エピローグ・ローズ〜いんたぁみっしょん(1)








 ちゅん。


 ちゅん、ちゅん。


「ん……」

 小鳥の声とともに、障子越しの柔かな朝日が部屋をゆっくりと染め上げていく。瞼越しに強まる眩しさに眠りを妨げられたシモンは、ゆっくりとその目を開ける。

「ふぁあああ。ん〜。よく寝た」

 欠伸をしながら、シモンは体をよじった。



















 
 ローズをなんと陥落させたシモンは、その後文字どおり精魂尽き果てた体に鞭打って我がアジトである貧乏長屋にたどり着くと、寝巻き代わりのちゃんちゃんこを羽織って煎餅布団を敷くや否や、泥のように眠りこんでしまった。





「……しかし……」

 シモンがその煎餅布団の右を見やれば、自分の右腕にしがみつくようにベリル(幼児体)が眠っている。

「……いつの間に入ってきてるんだ、こいつは……」

 シモンがベリルの髪の毛を撫でると、「んん……」と鼻にかかった声を出しながら、ベリルはシモンの体温を感じようとするかのように小さな身体を押し付けてくる。あどけない寝顔を眺めつつ、幼い子供特有の柔らかく細い髪の毛の手触りと滑らかな肌触りをシモンが楽しんでいると、もう一方の腕に弾力のある柔からな塊が押し付けられる。

「い?」
 シモンが首を左にねじると、そこには透けるように白い顔をした銀髪の少女がシモンの腕にその体躯と脚を絡ませるようにして眠っていた。フィロメアだ。
 いつものように黒と白を基調としたゴシック風のワンピースを着ているのだが、就寝用なのか普段よりその装飾は質素なものとなっており、さらに薄手のため、彼女の身体のフォルムが如実に現れることとなる。
 勢い、フィロメアの形の良い胸の膨らみと短いスカートから見える艶かしい太腿に思わず目を奪われつつも、シモンは咳払いを軽くして、
「……おい、フィロメア」
「…………」
 しかし、フィロメアは薄目を開けると、そのまま目を閉じる。
「こら、狸寝入りするんじゃない!」
「……フィロメア、たぬきじゃないよ。…………フィロメアは、フィロメアだもの……」
「………………いや、そんな返事できること自体が既に狸寝入りの証明であってだな……」
 シモンが講釈を垂れようとすると、

 むにゅ。

 今度は逆サイドから、無言のまま、体が押し付けられてくる。
「ぬぬぬ?」
 シモンが更に反対に体をよじると、ベリルがさっきよりも腕に体を密着させてくる。あたかも、昔流行しただ○こちゃん人形のようだ。
「……をい、ベリル、お前も起きてるんだろ」
「…………んぁんぁんぁー」
「いや、『起きてないもん』だなんて言ったってしゃべってる段階でだめだっつーの」
「……んぁ?」
「『なんでわかったの?』とか言ってるんじゃない。ほら、子供は風の子元気な子、早寝早起き朝ごはん!」
 教育番組のお兄さんよろしく、シモンは二人を引っ張り起こす。

 と。

 ドン。
 ドンドン。

 安普請のドアの戸を叩く音に、部屋の3人の視線が集中する。


 一瞬シモンは逡巡する。


 もとより逃亡中の身の自分のところを訪ねてくるニンゲンなど、よからぬ輩ばかりに決まっている。
 とはいえ、ローズ、シルビア、フィロメアを陥落せしめた今、敵対するジンブツがこのアジトを訪ねてくるとも思えない。
 強いて言えば、カーネリア、あとはヒルダか。確かにこの二人がセットで来た場合、今の面子では荷が重いが……だが、あの二人がこのアジトを知っているだろうか?

 真剣な表情になって考え込むシモンの様子に異変を気取ったか、さっきまでシモンにじゃれついていたベリルは、彼の寝間着兼部屋着のちゃんちゃんこの裾をぎゅっと掴み直し、その一方フィロメアは、黒い薄手のスカートに仕込んであった銀色のナイフを取り出し、半身のままゆっくりとドアに歩みよろうとする。

「フィロメア、止まれ。俺が出る」
 ちらり、とフィロメアはシモンの方を無言で見やる。『パパには無理じゃないの?』と言わんばかりの視線が痛い。

 しかしシモンも漢の端くれとばかりに、
「……いや、そんなに疑わしそうな目で見てくれるなよ。一応ここは俺の家だ。もし訪ねてきたのが普通の人だったら、朝っぱらからお前みたいな綺麗な外国の女の子が出てきたらかえって怪しまれるだろ?というよりはっきりいってそっちのほうが1万倍はヤバイ。間違いなく猥褻目的誘拐の嫌疑でケーサツ呼ばれるからな。だから俺が開けるから、お前はいざというときのために後方支援してくれ」
 ドアの外に聞かれぬよう小声でしゃべるシモンの言葉に、フィロメアはこくりと頷き、シモンにドアへの道を譲る。


 ドンドンドンドンドン。


 さっきより一層激しくなった戸を叩く音に、シモンは「はい、はい、ただいま」と軽いノリで返事をしながらも、その一方愛用の警棒を油断なく後ろ手に構えつつ、ドアの鍵を開ける。

