洗脳戦隊


 

 
epilogue(A)



 
「ごめんなさい・・・。私、今、そういうのに興味がもてないから・・・」
「そ、そう、いや、別にいいんだ。ごめん、松田さん。それじゃ・・・」
 ガクランを着た隣の隣のクラスの男の子は−−名前はさっき聞いたけど忘れちゃった−−バツの悪そうな顔をして、その場を立ち去っていった。
 放課後、体育館の裏。人の来ない場所。おあえつらえむきの告白スポット。・・・残されたのは私一人。
「はぁ・・・。・・・帰ろ・・・」
 私はバッグを抱えると、家へ向かった。


 ・・・ネメシス一味をやっつけてから3ヶ月が経った。
 ヴァルキリー部隊も解散になったので、私も、ルピアもローズ司令も・・・、っと、このコードネームにももう意味がないわけで、碧も清水先生も普通の学校の生徒と先生に戻った。もちろん、私も。学校に寝泊りする生活も終わり、今は普通の自宅生だ。
 私達がヴァルキリーだってことは元々秘密だったから、別に生活に変化はない。英雄扱いされたりインタビューを受けたり、ということも無い。まあ、そんなのめんどくさいから無いほうがいいけど。
 さすがに政府の偉い人たちには、ネメシスをどうやって倒したのか、私達がどうやって戦ったのか・・・。そういったことを説明しなくちゃいけなかったみたいなんだけど、先生が適当に誤魔化してくれたらしい。・・・そうよね。たった数日とはいえ、ネメシスの手下として操られていたなんて・・・言えないからね・・・。ましてや、その間、何をしていたかなんて・・・。
 というわけで、私は本当にただの生徒をやってる。遅れてた勉強、取り戻すのが大変だ。
 ただ、なんかよくわからないけど、最近告白を受けることが多くなった。さっきもそう。・・・全部お断りしちゃってるけど。
 碧にそう言ったら
「・・・何のろけているんですか・・・。そんなことより勉強しないと、大学、入れませんよ・・・」
 っていわれちゃって、それっきり。
 そういう碧も、ここひと月で3人か4人振ってるみたい。碧は元々モテるんだけど・・・、それにして最近は異常だと思う。
 その理由は、碧は気づいてないかもしれないけど、はっきりしてる。
 だって、碧、すごく色っぽくなったから。女の私から見ても時々ぼうっとしてしまう。
 もちろん、素材はすごくいいし、スタイルも抜群だし、頭もいいんだけど・・・、昔はちょっと固い雰囲気があった。でも今は、雰囲気がとても柔らかくなって・・・、その、すごく女の子っぽいんだ。それも、恋している女の子みたいな。生き生きとしていて、かわいらしくって、暖かくって、すごく綺麗で・・・。
 って、他の女の子に話したら。くすくす笑われて
「・・・朱美。あんたも、最近すごく色っぽいよ?」
 って言われちゃった。
 自分ではそんなつもりないんだけど・・・、そう見えるのかな・・・。
 それを言ったら清水先生もそうだ・・・。いや、清水先生は元々色っぽいんだけど・・・。なんと言うか、一段と大人の魅力が増したというか・・・。
 ・・・。
 ・・・なんだかわたし、オヤジだなあ・・・。
 ・・・。
 ・・・ドクン。
 あ、まただ・・・。
 ・・・・・・・・・ドクン・・・。
 始まっちゃった・・・いつものやつ・・・。
 家まであともうちょっとだっていうのに・・・。
 慌ててあたりを見回す・・・。人がたくさんいる。あと家までもうちょっとだから・・・我慢しないと・・・。
 早足で家に帰ると、自分の部屋に一直線に飛び込んで、ドアの鍵を閉めてカーテンを引く。
 かばんを投げ捨てるように床に置いて、ベッドの上に座り込んで・・・、制服のスカートの中に手を入れた。
「んふ・・・」
 濡れてるショーツをずらしてアソコに指を入れると、くちゅ・・・って音がする。
「はぁ・・・・・・」
 もう片方の手で胸を押さえる。ブラと制服がすごくうっとうしい・・・。服の下をくぐらせて、乳首に触る。もうすっかり勃ってる・・・。
「んん・・・」
 私はベッドにうつ伏せになって、自分の敏感なところを弄くりまわす・・・。

 ・・・最近、いや、正確にはネメシスを倒した後・・・。
 私は、時々、どうしようもなく身体が火照るようになった。発作みたいに身体がうずいて、・・・いじらないと頭がおかしくなりそうになる・・・。
「ん・・・あ・・・、・・・あん・・・」
 たまに、学校でその発作が起きると・・・トイレでしちゃったり・・・場合によっては誰も居ない準備室の陰でしちゃったり・・・。
 でも・・・。いくらいじっても、イけないんだ・・・。あの時は・・・あんなにイけたのに・・・。
「あ・・・あ・・・シ・・・シモン・・・」
 私は思わず彼の名前を言葉にしてしまう。でも・・・・・・なんか、その言葉は、・・・すごく遠い・・・。
「・・・・・・はぁ・・・」
 何時の間にか、潮が引くように、私の発作もおさまる・・・。その後残るのは、じんわりと気だるい身体と、妙に悪いことをしているような罪悪感・・・。
 そして・・・濡れた下着と、ふやけた指・・・。
 私はスカートの中から指を取り出す。ねっとりと自分の液がついた指を舐める。
 ・・・私、何してるんだろう・・・。
「朱美〜、帰ってきてるの〜?」
「あ、はーい」
 お母さんの声に、私は慌てて下着を替えて、私服に着替えた。


「あなたあてに、小包届いてたわよ」
「小包?」
 お母さんが私に渡す小包には「ヨツカドイサオ」とカタカナで差出人の名前が書いてあった。大きさは重箱くらい。
「知り合い?」
「・・・うーん・・・・・・・・・うん・・・」
 私は曖昧にうなずくと、小包を持って部屋に上がっていった。
 もちろん知らない名前だ。だけど、お母さんに知らないと言わなかったのは、何かの予感があったんだと思う。


 部屋に入ると、また鍵を閉める。
 急いでハサミを取り出して、紐を切って包装紙を破る。
 ダンボール製の箱の蓋を開くと、そこには、首輪と・・・ゴムの・・・名前はしらないけど、男の人のアレの形をしたゴム製の模型・・・。
「・・・何・・・これ・・・」
 首輪は留め金があって、鍵がかかる仕組みだ。鍵は南京錠。
 ゴムの模型は・・・、スイッチをいれると、うねうねと動き始めた。びっくりしてすぐにスイッチを切る。
 ・・・この模型の使い方は、3ヶ月前に随分勉強させられた・・・。確か、バイブ・・・だったっけ・・・。
「・・・いたずら・・・よね・・・」
 私はもう一度宛名を見る。
 ヨツカド・・・。
 やっぱり心当たりは全然無い。
「一体誰が・・・」
 私は、箱をひっくりかえした。すると。二重底になった箱の下敷きから紙がひらっと落ちてきた。
 私はそれを拾い上げて目を走らせる。


『カーネリアへ
 久しぶりだが、元気にしているか
 ○月○日、20時に例の倉庫の裏で待つ。
 この首輪とバイブを持って一人で来い。なんなら身につけてきてくれても構わない』


 その文章の意味がわからなかったので私は何度も読み返した。3回読んだところで、顔が真っ赤になった。
 よく見ると、その紙には、ドライフラワーになったラベンダーの花がセロハンテープで貼り付けてある。
 私のことをカーネリアと呼んで、ラベンダーなんか貼って、こんなふざけた文章を書く奴といえば、・・・一人しかいない。
「・・・まさか・・・そんな・・・・・・・・・ふざけたことを・・・」
 私は、ゴム模型・・・バイブと首輪をまとめて箱に戻すと、部屋の隅に置いてあるごみ箱に突っ込んだ。
 そしてそのまま枕を頭の上の乗っけてベッドに突っ伏す。
 ・・・。
 ・・・。
 ・・・。
 ・・・暫くした後、私はそのごみ箱から、首輪とバイブだけを取り出した。よくよく考えてみたら、このごみ箱の中身はお母さんがごみの日に出すのだから、こんなものがむき出しで捨ててあったら大変なことになる。自分の子供が非行に走ったとか何とか思っちゃったりして、子供相談室だか警察だかに相談の電話をかけてしまうかもしれない。私以上にそそっかしいのだ、お母さんは。
 この二つは袋に入れて、後で駅のごみ箱にでもこっそり捨てに行くしかない。
 私は改めて自分の手にある首輪とバイブを見つめた。
 首輪は黒い革製で、留め金の部分の金属が鈍く光っている。顔を近づけると、金属と革が混じりあった独特の匂いがする。私は犬や猫を飼ったことが無いからよくわからないけど、サイズとしてはちょうど人間の首によく嵌るようなかんじだ。バイブは電池で動くようで、いぼいぼがたくさんついてて、ゴムのやわらかさが、ちょっとアレに似ていて・・・。根元の方で太いやつと細いやつ二つに分かれている。これを使うと・・・・・・その・・・太い方をアソコ入れたときに感じやすい部分にもう片方が当たるんだよね・・・。
 ふにふにとそのゴムを触りながら、私は唾をごくりと飲み込んだ。何時の間にか、自分のアソコが濡れているのがわかる。
「・・・ん・・・」
 私はぺたんと床に座り込むと、目を閉じてその湿気を確かめるようにスカートの中に手を滑らせた。
「・・・・・・んふ・・・んん・・・」
 ショーツの脇から指を入れる。もう、自分のクリ○リスが敏感になってきていて・・・その下にあるアソコの周りの襞が私の指に吸い付いてくる。
 私はぼんやりと目を開く。目の前にゴムの香りをさせたアレがあって・・・。
 ひょっとしたら・・・これを・・・これを使えば・・・イけるかもしれない・・・。
 私の舌が伸びて・・・バイブの先に触れようとするその瞬間、
 ヴ・・・ヴィーーーーーーーーーーーーン。
 私の指か何かにひっかかったのか、バイブのスイッチが入った。
「!」
 私ははっとして、バイブと首輪を取り落とす。床の上でしゃくとり虫のようにうねうねとバイブが動く。
 その途端、自分がやろうとしたことに気付いて、顔が真っ赤になる。
「・・・・・・・・・もう!何やってんのよ!」
 私はすぐにスイッチを切ると、部屋の片隅からコンビニの袋を二つ見つけてそれを重ねて、その首輪とバイブを放り込んでぎゅうぎゅうにしばって、机の引出しに放り込んだ。




