エピローグ 〜ルピア(3)
■(15日目(続))■
シモンのDNAを調剤したカプセルを先生から貰ったその日の夜。
私とシモンは珍しく計算にてこずっていた。
「お前が計算を間違えたからだぞ」
「・・・そもそも数式1段飛ばしたペーパー渡したのは、貴方のほうです」
「・・・早く片付けよう。もう眠い」
結局お互いにぶつぶつ文句をぶつけながらも、何とか終わらせたときにもう夜も11時を回ってしまっていた。
今日はいつもよりもお母さんは早く帰ってきて、もう自分の部屋で寝ている。
私がちらりと居間の壁にかかっている時計を見ると、シモンもつられて時計を見た。
「・・・ああ、お前の母親にキスするの、忘れてたな・・・」
よっこらしょ、っと年寄りくさい掛け声を出してシモンは立ち上がる。
「あ、ちょっと待って!」
シモンが母親の寝室に向かおうとするのを私は慌てて止める。
「なんだいきなり」
突然声を荒げる私をシモンは訝しそうに見つめる。
そう・・・先生に昼間渡されたメモ書きを思い出す・・・。
『あの姑息な男のことだから、必ずしも彼のDNAが有効成分とは限らない。本当にこれが効くか試す必要あり』
・・・そのためには、彼の唾液をお母さんに飲まさないでおいて、一日過ごしても問題がないか試さなくてはいけない。だが、彼に私たちがDNAの複製に成功したことを気取られてはまずい。
だから・・・。
私は、精一杯声がひっくり返らないように努力しながら、シモンを見つめてゆっくりと、
「・・・シモン、その・・・今日は・・・私が・・・してくる・・・」
「あ?」
「・・・だから、私がシモンの・・・唾液を預かって・・・お母さんに・・・飲ませてくる・・・」
「どういう心変わりだ?」
シモンはあからさまに訝しげな表情を浮かべる。
「・・・だから・・・その・・・お母さんに、キスされたくないんです!」
「いまさら?何でまた」
私の説明にもシモンは全く納得のいかない風だ。
思わず私は声を荒げる。
「・・・じゃあ、あなた、そこのコップに吐き出しなさい!それを薄めて飲ませてくるから!」
「馬鹿言うな。俺の一日最大の楽しみを奪う気か?」
・・・やはり最低な男だ。
私は無意識のうちにぎゅっと手を握り締め、押し殺すように呟く。
「・・・・・・・だったら・・・私経由なら・・・いいでしょ?」
「・・・・・・」
「・・・それとも・・・私じゃ、駄目?」
「・・・・・・・・・」
シモンはそれには直接答えず、私の前に一歩歩みだす。
ごく。
私は唾を飲み込む。
シモンの両手が私の両肩をそっとおさえ、その目が私を捉える。
表情を消した彼の顔が近づいてきて・・・、私の唇に触れる。
「んん・・・」
柔らかくて暖かい唇の感触。私の腕は反射的にシモンの顔を抱きしめそうになって、慌ててそれをこらえる。
・・・思えば、シモンと再会したあの日、あの夜以来・・・私はお母さんとシモンを見てるだけで・・・ずっとキスしてなかったんだ・・・。
シモンの唇は丁寧に私の唇をなぞっていく。最初は上唇をついばみ、左右にゆっくりと撫でるように動いた後、下唇に移って、舌を使ってチロチロと舐める。シモンの腕が私の腰と首筋に絡みつき、シモンの身体と私の身体が密着すると、メイド服の生地を通じて、シモンの身体の温かさがじんわりと伝ってくる。
・・・駄目だ駄目だ。これはあくまでお母さんに渡す唾液を彼から預かるキス。そのふりをするためのキス。彼を騙すためのキス。
だから感じちゃ・・・だめ・・・なのに・・・。
シモンの舌が・・・私の中にゆっくりと入ってきて・・・挨拶をするように私の舌に触れてきて・・・。
ちゅぷ・・・。
シモンの唾の味と匂い・・・。舌の柔らかさ・・・。
前にキスしたときには・・・ほとんど味わう余裕もなかったけど・・・。
シモンの舌が私の舌に触れるたびに・・・私の頭の中は真っ白になって・・・。
「!!」
唐突にシモンの手が私の胸に触れてくる。ゆっくりと、私の柔らかさを確かめるかのようにゆっくりと・・・。
・・・メイド服の上からだから・・・もどかしい・・・。
・・・ってそんなことを考えている場合じゃ・・・。
私が一人パニックになっている間にもシモンの手は胸からさらに下ってメイド服のスカートをまくって・・・。
