【小説・習作】姉が弟を愛してやまないようです。
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それはいまから2年前、我が家を凍りつかせる出来事があった。
両親とも離婚歴も無く健在、親戚づきあいに問題を抱えているという話も聞かない。俺が中学の2年で、1つ上の姉が居る、ごくありふれた家族だったのだが。
事は家族団らんの時、ある恋愛物の映画を見終えた直後の会話だった。
父は映画のエンディングが終わるとこうつぶやいた。姉ももうすぐ15か、あと1年もすれば結婚できる年齢になって、あっという間にもらわれて行っちゃうんだろうな。という、父親らしい言葉である。
すると姉はさも当然と、こう言い放った。
「私、弟と一緒になるから、それはないよ」
最初は姉の冗談だと思っていたのだが、しかし話を続けるうちにどうも本気らしいとしか考えられなくなっていった。
「法的に結婚できないのは知ってるよ。でも形式張った生活ができないだけで、それ以上を禁じることはない。ただ、いま悩んでるのはどうやったらウェディングドレスを着れるかなってこと。姉弟でも結婚できるようにするって政治家になら将来投票してもいいんだけど。子どもは居なくてもいいや、自分の子どもって考えただけで気持ち悪い。でも子育てはしたいから養子をもらってくるの。父も母も、おじいちゃんおばあちゃんにはなれるよ」
フィクションの中だけだと思ってた、家族会議なんてものが開かれるのは。
それがきっかけだったように思う。
俺は父を慰めるため、あれは姉が一時の気の迷いに気付いてないだけで時が解決してくれるさと言って聞かせた。頭を抱える母にも同様に気を利かせた。つまりは、精神的に大きな成長をすることができたのである。大人になったんだ。
自分が未熟なままではいけない、この姉を御していかなければこの家が危ないという危機感だったと今では考えられる。
そしてどうやら姉が真剣に考えてのことだと、俺が一番肌に感じていた。家でゲームに誘うのも、外に連れ出すのも、服を選ばせるのも、つまりはそういうことの延長だったのかと気付かされたのである。
あれから2年の歳月が流れ、俺が高校に進学する4月の現在。
それまでにもちろん、俺は姉を受け入れることをしなかった。俺は姉を姉として愛しているからこそ、正常な成熟した女性であってほしいし、辛抱強くもなれるのだ。大丈夫、父親を慰めたときの言葉はきっと成就される。姉が正気を取り戻すその時まで俺は、姉の妙に主張が強い女らしさを無視し続けるだけでいい。
だが高校に入って急に姉の態度が変化した。これが俺以外の男にという話なら良かったのだが……。
「弟よ、まさかとは思うけど彼女ができたなどと言い出さないよね。休み時間に見知らぬ女と話し込んで、お姉ちゃん、それは許さないよ」
昼休みにわざわざうちのクラスの前にまでやってきての話だ。どうやら中庭を挟んで1年の教室を見下ろす位置に姉のクラスがあるらしい。
「いきなりなに言い出すんだか。ああ、たぶんそれは中学が別の子で、なんでもない会話だよ。入学して何日も経ってないで、そんな関係にまでなれるわけないって」
なぜだろう、姉は妙に彼女とか恋人とか、そういった方面に警戒心を強めているのだ。
どうしてさ、中学までそんなこと気にもしてなさそうな振る舞いだったのに。
「弟よ、よく聞いてほしい。恋愛とは中学と高校とでその姿をまったく異にするもの。中学生の恋愛など所詮はおままごと、だが高校は別。自覚し、高められた肉欲が開放され求め合う関係なのよ」
誰かこの姉を止めてくれ、人に聞かせられる会話じゃなくなっているぞ。
心からの叫びが聞こえたのか、救世主が舞い降りた。
「姉ったらまた弟くんとべったりで、そろそろ弟離れしないと将来行き遅れるよ」
姉の友人だ。
「友人、ダメ。弟から離れて」
「姉ってばひどいなー。やっほー弟くーん、1年見ない間にすっかり男の子になっててびっくりしたぞー」
「いくら友人だからって許せない。弟の視線、孕むよ」
「弟くんをすごい扱いだね姉」
とんでもない言いがかりを付けながら姉は友人を引きずって行く。予鈴も鳴る時間なので俺はそのまま手を振りふたりを見送ることにした。
この会話、クラスの連中に聞こえてないよな?
とりあえず見た目には落ち着いた優等生に映る姉は、理想的な姉に見えたらしい。あくまでも外目に見ればであり、実態を知れば瞬く間に評価は逆転するだろうが。
「目立つのは私じゃなく、友人の仕事」
姉は常に本気で、そして抜け目がない。
「友人だってしたたかだよ。いいか弟よ、だまされるな、友人はああ見えてプライドが高い。女は大きく分けて2種類存在する。可愛がるのが好きか、可愛がられるのが好きか。友人は前者であり、徹底的なドSだ」
ついこの間まで家に遊びに来ていた友人をこの扱いである。おそらく姉の評価はそれなりに正確だが、よく知らない人が聞いたらこの物言いはどんな風に映るだろうか。本当に高校になると急変するものという意識が強いらしい。
そして曰く、
「弟に女の扱いを仕込むのは姉の義務だ」
姉なりの愛の授業を聞かされ、どうやらそれは、これから何日も続くという。
やれやれ、この年にして肩こりに悩まされたくは無い。ゆっくりと風呂に浸かって1日の疲れをほぐさなければ。
進学することにより学校以上の変化を見せた我が家で落ち着ける時間は貴重である。どうか神様、魔女によりかけられた姉の魔法を解く12時の鐘を鳴らしてはくださいませんか。
髪を洗い、体をワシャワシャとこすっていると、脱衣所の方からカチャリとドアを開ける音がした。
「湯加減はどうだ、弟よ」
いくら姉とはいえ、まさかとは、思う。
「悪くは……ないんじゃないかな?」
そうか、とつぶやくのが聞こえてしばらくすると、カラカラカラと風呂場の戸が開けられた。
待て、これはパターンだ。これで俺が視線を向けると、裸だと思ったかスケベと姉にからかわれるオチがつくんだ。
おそるおそる視線を戸の方へ向けるとそこには、一糸まとわぬ姉の姿があった。
「裸じゃないと思ったか? 一つ屋根の下に暮らしていてなお純粋な反応を見せてくれる弟を持って私はうれしいぞ」
姉よ、そのセリフは明らかにおかしいです。
背中を流してやろう。姉がそう言って身をかがめると、俺の目の前に豊満な姉の(省略されました。すべてを読むにはわっふるわっふるとコメントしてください)
● 動画のキャラの確立ができなくてむしゃくしゃしてた。題材はなんでもよかった。いまは悪いと思っているし反省もしている。
書き続けた場合、おそらく“友人”が主役に取って代わると思う。素直クールって私の中に薄いのかなと考えてしまう。