洗脳戦隊


 

 
第十五話(A) 光彩陸離



 ベリルとの最初の戦いが始まったとき、中天に浮かんでいた月は、既に地面の方へ相当近づいている。しかし空はまだ暗く、永遠に夜明けが来ないかのようにも思える。
 しかし、その月と暗い地上との間では、時折眩い光が炸裂し、流星が飛び交う・・・。そして轟音と閃光が静まると、そこには強い風が白い服をはためかせたベリルが何事も無かったように佇んでいる。その繰り返しだ。
 ベリルの水平方向にはヴァルキリー3人が囲むように位置し、ベリルの頭上数キロの地点にシモンが浮いている。
 もう、何十回目だろうか。壊れたディスクのように進展のない、同じ光景が再現され続ける。
「・・・ったく・・・本当にタフね・・・」
 ローズは吐き捨てるように言い放った。
 カーネリアはもうグロッキー気味だ。ルピアの息もあがっている。それに対し、ベリルは涼しい顔だ。いや、あれは無表情と言うべきだろう。ただ目の前の敵を、確実に仕留めるための意思なき機械だ。
 このまま徒らに時間を費やしていては・・・。
「シモン!なんとかならないの?」
 ローズの怒鳴り声に、シモンのやや間延びした声が返ってくる。
「・・・あー、あとワンチャンスある。もう何分か辛抱してくれ・・・」
「そんな・・・さっさとやらないと・・・こっちも限界よ?」
「こればっかりは発動する時間が決まってるからな・・・、もうちょい耐えてくれ」
「・・・もうちょっともうちょっと・・・さっきからそればっかりです・・・いつになったら・・・」
 ルピアが汗を拭う。その一瞬を捉え、突然ベリルの手の平から光の弾が膨れ上がり・・・ルピアの方に向かって猛烈なスピードで飛来する。
「・・・!」
 防壁詠唱は間に合わない。
「まず・・・」
 ルピアの前にローズが急速に移動する。メイスにオーラを集結させて対抗しようというのだ。しかし、到底間に合わない。
 ルピアが迫りくる光弾に身をすくめたその瞬間、ルピアの目の前が暗転した。
 大音響とともに、空間に激震が走る。目の前に青白いプラズマが走る・・・。
 突然、空間が割れ、巨大な金属塊が現前した。