 それからしばらく経って・・・手紙に指定された日が近づくにつれて、私は次第に落ち着かなくなっていった。
 あんな手紙、無視すればいい。別に何か脅迫されてるわけでもない。あいつに私の体と・・・そして心を奪われたあの日と違って。
 だから、無視すればいいんだ。
 ・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・・・・・・・。
 ・・・でも。
 もし・・・これが本当にあいつの仕業で、あいつが本当に帰ってきたんだったら・・・、これからどうするつもりなんだろうか?
 また、世界征服をするつもりだろうか?
 それとも・・・何か他の提案をするつもりなんだろうか。
 何のために、私に・・・あんなモノと手紙を送ってきたんだろうか?
 もし、また私達の星を乗っ取ろうとしているんだったら、また人の心を弄んでいるんだったら・・・そしてそのことに気づいているのが、私だけだとしたら・・・。
「・・・だったら・・・黙ってるわけには・・・いかないわよね・・・」
 私は、自分を納得させるために呟いた。


 私はまず清水先生に相談した。清水先生は初めは「まさかぁ」と笑っていたが、その手紙を渡すとすぐに真剣な表情になった。
「・・・あなたのコードネームにラベンダー・・・。こんなことできるのは本人だけね」
「やっぱり、先生もそう思いますか?」
「・・・多分ね。ヨツカド、ってのは『四門』にでもかけてるつもりなんでしょうね」
 先生は指で窓ガラスに『四門』と書いてみせる。
「・・・先生、どうしますか?」
 清水先生は、少し考え込んでいたようだったけど、
「・・・朱美。危険だけど、囮になってくれるかな?」
「駄目、と言われても、そのつもりでした」
 私が即答すると、清水先生はにっこり笑って、
「ありがとう。流石は朱美ね。じゃあ、その場所で私と応援が廻りに控えてるから。あと、その前にあなたに彼が接触してくるかもしれないから、その時はこのブザーを押して」
 清水先生は私に緊急ブザーをくれた。これを押せば、無線で清水先生の所に連絡が行って、私の場所を探知してくれるらしい。
「ありがとうございます。今度こそ、リベンジしてやります!」
「そんなに気張らなくてもいいわよ。あっちだって、今すぐ何かをしようというわけでもないみたいだし。前と違ってこっちも相手の手の内はわかってるから。・・・あなたも分かってるでしょ。あいつの武器は・・・」
「・・・洗脳・・・」
 先生はうなずいた。
「そう。だからあいつの目をまともに見ちゃ駄目。触られてもだめ。・・・本当は声も聞いちゃだめ、っていいたいところだけど、そういうわけにもいかないだろうから。ただ、必要以上に耳を貸しちゃだめ。あいつがグダグダ言い始めたらいつものあなたのノリでぶっとばしてやればいい。OK?」
「ばっちりです!」
 先生は、丸っこいキャンディーみたいなものをポケットから取り出した。
「あと、これは洗脳薬に対抗する薬。私たちも、いつもヤられてばかりじゃないってとこ、あいつに見せてやりましょう」
 先生は、シモンに会う前にこれを舐めるように、と言って、その薬をくれた。
「はい!」
 私が返事をすると同時に、チャイムが鳴った。昼休みが終わったのだ。
「あ、チャイム。先生すみません、もう行かなきゃ。大丈夫です!私、頑張ります!!今後は負けません!!!」
 私は腕をまくって力こぶを見せると、パタパタと廊下を走って教室に猛ダッシュしていた。




 先生にも相談した。薬も貰った。・・・これで多分大丈夫だ。
 ただ、私は一つだけ迷っていた。このことを碧に伝えるべきかどうか。
 ちょうどシモンに会うその日、たまたま碧と校門の外で一緒になった。
「・・・朱美?」
「・・・碧・・・、ちょっと付き合ってくれないかなぁ・・・」
「・・・え?いいですけど・・・どうしたんですか?」
 碧はにこりと笑う。碧は今でこそ明るい(といっても私と比べたら明るさの質が違う、ってわたしの友達はみんな言うんだけどね)けど、ネメシスを倒してから暫く後、一時期ちょっと落ち込んでたみたいだった。理由はよくわからなかったし、私が聞いても曖昧な返事しかしてくれなかった。・・・だけど、最近はとても明るくて、楽しそうで、幸せそうで、・・・私はそれだけで嬉しい。 
 私は碧のお薦めで、穴場のケーキ屋に入った。ちょっと高いけど、紅茶とパフェとケーキが美味しいという評判で、ウェイトレスさんの制服が可愛いお店だ。内装も洒落ている。
「お待たせしました」
 青いリボンをつけたポニーテールのウェイトレスさんがやってきて、私の前にはチョコレートケーキとダージリンが、碧の前にはチーズケーキとアールグレイが並ぶ。
 その後ろ姿を見ながら、私は小声で、
「・・・なんか・・・制服もいいけど・・・中身もめちゃくちゃグレード高くない?このお店・・・。何でこんなお店、知ってるの?」「・・・私のバイト先ですから」
「うぇ?碧の?」
「・・・何か変ですか?」
 いや、いえ、いいえぇ・・・。と私はもにょもにょと返事になってない返事をした。
 ・・・あの固い碧がバイトかぁ・・・。
 もちろんうちの学校も原則バイトは禁止だ。といっても結構みんなおおっぴらにやっていて、あまり妙なバイトで無い限り黙認されている。だけど碧は学級委員長だし、今まではしてなかったはずだけど・・・。
 お金が必要なんだ・・・、となると・・・いよいよこれは・・・。
 私の隣を通っていく、膝上までしかないミニスカートにフリルのリボンをつけたウェイトレスさんの姿をちらりと横目で見ながら、頭の中で碧にその制服を着させてみた。
 ・・・・・・・。
 私は少し赤くなって、ティーカップに口をつける。