「・・・んん!!」
私の敏感な部分をシモンは指でくいっと押し上げ、反射的にシモンの手を太腿で挟み込む形になってしまう。
シモンのひんやりした手。その手の冷たさが、私の火照ったアソコと太腿に伝わってきて・・・・・・私の・・・あそこから・・・いやらしい液が染み出て・・・溢れてくるのがわかって・・・。
その瞬間、シモンの口から私の口に唾液が・・・とろとろと流し込まれてくる。私は快感を堪えて懸命に口の中に唾液を溜める。もうシモンの手が私の身体のどこを触っているのかもよくわからない・・・ただ体中を駆け巡るぞくぞくした快楽をおしとどめながら、唾液をうっかり飲み込まないようにすることだけで精一杯で・・・。
もう永遠なんじゃないかと思うくらいの時間の後、シモンは私から唇を離す。
私の口からだらしなく伸びた舌とシモンの舌との間を繋ぐ唾液がとろっと垂れて床に落ちる。
シモンの手はいつの間にか私のショーツと胸から離れている。
彼は、私のアソコの液で濡れた指を舐め、
「・・・それじゃ、いってらっしゃい」
と、平然とした口調で言い放った。
私はお母さんの寝室にヨロヨロと入ると、部屋に備え付けてあったティッシュを何枚か引き抜いてそこにシモンの唾液を吐き出す。
代わりに先生からもらったカプセルをお母さんに飲ませる。お母さんは寝ぼけたように飲んで−−おそらく、シモンのキスだと勘違いして−−そのまま眠った。
・・・しばらく待ったが・・・お母さんはすぅすぅと安らかに眠っている。
効いたんだ・・・。
私はしばらくそこでぼうっとしていたが、のろのろ立ち上がり、お母さんの部屋から外に出る。
私がリビングルームに戻ると、シモンはもうソファーの上で横になっており、幸せそうな寝顔で眠っている。
−−無防備な寝顔。おそらく、このまま殺されても、殺されたことにすら気がつかないだろう。
・・・せいぜい、今日一日だけは、安らかに眠ればいい。こんな毎日も・・・明日で終わりなんだから・・・。明日になれば、ローズ司令と私の手で・・・。
そんな彼の寝顔を見ているうちに、さっきのシモンとのキスで濡らした自分のショーツの冷たさが唐突に感じられてくる。
−−私はこんなに彼とのキスだけで感じてるのに・・・、私とのキスにも、私の身体にも、彼は何も感じないんだ・・・。
いや、もちろん催されたりしたらそれはそれで困るんだけど・・・。だけれど・・・。
いや、いや。私は首をブンブン振る。
−−そう、第一、キスされたり胸揉まれたり、アソコ触られたりしたら誰だって変な気持ちになるに決まってる。
だから、別にこれはおかしいことじゃない。普通のことなんだ。
・・・別にシモンだから、こんなに感じるわけじゃないんだ・・・から・・・。・・・だから調子に乗るんじゃないよ、こんなんで、私を手玉に取ってる気になってるんだったら大間違いなんだから・・・。
・・・私はシモンの幸せそうな寝顔を見ながら、頭の中で彼に投げつけたい罵詈雑言を文庫本1冊分くらい並べ立てた。
もちろん、彼はすやすやと寝息を立てて何の反応もしない。
馬鹿馬鹿しくなった私は、リビングルームから立ち去って、自分の部屋に行く途中にふと、お母さんの寝室の前で立ち止まった。
嫌な胸騒ぎがした。
私は部屋のドアをそっと開けると、荒い呼吸音が聞こえてくる。
「お母さん?」
私がベッドに駆け寄ると、お母さんは額に脂汗を滲ませて、胸をかきむしるようにしている。
「な、なんで・・・薬を飲ませたのに・・・」
私は更にもう2錠、お母さんに飲ませる。しかし、一向に治まる様子がない。ぜいぜいと荒い息をついていたのが、次第にその息すら弱々しくなっている。
「お母さん!お母さん!!」
その時、部屋のドアが開けられる。シモンだ。
無表情でベッドに近づくシモンは、私の方を一顧だにせず、ひゅうひゅうと弱々しく息をするお母さんの瞳孔をペンライトで光を当て、首筋に手を触れた後に、苦しげに上下するお母さんの胸に耳を寄せて心音を確認する。
「・・・・・唾液を飲ませなかったな?」
「シ、シモン・・・その・・・あ、あの・・・」
「死ぬぞ」
私のほうを振り向きもせずシモンから発せられる声には怒りも何も無く、ただ検死を行う医師のように淡々としている。