「・・・なんだ、あれは?」
 シモンは上空からその光景を見下ろす。
 ベリルとルピアとの間に、青白い光を纏いながら、黒々とした巨大な影が現前しつつある。空間が裂け、エネルギーの残滓がそこから噴き出している。
 その巨大な影に、ベリルの光弾が直撃する。・・・しかし、巨大な影は軽く身じろぎをするだけで、何事も無かったかのように宙に浮かんだままだ。
 黒い影は、地底にあったはずの旗艦だった。
「あいつ、あんなポンコツで位相転移なんかしやがって・・・」
 ダリアの策、というのは、旗艦を位相転移させることでエネルギーを一気に消費することだった。おそらく、強引にクラックして制御系統を奪ったのだろう。
 シモンは無線を取り出す。
「おい、ダリア!お前何やってんだ?」
「見てわからないか?」
 無線越しのダリアの声は相変わらず平然としている。
「わかる。しかし、そんな策があるなら、なんで最初から提案しなかったんだ?」
「・・・ぐだぐだ言ってる暇があったらベリル様を何とかしろ。エネルギーはもう無駄撃ちさせる必要は無い。こっちでエネルギーを食った分彼女の攻撃力・防御力共に下がってるはずだ。今を逃すと、もうチャンスは無いぞ」
 確かにそうだ。シモンは現状を確認する。ベリルの方を見やると、本来自分に向かうはずだったエネルギーを根こそぎ奪われたためか、ふらついている。
 しかしそれは一瞬貧血に近い状態に陥っているだけだ。すぐに復活する。シモンはバイザーのスイッチを切り替え、レーダー画面を表示させる。レーダー波に返ってくる反応は4つ。位置と速度を再計算・・・・・・残り2分。誤差2.5メートル。
「・・・適当にやった割には上出来かな?」
 シモンはインカムに向かってオーダーをする。
「・・・3人とも、もうひとふんばり頼む。なんか超強力な必殺技を撃つ余力はあるか?」
 ノイズ越しにローズの声が聞こえる。
「・・・あるにはあるけど、もう私達の体力では、本当に最後の一発よ?あと、あなたと私達3人の同時攻撃くらいじゃ、彼女は防いでしまうわ・・・。最低もう一つ攻撃がないと・・・」
「・・・ダリア?お前、その旗艦から攻撃は無理か?」
 ダリアの声が聞こえる。
「・・・制御系を乗っ取るので手一杯だ。攻撃系は全く動かん」
「・・・じゃあ、仕方ない。当初の計画どおりやる。3人とも、1分後にベリルに向かって渾身の一撃を撃ってくれ。時間きっかりにだ」
「・・・随分細かい指定ね・・・。これでミスったら、本当にもう後は無いわよ?」
「・・・何にせよ、今しかチャンスは無い。火力を出し惜しみするな」
「・・・了解。とにかく1分後に撃てばいいのね」
「・・・頼むぞ」
 シモンは言い放つと、顔を下に向ける。
 バイザー越しに拡大されるベリルの顔・・・その目がシモンに向けられる。
 シモンはレールガンの砲身を真下のベリルに向けて構える。その鉛直線下数キロの地点にいるベリルは、虚ろな瞳の中にシモンを映し出したまま両腕をふらりとシモンに向ける。
「・・・さあ、ぼちぼちケリをつけさせてもらいますよ」
 シモンのその言葉が聞こえたかのように、ベリルは急接近を開始した。
 暗視映像に浮かび上がる白い姿に向かってシモンはトリガーを引く。
 衝撃波を伴ってベリルに飛来する弾丸は、しかし、ベリルのオーラにぶつかる前に自ら破裂する。
「・・・・・・!」
 シモンに向かって飛ぶベリルの白い服に、割れた弾丸から飛び出した透明な液体がべっとりとへばりつく。
「・・・・・・」
 ベリルは一瞬顔を顰めたが、特段影響がないととるや、大鎌を振りかざして再びシモンとの間を詰め始める。
 が、
「・・・果て無く吹き荒ぶ極地の風よ、我に力を・・・」
「・・・地の底より沸き出でし熔岩の炎よ、我に力を・・・」
「・・・神々の用いし破戒の雷よ、我に力を・・・」
 ヴァルキリーの詠唱が終わり、熱量が空間に充満する。
「「「Ragnarok」」」
 正三角形の頂点にそれぞれ位置した3人から赤、緑、白の光が解き放たれ、ベリルに向かって下方から押し寄せる。
「・・・・・・!」
 察知したベリルが避けようとした瞬間、その空間に張り付いたように動けなくなることに気づく。・・・動けないベリル目がけて3色の光が集束する・・・。
 レールガンの砲身をベリルに向けたまま、シモンが乾いた声で言う。
「・・・さっきあなたが浴びた液体には重力感応素子が大量に含まれてましてね。・・・この砲身から射出される指向性重力場の影響で、しばらく動けないと思いますよ」
 轟音とともに光の帯がベリルに着弾する。今までよりも数倍の熱量を持った3人の攻撃は・・・しかし、ベリルはなおも右手一本でそれをしのいでいる。ベリルも限界に近いが、ヴァルキリー自体の体力も、あれだけの攻撃を維持できるのは、あと十数秒程度だろう。
 だが、それで十分だ。
 シモンはバイザー越しに狙点を合わせる。
「・・・3・・・2・・・1・・・ゼロ」
 レールガンから射出された最後の弾丸は空気を切り裂き避けることのベリルの頭めがけて直進する。だが、その攻撃を前もって察知しているベリルは残された左手をわずかに振り動かし、重力場の呪いを振り切るように大鎌をシモンの方向に突き出す。その刃先に結集したオーラは、最後の弾丸を包み込み、揮発させる。
 ベリルは、この戦闘で初めて酷薄な笑みを浮かべた。もはやシモンもヴァルキリーも恐れるには足らない。
 だが、その瞬間、ベリルのこめかみを何かが掠める。衝撃波が、彼女の鼓膜を打ち、額を裂く。彼女は反射的にその何かが飛来した方向に顔を向ける。しかし、そこはただ黒々とした闇があるだけだ。
 しかし、その行動は決定的だった。
 彼女が顔を向けた・・・丁度逆方向、左脇腹に衝撃が走る。その衝撃はそのまま左から右に抜ける。口から血が溢れ出す。衝撃で剥き出しになった傷を反射的に抑えるが、それは本当に反射的な行動でしかなかった。
 彼は・・・真上にいるのに・・・・・・水平方向から・・・・・・・・・なぜ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 しかしベリルの問いに答えは返ってこない。
 バリアの抗力とヴァルキリーの放つエネルギーとの釣り合いが崩れ、ベリルのきめの細かい肌に赤い血筋が走り始める。
 白い光の熱に包み込まれた彼女の意識は、自分の身に起きた事実を認識する間も無く、次第に濃くなっていく闇に沈んでいく・・・。


「・・・お疲れ様」
 シモンの呟きを暗くなる意識の中でベリルは聞いた。何時の間にかヴァルキリーの攻撃は止み、自分を抱きかかえるようにシモンがいる。暗くなっていく視界の中に浮かぶシモンの顔をただベリルは虚ろに見つめる。自分の首筋にあてがわれる注射針の痛みが、彼女が「ベリル」としての意識で感じた最後の感覚だった。
「カーネリア、ルピア、ローズ、ダリア。終戦だ。・・・着地しよう」
  

