し、この点について、最高裁では、「本人では訴訟の見通しができず、裁判官や相手側とのコミュニケーションも欠くため」と分析しているそうです。
私も司法修習生の時、裁判所で研修を受けた際、本人訴訟を見ることがありました。このような事件では、裁判官が細かく当事者にヒアリングをし、争点は何なのか、原告は何を主張立証しなければならないのか等を懇切丁寧に説明していたのが印象的でした。
民事裁判においては、関係の法令だけでなく、訴訟を進めていく上でのルール等の知識を必要としますので、本人のみで行うのは相当の労力と時間がかかります。
また裁判官もそれらのことを本人に丁寧に説明しなければ、裁判も進められませんので、多くの事件を抱えらながら、このような事件に対応しなければならない裁判官の苦労も相当のものだろうと思います。
そういった意味で、法令や訴訟のルール等に精通し、裁判官と共通言語で会話できる弁護士の存在は必要であると思いますし、このことは、裁判を活用して積極的に紛争を解決したい、ないしは反対に、裁判に巻き込まれ何とか早期にトラブルを解決したいと思っている本人の利益に適うものです。
ただ、弁護士にも専門分野があり、また経験や実力の差等もありますので、一概に弁護士がいれば有利であったかどうかは別ですが、上記調査結果は、1つの参考になるのではないかと思います。
なお、この調査の報道とともに報道されていたのですが、司法制度改革により弁護士の数は増えたものの、この間に行われた民事事件における本人訴訟の件数は、年1万件前後と従前と変化がないそうです。
今回紹介された調査も司法制度改革が実行される前に調査されていれば、もう少し事態は変わっていたのかもしれません。
話は変わりますが、先週の5月15日より、法科大学院を修了した者と昨年の司法試験予備試験に合格した者が受験する司法試験が実施され、7,653名が受験したそうです(これは昨年に続き2年連続での減少で、法科大学院の入学者の減少による影響のようです)。
他方、法科大学院を修了しなくとも司法試験を受験できる司法試験予備試験が昨日行われ、出願者は過去最高の約1万1千人だそうです。
このように、本来法務省が想定していた、「法科大学院を卒業して司法試験を受験」の原則ルートに進む人はどんどん減り、「司法試験予備試験に合格して司法試験を受験」の例外ルートに進む人が徐々に増加している傾向にあります。
今回取り上げた「本人訴訟」の問題や司法試験の問題、そして前回取り上げた裁判員裁判の問題等、司法制度改革の見直しが必要な時期に来ているように思います。
ただ、私自身も法曹の一員として、法務省に司法制度改革の見直しを丸投げするのではなく、国民にとって身近な、よりよい司法とするために何かできることはないのか、考えていきたいと思います。
[カテゴリー:司法制度]