洗脳戦隊


 

 
第十一話(A) 洗脳遊戯


 朝。
 シモンは布団の上で目を開けた。
 昨日は何戦したんだろうか・・・。
 それでも朝になればそそりたつ自分の分身がいとおしい。

 昨日の決断・・・それは、「ダリアを洗脳する」というものだ。
 別に有効な策があるわけでは無い。
 しかし、決めた以上はその決意を貫徹するだけである。そして、その策も練った。・・・成功するかはさておき。
 ・・・何にせよ、腹ごしらえが必要だ。
 シモンはあくびをしながら食堂に向かう。

 ネメシスの朝は遅い。しかし、今日はいつもなら明かりが消えている食堂に明かりがついているようだ。
 不審に思いつつもシモンはドアを開けて食堂に入るが誰も居ない。
 シモンは冷蔵庫の扉を開く。
 そこには信じられない光景があった。


 昨日買っておいたパンが無い・・・。


「・・・俺のクリームパンが・・・」
 誰が食いやがったのだろうか・・・。
 あたりを見回すと、床の上には破れたクリームパンの袋。パン屑は床に散っている。誰かに食べられたのだろう。
 シモンは溜息をついて他の食材を漁り始めた。
「ウドンにするかぁ・・・」
 ネメシスの他の連中はあまりその星の食文化に興味が無いらしいが、シモンはその国の食文化になるべく通暁するようにつとめている。というのも食材の買出しはシモンの役割だからだ。どこのスーパーが安いのか、といった情報もシモンが持っている。といってもそれほど豊かなレパートリーがあるわけでなく、ウドンやカレーといった簡単な料理しか作れないのだが。
 冷蔵庫からウドンを一玉、ほうれん草、白菜、卵を取り出すと、鍋に水を張り、沸かし始めた。
 突然、ガチャリとドアが開き、ダリアが入ってきた。ニット地のセーターと膝丈のスカートの上に白衣を羽織っている。あからさまに寝起きだが、なぜか口にパンをくわえている。
「朝から料理か、ご苦労だな」
 ダリアは、はもはもとパンを齧りながらシモンに近づいてくる。
「・・・っていうかそのパンは俺のだ」
「気にするな。小腹がすいていたのだ」
「・・・いいさ、俺はウドンにするから」
 突然、ダリアの眼が光った。
「・・・ウドンか」
「・・・ウドンだが?」
「・・・ウドンなんだな?」
「・・・な、何かやばいのか?このウドン?」
「・・・・・・食べたい」
「・・・お前俺のパン食っただろうが。それで我慢しろ」
 ダリアは手元の半分食べかけのクリームパンをしばらく眺めていたが
「返す」
 と、つき返してきた。
「いらねえよ。お前はそれ食ってろ。今日びウドンといっても安くないんだからな。俺だって2玉食いたいところを1玉で我慢して・・・だな・・・」
 ダリアはさっきからじぃーーーっと食卓の上のウドン玉を見つめている。
「・・・・・・・・・冷蔵庫から卵とウドン、一個ずつ持ってこい」
 ダリアはとたとたと冷蔵庫に向かった。