 碧と私は久しぶりにひとしきり雑談をする。最近のクラスのこと、授業のこと、ペットの猫のナッツのこと・・・。
 ちょっと会話に間があいて、私は紅茶を飲む。碧はチーズケーキを口に運びながら
「・・・で、朱美、何があったんですか?」
 どき。
「・・・な、何って、何?」
 碧は意地悪そうに私を見る。
「・・・朱美は根が単純だからすぐにわかります・・・。何か私に言いたいことがあるんでしょう?」
「傷つくなあ。私、そんなに単純かな?」
「・・・そこがあなたの良いところです」
「・・・褒められてるの?それ」
「勿論です」
 碧はクリームチーズのついた指先を自分の口元に持っていく。薄桃色の舌が艶のある柔らかそうな唇から伸びて、細く白い指を舐めとる。私は慌てて目をそらして、自分の胸のどきどきをごまかすように、
「・・・あ、あのさ、その、碧、さ、最近・・・付き合ってる人とか、いるの?」
「・・・え?」
 碧の視線が私の火照った顔に突き刺さる。
「あ、ちがくて、その、えーと、最近の碧、すごく幸せそうだから、えーと、何かいいことがあったんじゃないかなー、と思ったりして、その・・・」
「・・・ふーん。朱美でも、そういうこと気にするんですね。・・・結構、意外です」
「意外とは何よぅ」
 私が膨れると碧は紅茶で喉を湿らせて、ふぅ、と一息つく。アールグレイの独特の香りが私の鼻をくすぐる。
「・・・・・・・・・付き合ってる、といえるかどうかはわかりませんが・・・、・・・想っている人は、います」
「・・・あ、そう、なんだ。・・・やっぱりね・・・」
 私は、ちょっとがっかりしたような、安心したような複雑な気持ちになった。
「・・・朱美にばれるようでは、私もまだまだ脇が甘いですね・・・。反省しなくては・・・」
 反省も何も、そんなに幸せビーム撒き散らしてたら誰にでもわかるわよ。
「・・・でも・・・想ってる・・・ってことは、ひょっとして碧の片思いなの?」
「・・・・・・多分・・・」
 碧はティースプーンを弄びながら呟く。
「告白、したの?」
「・・・彼は・・・私にはそういう役割を求めていないみたいですから。・・・だから・・・私が一方的に想ってるだけです・・・」
 私はケーキを二口、三口と誤魔化すようにぱくつく。
 ・・・やばい。碧。あんたやばすぎるよ。そんな表情しないでよ。少なくともクラスの男子の前でそんな顔するの、大禁止。
「そ、そうなんだ・・・。どこの誰だか知らないけど、見る目ないね〜。こんな可愛い女の子ほったらかしにするなんて、ねえ」
「・・・でも、私は今でも十分幸せですから、それでいいんです。・・・それ以上は、彼に求めません・・・」
 なぜか私のほうが真っ赤になってしまう。サクランボみたいになってるかもしれない。お冷やをきゅーーっと飲み干す。「ぷはぁ・・・」
「・・・で、・・・そういう朱美はどうなんですか?」
 唐突に私に矛先を向けてくる碧。意地悪っ子の目だ。
「へ?」
「・・・最近、殿方達から次から次へと恋文が送り届けられるそうじゃないですか?」
 思わず噴き出さなかった自分の精神力に乾杯。
「ち、ちがうちがうちがう。あ、コクられてるのはちがわないけど、私、あんなの受けてないよ!」
「・・・・・・この間はD組の遠藤君を振ったそうですね・・・。彼、テニス部のエースで、結構人気あるんですよ?朱美、彼を想ってる他の女の子達に刺されるんじゃないでしょうか・・・」
「・・・ったって・・・今、そういうのに興味無いし・・・」
 碧は意地悪そうに笑う。
「・・・ふぅん・・・。じゃあ、何に興味あるんですか?ひとりえっちとか?」
 脆くも敗れ去る私の精神力。
「げほげほげほ!!な、なに言って・・・!」
 ウェイトレスさんの視線を感じて慌てて私は声を落とす。
「な、何言ってるのよ碧、こんなところで・・・」
「・・・・・・勿論、冗談ですよ?」
 あー、なんていじめっ子なんだ、この娘は〜〜!!私は残ったケーキを素因数分解するようにフォークで叩き切って一気に食べ尽くしにかかる。
「・・・もきゅもきゅ・・・ごくん・・・もう、冗談にもほどがあるわよ・・・」
「・・・・・・もしかして、図星でした?・・・でしたらごめんなさい。人の弱みをつい言い当ててしまうのが私の悪い癖なものですから・・・」
「・・・・・・・・・なんか、まじめに心配した私が馬鹿みたい・・・」
「・・・心配?」
 私はごくりとケーキを飲み込んで、
「・・・うん。・・・その、碧、一時期ちょっと沈んでたみたいだったから・・・だけど最近また明るくなって・・・それで何が起こったか気になってたの。・・・それだけ」
 碧はテラスの外を通る自動車の流れをぼんやりと見てる。他の学校の制服の生徒がふざけながら歩道を歩いてる。当たり前の放課後の、当たり前の風景。それを見やる碧の表情は・・・どこか懐かしいものを見るようだった。
「・・・そうですね・・・。一時期・・・自分の気持ちがわからなくなって・・・どうすればよいのかわからなくなっていたから・・・。・・・でも、今は大丈夫です。・・・ごめんなさい、心配かけて・・・」
「・・・そう・・・なんだ・・・」
 一体何があったのか、気にはなったけど、もう過ぎたことを掘り返すこともないと思う。
「・・・今日のお茶会の目的はそれだけですか?」
 ・・・本当は、今夜シモンと対決するから一緒に来てくれないか、と言うつもりだった。だけど、幸せそうな碧を見ていたら、もう、あんな思い出したくない過去を思い出させるのは悪いような気がした。
 今日は、私と先生だけで奴と対決してみよう。何か問題があったら、その時相談しよう・・・。
「・・・うん。それだけ」
 私は立ち上がると言った。
「んー、じゃあ今度碧のその想い人、紹介してよね」
「・・・はい・・・そのうちに。・・・それでは、ご馳走様でした・・・」
「・・・・・・・・・割り勘だって・・・」



 夜。指定された場所に着く。待ち合わせ時間まではまだ数分ある。
 倉庫・・・ここに来るのは多分3度目。全てが始まった場所。そして私達3人が堕ちた場所。本当はもう二度と来たくない場所。
 だけど・・・ここで彼と対決しなくては・・・多分、私の中でけじめがつかない。
 もう秋も中盤、虫の声がりんりんと沸き立ってる。ぼうっと薄暗い外灯だけが辺りを照らしている。ガチンコ勝負になったときに備えて、薄手のセーターの上にパーカーを羽織っただけ、膝丈までのプリーツスカートにショートソックスに運動靴という機動性重視の格好をしてきたから、冷たい風が吹くとちょっと震えてしまう。腰につけた大きめのポーチには、あいつのふざけたプレゼント−−首輪とバイブ−−が入ってる。もちろん自分で使うために持ってきたんじゃない。あいつに突き返してやるためだ。
 私は先生から貰った薬を包み紙から取り出して口に放り込んだ。
 ・・・うぇ。変な味。舌の上で転がしながら、我慢して舐める。
「少し・・・寒いかな・・・」
 私がぼそりと独り言を言う。・・・ひょっとしたら不意打ちをされるかもしれない・・・。そのせいか、その肌寒さの割に、私の体は汗ばんでる。いざとなったら、すぐに清水先生に緊急通報できるよう、ポケットには無線連絡用のブザーを用意してる。できれば、使いたくないけど・・・。
 舌の上の薬はころころと転がっていくうちにどんどん小さくなっていく。・・・一人で、暗いところで待っているせいか・・・少しあたまがぼんやりする・・・。駄目だ、緊張感を保たないと・・・私は自分に言い聞かせる。
 そうこうしているうちに時間が来た。
 暗闇が薄く光って見えるくらいに辺りは暗い。
 風が吹くとスカートが揺れる。
 その時、倉庫に至る一本道・・・舗装もされていない砂利道の向こうに、薄ぼんやりと光が見えはじめた。その光はどんどん大きくなって・・・こっちに近づいてくる。
 私は薬の最後のひとかけらをごくり飲み干して、いつでも剣を召喚できる姿勢で身構える。
 ・・・その人魂のような明かりは・・・自転車のランプだった。もちろん自転車には人が乗っている。
 キュキュキュ。砂利道をゴリゴリと突っ切ってきた自転車は、私の前でブレーキを軋ませながら止まる。
「おう、久しぶり。待たせたな」
「・・・・・・・・・」
 その声の主は忘れようも無い、あのシモンだった。
 服装はカッターシャツにジャケット。ジーンズ。量販店で買ってきたような何の変哲も無い格好。もとより人間と姿格好は同じだから、こうなると人間といわれても全然違和感がない。
 でも、ママチャリがここまで似合う宇宙人なんてどうかしてると思う。
予想通りの人物が、緊張感のかけらも無い表情で、あまりにもあっけなく登場してきたせいかもしれない。私は妙にイライラしてきた。
「ん、どうした?」
「・・・・・・あのねえ・・・もう少し登場の仕方ってないの?」
「何のことだ?」
 シモンの相変わらずのほほんとした言い回しに私は噛み付く。
「ヘリから降りてくるとかバイクに乗ってくるとか、テレポテーションで現れるとか・・・。長年戦ってきた敵に数ヶ月ぶりに会うんだから、こういう場面にふさわしい登場の仕方ってあるんじゃないの?何よ、その郵便屋みたいな現れ方は?」
 シモンは大真面目に、
「・・・・・・といわれても、バイクを買う金なんかないし、免許も持ってないしなぁ」
「悪人の癖に無免許運転の一つもできないの?意気地なし!」
「・・・一応この自転車は盗んできたんだが」
 私は大げさに溜息をついた。
「・・・もういいわ。と、に、か、く、今日は何の目的で私の前に現れたわけ?まだ世界征服とかなんとかいってるわけ?そもそもどうやって帰ってきたわけ???」
「おいおいおい、一度にそんなに訊かれても答えられないぞ」
「いいから答える!」
 私は右手を思い切り振りぬく。剣が−−それこそ3ヶ月ぶりの−−私の手に現れ、切っ先をシモンの方に向ける。
「・・・まあ待てよ。とりあえず答えはだな、世界征服をまだ狙っているか、という質問には『地味に努力中』。どうやって帰ってきたかについては、『話せば長くなる』。今日お前に会う目的は『勧誘』だ。以上」
 相変わらず性格がねじくれてるのか、ロクな答えが返ってこない。
「世界征服?勧誘?・・・相変わらずそんな寝言を言ってるわけ?宇宙旅行してきたら少しは頭がまともになるかと思ってたけど、やっぱり腐った性根は治らないみたいね。・・・いいわ、ここで火葬にしてあげる」
 私が念じると、剣が灼熱し、赤みを帯びてくる。しかし、シモンは意外なほど冷静だ。
「まあ待て、ちょっとは話を聞きたまえ。確かに我々と君達の間に不幸な過去があったことは確かだ。だが、しかぁし!そういった過去ばかり見ていては前に進めない。幸い、私は今ネメシスをコントロールできる立場にいる。後は、君達人類が不肖このシモンによる支配を認めてくれさえすれば、もはやこの世に一切の争いごとの無い、平和な楽園が築かれるのは自明な結論である!ここはひとつ、お互いの幸せのために・・・」
 シモンがのけぞる。シモンの首があった場所を私の剣が通過する。
「・・・危ないではないか、当たったらどうする」
「・・・当てるつもりだったのよ。そっちこそよけてどうするのよ!」
 シモンはやれやれとアメリカ人のように肩をすくめる。
「お前とこういうしょうもない漫才をするのも嫌いじゃないが、時間も無い。本題に入るとしようか・・・。カーネリア、・・・最近、体がうずくじゃないか?」
 ・・・な、な、な。
「何言ってるのよ、ぶっとばすわよ!」
「・・・・・・俺はお前達の洗脳はきちんと解いたから、言語的な暗示の類は一切残っていないが・・・体性感覚や運動感覚といった原始的な部分で感じやすくなった部分は、どうしても残る。・・・どうだ?カーネリア。最近、イッてないんじゃないか?」
 シモンはしゃべりながら私に近づいてくる。
「・・・・・・・ち、近づかないでよ!」
 しかし、私の言葉が却って彼の予感を確信に変えてしまったかのように、シモンはすばやく私の前に手の平を突き出す。私の視界が一瞬真っ暗になる。
「あ・・・」
「この手に、触れてもらいたくはないか?」
 シモンの言葉に私は思わず唾を飲み込む。
 ・・・毎日、ただ撫でられているだけで、触れられているだけで幸せだった頃のあの手が、目の前にある。私の全意識が思わずその手の平に向かってしまう。
 ・・・あれ・・・なんだか・・・だんだん・・・ぼんやりしてきて・・・。
 次の瞬間その手が消え、その消えた手の場所にはシモンの顔があって、・・・シモンの視線が私を射抜く
「カーネリア、私の目を見ろ・・・ご主人様の目を・・・」
 駄目だ、と思ってるのに、・・・私は魅入られたように・・・彼の瞳孔の奥の闇に吸い込まれて・・・。
「・・・もう、お前の私の目以外、何も映らない・・・。私の声以外、何も聞こえない・・・。・・・そして、心が、凍る・・・」
 心が、ぎゅっと締め付けられ・・・て・・・。私の中で、何か遠い記憶がはじけた。