 シモンはベリルを抱きかかえるようにして地上に降り立つ。あれだけの熱量と攻撃を受けたベリルの身体の傷ははやくも癒えつつある。しかし、シモンが打ったダリア特製の薬の影響で彼女は眠りについたままだ・・・。起きたときには人格自体も赤ん坊のようにまっさらに消えている筈だ。
 シモンが地面にベリルを寝かせると、上空からヴァルキリーが次々と降りてくる。
 カーネリアが恐る恐る近づいてくる。
「・・・本当に終わったの?」
「ああ、終わりだ」
「・・・今の最後の攻撃はどこから?誰が?」
「・・・俺がここから」
 ルピアが訝しげに疑問を口にする。
「・・・確か、あなたが真上からベリルに撃ったあの弾が、最後の一発だったはずです・・・」
「そのとおり」
 シモンは肩をほぐしながら返事をする。慣性制御で軽減しているとはいえ、生身の身体にレールガンの反動はこたえる。
「・・・チキュウの1周は4万キロ。空気抵抗がなければ、第一宇宙速度で水平方向に射出した弾丸は約80分で同じ場所に戻ってくる。この弾丸は、材質、形状とも極力空気抵抗を抑える設計にはなっているし、初速と仰角を調整して空気の薄い高高度軌道を周回させてやればほぼ問題なく1周可能だ。もっとも、地磁気やらチキュウの自転やらその他もろもろの影響を考慮しなくてはならんがな・・・」
「???」
 頭の周りにはてなマークを乱舞させているカーネリアを放置したまま、ルピアは尋ねる。
「・・・ということは・・・最初の策・・・自分とは異なる位置から自動連射で攻撃したのは・・・」
「そう。あの攻撃は、もとより当てるための攻撃ではない。チキュウを一周させ、80分後に当てるための攻撃だ。そう計算して撃ったんだからな。・・・もっとも、6発撃って、無事ここまで飛んで来れたのは4発だけだったが・・・」
「・・・でも、いくらなんでも弾丸の軌道にベリルがいるとは限らない・・・」
 シモンはいかついパワードスーツとレールガンをやっとのことで脱ぎ終わる。
「・・・というわけで彼女には重力感応素子をかぶってもらって、弾丸の通過予定地点に貼り付いてもらった。・・・お前達の攻撃と俺のレールガンを防ぐことに集中力とエネルギーがいってしまったから、誰もいない方向から飛んできた予想外の弾には対処できなかったというわけだ。めでたしめでたし」
「シ、シモン・・・その・・・ベリルが・・・」
 狼狽したカーネリアの指差す方向を見ると、ベリルの身体に空いていた穴がみるみるふさがっていく。
「・・・ああ、自然治癒力が尋常じゃないからな・・・。まあ、安心しろ。さっき、薬を打ったらから、しばらくは動けないだろう・・・」
「・・・それでは、これで一件落着ということなるわけですね?」
 ルピアの問いにシモンが憂鬱そうな声で返す。
「・・・だといいのだが・・・なんだか嫌な予感がする・・・」
 シモンの視線の先に、ダリアの操縦する旗艦が地響きと共に着地する。