 食卓に向かい合わせに座るシモンとダリア。湯気の立つ二つのどんぶりには月見ウドン。
 ダリアはちゅるちゅると食べている。シモンもずずっとツユをすする。
「うまいか?」
「・・・うまい」
「お前、ウドン好きなのか?」
 ダリアがこくりと頷く。
「そりゃよかったな」
 シモンもずるずるとウドンを食べる。
 二人があらかた食べ終わったところで、シモンが切り出す。
「ヴァルキリーどもの処遇・・・今日決まるんだろ」
「・・・あぁ」
「お前が見て、どう思う?彼女達の洗脳具合」
「十分じゃないのか?」
「・・・俺はそうは思わん。というか、もともとベリル様の答えは決まってるはずだ。寝返るリスクを持つ彼女達を生かしはしないだろう。・・・それはもちろん、戦術的に正しい」
「・・・」
「でも、俺は好かん。無駄な殺生はしたくない」
「一晩かけて出した結論が結局それか・・・。で、どうする気だ?ヴァルキリー共を手駒にしてクーデターでも起こす気か?」
 あきれたように言うダリアに、シモンは真剣な表情で返す。
「事と場合によっては、そうしようかと思ってる」
「・・・・・・一応言っておくが、私はベリル様の部下だ。ベリル様にお前が反逆する気なら・・・容赦しないぞ」
「・・・つまり、俺の行動を阻止するわけだな」
「そうだ」
「それは困る」
「・・・何をバカな・・・」
「ダリア、すまんが俺と勝負してくれ」
「勝負?何の?」
「何でもいい。ゲームとルールはお前が決めろ」
「じゃ、オセロをするか?」
「・・・すまん。俺にも勝ち目があるゲームにしてくれ」
「・・・お前、何でもいいって言っただろうが」
「前言撤回」
「・・・シモン、何をしたいんだ?暇つぶしなら他をあたってくれ」
 嘲るようなダリアの声だが、シモンの表情は真剣だ。
「俺とお前が、ゲームで勝負する。そして、勝ったほうが負けたほうを支配する。・・・それで全てを終わりにしよう」
「・・・どういうことだ?」
 ダリアが椅子に座り直した。表情は真剣になっている。

 シモンの提案はこうだ。
 まず、前もってお互いに相手に暗示をかけておく。それは「勝負に負けたら相手に無条件に支配される」という暗示だ。
 そして、ゲームをする。負けた瞬間に暗示が発動し、相手の支配下に堕ちる・・・つまり、負け逃げは許さない。
「・・・お前はアホか」
 ダリアの第一声はこうだった。
「前もって互いに暗示をかけておく、といっても、最初にかけたほうが完全支配暗示をかけたらそれで終わりだろうが。そんなこと私がお前にさせると思ってるのか?」
「・・・暗示は俺達自身で相手にかけるんじゃない。お互いヴァルキリー共をつかってかけさせる。・・・お前も、ヴァルキリーを洗脳しているんだろう?隠さなくてもいいぜ」
「・・・」
「カーネリア、ルピア、ローズ、・・・あとサファイアだな。この4人のうち、二人ずつをお互い自分の『分身』とする。そして、手駒とした2人のうち1人が相手に暗示をかけ、もう1人は自分のところにいて相手の手駒が自分に暗示をかける様子を監視する。これをお互い同時にやれば詐欺はできないだろう?・・・なんなら、暗示の様子はビデオ録画しておけばいい。余計な暗示をかけていたらその段階でご破算にすればいいだろう」
「・・・」
「どうだ?」
「断る」
「つ、冷たいな。少しは考えてくれよ」
「アホか。大体、お前にはメリットがあるだろうが、私がなんでそんな危険を冒さなくてはならんのだ?」