「・・・そ・・・そんな・・・」
シモンはしばらく何かを考えているようだったが、
「もうあとはこれしか・・・」
と呟くと、突然ズボンのポケットから何かを取り出す。
鞘が振り払われ、私はそれがナイフだということに気がついた。
「や、やめ・・・!」
私が止める間もなく、シモンはそのナイフをお母さんの首筋めがけて振り落とし・・・
血飛沫が飛び散る。
■(16日目)■
次の朝。
私が朝食の支度をしていると、シモンが相変わらずの様子で現れる。
「・・・おはようございます」
「おはよう」
いつもどおりの二人。食卓にはいつもの朝御飯。白いお米、味噌汁、目玉焼き。シモンが苦手な納豆、それともう一品。
「・・・なんだこれは?」
シモンがその小皿に乗った茶色い物体をふにふにと箸でつつく。
「・・・レバーの炒め物です。鉄分を採るにはいいはずです」
「・・・ふぅん」
シモンは包帯でぐるぐる巻きになった左手で皿を持つと、そのニラレバ炒めをもしゃもしゃと食べ始めた。
お母さんは今日は会社は休んで寝ている。シモン曰く、今日一日寝ていれば問題ないということだ。
昨日の夜。シモンは、自分の手をナイフで切り、そこから流れる血をお母さんに飲ませた。
それだけで、嘘のように発作は収まった。
「見た目は派手だが、別にたいしたことない。ほっておけ」
と言って血をだらだら垂らしたままそのままリビングルームに向かうシモンをとっつかまえて、私はシモンの手にオキシフルをドバドバ振り掛け、脱脂綿と包帯で止血した。ひどく沁みたようで、消毒液を涙目で嫌がっていたが、彼は最後には大人しく私に包帯を巻かれていた。
シモンが言うには、あの段階まで発作が進むと、もう唾液では間に合わないのでより濃い体液を飲ませるしかない、ということだった。
「精液でもよかったがな。出るまでに時間がかかる。とりあえず血が一番手っ取り早い」
「・・・だからといって、何も言わずナイフなんか出さないで下さい!」
私の抗議にも、「ああそうだな」と生返事をして、シモンはリビングルームの机の上に置かれた端末に向かい、シミュレーションに没頭しはじめた。
私はそんなシモンを恨めしげに見つめた後、溜息をつき学校に向かった。
授業中、私はずっと頭の中でぐるぐると考え続けていた。
−−昨日の夜、シモンの止血を終えて、緊張が解けて床にペタンと座り込んだ私に、シモンはこう言った。
「オレの言う事を真に受けてオレのDNAを増やして飲ませたんだろうが、自分の生命線ともいうべきタネをオレが正直に言うわけはないだろう。つまらない策を練るんじゃない。・・・今回は赦すが、次は無いと思えよ」
シモンは静かにそう言うと、
「・・・うう、普段だって貧血気味だっていうのに・・・」
と、唸りながらソファーに倒れこみ、そのまま眠ってしまった。
・・・昨日のことで分かったことは三つ。
一つは、シモンが貧血体質だということ。まあこの際それは問題ではない。
二つ目は、少なくともシモンのDNAだけではお母さんの発作は収まらないということ。
そして最も重要なことは、シモンの体液−−血液、唾液、精液に共通の「何か」が、その発作を止める効果があるということ。
でも、体液に共通の成分なんて、いくらでもあるだろう。しかもシモンは宇宙人。人間と体液の構成も異なるはずだ。人間の体液が持つ共通成分−−例えばたんぱく質やらなにやら−−を混ぜても、それが効果を発揮するとは限らない。
・・・となると、方法は・・・。
キンコンカンコーン。
授業終了のチャイムが鳴る。
私は、みんなが帰った教室に残り、清水先生に昨日の出来事を報告した。
あの薬が効かなくてお母さんが発作を起こしたこと。シモンが血を飲ませてお母さんの命はなんとか助かったこと。
「・・・もう限界ね。碧。こうなったら・・・」
私のメモをみて先生はしゃべりかけるのを私は制する。
「・・・先生、私の考えを・・・聞いてください・・・」
私は更に書いておいたメモを先生に見せる・・・。
その日の夜。シモンと私は何ともいえない妙に気まずい雰囲気の中、リビングルームでシミュレーションを続けていた。
お母さんは部屋で寝たままだ。御飯は食べているので体調自体はそれほど悪くないのだろう。
「ふぁぁ・・・くたびれた・・・」
シモンが立ち上がって欠伸をしながら伸びをする。
リビングの時計は夜の11時を告げている。昨日と同じ時間だ。
「・・・今日はどうするんだ?」
シモンはちらっと私を見てくる。
「・・・私が、飲ませに行きます」
私が立ち上がってシモンの脇に行って・・・キスをしようとすると、シモンはニヤリと笑ってそれを押しとどめる。
「お前は昨日裏切ったからな。そうやすやすとくれてやるわけにはいかん」
「・・・じゃあ・・・どうすれば・・・」
「・・・その賢い頭で考えるんだな」
私は視線をゆっくりと下に落とす。そこにはシモンのふくらみがスーツの下からも分かる。
「こ・・・これを?」
シモンは無言のまま頷く。
私はシモンの前に跪く。彼のふくらみが目の前に来る。
ちらっと顔を上げると、私のことをじっと見ているシモンの顔が目に入る。
・・・彼の言わんとすることは明白だろう。
私は意を決してシモンのベルトを外した。スラックスと下着を下ろすと、シモンのモノが屹立して私の眼前に飛び出してくる。
私はシモンの膨れ上がった茎を手で包み込むと、唇をゆっくりと赤黒く脈打つ怒張の先に寄せる。
シモンの体臭と汗の臭いが混じり合って独特の臭いがする。
・・・でも・・・それは別に嫌じゃない。・・・むしろ、鈴口からあふれ出す生暖かい液とその臭いに、思わず懐かしさを覚えてしまう。
レロ、レロレロ・・・。
舌がシモンの分身に触れると、シモンはびくっと反応し、私の頭を押さえつける。
私はそのシモンの動きに反応するように唾をまぶして、はむ・・・としゃぶりつく。舌全体を使ってシモンのモノを舐めまわし、唇でぎゅっぎゅっ刺激し、じゅぷじゅぷと音を立てて顔を激しく動かす。
「ふぅん・・・随分うまくなったな。俺がいない間、どこで誰と勉強してたんだ?」
舌の動きに面白いように反応するシモンのモノに夢中になっている私に、シモンは嘲るように話しかける。私は思わず首を横に振るが、多分顔は真っ赤になってしまっているだろう。
私が無視していると、シモンが私のうなじと後れ毛のあたりをさわさわと撫でる。
・・・う・・・くすぐったい・・・。
私がくすぐったさを誤魔化すようにシモンのモノへの責め立てを激しくすると、シモンの指は私の耳たぶと耳の穴を撫で回す。と同時に、
ずりゅ・・・ずりゅ・・・。
私の喉奥をあたかも犯すかのように自ら腰を動かし始める。
私も精一杯それに応えるように舌を動かし、頬をすぼめて刺激する。と同時に彼の袋をやわやわとマッサージしていく。
じゅぷ・・・じゅぷ・・・じゅぷ・・・じゅぷ・・・。
シモンの先から分泌される液と、私の唾液がどろどろに混じりあい、それが私の舌とシモンの肉欲の塊と絡んで、私の口の中で鬩ぎあってる・・・。
それは私の口を犯しているだけなのに・・・頭も身体も・・・まるでシモンの肉に犯されている・・・そんなぞくぞくした感覚に襲われる・・・。
その身体は・・・もうとっくに反応して・・・メイド服の下は・・・ぐしょぐしょになってる。太腿を少しよじらせると、湿ってよれた下着が膨らみかけたクリ○リスに当たる・・・。それが気持ちよくて・・・太腿をもじもじと動かす。
ちらっとシモンを見ると、シモンはそんな私の状態を見越したようにうっすらと笑いを浮かべている。
もう私も隠すことも忘れ、ひたすらにシモンのモノを舌と自分の口の中の粘膜で愛撫し、腰をうずうずと動かしてわずかながらの刺激を得る・・・。
やがてシモンの動きも激しさを増し、一気に私の中に突き刺さって・・・
どく・・・どくどく・・・。
シモンの精液が私の口の中に注がれる。
熱いねとねとした液が私の口の中を満たす。その濃厚な精の香りが鼻を抜けて、私の頭の髄に沁みこんで・・・私の頭を麻痺させていく・・・。
私は思わず飲み込んでしまいたくなる・・・いや、飲んでしまいそうになるのを堪えるのが精一杯だった。
「・・・ほら、早く母親に届けてやるんだな」
私はシモンに引き起こされると、ふらふらとお母さんの寝室に向かった・・・。
お母さんはベッドの中で、すやすやと眠っていた。
「お母さん・・・」
「・・・ん・・・碧・・・何?」
「・・・キス・・・」