 と、ドアが開くなり、黒い影がシモンに襲い掛かる。

「ぐあ!!!」
 物理障壁を発動させる間もなく、そのままシモンはその影に押し倒され、畳に押し付けられる。したたかに背中を強打して息を詰まらせるシモンを、その影は尋常でない腕力でクビを締め上げてくる。
 逆光の中、影となってその刺客の顔は見えないが、ともかく反撃を試みようと慌てて警棒を握りなおそうとして、シモンはその手がカラであることに気づく。どうやら襲い掛かられた勢いで手からすっぽり抜けてどこかに転がってしまったらしい。

「ぐぐぐ……」
 まともな抵抗もできずにじたばたしているうちに、シモンの脳はみるみるうちに酸素不足に陥り、意識が遠のいていく。



 殺人人形と化した少女のナイフも、洗脳のプロフェッショナルの策謀も、女総司令との激闘も、なんとか潜り抜けて生き残ってきたにも関わらず、その果実も碌に享受せぬまま名も知れぬ賊にクビを締められ絶命とは、やはり好事魔多しというべきか。ああ、哀れなりシモン、げに無常なるは世の理。「気をつけろ 注意一秒怪我一生 それにつけても金のほしさよ」――



 と、嘆じて辞世の句を詠みかけたシモンの薄れゆく意識の中。




        「シモン!シモン!探したんだぞ!」



 聞き覚えのあるその声音にシモンが最後の意識を総動員して顔を持ち上げると、ぼやけた視界の中、何か髪の房のようなものが二つ揺れている。
 目をしばし瞬きさせ、ようやく焦点が合ってくるシモンの目の前には、よく見知った上司の顔があった。

「サ、サファイア……様?」
 シモンの声に、サファイアは、
「シモン、シモン、無事でよかった……お前が居なくなったら私はどうすればいいのだ……」
と、いいながら、更にシモンのクビを強く締めつつ、その胸の中でえぐえぐすすり泣く。
「わ”、わ”か”りまし”たから、サファイア様、ぐるじいから、ぐるじいから首はもう、もうやめて……」

 指をくわえて目をぱちくりさせるベリル。ナイフを構えつつも、斬りつけるタイミングを失して珍しく当惑した表情を浮かべるフィロメアの唖然呆然の中、ただサファイアの啜り泣きだけが、床をタップしながら泡を吹くシモンが気を失うまで部屋の中で響き続けるのであった。






 所を変えてその日の朝。都心のとあるウィークリーマンション。

 ウィークリーマンションとはいえ、ちょっとしたホテルよりよほど高級感のあるそのビルは、海外からの長期滞在のビジネスマンが使うことが多いせいか、ロビーでもエレベーターでもこのクニのネイティブであるニホンジンよりもガイコクジンの姿を目にする頻度の方が多い。それも仕立てのよさそうなスーツを着たニンゲンか、あるいはガタイのいいいかついSPのような出で立ちのニンゲンばかりだ。

 その最上階。ワンフロアが全て貸切になっているその一角で。



 ぴんぽーん。


 外見の豪華さと裏腹に意外に平凡なインターフォンの音に、怪訝そうな表情でドアを開けたのは、金色の長い髪を肩に垂らし、白いワイシャツを軽く羽織っただけのいでたちのシルビアだった。シャツの裾から伸びる透き通るような白い太腿が眩しい。

 無論、チェーンもかけずにシルビアがそのような無防備な姿で出てきたのはほかでもない。
 ドアカメラに写っていたのがシモンだったからだ。

 シモンを目の前に、シルビアは深々と頭を下げる。無論、シモンに洗脳される前には決してありえない振る舞いだ。

「シモン様。おはようございます。昨日はよく眠れましたでしょうか?」
「ああ、それなりには」
「それはよかった。昨日はだいぶお疲れのようでしたから……。それはともかく、どうしたのですか?こんな朝早くこんなところにご足労頂いて」
「いや、娘が出歩いてたので保護者に返そうと思ってな」

 そういうとシモンは後ろに隠れていたフィロメアをシルビアの目の前に突き出す。
 いつもどおりの無表情さの中にも、わずかに憮然とした表情を浮かべているように見えるフィロメアの髪の毛を梳かしながら、シルビアは少し困ったように、
「まぁ。でもフィロメアはシモン様と一緒に寝たいといったんで行かせたんですけど……何か粗相をいたしましたでしょうか」
「いや、別に粗相はなかったが、あんな貧乏長屋にこんな娘が居たら目立ちすぎるって。ようやくベリルと俺が生活の風景の一部として溶け込みかけてきたのに……。ともかく、それは本題ではない。本題はこっちだ」
 そういうとシモンは後ろに隠れていたもう一人の人物、サファイアを見せ付ける。
「これはどういうことだ?」
 そこにいるのは、シモンの首にすがりつくように抱きついて離れようとしない、シモンに負ぶわれたまま眠っているサファイアの姿だった。







 こぽこぽこぽ。

 シルビアの部屋に、挽きたてのコーヒーの香りが立ち込める。
 フィロメアにはココアが、ベリルにはミルクセーキが、シモンとシルビアにはブラックコーヒーがそれぞれ振舞われる中、相変わらずサファイアはシモンのクビをロックしたまま眠っている。熊のぬいぐるみの形をしたリュックサックがあるが、ある意味人型リュックサックをしょっている状態のまま、シモンは床に座り込んでいる。

「何を聞いても要領を得ない。『シモンが居なくては私は生きていけない』とか『なんで私に断りも無くいなくなったんだ』とか『お前を殺して私も死ぬ』とか……、あとは泣いたり頬擦りしたりぎゅうぎゅう抱きしめてきたり……何が何やらわからんぞ」
「……それはわかりましたが、なぜ、私のところにお訪ねに?」
「フィロメアが言ってたんだ。『多分シルビア様の暗示のせいだ』とな」