 月は西に傾き、東の空が白みつつある。長い夜もようやく終わろうとしている。
「・・・無事終わったようだな」
 旗艦から降りてきたダリアは白衣をはためかせてやってくる。
「おかげさまで。・・・それにしても、ダリア。あんな作戦があったら最初から提案しろよ。おかげでえらい苦労をしたぞ」
「・・・必ずしも制御系をのっとれる自信が無かったからな。・・・あと、非常にゆゆしい問題が発生するからな・・・できればやりたくない策だった・・・」
 ダリアが遠い目をしている。
「・・・なんだ?そのゆゆしい問題って」
「その前にベリル様を処置する。待っていろ」
 ダリアがベリルに向かうのと入れ違いの形で、ローズがシモンの方にやってくる。
「・・・さて、シモン。何はともあれとりあえずあなたの尽力には感謝します」
「おう。大いに感謝したまえ。警視総監賞でもノーベル平和賞でも、好きなものを持ってこい」
「・・・あなた、自分が全ての元凶だってことを忘れてるわけじゃないでしょうね。・・・まあそれはともかく・・・」
 ローズがメイスをシモンにつきつける。
「功労者であるあなたは悪いですが、あなたはこの国の法に基づけば、『特殊駆除対象危険生物』・・・要するに、私達ヴァルキリーによる拘束・撃滅対象です」
「・・・やれやれ、俺は人間扱いされてないわけだな?知的生命体を猛獣扱いとは、野蛮な文化だ」
「・・・知的、ですか。・・・窃盗、強盗、器物損壊、誘拐、監禁、婦女暴行、準強制猥褻、不法侵入、その他もろもろ・・・。人間扱いしたとしても十分重犯罪者だと思いますが?」
 後ろから囲むような位置に立つルピアの冷ややかな言葉を、ローズが継ぐ。
「・・・というわけで、悪いけど、これも仕事なのよ。シモン。・・・さっきのあなたの貢献については私からも上に話して情状酌量をしてもらうようにするから、無駄な抵抗を止めて投降してくれると助かるわ」
「・・・ううむ。なんと冷たい生き物なんだ。貴様らそれでも人間か?」
 シモンが人道について熱く語ろうとしたその時、
「きゃっ!!」
「どうしたの?カーネリア?」
「なんか、変な生き物が・・・」
 カーネリアが指差した先には、透明のふるふる震えるゼリーのようなものが地べたに広がっている。・・・いや、どうもそれは波打つようにずるずると動いている。
「な、何よこれ・・・」
 その透明のジェルだかゲルのようなものはその外見に似合わずすばやい動きで、カーネリアにブーツにへばりついた。
「あ!」
 白い脚をよじ登ろうとするスライムをカーネリアは手で阻止しようとするが、ぶよぶよとしたスライムはそんな彼女の抵抗は全く意に介することなく二手に分かれて一方はカーネリアのスカートの中の下着に、もう一方は払いのけようとする腕に絡みつき、彼女の自由を奪う。
「こ、この・・・・・・いいかげんにしないと・・・こ、こら・・・あ・・・くはぁ・・・だ、だめ・・・んああ!!」
 抵抗するカーネリアの声に甘い響きが入ってくるのにそれほど時間はかからなかった。
「おい、大丈夫か?」
 シモンが慌ててカーネリアに駆け寄り、スカートの中に手を突っ込む。べっとりとしたゲルの先端を器用に掴み取ると、ちぎりとって地面に叩きつけ、踏みつける。危険を察知したゲルの本体は、そのままシモン達から遠ざかる。
 カーネリアはうつむいたまま息を荒げている。スカートの上からさっきのゲルがへばりついた部分を押さえている。
「どうした、刺されたか?」
 カーネリアはゆっくり首を横に振る。
「じゃ、大丈夫なんだな?」
 激しく首を横に振る。
「・・・なんだそりゃ?」
「・・・だめ・・・だめなの・・・こんなの・・・だめなのに・・・」
 カーネリアは潤んだ目をシモンに向ける。思わず後ずさりするシモンに抱きつき、そのまま押し倒す。
「だめ・・・だめ・・・だめ・・・」
 取り憑かれたかのように繰り返しながらシモンの上ののしかかり、シモンの大腿部に自分の股を擦り付ける。
「こ、こら、少し冷静になれ!カーネリア!」
「あ・・・あん・・・いいよぅ・・・シモン・・・きもちいい・・・」
 虚ろな目をしたカーネリアは、もはやシモンの声には反応しない。
「どうしたの?」
 ルピアとローズが駆けつける。
「・・・すまん、ちょっとカーネリアを引き剥がしてくれ・・・」
「・・・カーネリア、ちょっといい加減に・・・」
 ルピアがシモンの上にのしかかっているカーネリアを後ろから引き剥がそうとすると、突然カーネリアがルピアの首に手を絡めてキスをする。
「ん・・・な・・・あ・・・」
 じゅる・・・じゅるる・・・。淫猥な音を立ててルピアの唾液をカーネリアは啜る。
 ルピアはやっとのことでカーネリアを突き飛ばす。
「く・・・いったい・・・」
 と、その瞬間ルピアの背後からスライム襲いかかり、ルピアの全身を包み込む。
「きゃ・・・や・・・だ、だめ・・・」
 胸元から、スカートのスリットの裾から、首筋から、あらゆる隙間からルピアの敏感な部分を目掛けて粘液をしたたらせ、奇怪な生き物のジェル状の触手が蠢く。
「あ・・・はぁ・・・ん・・・」
 ルピアの顔も見る見る上気し、瞳が潤み、口元がだらしなく開きはじめる。
 その隙に口の中にも触手が入り込み、彼女の口腔を蹂躙する。ルピアの身体が痙攣を起こし始める。
「シモン・・・あなた、謀ったわね!」
 ローズが怒りの声をあげる。
「いや、待て待て待て。俺じゃない俺じゃ」
「あなたじゃなったら誰だっていうの!」
「むぅ」
 確かに、反論できない。
「・・・あなたには後でたっぷり痛い目を見てもらうわ。それはそうと・・・」
 ローズが視線をスライムにやる。何時の間にか、スライムはどこまでも伸びる体を伸ばしてルピアをねちねちと嬲っている。豊かな胸ははだけ、艶かしい太腿が露わになっている。ルピアの腰はうねり、瞳からはもう光が失われている。自分から快楽を貪り始めているのは明らかだ。
「・・・これじゃ撃てないわね」
 責めあぐねているローズの背後からゆらりとスライムを体中に纏わりつかせたカーネリアがふらふらとやってくる。スカートは捲れ、下着が丸見えになっている。ハイソックスにはぬらぬらとしたスライムが張り付き、目は虚ろだ。
「カーネリア!正気になりなさい!」
「・・・ローズしれい・・・いっしょに・・・きもちよくなりましょう・・・」
 ローズは近づくカーネリアを威嚇するように攻撃するが、スライムにのっとられたカーネリアは全く恐怖心を失っており、なんら躊躇することなく近づいてくる。
「この!」
 ローズはスライムの取り付いていないカーネリアの腕を取ると、そのまま投げ飛ばす。
「きゃ!」
 地べたに叩きつけられたカーネリアはそのまま目を回して伸びてしまった。
「・・・ローズ司令・・・私と・・・いっしょに・・・」
 何時の間にかルピアがやってきている。
「あなたたち・・・いい加減にしないと・・・」
「ローズ、危ない!」
「!」
 シモンの声に慌てて後ろを向いたローズだったが、そのときはもう遅すぎた。何時の間にかローズの足元にまで這い寄っていた別のスライムが跳躍し、そのまま薄い膜状に広がってローズを包むこむ。
「・・・・・・!!」
 なんとか顔にへばりついたスライムを剥ぎ取り、呼吸は確保したものの、既に媚薬は口の粘膜を通じて彼女の血中に浸透している。ローズの顔には見る見るうちに上気し始める。
「そ・・・んな・・・あ・・・や・・・やめて・・・」
 抵抗力が見る見る落ちていくローズの手足を掴むかのように触手がまとわりつく。その触手はそのままローズの服の下にもぐりこんで、媚薬を分泌し始める。服の上から身体をおさえ、ローズは身をわななかせ始める。
「あ・・・ああ・・・」
「ローズ・・・司令・・・」
 ふらつくローズをルピアが抱きとめ、粘液で濡れる首筋や頬に自らの唾液をまぶし始める。ローズの瞳から意志の光が薄れ、やがて切なそうに息を漏らしてルピアの唇を自ら奪う・・・。何時の間にか目を覚ましたカーネリアもその二人の媚態に誘われるかのように近づき、ルピアの太腿を舐め始める。スライムはその3人の姿に満足したかのように、一つに結集し、さらに触手で彼女たちの穴という穴をおしひろげ、粘液をしたたらせる・・・。