私はぼんやりとした意識のまま、湯気の立つようなシモンの液をお母さんの唇の中に注ぎ込む。
お母さんは最初は少し驚いてたみたいだけど・・・すぐにうっとりした顔になって・・・私の口から美味しそうにシモンのザーメンを飲んでくれる・・・。
私が唇を離すと、白い粘っこい糸がつつっとお母さんと私の唇との間を繋ぐ。
「・・・おやすみなさい、お母さん・・・」
私がお母さんの瞼を手で閉じさせると、お母さんは安心したように眠った。
私は、それを確認した後、ポケットから試験管を取り出す。そして、唇から、シモンの精液をたらして、その試験管に溜める。
・・・そう。これが私の役目。
シモンの体液、・・・唾液、血液、精液・・・。その共通点をさぐって、有効な成分が発見できれば、こんな屈辱的な真似をしないでも済む。
もう唾液のサンプルは先生に渡してある。血液も昨日シモンが床に飛び散らした成分を掬ってある。あとは・・・精液だけ。
これを先生に渡して分析すれば、抗体入りの薬ができるはずだ。
私は、ぼんやりとその試験管の底にたまった白い粘液をみてしばらくぼんやりとしていた。
「喉・・・べとべと・・・」
喉奥に粘つくシモンの精液を・・・ごく・・・ごく・・・と唾と一緒に搾り取るように飲みつくす。
「唇も・・・ねとねとしてる・・・」
指を唇に寄せると、シモンのエキスがねっとりと指に絡みつく。
私は・・・その指を舌で舐めまわす。
「もっと・・・もっと・・・」
顔についているシモンの液を・・・私は全部指で拭っては舐めていく・・・。
・・・でも・・・お母さんと試験管に分けたせいで・・・ほとんど私は・・・飲めてない・・・。
私はお母さんの顔を見る。少しだけ、口元からシモンの液が垂れている。
私はちろっと舌でその白い液をすくいとるようにして、ちゅう・・・っと吸い取った。
「ぷはぁ・・・」
私が思わず息を漏らすと、お母さんが「んん・・・」と声をあげ、私の身体は凍りつく。
しかし、少し寝返りを打つと、お母さんはそのまま深い眠りに戻った。
私は思わず溜息をつき、・・・同時に頭が冷えてくる。
自分の今までやっていたことを思い出して・・・思わず死にたくなってくる。
すやすやと幸せそうに眠るお母さんの寝顔を恨めしい思いで見つめながら、私は疼く身体をひきずるようにしてシモンの居るリビングルームに戻ると、案の定、シモンはとっくにぐっすりと眠っている。
少し離れた机の上には、端末が二つ置かれている。いつもシミュレーションに使っている端末だ。
私はシモンに気づかれないようにそっと自分が使っている端末を持ち出して、自分の部屋に向かった。
もう熱いシャワーを浴びて、何も考えずに眠りたい。
・・・でも、私にはもう一つやらなくてはいけないことが残っている。
私はリビングルームから持ってきた端末を机の上に置き、ポケットの中から小さなカートリッジを取り出した。
・・・昨日、シモンが貧血で寝込んだ時、シモンは端末にスイッチを入れっぱなしで眠ってしまったので、私がシモンの端末のスイッチを落とそうといじっていた。その時に、シモンの端末の中には私の端末には無いファイル群があることに気がついた。
このカートリッジ−−これはシモンの端末とデータをやりとりするために渡されたものだ−−には、そのファイルが移してある。
普段だったらこんなことはしない。しかし、そのファイルが妙に気になったのは・・・そのファイルの日付が、シモンの乗った旗艦が空に消えた日付になっていたからだ。
私は自分の端末にそのファイルを移す。いろいろデータを見ていると、どうやらこれは音声ファイルらしい。私は端末に入っているソフトを使って、音声を再生させる。
延々と続くファイルをところどころスキップさせるが、聞こえてくるのは雑音だけだ。
・・・ただの空ファイルだったのかな・・・。
私があきらめようとした、その時、雑音の中から声が聞こえてくる。
『・・・・・・・・・・どうした、シモン。ここまで来て怖気ついたか?』
『・・・・・・・・馬鹿言うな。ここまで来た以上、腹は据わってる』
『・・・ほう・・・それは豪気なことだな・・・』
かち。
私は思わずファイルの再生を止める。
・・・これは・・・シモンと・・・ダリアの声?
私は少し手を震わせながら、再びファイルを再生させる・・・。
■(17日目)■
「・・・64ブロック、3.5掛ける10のマイナス88乗です・・・」
「・・・了解」
最後の升目にシモンが×をつける。
64の升目は、鉛筆、サインペン、赤青黒と様々な筆記用具で×がつけられ、マントラのような様相を呈していた。
結果。可能性は最大でも10のマイナス75乗。
要するに、奇跡中の奇跡でも起こらないと、あり得ない、という数字だ。
これでシミュレーションは全て終わった。
シモンの様子は変わりない。ように見える。
でも、なんとも無いはずは無い。
まず、『あの子』が得意な計算を、わざわざ私にやらせているという事実。
彼女が今無事なら、面倒な計算を教えてまで、私にわざわざやらせる必要は無いはずだ。
それに、昨日私が聞いたファイルの中身・・・。
あれは、雑音まみれだったけど・・・シモンとダリアの会話、だと思う。
あの船がチキュウから旅立ってから、あの船の中で交わされた二人の最後のやり取り
・・・気絶したシモンに話しかけるあの子の声が、まだ耳の中にこびりついている。
そして・・・例えば・・・、この計算に使われる添え字。私がわかりやすいように数式に使われる代数記号にはわざわざアルファベットやギリシャ数字を使っているけど、それには"d"がやたらと使われている。例えば座標の計算はxd、yd、zd、最後に出てくる確率はPd・・・。
おそらく、これはあの子が再び還ってこられる確率の計算。
×の並んだ表は冷徹にも、それがまずは叶わないことを示していた。
「・・・シモン。これで、もう私は手伝わなくてもいいんですよね」
「・・・ああ。終りだ。ご苦労だったな」
シモンは私が淹れたお茶を飲みながら煎餅を齧っている。
私は服についているフリルを少しいじる。メイド服は飾りの部分が多いので、ほつれやすい。一度気になると妙に気になってしまうものだ。
「・・・もう、メイド服、着なくて良いぞ」
シモンはぽつりと言った。
私はしばらくシモンを見つめてから、彼に尋ね返す。
「・・・・・・・・・出ていくんですか?」
「・・・もう何日かしたらな。まだ雑件があるからそれを片付けてからだが・・・」
シモンはリビングルームに掛けられたカレンダーに視線をやりながらそう言った。
私が沈黙をしていると、シモンはそれを無言の抗議ととったのか、言葉を継いだ。
「・・・不満か?まあ、お前もよく頑張ってくれたからな。予定よりは早く出ることにするさ。ただ、もう暫く我慢してくれ」
私はお茶で喉を湿らせて、小さい声でたずねた。
「・・・・・・この家から出て、どうするんですか?」
「さぁ。それを言うわけにもいかんだろ。こっちは仮にもお尋ね者なんだし」
そんなことを聞いてるんじゃない。あの子がいないこの世界で、貴方はどうする気なのかを聞いてるんだ。
私は喉奥まで出かかったその言葉をお茶と一緒に飲み込んで、改めて机の上に広げられた曼荼羅を見つめる。
「・・・綺麗に、バツが揃いましたね」
「ああ、分かってたことではあったがな」
「・・・分かっていた計算を、させたんですか?」
私が睨みつけると、シモンは相変わらずそらとボケたような顔をして、
「こういう計算は慎重にやらないとな」
「・・・ナマコは日本語を話せるようにはならない、という結論なわけですか」
「・・・そうだな。夢の無い世界だ」
「・・・・・・そんな世界は、願い下げです」
「・・・・・・・・・ああ、俺もこんな世界は、願い下げだ」
シモンは遠い目をして窓の外を見る。
藍色の空に宵の明星が輝き始めている。
シモンがわずかにすりかえた言葉が、おそらく彼の口から今言える全てなのだろう。
私は、それ以上問い詰めることもできなかった。
私がお茶を飲み、シモンが煎餅を齧る、その音だけが夕暮れ時のリビングルームに響いていた。
夜。再びシモンは私に問いかけてくる。
「今日はどうするんだ?」
「え?」
「また、お前が飲ませに行くのか?」
私の視線がシモンの下腹部に移動する。暗がりでよくわからないけど・・・昨日のシモンのそそり立つアレを思い出して、私は赤面する。
「え、あ、そ・・・その・・・」