 その言葉にシルビアは少し困ったような表情を浮かべる。

「……暗示?私が、サファイア様にですか?……いえ、そのようなことは……」
「……ママ。憶えてる?パパがママを洗脳する前にママが言ってたこと。サファイア様にママがしようとしてたこと。パパも思い出して」
 フィロメアの言葉に、シルビアとシモンはそれぞれ記憶を掘り起こそうと試みる。




「……シモン。最後のチャンスをあげましょう。……さっきも言ったとおり、もし貴方が私に協力してくれるなら、身の安全は保証しましょう。もちろん、モルモットとしての立場ではあるけど、寿命のある限りは平和的で健全な生活を送れるよう、食べ物と、寝床と……そうね、せっかくだからこのサファイアと『つがい』でガラス張りの檻の中で生活するのはどうかしら。貴方のことをこよなく愛するように、彼女をチューニングしてあげる。性欲の処理は彼女にしてもらうといい。ネメシスの貴族のお姫様を侍らせるだなんて、逆玉の輿としては最高ではないかしら?それにこれで三大欲が満たされるんだから、その辺を歩いている不景気な人間よりずっと素敵で満たされた生活が送れるでしょう。もちろん、子供ができたらその子達も実験……じゃなかったわね、観察の対象にしてあげるから、妊娠は心配しなくていいわ……」



「…………」
「……あ……」
「ママね、パパに洗脳される前に、もうサファイア様を洗脳装置にセットしちゃってたの。薬も注入されて、暗示もヘッドフォン経由で入れて随分時間がたってたから、サファイア様に、暗示は入ってる、と思う」

 フィロメアの言葉に、シルビアは申し訳なさそうに、
「あの……フィロメアの話、私にはその……よくわからないんです。その頃の記憶が……曖昧になっていて……」
 それはそうだろう。シルビアに対しては薬漬けにして完全にシモンに従順になるように洗脳してある。シモンに刃向かっていた頃の記憶は、現在の彼女の人格や嗜好と『矛盾』するため、記憶が曖昧になっているのだ。

「すまん、シルビア、何か覚えてないか?俺の洗脳薬を嗅がせても、サファイアは直らんのだ。もちろん俺が仕込んでたキーワードも効かなくなってる。どんな暗示を刷り込んだのか、どの薬をつかったのか。ヒントがあればなんとかなるかもしれない」

 シモンの言葉に、シルビアは少し考え込んだ後、
「……少しだけ、憶えてます」

 シルビアの説明によれば、サファイアには洗脳薬で「シモン無しでは生きられない」「シモンがお前の全てだ」というような暗示をたっぷり刷り込んだということである。
 ただ、どんな薬を使ったのかは憶えておらず、正確な暗示文や条件付けも判らず、更に解除キーを埋め込んだかどうかも不明とのことであり、薬剤投与記録や暗示誘導のログファイルを洗いざらいチェックしないと洗脳を解除することはできそうもないらしい。

「申し訳ありません。私のせいで……」
 しゅんとうなだれるシルビアだったが、気を取り直すと、早速ログのチェックに行く、と、着替えてすぐさま外出した。例の洗脳ルームに行ったのだろう。

 とりあえず吉報を待つしかないか。さめかけたコーヒーをずるる、とすするシモンだったが、その背中で、

「んん……」
 とサファイアの声。

「あ、サファイア様、お目覚めですか?」

 そのシモンの言葉に、しばし目をパチパチさせていたサファイアだったが、再びシモンに背中からぎゅっと抱きつくと、
「シモン、シモン、シモン!お前がいなくなったら私はどうすればいいんだ?御願いだから、私の傍から離れないでくれ」
 泣きそうな表情でシモンにすがり付いてくるサファイアの様子は、いつもの強気一辺倒のサファイアにいびられている身としては、少し胸のときめきを覚えなくもない。シモンはすこしシリアスな顔つきで、ニヒルに肩をすくめたりしながら、
「いやいや、サファイア様。貴方はお強い方です。私などいなくても、貴方はきっと生きていけるはずです」
 シモンが真面目腐った表情でそう言うと、サファイアは、きょとんとした表情で、
「……何を馬鹿なことを言ってる。そんなの当たり前ではないか」
「……はぁ」
「私が心配しているのは、お前が拾い食いをしたり自動車にはねられたりすることを心配しているのだ!お前みたいな不注意千万、鴨がネギをしょって砂漠の真ん中でうろついているような不注意な輩がふらふら町を歩いていたら、身ぐるみ剥がれて港に沈められてしまうぞ!ここは異星人の巣窟、言うなれば敵陣の真っ只中だぞ!そんなことも判らないのか!私の目が届く範囲に必ず居ろ!これは命令だ!!」
「そ、そんなこと言われても……子供じゃあるまいし……」
「やかましい!これは軍命だ!!違反したら軍規違反で、即、死罪だぞ!」
 言ってる事が既に支離滅裂だが、こうなるとサファイアは手がつけられないことは良く知っている。しかも自分の洗脳薬が効き目がない以上、なんとかなだめておくしかない。「わ、わかりました。然と軍命承りましたです。はい」
 シモンはややもって諦めの境地に到達すると、ぐるるとお腹が鳴る。

 考えてみれば、まだ朝食を摂っていなかった。シルビアには悪いが、とりあえず台所で食材を漁らせてもらおうか、とシモンは食事の支度をすべく立ち上がる。昨日使い果たしたスタミナを補充するためにも今日は和食で攻めたいところが、シルビアが自宅にコメを用意しているとも思えない。しかたない、プレーンオムレツをメインにしたアメリカンブレックファストでお茶を濁そうか……主夫マインドをフル回転させながらシモンが台所に向かおうとすると、矢のようなサファイアの声が飛ぶ。
「待てシモン、どこに行く?」
「いや、食事の準備をしようかと……」
 その返事に、サファイアは眦を吊り上げる。
「貴様、私の命令を聞いてなかったのか!」
「い、いや、でも、この家から出るわけではありませんし……」

 ばん、サファイアは机を叩く。

「ばか者!お前みたいなうつけが食事を作ってみろ。包丁で動脈を切った上、服に火がついて生きながら焼け死ぬに決まっておる!駄目だ駄目だ。そんなことは私が許さん!」
「……いや、今までだってサファイア様のお食事は私が作ってきたんですけど……」
 そう言ってもサファイアは頑と首を横に振るばかりだ。
「……じゃあ、誰が作るんですか?」
「むろん、私が作る」
「ぇ?」

 思わず裏声で反応してしまうシモンだったが、そんなシモンのことは知らんとばかりに、どこから取り出したか、トレードマークの青い軍服の上にひよこのアップリケのついたエプロンを着用して、サファイアはスタスタと台所に入る。

 なんだかとんでもないものが出てくるのではないかと気が気でないシモンであったが、様子を見ようと台所を覗こうとするたびにカマや包丁を投げつけられるので、ついに諦めて教育テレビのテレビ体操を見ては時間を潰す。

 時間にして数十分が経過した後、
「さぁ、シモンできたぞ、たんと食え」
 サファイアがお盆に載せてきた料理は、炭化した食パン、煮詰まったコーヒー、目玉焼きを目指したのに崩壊したと思しき焦げ目のばっちり入ったスクランブルエッグ――予想通り、曰く、形容し難いものばかりであり、なんとか食えそうなのは生のまま出された野菜とソーセージくらいである。
「い、いえ、サファイア様、私はお腹が減ってませんので、どうぞお一人でお食べくださいませ……」
「ばか者!飯を食わんで戦が出来るか!口を開け!!私が食わせてやる!」
 そう言うと、サファイアはフォークにソーセージをさしてシモンの目の前に突きつけてくる。タコさんウィンナーを目指して失敗したタコ足もどきをフォークが貫いている様がポセイドンの銛で貫かれたクラーケンのようで哀れを誘う。

 シモンは、覚悟を決めた。



 ……。
 …………。
 ………………。






 嵐のような食事の後、サファイアは洗い場でハミングしながら食器を洗っている。
 リビングに取り残されテーブルに突っ伏したシモンは、そのままの体勢で、
「フィロメア、ベリル、いるか?」
「……うん」
「んぁー」
 シモンの声に、どこからともなく二人が現れる。
「……お前ら卑怯だぞ。なんで俺があの悶絶料理を一人で食さねばならんのだ。苦しみを分かち合うのが家族ってもんじゃないのか?」
「…………子供に美味しいご飯食べさせるのが、パパの役目。美味しくない料理食べさせるの、違うと思う」
「んぁんぁんぁ」
 フィロメアの言葉にベリルはぶんぶん頷く。

 性についてはシモンに寛容な幼年組も、食については厳しいらしい。
 改めて、食い物の恨みは恐ろしいと身をもって知るシモンであった。










 ともあれ、シルビアが解決策を持ってくるまで、なんとか耐え忍ぶしかない。そう思って、空部屋―シルビアの借りた部屋は一人で住むにはサイズが大きく、使われていないベッドルームがある―のベッドでもたれた胃を休めるためシモンが寝転がっていると、サファイアがやってくる。


「どうした、シモン」
 さすがにさっきの料理で胃がおかしくて……とはいえず、とっさに、
「いや、その、ちょっと筋肉痛で……」
 思わず口を押さえたものの、既に言葉は取り返しがつかない。途端、サファイアの目が光る。
「なに!それは危険ではないか!わかった、私が直してやろう」
「いや、そんな腕をぽきぽき鳴らして迫られても……」
「やかましい、そこに伏せろ!」
「は、はい!」
 下っ端下士官の悲しさか、つい軍隊口調で怒鳴られると反射的に動いてしまう。シモンがサファイアに言われるままベッドにうつぶせになると、シモンの背中の上にブーツを脱いだサファイアが乗っかり、シモンの肩を揉み始める。

「お……」
「どうした、シモン、痛むのか?」
「い、いえ、気持ちがいいです」
「そうか、それはよかった。もっと楽にしていいぞ」
 ツボを心得たサファイアのマッサージに、シモンは少し緊張を解く。
 肩、腕、腰、背筋……。
 サファイアの指がシモンの身体を這い回り、筋肉をほぐしていく。
 意外にも心得があるのか、サファイアの手つきは慣れたものだった。少なくとも料理のような警戒は必要なさそうだ。
 だんだんリラックスしてきて余裕ができてくると、サファイアのお尻や太腿が、シモンの背中や太腿にいろんな形で接触しているのに気づく。
 今日のサファイアは青の軍服に白いブラウス、腕まで包む白いサテン地の手袋、そして青いプリーツスカートに黒のストッキングという出で立ちだ。シモンの背中にまたがれば、当然そのスカートの中の臀部とすべすべとしたストッキングに包まれた太腿がシモンの背中や直接当たることになる。
 その感触に、思わずシモンのイチモツが勃ちあがりつつあるところに、
「よし、じゃあ仰向けになれ」
「は?」
「聞こえなかったのか、背中は終り。次は仰向けだ。ほら、早くしろ!」
 そう言うと、サファイアはシモンの身体をひっくりかえす。

 仰向けになったシモンの股間は、スラックスの上からもありありと隆起しているのがわかる。
「……」
「…………」
 沈黙が流れる中、サファイアはマジマジとシモンの屹立した部分を観察すると、指を指し、
「シモン、これはどうなってるのだ?腫れてるのか?」
「え、ええと、その……」
 まさか貴女の太腿の肌触りで勃起してしまいました、とは言えず、シモンがもにょもにょしていると、サファイアは返事を待たずシモンのベルトをはずそうとする。
「ちょ、ちょ、ちょ、サファイア様、何をするのですか?」
「決まっておろう、確認するのだ。何か異常事態が起きているのではないか?部下の異変があれば確認するのは上司の務めだ」
「て、そんなことは、ちょっと、大丈夫です、大丈夫ですって、きゃぁ、あーーれーーーーーーーーーーーー」
 お代官様に腰帯を解かれてくるくる回る時代劇の女性よろしく、スラックスとトランクスをズリ下ろされたシモンが悲鳴をあげると、サファイアの眼前にシモンの隆々と勃起した肉棒が突き出される。
「ほら、何が大丈夫だ!こんなにも腫れているではないか!何か悪いものを食ったのか?それとも汚い手でいじったのではないか?」
 そう言うと、サファイアはサテン地の白い手袋越しにシモンの肉棒を触る。
「うぁ……」
 そのしっとりとした感触に、シモンが思わずうめくと、それを苦しみと取ったのか、サファイアは心配そうに、
「だ、大丈夫か、シモン、痛むか?」
 さわさわと撫でながら、サファイアは心底心配そうな表情を浮かべている。
「さ、サファイア様。そんな汚いもの触ることはありませんって」
「何を言っておる!それはともかく、これは何だ?私の身体にはこんなものは無いぞ?」
 そういいながら、サファイアは興味津々という体でシモンの陰茎を撫で回している。
「え……っと……そのぅ……」
 暗示の副作用だろうか。どうやらサファイアには勃起が生理現象であるという知識が、いや、そもそも『陰茎』が何たるか、という知識が欠落しているらしい。
「と、ともかく、大丈夫です。ほうっておけば直りますから、どうか放置していただければ……」
 シモンの言葉にサファイアはクビを振る。
「ばか者!こんなに鬱血して赤黒くなっていて、何が大丈夫だ!このままだと壊死して切り落とさねばならなくなるぞ!一刻も早く直さねば……いや、むしろ切り落とした方が安全かも……」
「ちょ、ちょ、ご無体な。切り落とすのはやめてくださいませ」
 腰からナイフを取り出そうとしたサファイアをシモンは慌てて止める。
「ではどうすれば直るのだ?」
 シモンもやむを得ず、『解決法』を教える。
「えっと……その……やさしくしごいていただければ……多分、悪い汁が出て縮むのではないかと……」
「そうか、わかった。私に任せておけ」
 そういうと、サファイアはゆっくりとシモンの茎を指でつつっと撫ぜて上下にしごき始める。
「これでいいのか?」
「ええ、そのまま、そっと両手で包み込むようにして上下に動かしてください」
「うむ」
 シモンに言われるがまま、サファイアは手でシモンのモノを刺激していく。柔らかな指の感触に、シモンの陰茎はますます滾っていく。
「お、おい、これ、びくびくいっているぞ。本当にこれで直るのか?さっきより大きくなってる気がするぞ?」
「そ、それは途中段階ではどうしてもそうなるものです。気にせず続けてください……」
 そうこうしているうちに、亀頭の先、鈴口から、半透明のカウパーが染み出してくる。
「シモン、何か出てきたぞ?膿か?」
「え、まあ。似たようなもので……」
 サファイアはそのシモンの鈴口に顔をよせ、くんくんとにおいを嗅いでいたが、やがてちろっと舌を出して、その先走り汁を舐め始めた。
「うぁ……サファイア様、それは……」
「ん……シモン……れろ……これが毒になってるのなら……ちゅる……吸い出さねばならんだろう……」
 サファイアはそう言うと、紅い唇を直にシモンの亀頭につけて、ちゅるちゅると音を立てて吸っている。
「う……変わった……あじ……ちゅる……がするぞ…………」
「サ、サファイア様、そこまでしてもらわなくても……」
 シモンが上ずった声を出しながら腰を引こうとするも、サファイアはシモンの脈動する茎から手を離そうとせず、さらに、舌先全体で亀頭を嘗め回し始める。
「そもそも……ちゅぷ……お前がここを不潔にしているから……れろ……悪いのだろう……ちゅぷ……」
 サファイアはそういいながら、丹念にシモンの陰茎を嘗め回していく。

 いつしか、サファイアの顔は上気して、頬は紅く染まっている。その目はとろんと熱病にかかったように靄がかかってきている。舌先の動きは、陰茎や勃起がなんたるかを知らない人間の動きではない。おそらく行動記憶はそのまま残っているのだろう。過去シモンにさんざん調教されたフェラチオの技術が活用され、シモンは見る見るうちに上り詰めていく。

「さ、サファイア様、出ますから、どうかよけてください!」
「な。何を言っているのだ?んんん!!!」
 シモンはサファイアの顔先から陰茎をどかそうとするものの、サファイアは手を離そうとせず、相変わらず舐め続け、手はシモンの肉棒をしごき続ける。そうこうしているうちにシモンは限界に達してついに怒張が暴発し、白い粘つくザーメンがサファイアの端正な顔に直撃した。
「な……あ……」
「さ、サファイア様、申し訳ありません。ティッシュティッシュ……」
 シモンがティッシュの箱を探している間、サファイアは呆然としたまま、湯気が立つような熱を孕んだシモンの精液を手で拭う。
「ん……うみが……いっぱい……出た……」
 しばらく彼女はそれをしげしげと観察していたが、やがて、ねっとりとした精液でねばつく指を口にもっていき、その白濁を舐め摂りはじめる。
「ん……毒……綺麗にしないと……また……ばいきんで……一杯に……なってしまう……」
 サファイアは虚ろな目をしたまま、シモンがティッシュを渡そうとしているにもかかわらず、自分の顔にかかったザーメンを全て手で拭うと、舐めて飲み干してしまった。

「サファイア様、あの、すみません。あのようなものをかけてしまって……お体に悪いのではないかと……」
「ん……気にするな……部下の体調管理は……私の役割だ……お前が死んだら……私は困るから……これくらい……当たり前だ……」
 そういいながら、とろんとした表情でぼんやり答えるサファイア。
 
 そんなサファイアの様相に、シモンのいたずら心がむくむくと湧き上がってくる。

「さ、サファイア様。そのぅ……私の足の指もですね。どうもばい菌が入ったのか、痛むのですが……」
「何?それはまずかろう……」
「その……もしよろしければ、私の足の指も、同じようにサファイア様のお口で綺麗にしてもらえませんか?」
 そう言うと、シモンはサファイアの目の前に足を突き出す。
 
 普段だったら「たわけもの!」と一喝される無礼な振る舞いであろうが、サファイアは熱に浮かされたようにそのシモンの足をみやると、壊れ物を預かるかのようにうやうやしくその足を手で受け、
「わ、わかった、綺麗にする……んん……ちゅぷ……」
 サファイアはそう言うと、シモンの靴下を脱がし、その足指を丁寧にしゃぶりはじめる。ぬらぬらとした唾液がシモンの足指にあたかも膏薬のように塗布されていく。
「ん……シモンの……足……へんな味……ばい菌が一杯……んん……ちゅ……れろ……」
「ええ、昨日お風呂に張っていませんからねえ……」
「ん……だめであろう。きちんと入らねば……だからお前はわたしが居ないと駄目なのだ……んちゅ……ちゅぷ……」
 髪の毛をかきあげながら、サファイアは懸命にシモンの足指を舐める。小指から親指まで、爪の間までちろちろと舌先で丁寧に舐める様は、まるで獣の親が生まれたばかりのわが子を舌で綺麗にするかのごとくである。
 そのままサファイアはシモンの毛脛を舐めあげ、再び股間に視線をやると、先ほどの手淫、フェラチオで鎮めた筈の陰茎が、またしても勃起している。
「あ……また膨らんでる……それに……すごい……におい……不潔だぞ……シモン……」
「ええ、ひょっとしたらこのまま腐ってしまうかもしれませんね」
「ダメ……シモン……私が……綺麗にする……」
 そのままサファイアはシモンの肉棒にちろちろと舌を舐めそわす。
「はぁ……シモンのにおい……」
 サファイアは陶然とした表情でそのまま舐めていく。玉袋の皺、肉棒の筋、へばりついた陰毛、その全てから雑菌を取り払い清めようとするその姿にシモンの肉棒はさらに滾りつく。
 そうこうしているうちに、シモンの肉棒の先から再びカウパーが染み出してくる。
「ああ……こんなものまで……すぐにとらないとばい菌が入ってしまいます、サファイアさま」
「あ……」
 シモンの誘導に、サファイアは虚ろな表情のままその可憐といっていい唇で凶悪なフォルムの亀頭と接吻をする。
 シモンはそんな懸命なサファイアの股に、さきほどサファイアに清められた足の親指をこすりつけ、ショーツの上から肉芽をいじり始める。
「ひゃ!シモン、貴様何をする!」
「いえ、先ほどサファイア様に清めていただいたところが湿ってしまっているので、サファイア様の清潔なお体で拭かせていただこうと思いまして、ね。このままだとばい菌がまた増えてしまうのですよ。よろしいですよね?サファイアさま。何せ、サファイア様のお体は……」
 シモンはサファイアの瞳を覗き込むようにして、
「私を清めるためにあるのですから。そうでしょう?」
 そのシモンの視線に、サファイアの瞳の色はどんよりと曇っていく。彼女の理性・常識が、シモンの言葉でたちまち蒸発し、塗り替えられた「常識」と肉欲に瞳から光が喪われる。
「……ああ……私の体は……シモンを清めるためのモノだ……もっと……もっと私の体を使うがいい……シモン……」
 そういうとサファイアは自分の肉芽をショーツ越しにシモンの足指に擦り付けながら、その獰猛な鎌首を喉奥まで呑み込み、シャフトし始める。さっきの舌先と唇だけの柔らかなマッサージとはうって変わって、舌全体、歯茎、頬の裏側、喉奥の粘膜……全てを投入しての動きに、シモンはたちまち上り詰めていく。