「へぇ。ダリア、俺に負けるのが恐いのか?」
「・・・下手な挑発だな、シモン。ガキじゃあるまいし、そんな挑発に乗ると思ってるのか」
「・・・・・・・・・」
「・・・ガキの癖に、と思っただろ。今」
「・・・ちょっとな・・・」
「・・・」
 ダリアは口元に手を当てて目を瞑る。ダリアが真剣に考えているときの癖だ。
 しばらく時間が過ぎ、ダリアが目を開いた。
「いいだろう・・・その代わり条件が三つある。まず、ゲームとそのルールは私に決めさせろ」
「それは最初に言ったとおりだ。俺に勝てる可能性があるゲームなら、お前の提案を飲むよ」
「もう一つ、手駒にする二人は私から先に選ばせろ」
「・・・構わんよ」
「最後に、今からいうゲームの手番は私が選ぶ。いいな」
「・・・・・まぁ・・・ゲーム内容を聞いてからだが、手番で必勝ということがないなら、YESだ」
「・・・ならば、お前の条件でゲームをすることを飲んでやる」
「・・・交渉成立か。で、ゲームは何だ?」
「・・・この国の『しりとり』というゲームを知ってるな」
「名詞の最後の文字をつなげていくゲームだな。知ってるが、あれは、普通にやったら終わらんぞ」
「もちろん普通のしりとりではない。文字が消えていくルールでやる」
「なぬ?」
 ダリアの提案したルールは、「しりとり」のゲーム内で使った名詞の最後の一文字で終わる単語が使えなくなるというものだった。
 例えば、「あさがお」という名詞をつかったら、相手は「お」から始まる名詞を言わなくてはいけないが、それ以降は「お」で終わる名詞・・・例えば「かお」は使用禁止となる。時間制限は30秒。
 付属ルールとしては、拗音「ゃ」「ゅ」「ょ」や促音「っ」、伸びる音「ー」は無視され、その直前の文字が消滅する。例えば「きしゃ」の次は「し」で始まる単語になる。また、濁点、半濁点で終わる言葉は禁止、外来語は日本語として定着したもの以外は不可、最初の文字と最後の文字が同じ名詞も不可、固有名詞も不可というものだ。
「なんだか頭がごしゃごしゃしてきたな・・・」
「それほど難しいルールでもない。ちょっと試しにやってみようか、『ばか』」
「か、か・・・『かい』」
「いね」
「・・・ねずみ」
「みのむし」
「し、しか」
「『か』は既に『ばか』で終わりの文字として使われているからお前の負けだ」
「・・・なるほど」
「早く終わってよかろう」
「確認だが、『み』が使用禁止になって、途中に『み』が入る言葉・・・例えば『かみなり』というのはOKなんだな」
「それはOKだ。・・・一切つかえなくなるとすぐ終わりすぎるだろう。それは興をそがれる」
「途中の私語は?」
「ゲーム中は私語を含めて、使用禁止文字を最後に使うあらゆる名詞は使えなくなる。つまり『お』が使用禁止の状態で、私語で『”かお”をあらう』といったらそれも失格だ。・・・つまり、場外乱闘で相手に使用禁止語を言わせるのもありだ」
 シモンは考え込んだ。聞いている内容ではダリアにもシモンにも有利不利は無いように思える。
「・・・わかった。ただ一つ、俺のほうからも提案だ。・・・残り15文字になったら30分の休憩時間をいれよう。作戦タイムというやつだ」
「・・・残り15文字まで、生き残れるつもりなのか?シモン」
「・・・さぁな」
「まぁいい。それくらいは飲んでやる」
「・・・じゃあ、4人を集めるか」
 ダリアとシモンは立ち上がった。


 目の前には戦闘服姿の四人−−カーネリア、ルピア、ローズ、サファイアが並んでいる。全員眼は虚ろ・・・すなわち、洗脳状態にある。
「で、誰を選ぶんだ?ダリア」
 ダリアはしばらく黙って考えているようだったが
「サファイアと・・・ローズだ」
「・・・じゃあ、俺はカーネリアとルピアだな」
「そうしたら、お互い自分の手兵に暗示を埋め込むとするか・・・時間は30分だ」
「・・・了解」
 ダリアはシモンに向かって口をゆがめて笑った。
「せいぜい楽しませてくれ。健闘を祈る」
「・・・努力はするさ・・・」
 

「ルピア、カーネリア、ゆっくり眼を開けろ・・・」
 シモンが二人に声をかけると、二人はゆっくりと眼を開く。
「俺が今からいう言葉をよく聞け・・・」
 シモンの手が震えている。流石に今までとは訳が違う。シモンは慎重に二人に暗示をかけていく・・・。


「あいつ・・・何かを仕掛ける気だろうが、何にせよ無駄だな・・・」
 サファイアとローズを前にダリアがつぶやく。
 シモンには言っていないが、ダリアはあの洗脳薬の解毒剤を飲んでいる。彼女があの洗脳薬の支配下に堕ちることは無い。
 ルピアか、カーネリアか・・・どちらが自分を洗脳しに来るかはしらないが、洗脳薬を利用して暗示をかける気だろう。つまり、ダリアは暗示にかかった「フリ」をしておけばよいのだ。仮にゲームに負けても、ダリアは支配されないということになる。シモンは怒り狂うかもしれないが、悪の組織では騙されるほうが悪い。
 ・・・もっとも、そんな小細工をしなくてもゲームには勝つつもりだ。
 ダリアが虚ろな表情のサファイアの頬に触る。
「・・・悪いようにはしないからな・・・シモン・・・。何にも考えず、何も悩むことなく忠実にネメシスに仕えるほうがお前にとって幸せだ・・・」
 シモンが話をもちかけなくても、ダリアはシモンを洗脳をするつもりだった。不意打ちで洗脳しても良かったのだが、ダリアとしても自分が洗脳薬を渡したという負い目が少しあった。せめて彼に納得がいく形で引導を渡してやろうという武士の情けが、ダリアにこの勝負を受けさせたといえる。
 ダリアが指を鳴らすと、二人の首は、かくり、と糸が切れたように力が抜ける。
「・・・私の可愛い召使いたち・・・、よく聴きなさい・・・」



 扉がノックされる。
「入れ」
 扉が開くと、そこに立っているのはローズだ。
「失礼します」
「・・・ローズか。洗脳役は」
「ダリア様の命により、シモン様に暗示をかけさせていただきます」
「はいはい、やってくれ。カーネリア、見張りは頼むぞ」
「承知しました」
 ローズはポケットから布地と薬瓶を取り出し、布地に薬品をふりかけた。カーネリアはいつでも抜刀ができる構えで、ローズの振る舞いに目を光らせている。
「・・・今までさんざん自分がやってきてなんだけど、洗脳したはずの相手にこうして自分が洗脳される、ってのは奇妙なもんだね・・・。手術される外科医ってこんな気分なのかねぇ・・・」
 シモンの戯言にローズは反応することは無い。
「失礼します」
 シモンの口に布地が当てられ、シモンの意識はそのまま遠くなった。


「ルピアか。予想通りといえば予想通りだな」
「ダリア様、失礼します」
 ルピアはポケットから布地と薬瓶を取り出した。サファイアは鞭を構えている。三脚に備え付けられたビデオカメラは三人の動きを逐一とらえている。
「・・・ダリア様。リラックスしてください」
「ああ、手短に頼むぞ・・・」
「承知しました・・・」
 ルピアは布地をダリアの口元に当てる。
 ダリアはゆっくり、眼を閉じる・・・。


「・・・1、2、3!」
 はっ、とダリアは目を開く。
「お目覚めになられましたか?ダリア様」
 眼を開くと、そこにはルピアが目の前に居た。サファイアは、最初の時とほとんど変わらぬ位置にいる。
「・・・あぁ、すまんな、ルピア・・・。暗示はうまくいったか?」
「はい。失礼ながら、ダリア様は深く暗示にかかっておりました」
「・・・そうか・・・。・・・サファイア、ビデオを見せてくれ」
「はい、こちらです」
 ダリアははやる心を押さえてビデオを再生する。ビデオの中では・・・確かにダリアは目を閉じて眠っているように見える。時折、ルピアの言葉をなぞるように腕を上下させたりしている。そして、「ゲームに負けたらシモンのしもべになる」という暗示を埋め込まれている。だが、他に余計な暗示は埋め込まれていない。
「・・・何かご不審な点がございますか?」
 ・・・何で・・・、自分は洗脳薬の影響は受けないはずだったのに・・・。
「・・・いや、何も・・・」
 ダリアは混乱する自分の内心は臆面にも出さず、サファイアにビデオを返した。



