これでは、なし崩し的に物事を「3・11」以前に戻そうとしているとしか思えない。関西電力の八木誠社長が高浜原発(福井県)について、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を[記事全文]
「彼に外交を語る資格はありません」安倍首相がフェイスブック(FB)に書き込んだ一言が波紋を広げている。「彼」とは、日本人拉致問題で北朝鮮との交渉経[記事全文]
これでは、なし崩し的に物事を「3・11」以前に戻そうとしているとしか思えない。
関西電力の八木誠社長が高浜原発(福井県)について、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を使う「プルサーマル発電」を前提に再稼働を申請すると表明した。四国電力も、愛媛県の伊方原発でプルサーマルの再開をめざしている。
そもそもプルサーマルは、思うようにいかない核燃料サイクル事業の矛盾を補うために始まった。
当初は原発でウランを燃やした後、使用済み燃料からプルトニウムを取り出して高速増殖炉で再利用する計画だった。
だが、原型炉「もんじゅ」は失敗続きで実用化のめどが立たず、使い道のないプルトニウムがたまり始めた。核兵器の材料になるプルトニウムをため込むわけにはいかない。
そこで期待されたのがプルサーマル発電だ。確かに、いま国内外で日本が持つ45トンものプルトニウムを減らすには、選択肢のひとつではあろう。
しかし、原発依存からの脱却が求められるなか、まずやらなければならないのは、行き詰まった核燃サイクル事業の抜本的な見直しである。その議論もせず、昔ながらのプルサーマルに戻るのは本末転倒だ。
プルサーマル発電に対しては安全性を疑問視する専門家もいる。震災前ですら地元の同意を得るのが難しく、稼働していたのは4基と、目標の4分の1以下にすぎない。
このままサイクル事業を続けて、青森県六ケ所村で試験運転中の核燃料再処理工場を動かすことになれば、プルトニウムは増えるばかりだ。
高コストという欠点もある。MOX燃料をつくるには使用済み燃料をそのまま処理するよりコストがかかるうえ、再々利用がしにくい。
電力会社は核燃サイクル事業の継続にこだわる。旗を降ろすと、再処理のため六ケ所村に送られている使用済み核燃料が廃棄物となって各原発に送り返される懸念があるからだ。保管プールが満杯になって、多くの原発が動かせなくなる。
それでも、これ以上の先送りは許されない。
なにより問題なのは、安倍政権の姿勢だ。首相は「脱原発依存」を掲げながら、フランスと核燃料サイクル事業の協力を打ち出した。見通しのない事業を強行し、行き場のないプルトニウムを増やしてどうするのか。
原発事故後の国民の目で厳しく監視したい。
「彼に外交を語る資格はありません」
安倍首相がフェイスブック(FB)に書き込んだ一言が波紋を広げている。
「彼」とは、日本人拉致問題で北朝鮮との交渉経験をもつ田中均元外務審議官のことだ。
元外交官とはいえ、いまは民間人である。一国の首相がネットで個人攻撃を繰り広げる光景は、尋常ではない。
発端は毎日新聞に掲載された田中氏のインタビューだ。
田中氏は、河野談話や村山談話をめぐる首相の発言や、閣僚の靖国参拝、橋下徹・大阪市長の慰安婦発言などを挙げ、「(日本は海外から)右傾化が進んでいると思われ出している」と懸念を示した。
首相のFBは、これへの反論として書かれたものだ。ただし、右傾化問題には触れず、02年にあった田中氏との意見対立を紹介している。
北朝鮮から一時帰国した拉致被害者5人を送り返すかどうかをめぐり、当時、外務省で交渉当事者だった田中氏は「返すべきだ」と主張した。一方、官房副長官だった安倍氏は「日本に残すべきだ」と判断。結局、小泉首相の決断で日本にとどまることになった――。
安倍氏は「外交官として決定的判断ミス」と指摘し、田中氏に外交を語る資格はない、と決めつけた。
だが、この批判は筋違いだ。
田中氏は外交官として、政治家が決断するための選択肢を示したのであり、小泉首相が下した最終的な結論にはもちろん従っている。
そもそも、この問題と田中氏が指摘した右傾化問題とどういう関係があるのか。
安倍政権になってから日本を見る海外の目が厳しくなったという指摘は、首相にとって愉快ではなかろう。
だが、首相がこんな態度をとれば、耳に痛い意見は届きにくくなる。それで正しい判断ができるだろうか。
外交に限らず、政策論議は自由闊達(かったつ)に行う。民間の意見にも耳を傾ける。その上で最終決断は首相が下す。それこそ、民主主義国の強さだろう。
首相は5月の国会答弁で、特定の集団をおとしめたり暴力や差別をあおったりするヘイトスピーチ(憎悪表現)が増えていることについて「どんなときも礼儀正しく、寛容で謙虚でなければならないと考えるのが日本人だ」と語った。
異論も取り込んで政策の厚みを増していく。首相にはそんな度量がほしい。