復興庁職員のTwitter暴言騒動、報道に問題はなかったか
藤代 裕之 | ジャーナリスト
改めて感じた新聞1面の威力
「左翼のクソどもから、ひたすら罵声を浴びせられる集会に出席」。復興庁職員がTwitterの匿名アカウントで暴言ツイートをしていた問題は、市民メディアのOurPlanetTVが報じ、毎日新聞が13日の1面で取り上げ、大きな話題となった。その日のうちに根本匠復興相が謝罪、職員は被災者支援の担当から外され更迭された。改めてメディアの力を感じた出来事でもあった。被災者の気持ちをないがしろにする暴言は許されるべきではないが、一連の報道にはいくつかの問題点があるのではないかと感じている。
- 被災者や議員へ中傷ツイート連発~復興庁「支援法」担当(OurPlanetTV)
- 復興庁 幹部ツイッター暴言 「左翼クソ」「懸案曖昧に」(毎日jp)
まず、職員は参事官として超党派の議員立法で昨年6月に成立した「子ども・被災者生活支援法」に基づき、具体的な支援策を定める基本方針のとりまとめを担当していたという。OurPlanetTVは「この問題に対する水野氏の不真面目な態度が表れている」、毎日jpも「案件曖昧に」とツイートから見出しに取っているが、実際のところ仕事ぶりがどうだったのか記事を読んでもよくわからない。ツイートだけでなく、職員が適切な仕事の進め方をしていたか取材すべきだろうし、復興庁も更迭する前に確認しても良かったのではないか。
報道はバランスを欠いているのでは?
OurPlanetTVは消された職員のツイートをtogetterにまとめている。
- 復興庁 水野靖久参事官の主なツイート(togetter)
このまとめへのTwitterの反応の中には「自らの立場を考えない稚拙な発言」という批判だけでなく、「どこが問題なのか分からない」「激務に頭が下がる」という意見や市民団体や国会議員の問題を指摘する意見もある。職員のツイートは、質問時の通告が遅い国会議員がいるために深夜まで待機する官僚の日常や、被災地では様々なステークホルダーが意見を述べるために、難しい調整が必要となっている現状を浮き彫りにした貴重な「肉声」という見方もできるのではないか。
しかし、OurPlanetTVや毎日新聞の記事には、実際の仕事がどうだったかや国会の問題、被災地の難しさという視点は見られない。それはメディアが「子ども・被災者生活支援法」を成立させたいという立場に立っているからと考えられる。復興庁職員の暴言ツイートを報じた毎日新聞に掲載された識者コメントは以下のようなものだ。
会った事があると書かれているが、島薗氏は問題となった集会を主催している市民団体などがつくる「市民・専門家委員会」の委員であり、「県民健康管理調査の問題点」とのタイトルで報告もしている、当事者そのものだ。
記事を執筆した毎日新聞の記者は、福島県が実施した甲状腺検査に関する報道で、事実に反していると抗議と訂正を求められている。
- 平成25年4月22日の毎日新聞報道について(ふくしま国際医療科学センター、放射線医学県民健康管理センター)
検査についても色々な見方があり、毎日新聞かセンターのどちらが正しいかは分からないが、ここで指摘しておきたいのは記事を執筆した記者がどのような立場に立っているか、だ。どうも特定の立場に偏り、バランスを欠いているように思う。
身元確認の情報公開請求
匿名でツイートしている職員を追求する取材手法も問題があるのではないか。
アカウントが本人かどうかを確認するためOurPlanetTVは、復興庁に出張記録の情報公開請求を行っている。
職員は最初は実名で、途中から匿名に変更していた。愚痴をツイートしたければidを変更すべきだっただろうし、プロフィールに「国家公務員」と書くべきではなかったという脇の甘さはあるが、ログと公務スケジュールの照合が行われれば、完全な匿名アカウントであっても、厳しい状況に追い込まれるだろう。
「失言」や「暴言」の範囲はあらかじめ定義されているわけではない。情報の受け手が問題だと思えば批判を受けることもあり得る。いくら慎重に言葉を選んでいても、何が問題になるかは情報を発信した時点では判断できない。例え日常的なことを書いていても突っ込む事はできる。「ラーメンのことばかり書き込んでいて、職務への真剣さが足りない」という批判もあり得るからだ。
ソーシャルメディアにはログが残って行く。気に入らない公務員がいたら、ツイッターのログをとり、ある時点で情報公開請求して報道すればいいということになる。これでは恐ろしくて公務員をはじめ、議員や教員など突っ込みを受けやすい職業につく人はソーシャルメディアを利用する事は出来ないだろう。
1面トップで報じた毎日新聞の小川一東京本社編集編成局長は、こんなツイートをしている。