 再び舞台は食堂に移る。
 ダリアがサファイアとルピアを従えていくと、既に他の三人は食堂で座っていた。

「おぉ、遅かったな、待ってたぞ」
 ダリアは来るなり、
「・・・ローズ、ビデオを見せてくれ」
「承知しました」
 ダリアはローズがシモンに暗示をかけている様子を映したビデオを再生した。シモンはローズの言われるがままに操られ、ゲームに敗北した場合の暗示が埋め込まれていた。
「何か問題あるか?」
「・・・無い」
 ダリアは、自分が暗示にかけられている様子を撮影したビデオをシモンに渡そうとするが、
「いい。俺は見ない。ルピアならきっとうまくやってくれただろうから。な?」
「・・・はい。うまくできたと思います」
 ルピアは嬉しそうに答えた。
 ダリアはシモンの表情を探る。いつもの飄々とした雰囲気で、ダリアはその真意を読むことができなかった。
 タイムキーパーはサファイア。審判はルピア。ローズはシモンの後ろに、カーネリアはダリアの後ろに陣取って、相手が余計なことをしないように見張る配置だ。
 ダリアは後手を選んだ。
「・・・じゃあ、始めようか。ルピア、スタート合図頼む」
「それでは、ゲームスタート。・・・シモン様、お願いします」
 シモンはぼんやりと外を眺めていたが、
「・・・そら」
 ダリアはしばらく考えた後、
「らいち・・・」
 それを受けてシモンはノータイムで、
「・・・ちょう」
 以後、淡々としりとりが続く。ただし、一語につき確実に一文字が失われ、言語世界はせばまっていく。
「うみ・・・」
「・・・みみずく」
「くだもの・・・」
「・・・のどぼとけ」
「けむりだま・・・」
「・・・まめ」
 シモンは時折瞑想にふけるように半目を閉じているが、無表情にしりとりをしている。ダリアは表面上は平然としてるが、頭は現状を把握しようとフル回転していた。

 ・・・おかしい。私は解毒剤を飲んでいるから洗脳薬の暗示にはかからないはずだ。なのに、さっきルピアに暗示をかけられていた間の・・・記憶が無い。しかし・・・理由や原理はわからないが、あのビデオを見る限り、かかっていると考えるのが妥当だろう。それは認めざるを得ない・・・。
 だとしても、正攻法で勝てばよい。このゲームは必ずしも必勝法があるわけではないが、日本語の文字は通常のしりとりで使われない「を」、「ん」、そしてこのしりとりのルールで排除している濁音・半濁音を除くと44文字だ。つまり、44番目の言葉をコールするのはダリアで、その後を次ぐシモンは無条件で敗北となる。
 しかし、場合によっては手詰まりで負ける可能性があるため、必勝法とはいえない。例えば最後に「る」と「れ」が残って「る」から始めなくてはいけない場合、かなり厳しい。逆なら「れーる」で逃げられるだろうが・・・。
 しかし、それはシモンも同じ筈だ。あいつ、何を考えている・・・。
「めしあ・・・」
「これは日本語か?審判!」
「・・・日本語です」
 厳粛な顔をしてルピアが答える。
「うーむ・・・」
「つまらん・・・難癖をつけるな」
「なんてずぼらな・・・言語なんだ・・・日本語は・・・」
「・・・懐が広いと言ってやれ・・・」
 NGワードを言わないように注意しながらなのでお互い言葉がつっかえつっかえだ。

「・・・お前、自分は・・・薬が効かないから・・・暗示にかかるはずがないと思っていただろ?」
 シモンがダリアに話しかけ始める。
「・・・それが・・・どうした?」
「甘いね・・・。俺だって・・・お前が気前よく薬をくれた段階で・・・お前が解毒剤をもっているだろうって・・・見抜いてるさ・・・・・・『あか』」
 残り5秒でシモンは答える。
「・・・・・・」
「じゃあなんで自分は・・・かかったんだろうと思ってるだろ・・・」
「・・・・・・かに」
 ダリアはそれには答えず、手番をシモンに戻す。
「・・・薬なんかなくたって操れるんだぜ。催眠、暗示を使えばな」
 ダリアは口元に手を当てながら、シモンを睨んでいる。
 シモンは「にぼし」と言った。
 台所には白板が持ち込まれ、50音が書き込まれている。言葉が言われるたびに、一音ずつルピアがマジックで×をつけ、文字が消えていく。・・・既に13音消滅し、残り31音。
「・・・しるこ」
 私語に使える単語は、使用禁止になってない単語と「ん」と「濁音・半濁音」で終わる単語だ。うっかりミスが生じやすいので、あまり私語はしたくない。しかし、相手のミスは誘発したい・・・。微妙なさじ加減が要求される。
 しかし、ダリアの私語が少なくなったのはそれだけの理由ではない。
 絶対に勝つはず、少なくとも負けるはずの無いゲームだったのに・・・。
 未だにシモンのトリックが分からず、ダリアは焦っていた。手番の優位性も、ほとんど今の彼女には意味がない。
 それでも、ダリアには最後の手段が残されていた。
 今や、いつ、それを使うべきか考えている・・・。そういう状態だ。
「こね・・・」
 シモンは白板の文字表を見ながら言う。
「・・・ねいき」
「きも・・・」
「・・・もるもっと」
「とけい・・・」
「・・・いす」
「すな・・・」
「・・・なつ」
 22文字・・・丁度半分の文字が消えた。
 チ、チ、チ・・・。壁にかけられた時計の秒針が刻む音だけが食堂の固い壁に跳ね返っている。
「・・・フフフ・・・シモン・・・。会話が無くなったな・・・」
 突然、ダリアが話し掛け始めた。
「・・・つまらんな・・・。少しは・・・はなしてくれ・・・」
「・・・そんなよ・・・・・・・・・ゆとり・・・ねぇよ・・・・・・」
 「余裕」と言いかけて、あわててシモンは言い直す。
「・・・シモン。名前を呼んでくれないのだな・・・」
「・・・言えないだろ」
 ダリ「ア」の「あ」は既に消滅した文字だ。
「シモン・・・その言わんとするところがわかるか?」
 言わんとするところ?・・・シモンはダリアと呼べない。ダリアはシモンと呼べる・・・。なんとなく気味悪いが、それだけではないのか?
 ダリアが薄く笑った。
「すまんな・・・シモン。気分が変わった。この茶番にケリをつけよう。・・・ローズ!始めろ!」
 ダリアは指を鳴らし、鋭い声をあげた。
 その声を受けて、シモンの後ろにいたローズは大きくジャンプをして机を飛び越えると、ダリアの後ろにいたカーネリアの頸部に手刀で一撃を加えた。
「・・・きゅぅ・・・」
 避ける間もなく、カーネリアはそのまま気を失う。
 シモンは椅子から立ち上がり、
「・・・お前!!そうくるんだったら・・・」
 ルピア!サファイア!と呼びかけようとして、シモンは凍りついた。
 ルピ「ア」もサファイ「ア」も呼ぶことができない。
 ルピアは忠実に審判を果たし、サファイアは忠実にタイムキーパーの役割を果たしている。・・・追加の命令が与えられない二人は、目の前の行状を見ても微動だにしない。
 なぜ、文字が消えるしりとりなのか。なぜ濁音と半濁音は除外されたのか。そしてなぜローズをダリアが選んだのか・・・。何のことはない。シモンの発するキーワードを封じる一方、ダリアがローズを操るキーワードだけは残すのが目的だったのだ・・・。しかし、今更悟ったところで、時は既に遅い。
「・・・・・・!」
 ローズが向かってくるのを察知したシモンは食堂の窓を蹴破って外に逃げ出した。

「ローズ。シモンを追え」
「承知しました」
 ローズは逃げ出したシモンを追う。
「・・・30秒経過」
「シモン様、時間切れです。ダリア様の勝利とみなします。これでゲームを終了します」「・・・ご苦労だったな。二人とも・・・。サファイア、ルピア、・・・眠れ」
 ダリアが手をパチンと叩くと、二人はふっと目を閉じた。



 ダリアはローズ以外の三人を一室に集めた。
 シモンはまだ捕まっていないが、時間の問題だろうから心配は無い。
 今から三人の「地雷処理」をしなくてはならない。
 特に、ルピアとカーネリアは、さっきシモンにかけられた暗示があるはずだ。あのシモンがこんな勝負に仕掛けをかけずに乗り込んでくるはずが無い。絶対に何かをしかけているはずだ。だとすれば、それを解除しない限り、ダリアの安全は保証されない。
 ・・・それに・・・洗脳薬が効かないはずの自分にどうやって暗示をかけたのか・・・、それを調べる必要もあった。自分にかけられた暗示を解かないと・・・、いくらあのゲームが終わったとはいえ・・・気分がよくない。解除のキーワードを見つける必要があった。
 まずは・・・ルピアからだ。
「ルピア・・・私の指を見て・・・」
 ルピアの虚ろな目がダリアをとらえる。
「この指がお前の額に触れると・・・あなたは今よりずっと深い・・・深い眠りに落ちます・・・。しかし、身体は立ったままです・・・。精神だけが、深い闇に落ちていきます・・・。暖かい闇に・・・。いいですね?」
「・・・はい」
 こくりと頷くルピア。
 ダリアは背伸びして、ルピアの額に触れると、ルピアの瞳の霞が一層濃くなった。