 頭が・・・ぼうっとして・・・。シモンが何か・・・私に・・・言っている・・・みたい・・・だけど・・・よくわからなくて・・・。・・・でも・・・その言葉は・・・柔らかくて・・・気持ちがいい・・・。

 ・・・・・・。


 シモンの声が・・・ゆっくりと私の意識に戻ってくる・・・。・・・違う。・・・私の意識が戻ってきているのかもしれない・・・。
「はい・・・目が覚めたよ・・・・・・」
 パン、と手を叩く音がして、私は、はっと目を開く。・・・あれ、目を閉じた覚えはないんだけど・・・。
 どれくらい時間が過ぎたんだろうか・・・。夜風のせいか・・・体中が・・・冷え切ってる・・・。
 いつの間にか・・・剣を持っていない方の私の腕はシモンに掴まれている・・・。
 私が抗議しようと口を開こうとした瞬間、
「カーネリア」
 昔の名前で呼ばれた途端、私の心臓はびくりとして、彼の言葉に否応無しに集中してしまう。
「・・・私が触っているところだけ、お前は感じ、動かすことができる。他の部分は全く動かせない・・・」
 そのままゆっくりとシモンの指が、私の腕を、手首を、手の甲を伝って、・・・私の指に触れる。その指が一本だったのが二本、三本と増えて、・・・遂には私の指を全て絡め取ってくる。
 剣を持っている方の手は・・・違う、私の体が全部、まるで石になったように動かない。シモンに触られている部分だけが、シモンになされるがままになっている。
「・・・だんだん、私が触っている部分は・・・暖かくなってくる・・・。体中のほかの部分は冷え切っているが・・・私に触れられている部分だけが暖かい・・・けど・・・ほかの部分はとっても冷たい・・・寒くて・・・氷の中にいるみたい・・・」
 自分の体が・・・氷付けになっているように冷たく・・・動かないのに・・・・・・シモンに触ってられている場所だけが、どんどんあったかくなっていく・・・。私の目はシモンの指の動きにくぎ付けになっている。まるで冬眠したまま氷付けになっちゃって・・・指先だけ掘り出されて・・・・・・溶かしてもらえているみたいに・・・・・・・・・。
 本当は・・・触られちゃだめだ・・・。シモンに触られたら操られている時のことを思い出してしまうから触られちゃだめだって、先生に言われたのに・・・。

 でも・・・寒いよ・・・寒いのいやだよ・・・。

 わたしは、シモンの指から熱をもらおうと、必死で指を動かす。シモンの指はそんな私の心を見透かすかのように逃げる。私は一生懸命追いかけようとするけど・・・手首からこっち側は動かなくて、思うようにいかない・・・。
 ・・・もっと・・・もっと・・・さわらせてよ・・・。にげないでよ・・・。
 私は思わず口に出してしまいそうになる・・・けど、口も凍って動かない・・・。
 指相撲のように逃げ回る私の指とシモンの指。ようやく、私の人差し指と親指は、シモンの人差し指をつかまえる。

 だめ・・・にげちゃ・・・だめ・・・。

 シモンの指は初めは逃げようともがいていたけど・・・。やがてあきらめたのか・・・私の指を触りはじめて・・・ううん・・・私の手全体をシモンのあったかい手の平が包み込んで・・・。わたしは本当にほっとして・・・ちょっと涙が出てくる。
 何時の間にかシモンの指が私の首筋に触れる。暖かい指。近づくシモンの瞳。
「・・・折角送ったのにな。気に入らなかったのかな?あの首輪は」
 シモンの唇が私の涙を舐めとる。それから、その唇は私の頬をなぞって私の唇にたどり着く。その瞬間、私の口を縛り付けていた魔法が解けて「はふぅ・・・」と思わず声が漏れる。
 ・・・もう腕に力が入らない・・・。頭も・・・真っ白になって・・・ただ・・・暖かくして欲しい・・・シモンに・・・体中を触って欲しい・・・と思うだけで・・・。
「・・・それとも、バイブは付けているとか・・・」
 シモンの腕が私の腰をなで、そのままプリーツスカートの中に潜り込もうとしたその時
 ドスッ。
 力の抜けた私の右手から剣が鈍い音を立てて地面の上に転がる。
「いやっ!」
 その音が私を金縛りから解き放ったかのように、私はシモンを力の限り突き飛ばして、そのまま振り向きもせず走り出した。



 どれくらい走りつづけただろうか。私が息を切らせながら立ち止まった時には、自分でもどこにいるかもよくわからない場所に来ていた。辺りは真っ暗。聞こえてくるのは虫の声と自分の心臓の音、木々のざわめきだけだ。
 もう、今日は彼と対決する気力がない。とりあえず帰ってもう一度作戦を先生と練り直そう・・・。
「・・・でも、どうやって帰れば・・・」
 舗装も無いけもの道をしっちゃかめっちゃかに走ってきたせいで、本当にどこにいるのかわからない。切れかけた外灯だけがまばらに照らす薄暗い森の中に独り。思わずぶるっと震える。
 私がポケットをまさぐると、先生からもらった緊急ブザーが指に触れる。私は迷わずボタンを押した。
「まさか迷子になって押すことになるなんて・・・」
 先生に見つかったら笑われるなあ・・・。
 それにしても・・・。
 私は自分の首筋に触れた。さっきのことを思い出すと、シモンに触れられたところに跡がついているんじゃないかと思うくらい息苦しくなる。
 シモンの言葉が耳の奥でこだまする。
『それとも・・・バイブはつけているとか・・・』
「そんなわけないじゃない!!アホ!!」
 私は靴で土を蹴っ飛ばす。
 ・・・そうでもしないと・・・シモンに指を触られただけで濡れた自分を誤魔化せない・・・。
 とりあえず・・・先生がくるまで待って・・・。今日はもう帰ろう・・・。
 
