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E3ショウフロアでの2大次世代ゲーム機「PS4」と「Xbox One」

タイトル試遊台がズラリと並んだPS4とXbox One

 米ロサンゼルスで先週開催されたゲームショウ「E3(Electronic Entertainment Expo)」では、次世代ゲーム機の対決が火花を散らした。今年(2013年)末に登場する、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のPlayStation 4(PS4)と、MicrosoftのXbox Oneの、どちらもE3が実機の初めての一般プレイアブル(実際にデモプレイができる)展示となった。MicrosoftとSCEA(SCE America)ともに、フロアのかなりの面積を次世代機に割いてタイトルの試遊台をフロアに並べ、自社のゲーム機の準備が進んでいることをアピールした。Microsoftも、家庭のエンターテイメントセンタにするというXbox One発表時のビジョンはE3では前面に出さず、ゲーム機としてのXbox Oneの売り込みに努めた。

PS4の試遊コーナー
Xbox Oneの試遊コーナー

 両社とも次世代機コーナーを限定して入場制限することなく、自由に来場者がプレイできる状態とした。両社とも、次世代機コーナーは来場者で混み合った。しかし、E3自体に、前回のXbox 360やPlayStation 3(PS3)発表時ほどの盛り上がりがないためか、一部タイトルを除けば試遊コーナーも、以前ほどの混みようではなかった。右の写真は2006年のE3でのPS3コーナーの様子だ。

筐体サイズが大きく異なるPS4とXbox One

 筐体ボックスの展示では、PS4とXbox Oneの筐体サイズの違いが際立った。PS4は鋭角のソリッドなデザインであるため、実際の容積よりもさらに小さく見える。PS4は約275×305×53mm(幅×奥行き×高さ)で、PC的な表現をすれば4Lのスモールフォームファクタ(SFF:Small Form Factor)筐体だ。Xbox Oneはそれよりはずっと大きく見える。

 両ゲーム機とも消費電力はそれほど極端には違わないはず(PS4はGDDR5が電力を食い、Xbox OneはAPUのSRAMのリークが大きい)だが、筐体容積には大きな差がついているように見える。理由は明確にはわからないが、一般にSCEの方が廃熱機構にコストをかけ、筐体をコンパクトにしようとし、Microsoftの方が筐体を大きくしても廃熱はコストを下げようとする傾向がある。

E3で展示されたXbox Oneの筐体
E3で展示されたPS4の筐体

 また、Microsoftは新筐体の廉価版Xbox 360を、わざわざXbox Oneと並べて展示。Xbox 360がXbox Oneと併存するというイメージを視覚的にも印象づけた。今回、ハードウェアベースの後方互換性を切った両社だが、そのメッセージの打ち出し方には違いがある。

 MicrosoftはE3のブースでは、Xbox Oneコーナーの中央に大きなKinectのステージを設け、新生Kinectのデモを終日行なった。前世代のKinectは、PrimeSenseの技術を使った廉価なデプス(深度)センサーを搭載していた。それに対して、Xbox OneのKinectは、「Time of Flight(TOF)」手法を使って深度を測定するより高度な3Dセンサーに変わる。

 デモでは、高精度な深度検知だけでなく、プレーヤーの顔を認識し、顔の表情や話しているかどうか、注意を向けているかどうか、なども検知。さらに、動作の力や、コントローラを持っているのがどのプレーヤーかまでも検知するところを見せた。新Kinectは、心拍数も検知できるため、プレーヤーの緊張度の変化に合わせたゲームを作ることもできるという。

MicrosoftブースでのKinectのデモ

SmartGlassはダイレクトコネクションに

次世代SmartGlassのデモはひっそり行なわれていた

 また、地味ながら大きく進化したのは、スマートフォンやタブレットをXboxと連携させるSmartGlass技術だ。SmartGlassは、Xbox 360からXbox Oneで、アーキテクチャを変えた。タブレットなどのデバイスとゲーム機を連携させるというポイントは同じだが、仕組みは全く異なる。