 じゅぷ、じゅぷ、じゅぷ、じゅぷ、じゅ、じゅ、じゅ、じゅ・・・。

 シモンも彼女の激しい奉仕に呼応するように腰を積極的に動かしてサファイアの口腔の中を削るように肉棒を動かす。カウパーと唾液でどろどろに煮えたぎったサファイアの口内はシモンの肉棒の蹂躙されるがままになるが、サファイアはひたすらその舌でシモンの剛直をさすり、頬をすぼめてその柔らかな頬肉で圧迫し、脈打つ茎を唇で締め付け、喉奥で亀頭を刺激する。

 ついにシモンの我慢も限界に達した。
「・……出ます、サファイア様、お許しを」
「じゅぷ、じゅ……んあ……ああああ!!!」
 
 どくどくどく……どくどくどく……。

 白い大量の精がサファイアの喉奥に迸り、腔内に溢れんばかりになる。

 んく……んく……ごく……ごく……。

 サファイアはそのむせ返るような濃厚な液を喉を鳴らして飲み干していく。
 
「ふぅ……ありがとうございます。サファイアさま。おかげで腫れも身体の痛みも全て取れました」
 サファイアは虚ろな目をシモンに向けながら、
「……ぅ……そ、そうか……それはよかった……これからは……体調管理に気をつけろよ……お前の身体はお前だけのものではないのだからな……これは命令だぞ……シモン」
「は、仰せのままに」
 唇からつっと精液が垂れ落ちるサファイアの姿を見ながら、シモンはかしこまって敬礼をするのであった。







 


 ばたばたとしたものの、すっきりと抜いてもらったこともあり、満足感のなか、シルビアと連絡を取るためにシモンがベッドルームから立ち去ろうとすると、隣接する洗面所で、服装を整え、口をゆすいできたサファイアが、シモンを呼び止める。

「シ、シモン……待て」
「は?」
 サファイアは、真顔で、シモンに質問をぶつける。
「お前は、ネメシス同士が子供をどうやったら作れるのか、知ってるか?」
「は?ま、まあそれくらいの心得は……」
「どうやるのだ?私は知らないのだ。教えろ」
「え”。その。それは……なんというか、コオノトリとかキャベツ畑が……」
「シモン、これは軍命だぞ。軍紀違反は……」
 ナイフをちらつかせるサファイアの前に、シモンは直立不動で敬礼し、
「は、はい、わかりました!……えっと……それは、その…………」
 やや困ったものの、シモンはかいつまんで、陰茎を膣に挿入し、刺激され射精が行われることで精子が卵巣内の卵子に到達して受胎が起こる事実関係を、なるべく淡々と説明する
 その説明を黙って聞いていたサファイアであったが、
「……待て、シモン。じゃあ、さっきの膿がどうのこうのというのは嘘だったのか?」
 じろっと睨むサファイア。
「い、いや、あれはその、ええと、話の都合で、でも、やっぱりたまりすぎると、身体に悪いという点ではまあ膿みたいなもんでして……」
 鉄拳が飛んでくることを覚悟したシモンであったが、サファイアは意外にも怒ることなく、
「……まあいい。ともあれ、お前が方法を知っているので安心した」
 そうサファイアは言うと、シモンに向き直る。
「なあ、シモン。もはやこのホシには純粋なネメシスはお前と私しかいないのだぞ。このままどちらかが死んだら全滅なのだぞ?」
「え……まぁ……そういわれると……」
 確かに、若干の精子と卵子のストックはカーゴにあるものの、生身のネメシスはこの二人には違いない。ベリルは強化生命体で、生粋のネメシス人とは若干身体構造が異なり、そしてダリアは行方知れずだからだ。
「私はネメシスの将軍だ。ネメシスの血筋を絶やすことは許されない。……だ、だから……シモン……」
 サファイアはもじもじとしながらも、
「お前に……私に子を孕ませる栄誉を与えよう」
「は”?」
 あまりに予想外の申し出にシモンは仰天する。
「いや、ちょっと待ってください。えっと……そのぅ……まず、自然妊娠は母体に危険があります。それに数ヶ月母体の中で胎児を育てることになるので、女性体側は大変不便をかこつことになります。だからこそ、ネメシスは人工子宮を使ってネメシス兵を『栽培』していたのです。あと、私なんぞの貧弱な血筋の遺伝子を使うくらいなら、もっと優秀な精子のストックがあります。ですから、もし、ネメシスの血筋を気にされるのであれば、サファイアさまの卵子と、そうした優秀な精子ストックをつかって人工子宮で受精させたほうが……」
 ごちゃごちゃと理屈を並べ立て、サファイアに翻意を試みるシモンであったが、サファイアは首を横に振る。
「シモン。私はお前の上司であり、ネメシスの将軍だ。上司は部下の忠義に応えてやらねばならん。……お前はボケで間抜けでずるがしこくて手抜きで怠惰でひ弱なやつだが、それはそれとして私に今まで忠義を尽くしてくれた。そのおかげもあって、ヴァルキリーどもも我が軍靴に屈し、このチキュウもいつでも我々が蹂躙できる体勢にある……そうだったな?」
「は、はぁ。まあ、そういうことにしておきます」
「……妙にひっかかる物言いをするな、お前は」
「い、いえ、正におっしゃるとおりであります。サー!」
「まあいい。とまれ、もはや私は亡国の将軍だ。お前のこれまでの努力に応え、労おうにも、官位も、勲章も、金も、土地もやることができん。私が、今、お前にやれるのは……」
 サファイアはそう言うと、顔を朱に染め、視線を落とし、
「わ、私の身体しか、ないのだ」
 そう言うと、シモンを再び上目遣いで見つめて、
「シモン。……私の身体は、お前には価値が無いか?……ネメシスの将軍の身体を好きなように嬲り、孕ませる権利くらいでは、……お前の忠義を買うことはできんのか?」
「え、いや、そんなことしていただかなくても、その……私はいつだってサファイア様の部下でございますし……」
 忠義があるかどうかは定かではありませんが、と内心思っていたものの、さすがにそうは言えないシモンの心を見透かすように、サファイアはシモンを睨みつけ、
「嘘をつけ!お前はいつも私から逃げ出そうとしているではないか。本音は私から離れたくて離れたくてたまらないのであろう!ああ、そうだ。私はお前に今まで辛く当たってきた。愚かな指示も沢山してきたであろう。それにお前には他にいくらでも女がいる。ルピア、フィロメア、ローズ、シルビア…………だが、だが、私にはお前しかいないのだ。だから……」