 がさっ。

 私の背後の草むらが音を立てる。
「誰!!」
 私が身構えると、道の脇にある木と木の間から人影が現われた。
「・・・こんばんは、朱美・・・いえ、カーネリアと呼んだほうがいいでしょうか・・・」
「ル・・・み、碧・・・」
 暗闇の中から現われたのは碧だ。ルピア、とつい呼びかかったのは、彼女がヴァルキリーの戦闘服を着ていたからだ。深い緑色のローブの深いスリットからはハイニーソックスに包まれた白い足がちらりと見えている。・・・こうしてマジマジと見ると、ちょっとエッチよね・・・この服・・・。いや、私の戦闘服も相当のものだとは思うけど。
 あれ・・・でも・・・なんか前見たときとちょっと違うような・・・・・・なんでだろう・・・。・・・ひょっとしたらあの凶悪なプロポーションが更に成長したんじゃあ・・・。
 と、そんなバカなことを考えている場合じゃなかった。
「な、何で碧が・・・?」
「・・・私の方がききたいくらいですが・・・。・・・あなたにも手紙がきたのですね・・・」
「碧にも来てたんだ・・・。う、うん・・・。ごめん、碧。黙ってて・・・」
 私は碧に全部話した。手紙の話、そしてさっきのシモンとの会話・・・。自分が濡れてしまったことだけは言わなかったけど。
 碧は指を口にあてて何か考え込んでいるようだった。
「・・・碧にはどういう内容だったの?手紙・・・」
「・・・私には、ヴァルキリーの格好で、例の倉庫に来るように、と・・・。・・・それと・・・・・・カーネリアが迷っているようなら、導いてやってくれ・・・と・・・」
 私は目をパチクリさせた。
「・・・?・・・あいつ、私が道に迷うことに気付いてたのかな。まさかね・・・」
 碧はクスクス笑った。
「・・・そうですね・・・ミチに迷うことには気付いてたのかもしれませんね・・・。・・・カーネリアは、素直そうだけど、意外に潔癖なところがありますから・・・」
「え?」
 碧は私の顔に手を伸ばす。
 ・・・そのまま・・・碧のきれいな顔が・・・私の目の前に近づいて−−ああ、長いまつ毛だなあ、なんてバカなことを考えているうちに−−私の唇に碧の唇が触れた。不意をつかれて、私の体が凍りつく。
 碧の舌は私の唇をゆっくりとなぞるように舐めていく。まるでさっきまでシモンの続きをしているかのような動きだ。
 私は顔を動かそうとするけど、碧の手は私の頬をしっかりと挟んで逃げることを許さない・・・。
 ・・・。
 ・・・・・・。
 嘘。
 ・・・私はその時もう、逃げることなんて考えてもいなかった。
 ただ、碧の綺麗な顔に見惚れて、・・・そして私の唇を美味しそうになぞるいやらしい顔に感じてしまって・・・。
 私の腕も自然と彼女の身体に絡み付いていく。
 碧の舌はそのまま私の唇の中にまで入ってくる。・・・ううん。舌を入れたのは私の方からかもしれない・・・。
 ちゅ・・・ちゅ・・・と小鳥が餌をついばむみたいに、私は碧の唇に舌を入れる。碧のぬるっとした舌が私の口の中をじゅぷじゅぷと舐め回してるのが分かる。
 暫くして、碧が顔をゆっくりと離した。「あ・・・」と私は思わず小さな声を出してしまう。色白な碧の顔も・・・少し紅くなってる。私のせいで・・・と思うとちょっと嬉しい。透明でねばっこい糸が私と碧の唇の間に伸びて、地面に落ちる。 
「・・・カーネリアも・・・もう・・・濡れてるでしょう?」
「え?」
「・・・私は・・・もう・・・こんなになってます・・・」
 碧の白い手がローブを掴むと、じりじりと上がっていって・・・薄暗い灯りのもと、白い腿の上にあるベージュ色の下着が、惜しげも無く私の前に晒された。そして、大事な部分を隠している辺りが・・・その・・・少し色が濃くなっているような感じで・・・。
「・・・朱美・・・触って・・・ください・・・」
 私はその言葉のままに、手を伸ばして、碧の下着に触れた。
 碧の大事な部分は熱をもっていて・・・湿っていて・・・まるで別の生き物みたいに私の指に吸い付いてくる。
 私は頼まれもしないのに、碧の胸の膨らみにも手を伸ばした。
「んく!」
 碧はびくんと体を強張らせたけど、何の抵抗もせず、私に為されるがままになっている。
 クラスの男の子が・・・いっつもいやらしい目で見ている碧の胸・・・。私はその膨らみに赤ちゃんみたいに顔を寄せる。
「や・・・やぁ・・・」
 碧が鼻にかかった甘い声を出す。私は湿った碧の布地の上で指を滑らせ、碧の大事な部分を探し当てると、きゅっと摘む。
「んはあ・・・!」
 碧が私にしがみついてくる。碧の長い髪が私にかかってふんわりシャンプーの匂いが香る。碧の頬を私は舐める。碧も私の頬に口付けをする。大きくてやわらかい胸が私に押し当てられて、彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。
「カーネリア・・・」
 とろんとした碧の目に誘われるかのように碧の首筋に手を伸ばしかけたとき、私の指先に違和感があった。
 私が碧の首筋を見ると・・・そこには黒い帯みたいなものがあった。・・・違う、これは、首輪だ。・・・前に南京錠がついている、私が受け取ったのと同じタイプの・・・。
「み・・・碧・・・その・・・首輪・・・」
 荒い息をしていた碧は、私の声に瞼を薄く開く。
「・・・カーネリアには・・・こなかったんですか?首輪・・・。・・・付けてくるように、手紙に書いてありませんでしたか?」
「え?いや、来たけど・・・・・・。で、でもそんなバカ正直に付けてくるもんじゃないでしょ、首輪なんて・・・」
 考えてみれば、碧が私のことをカーネリアと呼んで、ヴァルキリーの戦闘服を着ている段階で、私はそのことに気付くべきだったんだ。
「・・・・・・そうですか。・・・でもちょっと残念です・・・。私だけに首輪が届いて・・・私だけが、シモン様のモノになれるかと思ってましたが・・・。・・・でも・・・私もカーネリアなら、嬉しいです・・・。シモン様もカーネリアのこと好きですし・・・」 

 うわ言のように、幸せそうに呟く彼女を見て、私は確信してしまった。
 彼女は、もう堕ちてるんだ。

「み、碧・・・」
 私は碧から離れて後ずさりをする。すぐに大きな木に背中がぶつかる。
 その時、ポケットの中のブザーが震えた。
 ・・・清水先生だ。近くに来ている。
 先生・・・お願い・・・早く来て・・・。
 私が一生懸命ブザーを何回も押す。

 ガサ。ガサガサ。
 草むらが音を立てる。先生だ。
 でも・・・私があたりを見渡しても・・・先生の姿はなくて・・・。
「くぅん・・・」
 ・・・犬の声?
 私がその声の方に顔を向けると・・・清水先生がいた。
「わん!」
 ・・・ヴァルキリーの白い戦闘服に身を包んだ先生が・・・・・・碧とお揃いの首輪をして、・・・丈の高い草むらの中で四つんばいになってる。
 短いスカートがまくりあがって・・・お尻からは透明なバイブ−−私がもらった奴と同じ−−が生えて、うねうねと先生の中でうねっている・・・。
 私が叫ぼうとしたその瞬間、清水先生の後ろから人影が現れる。清水先生の首輪に繋がる鎖を手にした、シモンだ。
「・・・シモン・・・」
「・・・やれやれ、いきなり逃げ出すものだから見失ったよ。・・・まあ、お前がこの犬を呼び寄せてくれたお陰で見つけることができたがな」
 シモンは鎖を軽く引っ張って清水先生を抱き寄せると、首を撫で上げた。くぅん、と甘い声を挙げ、清水先生はお尻を振っている。・・・きっとしっぽをふっているつもりなんだろう。
「・・・・・・あなた、碧と清水先生を・・・」
 私の声は否応無しに怒りの響きが混じる。
 シモンは笑った。
「ああ、二人には一足先に私の配下になってもらったよ。二人とも私に出会うまでは随分と溜まっていたようだが、今はすこぶる幸せそうだ。・・・なあ、カーネリア。別に私はお前と戦うつもりは無い。ただ、お前にもこの幸せを分けてあげようと思っているだけだ」
「こんなの幸せなわけないじゃない!訳のわからない男に犬扱いされて!!洗脳されてぐしゃぐしゃに弄ばれて恋人だと思い込まされて!!!2人を元に戻しなさい!!」
「・・・つまり、お前はこうなるのが嫌だ、というんだな?」
「当たり前よ!!」
 うーん、とシモンは唸ってしばらく沈黙した後、
「・・・わかった。正直惜しいが、お前をスカウトするのは諦めよう」
と予想外のことを言い始めた。
「・・・え?」
「何か不満か?」
「え・・・え・・・いや・・・そ、そんな、あんたの言葉なんて信用できないわよ!!」
「そう面と言われると結構傷つくもんだなあ・・・」
 シモンは清水先生の目を伏せさせて何かをささやいた。清水先生の目から意志が喪われ、虚ろな表情でその場に立ち尽くす。
 清水先生の服についている枯れ草や泥を丁寧に払った後、シモンは私のほうに向き直り、
「・・・まあ、そういう反応が来るとは思っていたよ。そこの二人も最初はそうだったからな・・・。仕方ない。言葉で信用してもらえないなら誠意を見せるしかないな・・・。ルピア、頼むぞ」
「!?」
 私が振り返ろうとした瞬間、後ろからぎゅっと抱きしめられる。
「み、碧!」
「・・・カーネリア、少し、我慢しててくださいね?」
 シモンが近づき私の目を見つめる。
「・・・さっきお前が舐めていたローズから渡された薬は、ちょっとした媚薬効果と暗示効果があってね・・・。まあそんな細工をしなくても多分お前の身体は思い出すとは思うが・・・」
 彼の手が私の頬に触れる。吐息がかかる。私の身体は・・・否応無しに反応してしまう・・・。
「・・・さっきも言ったが、お前は俺の手じゃないとイケない身体になっている。・・・正直、一生このままでは心苦しいからな。最後のサービスをしてやろう」
「や、やめ・・・」
 シモンの顔が私に近づき、私の唇を塞ぐ。
「・・・・・・!!!」
 私がもがいても、碧がぎゅっと腕ごと私を抱きしめているせいで、抵抗できない。
 ・・・シモンの舌がぐちゅぐちゅ私の中をかき回して・・・。