 そんな嬌宴を横目に、一人蚊帳の外にいるシモン。これはこれで面白くない。
「おい、こら!そんなゲテモノ相手に易々と発情するなんて。それでも正義の味方か!お前ら!!」
「・・・これほど説得力のない台詞もないもんだな」
 何時の間にか隣にダリアがやってきている。後ろ手にベリルを引いている。
「・・・ベ、ベリル・・・」
「だー」
 思わず身構えるシモンを、指を口に咥えたベリルは目をぱちぱちさせて見ている。
「安心しろ。彼女の心は赤ん坊同然だ。ほら、シモンお兄ちゃんに遊んでもらいなさい」
「なー」
 邪気の無い瞳でシモンににじりよったベリルは、そのままシモンに抱きついてきた。色気や何かをアピールする抱きつきではなく、ただ、安心できる拠り所を求める抱きしめ方・・・。確かに、ダリアの言うとおり、赤ん坊返りしているのだろう。もっともシモンよりベリルの方が背は高いくらいなのだが・・・。
 ベリルにほっぺたやら髪の毛やらを引っ張られながらシモンはダリアに尋ねる。
「・・・それはそうと、このスライムはお前の仕業だな?」
「ほほう。よくぞ見切った」
「アホ。お前以外にだれがこんなゲテモノを世に放つか」
「ゲテモノとは失敬な。こいつは私がこんなこともあろうかと開発していた対ヴァルキリー用秘密兵器だ。女性のみに有効な即効性の媚薬を分泌する。・・・既に彼女達の身体は薬物洗脳されやすくなっているからな。効きが早い」
「・・・お前、鬼だな・・・」
「ふん。それともあのまま捕まって人体実験の材料になってたほうが良かったと言うのか。お前は」
「それも嫌だが・・・」
「丁度いい。ここで彼女たちを洗脳したらどうだ?今なら簡単だぞ」
 嬌声をあげながら終わることの無い快楽を貪りつづける彼女達を見ながらシモンは思わず、
「・・・いや、それは流石に卑怯じゃないか?」
「ことここにいたって卑怯も何もあったものではなかろう。・・・まあそれよりも、シモン。問題が一つ残ってる」
「・・・な、なんだ?」
「旗艦の自爆スイッチのことだ。実は先刻の位相転移ではまだ、エネルギーを使い切れていない。多少ゆとりは出たが、やはりあと数時間以内に使い切らないと爆発する」
「・・・なぬ?」
「さっきのは所詮、距離にして数十キロの空間ジャンプだからな。もっと数万光年単位でジャンプしないと駄目だ」
「・・・じゃあ、もう一度跳べばいいじゃないか」
「・・・ところが、だ。しばらく使っていなかったエンジンを無理やり稼動して飛ばしたものだから、どうも調子がよくない。しかも制御系の調子もどうも今ひとつで、一回跳んだら最後、どこに跳ぶかわからない。・・・いや、無事跳べるかどうかも危ういところだ。だから、次の跳躍は、この旗艦もろとも次元の藻屑と消える覚悟無しには無理だ」
「・・・・・・」
「・・・というわけで、この策はできれば使いたくなかったわけだ。しかし、シモン、お前が全責任をとる、この星とウドンは俺が守る!と握りこぶしで熱く語ってくれたおかげで、慎重派の私もこの策を打つ決心がついた、というわけだ」
「・・・ダリア・・・なにか・・・強烈に嫌な予感がするのだが・・・」
 ダリアはにやりと笑ってシモンの肩をポンと叩く。
「と、いうわけで、よろしく頼むぞ、シモン。お前がちょろっとこいつで宇宙旅行してくれれば万事解決だ。大丈夫大丈夫。宝くじの1等に3回連続で当たるくらい運がよければ、生きてまたこの星に帰ってこれるやもしれん。この星の征服は私に任せておけ」
 シモンは狼狽する。
「ま、まて。こういうときこそ知恵を働かせるんだ。・・・えーとだな、そうだ!ベリルを洗脳できたんだったら、初心に帰って彼女にエネルギーを使い切ってもらえばいいじゃないか!それでこそ万事解決だ!」
 自分の名前が唐突にでてきたので、きょとんとした顔をしてベリルはシモンを見つめる。そんなシモンの自分に思い込ませるかのように明るい声に、ダリアは冷や水を浴びせる。
「さっきの転移のために制御棒を抜いてエネルギーバッファーからエンジンに全エネルギーを移し替えてしまったからな。ベリル様にエネルギーを送ることはできない。ついでに言えば、ベリル様は赤ん坊状態なんで、そういったことはとてもできん。・・・もう位相転移以外にエネルギーを開放する術が無いのだよ。ふっふっふ・・・」
「何でお前そんなに嬉しそうなんだ?」
「気のせいだ。もとよりお前の身から出た錆。お前が責任を取るのが筋ではないか?」
「こんなときにばっかり妙に正論持ち出しやがって・・・」
 実際、自分は自己犠牲なんて冗談ではない性格だ。しかし、このままほっといても爆発。であれば、生存率が低かろうが何だろうが、誰かがやらねばならないことには違いない・・・。シモンはしばらく目を閉じて唸りながら考え込んでいたが、唐突にクククと笑い始めた。
「・・・な、なんだ、シモン・・・ついに気がふれたか・・・」
 わざとらしくシモンは両手を広げ肩をすくめる。
「よろしい、よろしい。ダリア・・・。お前の言うとおりだ。何もしなければ確実に全滅、誰かがやればわずかな犠牲で済む。その犠牲なるべき人物にとっても、どちらの選択肢が望ましいのかは明白・・・。そしてそれを俺がやることも筋は通っている・・・。だが、ダリア。お前は重要なことを一つ忘れている」
「・・・?」
「・・・俺は、あの旗艦を操縦できん。だから有能な操縦者が必要だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ダリアは角で人を殴ったら殺せそうな分厚い操縦マニュアルをどこからともなく取り出して黙ってシモンに突きつける。
「いや、いくらなんでも今からそんな分厚い資料は読めないし」
「読める」
「・・・いや、読んだくらいじゃ操縦できないし」
「・・・・・・・・・・・・できる」
「・・・・・・・・・・・・・・・お前、涙目になってるぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 あからさまに落ち込んでいるダリアを見て、今度はシモンがダリアの肩を叩く。
「・・・・・・・・・まあ、俺もついていってやるよ。一応、運は良いほうだ。お守りくらいにはなるぞ。・・・多分・・・」
「あー、あー」
 ベリルもニコニコしながらシモンの真似をしてダリアの肩を叩いた。
「・・・・・・いやいやシモン、もう少し落ち着いて考えろ・・・」
 諦めきれないダリアが何か反論しようと口を開いたとき、シモンはさっきのゲルが鎌首をもたげるようにずるずると近づいていることに気が付いた。
「お、おい!あいつら俺達を狙ってるぞ!」
「・・・大丈夫だ。まず、あのスライムは雌しか狙わないから、おまえは関係ない。
「・・・お前とベリルは雌だろ。一応」
「大丈夫。このワクチンを打てばあの媚薬はきかなくなる。あとこの粉をふりかければたちまち塩をかけられたナメクジのように奴は縮むはず・・・」
 と、ダリアが注射器と胡椒の瓶のようなものを白衣から取り出す。しかし、突然目の前に注射器を出されたベリルは、恐怖心からか
「んああ!」
 と、ダリアの手をはたく。そのまま注射器は地面に当たって割れ、瓶はどこか遠くに転がっていく・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 顔を見合わせる三人の間に、スライムが津波のように押し寄せる。いや、正確にはダリアとベリルに。
「や、やめろ、この、産みの親に向かって・・・こ、こら・・・そんなところに入って・・・あ・・・ん・・・や・・・やめ・・・」
「あー、あー、・・・あ・・・んあ・・・んふぅ・・・くちゅ・・・ちゅぱ・・・」
 ダリアは抵抗を試みるが、四方八方から攻撃をしかけてくる触手を防ぐべくもない。白衣の下を透明な触手が蹂躙し、媚薬を口から流し込まれると、やがて彼女の手足は弛緩し、目もとろんと蕩けてくる。一方ベリルは最初は面白がってむしろ自分から触手をいじくっていたが、やがて陰部や口に触手が入り込むと、目つきに淫靡な陰が生まれはじめ、艶かしく身体をくねらせはじめる・・・。
「ダ、ダリア。おい、しっかりしろ!」
 シモンがダリアの頬をペチペチと叩くと、ダリアはシモンに焦点の合わない瞳を向ける。
「し・・・しもん・・・ん・・・」
 ダリアはシモンにしなだれかかる。慌てるシモン。
「・・・おい、待て。お前こんなところでこんなことしてる暇無いぞ!爆発するんだろ!」
「ん・・・あ・・・大丈夫・・・私シモンのこと好きだからね・・・」
 ダリアはシモンの胸元に顔を寄せながら上目遣いでうわ言のようにつぶやく。
「・・・ってそんな顔して妙なこと言うな!何寝ぼけ腐ってんだ。ああやめろベリル、ズボンを下ろすな。なんで赤ん坊なのにそんなこと知ってるんだ!」
 顔と首筋をダリアに、下腹をベリルにまさぐられているシモンはさらに背面に気配を感じて思わず後ろを振り向く。
 熱病にうかされたような足取りのヴァルキリー3人が、半裸の状態で近づいてくる。
「シモン・・・私達も・・・」
 ローズがシモンを後ろから抱きしめる。カーネリアはシモンの指を、ルピアはシモンの靴を脱がせると、足の指をぬらぬらと舐め始める・・・。
「ま、待て!お前ら、このままだと大変なことに・・・く・・・んんん・・・」
 シモンは最後までしゃべることができない。ダリアが唇をシモンに押し当て、彼の舌を舐りはじめる。背筋を舐めているローズはシモンの指を自らの胸に導き、コリコリに勃った乳首から刺激を受けようとしている。ベリルは艶かしい動きをする舌でカリと鈴口をちろちろと刺激したかと思うと、膨れ上がった彼の肉棒を喉奥まで咥えこみ、口腔全体を使って慈しんでいく。陰茎の根元は赤い唇できゅっと締め上げられ、陰嚢は白い指で揉みしだかれる。シャフトは次第に激しさを増し、シモンの先からは液が迸り始める。・・・淫猥な動きをするゼリー状の触手が、下着の脇から5人の赤く充血した陰唇の周りをぬらぬらと刺激しつづけ、彼女達に媚薬を注ぎ込みつづけている・・・。
 シモンにはスライムの媚薬がきかない、とはいえ、敏感な部分を弄られていればさすがに頭に血が上り意識が霞む。しかも全員シモンに標的を決めたかのように身体を擦り付け、舐め、執拗に奉仕し続ける。腕、足、首、腰・・・全てが5人の雌に絡めとられ、身動きが取れない。そんな中、確実に快楽だけは押し寄せてくる・・・。体中から体力が抜け、ただ赤黒い欲望だけが沸々と湧き上がる。
 ・・・・・・ああ、これで俺も終わりか。随分がんばったがもはやこれまで。・・・しかし、何だ。人生の最後に、これだけ佳い女たち、しかも本来自分を殺そうとしていたヴァルキリーや、自分を足蹴にしていたダリアやベリルに愛され囲まれて死ねるというのも、下っ端の自分ごときの人生の幕引きとしては、そう悪くもない・・・。
 シモンが自分の脇で首筋を舐めているルピアの揺れる胸のまさぐる。トロンとした瞳のルピアに悦びが浮かぶ。「ああ・・・」と甘い声をあげてルピアは顔をシモンに寄せる。カーネリアとダリアはシモンの陰茎をベリルと奪うように舐めている。それに呼応するかのように、シモンの尻の穴にローズが舌を入れ、ねちょねちょと舐め始める。
 「ぐ・・・で・・・でる・・・」
 シモンの声と共に、赤黒く膨れ上がった陰茎からフェラチオをしていた3人の顔に白い精がどくどくと放出される。それを一滴も漏らさないよう、愛おしげに舐めるベリル、カーネリア、そしてダリア・・・。
 辺り一面、愛液と精液、汗、唾液、・・・そして奇怪な生き物が発する甘い瘴気に包まれている。
 もう、どうでもいいか・・・。シモンが甘く気だるい快楽に全ての理性を委ねようとしたその瞬間。

 ヒュン!ヒュンヒュン!!
 空気を切り裂く音とともにシモンの顔に激痛が走り、別世界に意識を移動しかけていたシモンを連れ戻す。シモンを取り巻いていた5人とスライムも、その攻撃にひるむ。
 シモンの身体は空高く舞い、派手な音を立てて地面に墜落する。
「あだ!だ、誰だ?」
「・・・ほほう、あれでまだ生きているか、シモン。やはりお前のようなしぶとい奴にはこの程度の攻撃では効き目が無いようだな」
「・・・あ・・・」
 地べたから上を見上げると、ツインテールがゆれている。ついでに鞭も。青いスカートからすらりと伸びた黒いストッキングに包まれた足は、相変わらず形がいい。朝焼けを受けて赤く染まった整った顔に浮かんでいる表情は、つりあがったまなじりと眉毛、紅潮した頬・・・。明らかに怒っている。
「・・・・・・」
「・・・なんだ、その顔は?」
「・・・いや、まさか・・・、生きてらっしゃったのですか?サファイア様・・・」
「このとおり、ピンピンしておるわ。・・・いや、なぜか、昨日の夕方くらいからの記憶が無いが・・・」
 ああ、そうか。夜になればおしおきモードなわけだが、朝日が昇れば洗脳が解けるわけだ。
 ある意味助かったような・・・。助かってないような・・・。
「・・・しかしなんだ、この状況は。洗脳したヴァルキリー共はともかく・・・何故、ダリアとベリル総帥までこんなふしだらな・・・。まさか貴様、下っ端の分際で野心に駆られ恐れ多くもベリル様まで洗脳したのか?」
 鞭を構えるサファイア。
「いや、ちょ、ちょっと待ってください。いや、今はそれどころじゃない。急がないと大変なことに・・・」
「何を寝ぼけたことをいっておる!どう見ても大変そうには見えんぞ!!」
「・・・・・・なんなら、サファイア様も一緒にどうですか?」
「・・・・・・・・・死ね」
 サファイアの鞭が唸りをあげてシモンの身体に襲いくる・・・。


 その後、すったもんだの挙句、なんとかサファイアにキーワードを投げてその動きを封じ、転がっていた瓶の中身をふりかけてスライムを倒し、ダリアの白衣に残っていた解毒剤を淫靡な宴に没頭する5人に注射し、全員の服を整えて・・・とにもかくにもシモンは事態を収拾した。
 地面の上ですやすやと寝ている6人を見ながら、シモンはぼんやりと今後の行く末について考え込んでいた。
「・・・はぁ・・・貧乏くじばっかり引いてるな・・・俺・・・」
 だが、サファイアに久々にひっぱたかれたり、その後事後処理にてんやわんやしている時に思ったのだが、結局自分はこの定位置であたふたとしているのが丁度よいような気がする。・・・情けないようだが、それも身分相応というやつだ。
 カーネリアが寝返りをうちながらむにゃむにゃと寝言を言っている。ベリルはローズの胸にしがみついて寝ぼけながらおっぱいを吸っている。サファイアとカーネリア、ルピアとダリアはそれぞれ身を寄せるようにすやすや寝付いている。
 ・・・もし、無事ここに還ってこれたなら・・・その時は・・・。
 シモンは自分が随分詮の無いことを考えていることに気づいて苦笑した。そんなことより、まず目先のことだ。
「そろそろ時間か・・・」
 起こすのが忍びないが、時間は限られている。シモンは全員を起こして回った・・・。
 


 シモンはヴァルキリー3人に今の状況を説明した。
「・・・というわけだ。君たちの切なる要望に応えられないのはまことに残念だが、私はこの星を支配することができなくなった」
「誰も頼んでないわよ、そんなこと」
 カーネリアの突っ込みをシモンは軽く無視する。
「・・・正直な話、私としては色々と心配だ。例えば、この星に私が帰ってくるまで果たしてこの国の食文化が無事であるかどうか、非常に懸念される。・・・何てったって、こんな凶暴娘たちが正義の味方を名乗ってるくらいだからな・・・。正義の名において核戦争くらい軽くやってしまうであろうことは想像に難くない。そうなってはウドンを作る小麦粉さえ確保が危うい」
「・・・・・・結局心配なのは食べ物だけなわけですね」
「喩え話だよ、ルピア。まあ、我々がいなくなった後も、その正義の力をせいぜい正しく使ってくれたまえ。我々のためにな」
 カーネリアはシモンを睨みつけた。
「・・・・・・あんたに言われなくたって、やってやるわよ。ただ、あんたが何かの間違いでここに帰ってきて、また悪さをするんだったら、今回の恨みと合わせて、今度こそギッタギタにしてやるからね。覚えときなさいよ!」
「・・・ああ、受けて立ってやるよ。お互い、生きてればな。・・・ダリア。行くぞ」
 ダリアは太陽の光を受けて薄れかかった星が瞬く空を眺めている。
「・・・なに黄昏れているんだ?お前」
「・・・このまま死んだら、サヌキともイナニワとも逢わずして死ぬことになるのか・・・」
「・・・・・・まぁな」
「・・・シモン、すまんが、お前一人で逝ってくれ。科学者の端くれとしては、サヌキとイナニワを食せずして死ぬわけにはいかん」
「アホいってるんじゃない。とっとと来い」
「・・・・・・いやだ」
「・・・・・・言っておくが、これは命令だ。拒否は認めない」
「・・・・・・い や な も の は い や だ」
「・・・・・・・・・・・・忘れてるのかもしれないが、一応お前、俺に洗脳されてるんだぞ?」
「!!!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった・・・」
 ダリアは恨みがましそうな目でシモンを睨みつけていたが、溜息を一つつくと、とぼとぼと艦に乗り込んだ。
「・・・泣いてましたね・・・」
「・・・ちょっとかわいそう・・・」
「・・・同情します・・・。味噌煮込みうどんの美味しさを知らずに死ぬことになるなんて・・・」
「・・・それは、ちょっと違うと思うんだけどな・・・・」
 ルピアとカーネリアの発言を聞きとがめてシモンがじろっと二人をねめつける。
「・・・あ、俺が悪いのか?俺が・・・」
 シモンの言葉に、カーネリアが応じる。
「・・・・・・あんた、もし帰ってこれたんなら・・・、まともなウドン、1杯くらいあの子に食べさせてあげなさいよ」
「・・・・・・・・・」
「・・・あ、あんたのこと許したとかそういうわけじゃないからね!勘違いしないでよね!赤いきつねと緑のたぬきがチキュウの食文化の全てだなんて思われたら迷惑だ、ってこと!」
 サファイアとベリルもダリアに続いて乗艦している。彼女達だけをここにおいておくわけにもいかないからだ・・・。シモンはその姿を見ながら、
「・・・・・・人の世話より自分たちが生き残ることを考えてろ」
 シモンはそのまま3人の方に振り返らず、艦に乗り込む。やがて艦のタラップが上がり、密閉式の扉が閉まる。
 轟音が地面を震わせ、巨大な艦がゆっくりと地上から浮き上がる。次第に薄青色に染まっていく空の中に吸い込まれていき、・・・まばゆい光を一瞬輝かせると、その姿を消した。




 3人は、しばらく、呆けたように空を見上げていた。
「・・・終わったんだよね・・・」
 ぽつっとカーネリアが喋る。
「ええ・・・、これで、終わりです。ネメシスも・・・わたしたちの任務も・・・」
「・・・・・・なんだか、結局負けた気分です・・・・・・」
 ルピアも気の抜けたようにぼそりと言う。
「・・・帰りましょう、二人とも・・・。明日は・・・いやもう今日ね、あとちょっとで、学校が始まりますよ?」
 カーネリアがげっそりとした顔をする。
「えぇ?代休でしょ?先生?」
「・・・正義の味方に代休はありません」
「・・・ルピアはいいわよ。私、金曜日に出された宿題終わってないんだよ〜」
「・・・まだ学校が始まるまで2時間あります。頑張ってください・・・」
「ルピア、鬼だ・・・」
 遠くから救急自動車のサイレンやヘリコプターの音が近づいてくる。このあたり一帯の封鎖が解除され、現場検証が行われるのだろう。
 その音は、この非日常の日々の終わりを告げるかのようだった。




 ――●●通信、x月x日 21:00電

 数年前から暗躍し、世界各地で破壊活動を繰り広げていた異星人組織ネメシスが、当局特殊部隊の働きにより壊滅したことを、x日に当局は明らかにした。
 情報筋によれば、ネメシス内部の分裂と同時に、潜伏していた対ネメシス特殊部隊の精鋭が活動を行ったことが功を奏したとしている。
 当局はこれを受け、全地球に安全宣言を行い、2xxx年6月のネメシスの侵略から続いていた戒厳令を解除する考えを示した。また、世界各地に組織されていた特殊部隊もこれを受け解散する予定。ただし、ネメシスに関する情報、戦闘の過程、対ネメシス特殊部隊の詳細については、一切公表はしないものとみられている。







 
 


 

 

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