 サファイアの目からぼろっと涙が流れる。

「私は……お前との子供がほしいのだ……。私の胎に……お前の種を植えてくれ……」
「えっと……」
「私は、ネメシスの将軍として、純粋なネメシスの血筋を絶やすことはできんのだ。それに、お前がどこかで野垂れ死ぬ前に……お前との仔を孕んでおけば……ネメシスの血を絶やすことも無くなる。……そして、私も……お前が仮にダリアのように居なくなったとしても、……ひょっとしたら我慢できるかもしれん…………仮に仔が出来ても、お前にほかの牝と交わるな、とは言わん。だから……頼む……」
 サファイアはシモンの手を握り締めて、自分の胸に押し当てさせる。その柔らかな感触に、――今まで何度も揉みしだいているものにも関わらず――シモンは思わずどきりとする。
「……お前は、もっとよい血筋の精子を使えばいいと言ったが、そんなどこの馬の骨かわからん奴の子供など、私は私の身体に入れたくない。私は私のことをよく知っている者との子供を、……自分の腹を痛めて産みたいのだ」
「……いや、それでも私はそれこそどこの馬の骨の尻尾の先の枝毛の虱とも知れない男ですし、サファイア様のような将軍家の方と子を為すのはあまりに恐れ多いというか……」
 散々嬲ってSEXしている割に、子供となるとびびるシモンに、サファイアは、首筋にかぶりつくように抱きしめて、キスをする。
「んん……!」
「ん……んふ……」
 1分ほどのキスの後、サファイアは上気した顔でシモンを見上げた。
 シモンも、改めてサファイアをまじまじと見詰める。
 サファイアの表情は、いつもの冷酷な将軍のものでもなければ、性欲に突き動かされた牝の表情でもなかった。血筋を守るという使命感、というものとも程遠い。

 言うなれば、永遠の孤独を恐れる少女の表情だった。

 考えてみれば、サファイアはずっと生まれながらの将軍としてちやほやされて育ってきた。我侭は何でも意のままにとおり、冷酷な采配や罰を与えてもおかまいなしであった。しかし、この惑星にきて、ヴァルキリーとの戦いの中、部下を磨耗してついには我侭を言える相手がシモン一人だけになってしまった。そんなサファイアにとって、シモンにある種の依存が発生していており、それがシルビアの洗脳で少し捻じ曲がった形で析出して……いや、ある意味、『本音』が噴き出しているのかもしれない。

 仕方なく、シモンは、サファイアの覚悟を問い始める。
「サファイア様。ネメシスが自然懐胎という手法をとらなくなった理由は母体の危険や不便のほかにも理由があります。……ネメシスの男との子を自然懐胎で孕ませると、女性は完全に受精した男の奴隷になってしまい、その弊害があまりに大きいからです」
「な……」
「要するにその男のモノになっていまうわけです。身も心も、ね。それでもよろしいですかな?サファイア様」

 シモンの言葉は若干嘘が交じっている。確かにかつてはそうした害があったが、今は薬を飲むことで回避ができるからだ。

 だが、そのシモンの言葉に、サファイアは、
「……お前は、確か、既にローズも……シルビアも……フィロメアも……ルピアも……そのようにしているのだろう?」
「そうです。サファイア様。いつも見ているでしょう。私の気の向くまま性処理させられている彼女達の姿を。ああはなりたくはないでしょう。今のは聴かなかったことにしますゆえ、そろそろ体を離してはもらえま……」
 そういいかけるシモンの唇を、サファイアはもう聞きたくないといわんばかりに塞ぐ。
 再びその長いキスの後、サファイアは、

「シモン、貴様は人の話を聞かない男だな。先に言ったはずだ。このサファイアの身体は既にお前の領土も同じぞ。主君が領土から何を搾取しようと、それは主君の意のままに決まっておる。ネメシスはそうやって今まで奪ってきたではないか。……私はネメシスの将軍だ。自らが他にしてきたことを、自分が為されるからといって拒否するような理の通らぬことは言わぬ。……シモン」
 サファイアはそういってシモンの目を見つめる。
「……私の髪の毛一本、骨の髄まで余すことなくお前のものだ。好きにするがいい」
「……わかりました」
 サファイアの覚悟に、シモンも応えることにした。







続く

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