 もう・・・

    今日は・・・キスされて・・・ばっかりで・・・

        身体はすぐふにゃふにゃになって・・・

                頭の中は真っ白になってくる・・・。

 シモンは唇を離すと、私の目を手で塞ぐ。世界が真っ暗になって、シモンの声だけが聞こえる。
「・・・この手は魔法の手だ・・・。この手が触れるところは、どんなところでも感じるようになる。・・・いつもの10倍、100倍の感度でだ・・・」
 シモンの手はそのまま私の髪の毛を撫でる。
「ひゃう・・・!」
 私はただ髪の毛を撫でられただけなのに・・・びく・・・っとしてしまう。
 私はシモンを睨みつける。私が何を考えているかすべて知り尽くした眼をしている。こんなやつに負けてなるもんか・・・。
 ・・・でも、本当はもう、私の目はうっとりと半開きになっていた・・・。
 シモンは次から次へと私の耳に言葉を流し込んでくる。
「・・・お前は昔を思い出す・・・。あの頃・・・すべてをご主人様に委ねることができたあの頃を・・・。この手はそのご主人様の手だ・・・見ろ・・・この指を・・・この手を・・・、お前の体中をこの手が這い回る・・・それを想像するんだ・・・そう、それは本当に気持ちがいい・・・今までお前が達することができない高みへ・・・この手はお前を連れて行ってくれる」
 シモンの手が踊るように私の前をヒラヒラと動く。彼の手が右に行けば右に、左に行けば左に・・・私の瞳は磁石でひっぱられるかのように動いてしまう。
 ・・・そして彼の言葉は真っ白な私の頭にすぅっと染み込んでいく・・・。

 ・・・この手が・・・私の外も・・・私の中も・・・ぐちょぐちょに・・・してくれる・・・。


 いつの間にか、私の頭の中はシモンに体中を触られているイメージで一杯になって・・・もうそれだけで・・・体から何か別のものが噴出しそうなくらい・・・体中が火照って・・・ちょっと突付かれたら爆発しそうな風船みたいで・・・。

 シモンは私にその手を見せ付けた後、ゆっくり私のスカートにもぐらせていく。
 ・・・私は、それを拒絶できた。だって、足は自由だったから。
 でも、私は・・・ただその時、この手があそこに触れてくれたら・・・と思うだけで・・・もう頭の芯が麻痺したみたいにぼうっとして・・・。むしろ自分から彼が触れやすいように足を広げる。
 シモンの手はそのまま私の濡れた下着の上から大事な部分に触れた。
 触れただけなのに、電流が背筋を伝うような感覚がして、快感が体中を走る。
「んんぁ・・・いや・・・」
 私の腰が自然に動く。私の言葉の裏を感じ取ったように碧も私の耳たぶを甘噛みする。シモンはゆっくりと布地の上から私のアソコをなぞる。本当にゆっくり・・・じれったくなるくらいに・・・。
「も・・・もっと・・・」
「もっと・・・何だ?」
「・・・く・・・」
 駄目・・・それを言ったら駄目・・・。
 私は自分の言葉をせきとめるように唇を噛み締める。
 シモンは私の上着をたくし上げて、胸に触れる。やわらかく・・・時には激しく。私の胸は、彼の手の中でふにゅふにゅと形を変えて・・・。
「んあ・・・ふ・・・あああ・・・」
 私はいやいやするように首を振る。
 シモンの指が私の乳首を同時にひねり上げた。
「んあぁぁぁあああああああ!!」
 
 私の頭が真っ白にはじける・・・。体中から力が抜ける・・・。


「おや、胸に触られただけでこんなに潮を吹いてしまうとはねえ・・・。・・・どうやら俺のサービスは気に入って頂けたようだな。カーネリア」
 碧に抱きかかえられて、地面にぺたんとお尻をつけたまま、私はぼんやりとした頭でシモンを見つめた。まだ頭の奥がジンジンしてる。口から涎が垂れてるかもしれない。・・・何より・・・アソコから噴き出したおしっこみたいなぬるぬるしたものが私の股を濡らしている・・・。・・・私の手は・・・無意識にその濡れた部分を弄くって・・・。
「・・・おやおや、カーネリア。まだ下着の染みが広がってるな・・・。指も自分から動かして・・・。さては、もっと気持ちよくなりたいのかな?」
「・・・あ・・・・・・・あ・・・」
 ・・・なりたい・・・なりたい・・・なりたい・・・なりたい・・・。
 私の頭の中で壊れたテープのようにそれだけがぐるぐると回っている。
「・・・くくく、でもお前はもう私の身体以外では絶対に気持ちよくなれないんだ。これからは、火照る身体を抱えて一生過ごすんだな。・・・そう、せいぜい、今の感覚を思い出に自分を慰めるがいい。・・・さて、ルピア、ローズ。正義の少女は置いて、われわれは帰るとしようか・・・」
「・・・はい。・・・では、カーネリア、ここに地図をおいておきますから、迷子にならないように帰ってください・・・。また明日、学校で・・・」

 私の背中をずっと抱きかかえてくれた碧の体温が消える。・・・すごく、心細くなる。

 シモンは清水先生にも一言二言囁くと、3人は私に背中を向けて・・・あっちに・・・歩いて・・・いっちゃう・・・。

「ま、待って・・・」
 私は絞りだすように声を上げる。
 シモンはゆっくりと振り向き、私に近づいてくる。
 こうなることを全て予想した自信が、彼の眼にありありと見える。
「何か御用かな?カーネリア」
 くやしい・・・・・・・。
  こんなやつに・・・・・・こんなことされて・・・。