 Xbox 360では、スマートフォンやタブレットのSmartGlassアプリからゲーム機へのアクセスには、クラウド側のサーバーを経由していた。具体的には、端末側とXboxを連携させるコミュニケーションサーバーと、端末側に必要となるデータをホストするメタデータストレージサーバーで構成されている。端末とXbox 360は、Wi-Fiでも3G/4Gでも、サーバーを経由する。SmartGlass端末をコントローラとして使う場合は、サーバーを経由して端末から制御コマンドがXboxに送られる。SmartGlass端末側でアプリを走らせる場合は、メタデータストレージからアプリが端末にダウンロードされる。

 それに対して、Xbox OneのSmartGlassでは、アーキテクチャが根本から変わり、Xbox Oneとスマートデバイスのダイレクトコネクトが基本となった。Wi-Fi経由では端末が直接Xbox Oneにアクセスし、WAN経由ではサーバーを経由する。Xbox One側がサーバーとなり、マルチキャストすることで最大16のデバイスをサポートする。Wi-Fi環境では、端末側に必要なアプリやデータも、Xbox Oneから送られると見られる。

 ダイレクトコネクションになったことで、SmartGlassにはレイテンシが短縮され、よりタイミングクリティカルな連携操作が容易になった。ゲームとのディープな連携が可能となるため、対応ベンダーが増えるとMicrosoftは予想している。また、その一方で、サーバー経由のSmartGlassのサービスも充実させる。

エクスクルーシブタイトルが並ぶ新世代ゲーム機

 今回、MicrosoftとSCEAは、E3会場ではひたすらタイトルで押していた。両社は、E3のカンファレンスでも同様に、タイトルで攻めた。Xbox OneよりPS4の方がGPUスペックは高いにも関わらず、SCEAもスペック競争には持ち込まず、タイトルの充実をひたすら謳った。ハードウェアでの差別化よりタイトルでの差別化という姿勢が目立ったのが、今回の次世代機の発表の特徴だ。

 かつてSCE/SCEAが得意とした、スペック表のスライドは、今回は1枚もなく、生産計画のチャートもなく、タイトル一辺倒に近いカンファレンスだった。ハードウェアに対する漠とした期待でゲーム機を買わせるのではなく、リアルなタイトルで買わせようという戦略転換に見える。それだけ、ハードウェア面で、コモディティデバイスとの差別化が難しくなっていることを反映している。

 そして、両社がカンファレンスで強調したのは、次世代機のエクスクルーシブ(専用)タイトルの充実だった。タイトルでの戦いの比重が高くなれば、エクスクルーシブなタイトルを充実させなければならない。ところが、PS3/Xbox 360のローンチ時と今では、タイトルの状況が大きく変わってしまっている。

 AAAタイトルと呼ばれる、ビッグタイトルの開発ラインは7年前と比べると縮小してしまっている。売れ筋タイトルが固定化される傾向が強く、ゲームベンダーが冒険しにくい状況にある。そして、力のあるゲームベンダーは、ビッグタイトルについては、潜在的な市場を大きくできるようにマルチプラットフォームで出したい。そのため、今は、サードパーティのビッグタイトルの多くは、PCと複数のゲーム機をサポートするマルチプラットフォームになってしまっている。

 ところが、ゲーム機ベンダーの方はタイトル戦争で、自社が独占する(エクスクルーシブ)のタイトルを厚くしたい。そこで、ゲーム機メーカーとゲームベンダーのせめぎ合いになる。妥協が行なわれ、エクスクルーシブと言っても時間制限のものや、同じ世代のゲーム機には出さないといったパターンが出てくる。今回のマルチプラットフォーム展開は、PS4とXbox One、PCだけでなく、PS3とXbox 360にも展開するケースが多い。そのため、違う世代のゲーム機は認めるといったパターンもありうる。各社がエクスクルーシブと言っても、その数字の中身は、実は複雑だ。

 それよりも重要なのは、ローンチ(同時発売)タイトルやエクスクルーシブといった言葉が、ゲーム業界にとっては別な意味を持っていることだ。そうした契約は特殊になり、場合によってはゲーム機ベンダー側にコストがかかる場合があるためだと、あるゲーム業界関係者は言う。今回、タイトル獲得戦争を繰り広げていることで、MicrosoftとSCEはある程度出血しながら戦っている可能性がある。

 E3では、ハードウェアは前面に押し出さなかったSCEとMicrosoftだが、今回の展示では、両者の設計思想の違いが鮮明に出た。次回の記事では、なぜハードウェアが似通ったのか、そして、似ていながら大きな違いもあるのかをレポートしたい。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail