子育て心理学:第2部 9)「人生脚本」の完成
第2部-人は「どのように」育っていくのか?(人生脚本編)
■9)「人生脚本」の完成-果たしてBちゃんの脚本は?
振り返ってみましょう。
生まれてまもなく、自分は受け入れられていないと感じ、自己防衛のために自分を出さないように「内向」し、自分を責める「I’m not OK.」の立場から人生をスタートさせたBちゃん。
物心つく頃には、「自分は感受性に乏しい」「鈍感だ」「人が苦手だ」「嫌われ者だ」「自己表現が下手だ」などと思うようになり、さらに親の対応によってその自己イメージが強化され、「何をやってもダメだ」という自己イメージまで付け加わっています。
Bちゃんは、この自己イメージを基に、自分がこの先どのように人生を歩いていくのかという「人生脚本」を創ることになります。それが、おおむね10歳前後。小学校4年~6年にかけての頃です。Bちゃんの脚本を推測してみましょう。
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①Bちゃんには、ありのままの自分は親から愛されないという、自分についての根源的な不安(存在不安)があります。
②そして、この世は自分を傷つけるところではないかという社会的不信があります。
③お父さんからは、「努力せよ(でなければ認めない)」というドライバーがインプットされています。
④でも、「何をやってもダメ」という自己イメージができあがっています
すると、ドライバーに駆り立てられてそわそわと心が落ち着かず何かをするのですが、社会に信頼なく、自分に自信なく、何をやっても失敗します。そして、「どうして自分は落ち着きがないんだろう?」「何をやってもダメなんだろう?」と悩む人生を送ることになります。
表層意識で悩む背景に、親から植え付けられたドライバーや禁止令の支配があることがわかりますね。IP(インナーペアレンツ)に操られて生きているわけです。
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…もう少し深めてみましょう。
お母さんは、Bちゃんが生まれたときからBちゃんに八つ当たりして叩いたり、「おまえが、もっと積極的ならいいのにねぇ」と愚痴ったりしていましたね。そして、普段から文句や愚痴の多いお母さんで、Bちゃんの気持ちを受け止めることはしなかったとします。
ここでBちゃんの深層心理の側に立ってみましょう。
Bちゃんは、“お母さんが私を認知する”のは怒ったり、愚痴を言ったりするときだけということに気づきます。そこから、Bちゃんの深層心理は、「お母さんは怒りをはき出さないと生きていけない、子どもを受け止める余裕のない自分で一杯一杯の人なんだ」とお母さんのことを見ています。
どんな子どもも、母親に幸せになってほしいと願っています。なぜなら、自分の安全基地の本体だからです。そこが不安定であれば自分の人生どころではありません。ですから、安全基地の安定のために自分はどうしたらいいのかを無意識に考えています。同時に、そのお母さんに自分のことを認めてほしいと切望しています。そこで、「私がお母さんの受け皿となる」ことで、お母さんに認めてもらおうとするのです。
さらにお母さんからBちゃんが受けるメッセージは、自己否定であり、社会否定です。それは、「自信を持つな」「社会とつながるな」という禁止令です。それらの禁止令がトータルで言っていることは、「自律するな」「母親から離れるな」ということです。その禁止令を破ると、「お母さんは私を認めてくれない」という罰が待っています。ですから、お母さんに認めてほしいBちゃんは、この禁止令を破ることはできません。
ここに親子2つのベクトルがそろいましたね。
母→子:「自律するな」という欲求(禁止令)
子→母:「私がお母さんの受け皿となる」ことでの承認欲求
この結果Bちゃん(の深層心理)は、「自律せずにお母さんのそばに居続けてお母さんの愚痴を聞き続ける」という人生脚本を創るのです。
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そんな馬鹿な?!
…と、思いますよね。こんな暗い縛られた人生なんて誰だって嫌ですからね。だから、表層意識では「なぜ?私は…」と悩むんです。
でも、ここで人生脚本の第一原則を思い出してください。
「人生脚本とは、親に愛されたい(認めてほしい、触れ合いたい)ために創る人生のシナリオ」なのです。
親から生まれて、その親から愛されたくない子どもはいません。この世に自分を生み出してくれた親に愛されたい、認めてほしいのです。
自分が死ぬ時を想像してみてください。一度も親に優しくされないままに死にたくはないのです。親のそばに居続ければ、もしかすると優しくされるチャンスが巡ってくるかも知れません―その可能性を託して、子どもは望みを捨てることができません。
だから子どもは、親を自分につなぎ止めるために親の無意識の願望に添って生きようとするのです。
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以上からわかるように、Bちゃんの生きづらさを解消するには、親から植え付けられたドライバーや禁止令(←さらに親をも取り巻く“常識”やその家系で世代間連鎖している価値観など、これらを総称してインナーペアレンツ(IP)と私は呼んでいます)に気づき、それらから解放されることが必要ですが、それだけでは十分ではないのです。
たとえば、「何をやってもダメ」という自己イメージ。
一見インナーペアレンツ(IP)にがんじがらめになっているために、身動きが取れず「何をやってもダメ」な結果になっているように思えます。もちろん半分はその通りです。
しかし、もう一つの側面があります。
それは、何かできてしまうと自律に向かうことになり、自律すれば母親から愛情をもらうチャンスを失ってしまうことになります。ですから、「何をやってもダメ」の真実は、「何かできてはダメ」―これこそが、自ら創った人生脚本なのです。自分の脚本が自分の足を引っ張っていたわけですね。
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つまりこうなります。
・表層意識 「なぜ、私はこうなんだろう?」
・深層心理第1層 「何をやってもダメ」
IP(ドライバー+禁止令)+自己イメージ+学習性無力症など
・深層心理第2層 「何かできてはダメ」
人生脚本
IPを退治して自分を取り戻しても、この脚本に気づかなければ、いつしかまた気づかぬうちにIPは復活しています。上記の通り、IPと脚本はとても相性がいいからです。
最後の敵は「自分」なのです。
★人生脚本
★存在不安
★承認欲求