     ・・・・・・・・・。

     ・・・・・・・・・。

     ・・・でも、もういい。

     ・・・・・・この快楽が・・・いつも手に入るなら・・・。
     
     ・・・・・・・・彼に操られても・・・彼に何もかも奪われても・・・もうどうなってもいい・・・。




「・・・・・・・・・・・・お願い・・・・・・・・・・・・・・・・・いかないで・・・・・・。・・・私を・・・もっと・・・気持ちよくして・・・・・・」
「・・・ふぅん・・・、それが、どういうことか分かってるんだろうな?」
 シモンの冷たい声と視線が私に降り注ぐ。
「・・・わかって・・・ます」
「・・・・・・身も心も再び俺のモノになるということだが・・・それでいいんだな?」
 シモンの声に、私はコクンと頷いた。
「・・・でも、残念だな。俺が折角送ったプレゼントが無いとなるとなあ・・・」
「あ・・・それなら・・・ここに」
 ・・・私は慌ててウェストポーチを開くと、そこに入ってた二つ重ねのコンビニ袋を破る。
 突き返してやるはずだった、首輪とバイブ。私はそれを手の平に載せて、シモンに差し出す。
「・・・・・・おや・・・準備の宜しいことで・・・」
 シモンは私の手からバイブと首輪を引き取る。
「カーネリア、このバイブをよく見るんだ・・・」
 シモンが透明なバイブを私の目の前でゆらゆら揺らす。グロテスクなバイブで私の視界が占領される。
「・・・このバイブは俺のアソコと繋がってる・・・だからお前はこのバイブを使えばイクことができる・・・」
 私はごくりと唾を飲んだ。
「・・・このバイブを良く見ると・・・いぼいぼが沢山ついている・・・このいぼいぼは全てお前の身体の中に入ると・・・お前のいやらしい液を吸ってどんどん膨らんで・・・アソコのヒダヒダに張り付いて・・・お前をとっても気持ちよくしてくれる・・・。ただ・・・俺がいいというまではお前はいけない・・・すごく気持ちよくなるがいけないんだ・・・いいな?」
 私は人形のようにこくりと頷く。
「・・・では、カーネリア、挿れるんだ」
 私はゆっくりと足を開くと、ショーツをずらして、バイブを突き挿した。
「ひぅ・・・」
 私の身体はそれだけでびくっと跳ねる。なのに・・・シモン・・・ううん・・・シモン様はバイブのスイッチを入れて・・・もう・・・私の身体は立っていられないくらいになって・・・。
「さて、そろそろこっちも慰めてもらおうか。・・・カーネリア。これへの刺戟は、お前のアソコにつきささったお○んちんに伝わる・・・。だから一生懸命舐めるんだぞ・・・」
 シモン様はベルトを緩める。私はシモン様のジーンズとトランクスを剥ぎ取るように下ろす。シモン様のお○んちんが私の目の前に飛び出す。汗と精液の匂いが入り混じった彼の先っぽに舌が触れる。すると私のアソコに入ってるバイブにもその刺戟が伝わって・・・まるで私自身のアソコを舐めているみたいになる・・・。
 もう我慢できない。私は口全体にシモンの肉の塊を含む。舌をレロレロと舐めまわして、じゅぷじゅぷ唾を擦り付ける。頭をひたすら前後に動かして、頬をつぼめたりヘリを舐めまわしたり唇を強く締め付けたり弱くしたり・・・。その動きが全て私のアソコに伝わる・・・。
「んん・・・ちゅ・・・ぶちゅ・・・じゅ・・・じゅ・・・」
 私の唇から涎が垂れ落ちる。何時の間にか私の上着は剥ぎ取られて、清水先生は私のおっぱいを揉んだり舐めたりしてる。碧は私のクリ○リスを刺戟して、スイッチの入ったバイブを前後に動かしてる・・・。バイブはどんどんどんどん膨れて・・・私の中で大きくなって・・・私の中をめちゃくちゃにかき回して・・・。
「んんん・・・んんんんん!!!」
 私の中でどんどんどんどん何かがせりあがってくる。私のアソコの肉がバイブをぎゅっと締め上げる。私の唇もシモン様のアソコを締め付けて、喉奥でシモン様の先っぽを責め立てるくらいシモン様の肉を丸々飲み込む。私の唾とシモン様の液が混ざって喉奥に流れて・・・熱い。
「・・・く・・・出すから・・・飲むんだ・・・これを飲むと・・・お前もイケる・・・さあ・・・もっと激しく・・・」
 シモン様は自分から腰を突き出して私の口をアソコに見立てるみたいに激しく動く。私はそれになんとか応えようと一生懸命で・・・。
 早く・・・早く飲ませて・・・。
 じゅっじゅっじゅっじゅっじゅ。私が顔を必死で動かしてるその時。

 びゅるびゅる・・・どく・・・どくどく・・・どく・・・。

 私の中でシモン様が果てて・・・

 ごく・・・ごくごく・・・。

 私がそれを飲むと、私の頭も真っ白になって、・・・まるでそのままふわっと浮かんでるような感じになる・・・。





 そのまま私の意識は真っ白な闇に堕ちた・・・。










 ローズはカーネリアを膝枕しながら、彼女の頭を撫でている。バイブを挿したまま、白い乳房を剥き出しにしたまま、カーネリアは幸せそうに目を閉じており、時折ぴくっとオーガズムの余韻なのか、痙攣する。
「・・・本当に、幸せそう・・・」
「・・・カーネリアを見てたら私も・・・。シモン様・・・その・・・」
「・・・まあ待て。今日は彼女が主賓だ。お前達はこの一ヶ月くらい、十分に楽しんだろう・・・。今日くらい我慢してやれ」
 もの欲しそうな瞳でシモンのアレを見つめるルピアをシモンは制した。
「・・・さあ・・・カーネリア・・・目を覚ますんだ・・・・・・」
 シモンはカーネリアを軽く揺さぶる・・・。










 ふわ・・・ふわ・・・とからだがゆれる・・・頭がゆれる・・・。
 私はゆっくり目を開く。口からとろりと白い精が零れ落ち、糸を引いて地面に垂れる。私は慌てて口の中に残った精液を飲み込む。
 目を開くと、そこにシモン様と・・・碧・・・ううん・・・ルピアの顔がある。そして、私を膝枕してくれてるのは・・・ローズ司令・・・。二人とも、シモン様に服従を誓った・・・私の先輩・・・。
 私はゆっくり身体を起こす。体中は私の涎や涙やシモン様の精液でぐしょぐしょ・・・。でも・・・全然嫌じゃない・・・。嬉しいくらい・・・。
「・・・カーネリア。これでお前は俺のモノだ」
「・・・あ・・・ありがとうございます・・・シモン様・・・」
 ぼうっと呟く私にシモン様は首輪を手渡す。
「・・・では、誓え。カーネリア・・・」
 私は大事な大事なものを受け取るようにその首輪を両手で受け取ると、首につける。革の冷たさと、締め付けられている感覚が・・・気持ちいい・・・。
 私は・・・自然と、奴隷としての言葉を口にしていた。
「・・・わたくし・・・カーネリアは・・・これから永遠に・・・シモン様に忠誠を誓います・・・。私の心も身体もシモン様のモノです・・・。どうかよろしくお願いします・・・」
 かちん。南京錠の音が鳴って、・・・私の心にも、永遠の鍵がかけられた。











「シモン!シモン!」
「はいはいただいま!」
 ドタドタドタ。せわしない足音がビルの内壁にこだまする。
「早く来い早く、わ、わ、やめてください!ベリル様!!」
 シモンが駆けつけると、床は水浸し。台所の蛇口からホースを片手に楽しげに水をまき散らかしているベリルと何とかそれをとめようとするサファイア。だが、サファイアの敗北は一目瞭然だ。
 部屋のテレビでは『お花に水をあげましょう』というテーマの教育番組が放映されており、教師役の女性が花壇にホースで水を撒いている。よくよく見ると今日のサファイアの髪留めは小さな花がしつらえてあるタイプのもので・・・。どうもテレビを真似してサファイアの頭に水をぶっかけたらしい。
「こら、ベリル様!こんなところで水遊びしてはいけません!!」
「あー?」
 シモンがベリルからホースを奪い取ると、彼女は小首を傾げる。身長はシモンより高いくらいだが、まだ赤ん坊からそれほど精神成長していないので、言葉も拙い。・・・無論、無理やり成長させてもよいのだが、また以前のような無慈悲な女王になられたのではかなわない。シモンはもう少し時間をかけて成長させようと思っている。幼児教育が大事なのは人間もネメシス人も同じである。
 憮然として蛇口を止めたサファイアは、ベリルに水を掛けられてドブネズミのようだ。ご自慢のツインテールも水で重く湿って元気なく垂れ下がっている。一方、主犯のベリルの方は全く濡れていない。こういうところに生まれついた力量の差が現れるのではないか、とシモンは睨んでいる。
「シモン!!貴様、ベリル様の躾を任せておけ、といったのはどこのどいつだ!!」
「・・・は、申し訳ありません。十分に叱っておきますゆえ、なにとぞここはご辛抱のほどを・・・」
 フンとサファイアは鼻を鳴らしてそっぽを向いている。鞭が手元にあったら2発くらい飛んでくるところだ。
「・・・サファイア様、これを。後、お召し替えの服をあちらにご用意させて頂いておりますので、お着替えください」
 バスタオルをうやうやしくサファイアに手渡すシモン。
「・・・随分と気が利くな」
「定例会議がありますので、それに遅れませぬよう」
「・・・わかっておる」
 サファイアは髪の毛をバスタオルで拭きながら、肩をいからせて部屋を出て行く。
「さあ、ベリル様。もうすぐ会議が始まりますから、向こうでお召し替えください」
「あー」
 ベリルはシモンをすこし見つめたあと、頷き、自分の部屋に向かっていった。言葉は話せないが、少なくともこっちの意図は完全に汲んでくれる。・・・汲んだ上で悪童振りを発揮しているのだからなお一層性質が悪いのだが。
 シモンは床の惨状をみやった。リノリウム貼りの床は水気には強いとは言え、こうしょっちゅう汚されるとここを引き払う際に敷金が帰ってこなくなるだろう。シモンは水切りを持ってきて床の水溜りの除去作業に取り掛かろうとする。
「・・・あの・・・シモン・・・」
「?」
 何時の間にかサファイアが戻ってきている。
「・・・その・・・すまん・・・お前が買い物にいってる間・・・ベリル様の面倒をみてなくてはいけなかったのに・・・こんなことに・・・」
 サファイアはすまなそうに小さな声でシモンに謝る。
「・・・・・・いや、ベリル様もやんちゃな時期ですから、仕方ないですよ。以後、気をつけてください」
「・・・・・・・・・・・・」
 サファイアはバスタオルを抱えたまま少し俯いていたが、コツンとシモンの胸に額を寄せて、
「・・・・・・・・・それで、終わりなのか?」
 ・・・相変わらずサファイアのお仕置きされたがりは変わらない。いや、時々わざとお仕置きされるような振る舞いをしているのかと思うこともある。
 もっとも、そのたびに「お仕置き」をしている自分がそもそもナニだし、嫌ならその暗示は取っ払えばいいわけで・・・、結局のところシモンもこういう関係は嫌いではない。