何慌ててるんだ、私。昨日はシモンの精液サンプルを騙し取るためにやっただけだ。別に今日からは・・・シモンに直接、お母さんとキスしてもらえばいいんだ・・・。
「・・・ほら、とっとともってけ」
「・・・・・・あ・・・・・・」
シモンがズボンをずり下げると、むくりとシモンの肉棒が昨日と同様に姿を現す。
『・・・自分で飲ませにいけばいいでしょう・・・』
ただ、そう・・・その一言を言えば言い・・・それだけなのに・・・。
私はそのぬらぬらとした塊を見せ付けられた途端にぺたりと床にへたりこんで・・・私にその棒が突き出されて・・・。私の手が勝手に・・・シモンのモノをそっと包み込んで・・・。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
「どうした、碧。随分とご執心だな、こいつに」
「ん・・・ちゅぷ・・・じゅ・・・はふ・・・」
私は・・・シモンのモノを口の中一杯にほうばって・・・メイド服の前を開いて、そこから胸をむき出しにして・・・両腕でシモンの茎を圧迫したりこすったりしながら・・・シモンを気持ちよくしてあげて・・・。
・・・あれ・・・なんでわたし・・・こんなこと・・・。
でも、自分の考えがまとまるまえにシモンのモノが私の喉奥に突き刺さると・・・私の頭はまたよくわかんなくなって・・・わたしの口がお○んこと同じくらい気持ちよくて・・・、あたまのなかがぐしゃぐしゃになってくる・・・。
「・・・まあ一生懸命なのは構わんが、あんまり遅くなると母親がまた発作を起こすぞ。早くするんだな」
「んく・・・あふ・・・ふぁふぁっふぇっふぃふぁふ・・・ちゅぷ・・・」
今は・・・今はシモンのをだす・・・ださなきゃ・・・・。
私のおっぱいの先・・・もう・・・破裂しそうなくらい・・・こりこりに固くなって・・・。
「・・・碧、・・・いくぞ・・・」
「・・・ふぁ・・・ふぁひ・・・」
激しく腰を動かしていたシモンが最後に一突き・・・私の中に一突きした瞬間・・・シモンが私の乳首をつまみ上げて・・・
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
私が声にならない叫びを上げた瞬間・・・。
どく・・・どくどくどく・・・。
シモンの熱いスープが私の口いっぱいに注ぎこまれた・・・。
シモンの液をお母さんに口移しで飲ませる・・・。でも昨日と違ってあと半分・・・私の口の中に残ってる・・・。
「・・・シモンの・・・あったかい・・・」
私はその粘つく液を、ごくっと飲み干して・・・私はそれだけで幸せな気分になって・・・その瞬間に少しイッてしまった。
■(22日目)■
最近は学校で・・・すごく気を使う。
家で過ごす時間があまりにも異常で。
なのに学校で過ごす時間があまりにも平凡で。
学校の友達は、何も気づいていない。
それはそうだろう。
私は毎日普通に授業に出て、委員長の仕事をして、友達とも普通に会話して、テストにもいつもどおりの成績を取っているのだから。
でも。家では。
私はあれからも毎日メイド服を着てる。
シモンは、もうメイド服は着なくてもいい、と言った。
でも、わたしは毎日、家に帰ると、メイド服を着る。
そして、彼にコーヒーを淹れている。
時には、彼が床にこぼしたコーヒーをぶつくさいいながら雑巾で拭いたりする。
そして、無駄飯食いだのなんだの罵りながら、彼に夕御飯をつくってる。
そして、毎日夜になるとシモンにフェラチオをして、お母さんに精液を飲ませてる・・・。
一応、理由はある。
もうシミュレーションする必要は無い。
シモンはいつこの家から出て行ってもいい状態だ。
しかし、そうなっては彼の居場所、ひいてはネメシスの連中の居場所を捉えることが困難になる。
そんな中、シモンを家に繋ぎとめておく方法は、私が身体を使って奉仕するしかない。
でも。
・・・だったら・・・メイド服は着なくていい。
・・・わざわざ短いスカートをはいて、シモンに視姦されてることを感じてアソコを濡らしながら、床を拭く必要も無い。
お母さんに精液を飲ませた後・・・余った精液を自分で飲まなくてもいい。
自分の部屋に帰って・・・口に残った精液を指になすりつけて、その指で自分のクリト○スと乳首をいじった後、ぐしょぐしょになったアソコにじゅぷじゅぷと抜き差しして、オナニーしなくてもいい・・・。
分かってる。
私は・・・もう・・・シモン無しには生きられない身体にされてしまっている・・・。
ううん・・・身体だけじゃない。心も・・・何もかも・・・。シモンの奴隷なんだ・・・。
彼は私の気持ちに気づいてる。そのはずなのに・・・私に何にもしない・・・。
私はこんなに彼を求めてるのに・・・彼は私を求めていない・・・。洗脳もしない。自分からエッチなことをしようともしない。
私にとって・・・それは何より屈辱的で・・・苦しくて・・・悲しい・・・。
朱美は・・・多分気づいてる。私がおかしくなっちゃったこと。
でも・・・時々心配そうな視線を投げかけるだけで、何も言わない。
・・・朱美は、私を信じてるんだ。もし、私に何かがあったら、親友の自分に真っ先に声をかけてくれるんだって。
ごめんね。朱美。私、朱美を裏切ってる。・・・ごめんね。
授業終了の鐘が鳴る。
私が帰り支度をしていると、
「・・・碧」
清水先生に呼び止められる。
「例のやつ、完成したから」
先生は私に箱を渡す。
「試してみて」
「・・・はい・・・」
私は短く答えて、その箱を受け取った。
夜。
・・・私は昨日と同じようにシモンの精液を口に出してもらって、お母さんの部屋に行く。
でも昨日とは違う。
私は、シモンの精液をこっそり試験管に吐き出した後、お母さんに今日先生から貰ったカプセルを飲ませる。
シモンの精液、唾液、血液。その全ての成分を分析して共通しているものを解析したものが入ったそのカプセル。
私は、時を待った。
−−この前は、失敗だった。だから、今度も失敗だろう。
そう、そんな簡単に出来るはずが無い。あのシモンが作った細菌なんだから。
そんな簡単に・・・特効薬ができるはずが・・・。
私は祈るような気持ちで、お母さんに発作が起こるのを待った。
・・・飲ませて1時間、2時間・・・。
お母さんは、発作も何も無くすやすやと眠り続けている。
・・・成功、しちゃった・・・。
私はふらふらと立ち上がるとリビングルームに向かう。
シモンは、予想通り、のんきな寝顔で深い眠りについている。
シモン・・・もう、終りだよ・・・。
私は心の中でそう呟くと、部屋に戻ってそのまま泥のように眠り込んだ。
■(23日目)■
次の日、私は、散々迷った挙句、先生に正直に結果を報告する。
・・・嘘をついても・・・いつかはばれる事だから・・・。
私の報告を聞くと、先生はガッツポーズをとった。
「これで、あなたのお母さんは大丈夫ね」
「・・・はい・・・」
「こっちも強行突入する準備をします。ちょっと手続きやら何やらがあって面倒だけど・・・明後日にでも決行します」
「あ・・・その・・・」
「なにか?」
「いえ・・・なんでもないです・・・」
先生はしばらくだまっていたが、私を突然抱きしめる。
「・・・碧。今まで色々と辛かっただろうけど・・・これでもう終りにできるから・・・もう少し、頑張って・・・」
「・・・分かって・・・・・・・ます」
私の目から涙があふれて・・・思わずこみ上げてくる嗚咽を懸命に堪える。
・・・先生は、・・・私が泣いた理由を勘違いしただろう。
結局、私は何も先生に言えないまま終わった。
家に戻る。
シモンは今日は外に出かけているらしい。
机の上に、そのうち戻る、と書かれた紙が一枚、ぺらりと置かれている。
私は溜息をつきながら、リビングルームのソファーに座り込んだ。
明後日、先生が家に来たら。
シモンは間違いなく、その場で殺されるか・・・あるいは捕まるだろう。
捕まれば・・・彼が今までしてきたことを考えれば即刻処分。良くて生体実験動物扱いされて切り刻まれるのが落ちだ。
何にしても、命は無い。
私は、どうすればいいんだろうか。
私は、どうしたいんだろうか。
自問自答を幾度と無く繰り返した後、私は一つの決断を下し、机の中からレターセットを取り出して、シモンへのメッセージを書き始めた。
<続く>
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