 
 −−やっとこさっとこチキュウに還ってきたシモンは、幾つかの選択に迫られた。

 一つ、人間社会とどう折り合っていくか。
 一つ、どこに寝泊りするか。
 一つ、ネメシスにおける人間関係をどうしていくか。


 ネメシスではクローン培養で下っ端部隊の生殖をするため、短期的な人員の生産は不可能ではない。だが、クローンの生産材料も不足しており食糧の調達もママならない現状で、無理に兵員を増強して改めて人間どもに戦いを挑むのは非現実的過ぎる。そもそも、腕力に訴えるのはシモンの好みでもない。
 幸い、自分達の外見はほとんど人間と変わりが無いので、人間社会に溶け込んで生活するにはそれほど支障は無い。
 とりあえず、都会の閑静な住宅街の雑居ビルの地下を借りて、サファイアとベリルを住ませることとなった。「なった」と軽く表現されているが、この状態に到達するまでには2ヶ月以上かかっている。その苦労は追々語られることもあるかもしれない。

 しかし、三人とも「おたずねもの」扱いには違いないので、あまり表に出るのはまずい。特に社交的センスが全く無い上にすぐに鞭が飛ぶサファイアと、見た目が妙齢の美女なのに中身は赤ん坊のベリルをそんなにひょいひょいと外に出すわけにはいかない。
 必然的に、シモンが買い物から家賃の支払い、資金調達まで全ての下働きを行うこととなる。
 となれば、以前と同様、サファイアを将軍として、ベリルを総帥として(もちろん、「あー」とか「うー」とかしか言わないのだが)推戴し、シモンは下っ端隊長として汗をかく、というお決まりの関係を維持するのが、一番自然だ。

 要するに、三人の人間関係や地位関係は表面的には相変わらず、である。

 ただ、シモンはベリルの世話人であり、ベリルの言葉はシモンにしかわからないことになっているので、ネメシスの全ての決定権はシモンに委ねられている。そういう意味では、シモンがネメシスの実権は握っている、ということができるのかもしれない。
 そんな生活に居心地の良さを感じてしまうあたりに、自分の器の限界を感じてしまうシモンではあった。



 そして、もう一つ。ヴァルキリー達をどうするか。



 その頃、地下の一室。
 ちょっとした広さがある会議室という名の殺風景な部屋には、2人の女性が彼女たちの主人が現れるのを待っている。
「・・・シモン様、遅いですね・・・」
「・・・さっき怒鳴り声が聞こえてましたから・・・サファイア様の・・・」
 ルピア、ローズはヴァルキリーの戦闘服に身を包み、囁きあう。一点、以前と異なるのは、彼女達が首に革製の首輪を付けていることだ。
 しばらくして、ドアが音をたてて威勢良く開いた。
「ネメシス総帥、ベリル様のお成りだ。ものども、頭が高い!」
 サファイアのよく通る声が響く。二人はさっと立て膝になり恭しく頭を垂れる。
 黒いドレスに着替えさせられたベリルはシモンに手を引かれ、上座にしつらえてある椅子に座る。
 シモンはルピアとローズを見下ろし、
「では、これから定例会議を始める」
と、重々しく開会の辞を述べる。
 

 ・・・週に一度、こうしてヴァルキリー達を集めて、会議が行われる。

「・・・さて、今日から新しい仲間が入ることとなった・・・紹介しよう。入れ、カーネリア」
「はい・・・」
 ドアが開くと、カーネリアが、ヴァルキリーの戦闘服で入ってくる。勿論、首輪をつけて、だ。
「カーネリア、ベリル様に拝謁するんだ」
「わかりました・・・」
 カーネリアはベリルの前に出ると、深々とお辞儀をし、その場で跪くとベリルの手の甲にキスをする。ベリルは「あー」と声をあげて嬉しそうにカーネリアの癖っ毛をぐしゃぐしゃとかき回す。
「・・・今日から正式に彼女も我が新生ネメシスに入ることとなった。皆、今後協力して我がネメシスの人類支配に向けて活動するように。よいな!」
「「「はい!」」」



 −−ヴァルキリー達は、シモンの直属の部下として位置付けられることとなった。もちろんサファイアやベリルはもはやそれに異議を唱えることは無い−−



 その後ローズとルピアからは報告がある。ローズからは、政府機関によるネメシスに対する捜査活動は特に行われていない旨の報告があり、ルピアからはアルバイト先の状況が報告される・・・。


 −−ネメシスの崩壊の報の後、ほどなく戦隊ヴァルキリーは解散となったが、政府組織は残務処理と緊急時の対応という名目から、縮小されつつも組織は維持されており、ローズはまだその政府組織と学校教師を兼業している。組織における彼女の身分はネメシス撃破の功績により司令から総司令へと格上げになったが、仕事はほぼデスクワークだけだ。ただ、ネメシス一味が復活したという情報が漏れれば、すぐさま臨戦体勢が整えられることになっており、ローズの役割はそうした政府の動向をシモン達に伝えることである。

 −−ルピアが働いている店−−二人がお茶とケーキを食べに行ったケーキ屋−−はシモンの支配下にある。正確にはその店の店長その他幹部連中と、ウェイトレスの半分くらいが洗脳済みである。
 ここからのアガリがネメシスの財源となっているが、たまにやってくる金持ちや社会的地位の高い来店客には、出す料理に少しずつ常習性のある洗脳薬を混ぜて、あわよくばこちらに取り込む、という地道な作業もしている。また、見栄えのする女の子もスカウトし、洗脳した上でアルバイト要員として確保している。やましい理由以外にも何かと使い手があるからだ。こうした任務はルピアの担当だったが、カーネリアもじきに加わることとなるだろう。
「しかし女性に人気のあるケーキ屋がネメシスの橋頭堡というのも、なんというかなあ・・・」
とシモンも思わないでもないが、ひとまず手近でかつ綺麗な女の子も一杯いるという趣味と実益の点からケーキ屋が選ばれた。チェーン展開も今後の課題といえる。

 −−新生ネメシスも、相変わらず人類支配の看板を掲げているが、シモンとしてはそこまでこだわりを持っているわけではない。せいぜいウドンが絶滅しない程度に支配できれば、それでいいのである。ただ、組織には目標が必要であり、悪の組織を自任する以上は、それらしい目標が無くてはいけない、というのがシモンの持論だ。まあ、地道に洗脳活動を繰り返しているのだから、迂遠とはいえ、人類支配につながっていることに間違いはないだろう。


「・・・以上で報告終わります」
「うむ。ご苦労であった。なお、特殊諜報任務についているダリアからは、つつがなく任務遂行中、との報告が入っている。・・・では以上で今週の会議は散開とする。各自、それぞれの任務を着実にこなすように!」
 シモンが会議の終わりを高らかに宣言する。
 ・・・。
 ・・・。
 しかし、部屋の誰もそこから動こうとしない。
「・・・お前達、どうした?」
 そらとぼけて嘯くシモンに、全女性陣の非難の視線が集中する。
「・・・シモン様・・・・・・・・・まだ終わってません、会議は・・・」
 ルピアが白い目でシモンを睨む。
「・・・・・・・・・一番肝心な『賞罰の儀』が・・・」
 ローズが冷たい声を出す。
「あー、うー」
 ベリルが足を踏み鳴らして抗議する。
「・・・ずるいです、シモン様・・・私、今週一生懸命頑張ったんですよぅ・・・」
 カーネリアが上目遣いでシモンを見る。
「・・・・・・」
 サファイアは赤面したまま顔を伏せている。さっきのおねだりを思い出しているのだろう。
 シモンは溜息をついて、半ばヤケッパチのように、
「・・・・・・はいはい。じゃあ、今週行った、賞罰の儀に値すると思われる行為を自己申告するように・・・」

 ・・・彼女達に「賞」と「罰」を与えるのは、必然的にシモンの役割となった。とはいっても、「賞」も「罰」もヤル事は同じである。
 もちろん、シモンは「ごほうび」をあげるのも「おしおき」をするのも嫌いではない。
 ただ、いくら若いとはいえ、彼も自分の健康に若干の不安を隠せないのもまた確かであった。



 人類支配への道は、遠く険しい。




−−epilogue A  end.


 

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