「・・・じゃあ訊きます・・・。あなたは、私にどうやって暗示をかけましたか?」
「・・・この薬を使いました・・・」
 ルピアは洗脳薬の瓶を取り出した。
「・・・他には?」
「・・・何も使っていません・・・」
 ダリアの術中に陥ちているルピアは、嘘はつけない、はずだ。
「・・・じゃあ、質問を変えます。あなたは、私にどんな暗示をかけましたか?」
「・・・ゲームに負けたら・・・シモン様の操り人形になるように・・・」
「・・・他には?」
「何も・・・」
「そんなはずない!」
 ダリアが怒鳴った。しかしルピアは虚ろな目をしたままだ。
 ・・・まさか、自分では潜り込めないほど深い場所に、暗示を封じ込めたというのか・・・シモン。
 いや、暗示の技術なら自分の方が上だ。いくら彼に才能があるとはいえ、所詮は付け焼刃・・・。
 しかし、彼のここ数日の経験と学習は、ダリアの想像を絶するものがある。
 もしかして・・・いや・・・そんなはずは・・・。
 ダリアはコップの水を一杯飲んだ。
 ・・・深層心理の奥の奥まで探してでも・・・ルピアの精神を蹴破ってでも・・・本当のことを言わせてやる・・・。
 ダリアは愛用のペンライトをポケットから取り出した。
「ルピア・・・私の目を見て・・・」
「・・・・・・はい・・・」
「・・・そこの椅子に腰掛けて・・・」
 ルピアは椅子に深く腰掛ける。
「あなたは・・・だんだんリラックスしていきます・・・。でも・・・私の瞳の奥底を・・・ずっと見つめたままです・・・そうですね・・・」
「・・・はい・・・」
 ルピアの表情は弛緩しきっている。腕はだらりと垂れ下がり、大きな胸は静かに上下している。ダリアとルピアを見ているカーネリアとサファイアも、つられて深い暗示に落ちているように弛緩した表情になっている。
「よーく見て・・・私の目を・・・私の目にあなたが映っているわよね・・・」
「はい・・・」
「これは・・・あなたが私の中に・・・取り込まれていることを意味しています・・・。あなたはわたし・・・わたしは・・・あなた・・・繰り返して・・・」
「わたしは・・・あなた・・・あなたは・・・・・・わたし・・・」
「そう・・・。これをもう10回繰り返すの・・・、わたしは・・・あなた・・・」
「・・・あなたは・・・わたし・・・わたしは・・・あなた・・・」
「そう・・・もっと深く・・・もっと深く堕ちて・・・全ての心の壁は・・・溶けていくの・・・あなたと私は・・・一つになるの・・・」
「・・・あなたは・・・わたし・・・わたしは・・・あなた・・・」
 すでに霞んでいたルピアの深く昏い色をした瞳は、より一層その闇を深くしていく。ダリアはその奥底を見ようとする。洗脳の深度を見る手っ取りばやい手段だからだ・・・。ダリアはペンライトで彼女の瞳に光を当てたが、彼女は全く反応しない・・・辛うじて瞳孔反応があるだけだ。
 ダリアはルピアの頬を両手で挟みこんで、自分の方に固定する。
「・・・ルピア・・・答えて・・・あなたは・・・シモンにどんな暗示を・・・かけられましたか・・・。答えて・・・私に・・・教えて・・・」
 ルピアの瞳がダリアをとらえる。一瞬、その瞳が・・・白く輝いたように見えた。
「・・・さ・・・さまに・・・」
 ルピアの唇が震える。
「・・・シモン・・・様に・・・」
 ルピアの震えが大きくなる。・・・これは暗示と暗示のせめぎ合いだ・・・。シモンがルピアの心の奥にかけた鍵を、ダリアがこじ開けようとしている・・・それに伴った拒絶反応・・・。逆にいえば、シモンが隠したがっていることに到達したということだ。
 ダリアは一層ルピアの瞳を食い入るように見つめる。
「・・・ルピア・・・答えるの・・・全てを・・・明らかにするの・・・私に教えて・・・。シモンにかけられた・・・暗示を・・・」
「わ・・・わたしが・・・シモン様に・・・、シモン様に・・・かけられた・・・暗示は・・・」
「暗示は・・・?」
 ダリアがごくりと唾を飲み込む。
「・・・シモン様に・・・された・・・暗示は・・・」
「・・・暗示は・・・」
「・・・・・・暗示は・・・」
 ルピアの瞳が更に大きく見開かれる。ルピアの声が・・・そしてそれに唱和するカーネリアの声が部屋に響く。
 何・・・何が起こってるの・・・。しかし、ダリアの目はルピアに吸い寄せられたままだ。
「・・・シモン様は・・・こうおっしゃいました・・・『我が瞳を見よ・・・』」
「・・・『我が瞳は鏡・・・お前の心の全てを映し出す・・・』」
「・・・『我が瞳は静かな水面(みなも)・・・さざなみ立つお前の心は、我が瞳の如く安らかになる・・・』」
 ダリアはルピアの頬を掴んだまま、硬直している。
「・・・『我が瞳を見よ・・・』」
「・・・『我が瞳は鏡・・・』」
「・・・『我が瞳は水面・・・』」
 右から・・・左から・・・前から・・・後ろから・・・。うたうように、隙間無く続く二人の声を聴いていると、猜疑心が萎え・・・警戒しきっていた心が静まり返っていく。ただ鼓膜と網膜から入る刺激だけが彼女の五感の全てとなる。
「『見よ・・・我が瞳に映る汝の瞳を・・・』」
「『見よ・・・その汝の瞳に映る我が瞳を・・・』」
「『その汝の瞳に映る我が瞳を見よ・・・』」
 ルピアの瞳・・・その瞳に映る・・・私の瞳・・・。その瞳にはまたルピアの瞳が微かに見える・・・行けば行くほど小さくなっていく瞳・・・瞳・・・瞳・・・。
「・・・『問いに答えよ・・・私の瞳の色は何ぞ・・・』」
 ルピアの光の無い昏い瞳に映る自分の瞳。
 その瞳に映るルピアの瞳。
 ・・・ルピアの瞳が大きくなっていく・・・。
 ダリアの顔が・・・ルピアの顔に近づく・・・。鼻が触れ合うほどに・・・。
 ダリアが唾を飲み込んで答える。
「・・・くろ・・・」
「黒・・・其は闇の色・・・」
「深き闇の色にして・・・海の底にたゆたう色・・・」
 ダリアの後ろにいつのまにか回り込んだカーネリアが、ゆっくりとダリアの肩を左右に揺らす。ダリアの首は柳のように揺れる。白い首筋が無防備に晒される。そんな時でもダリアの瞳はルピアの瞳に釘付けになったままだ。持っていたペンライトが落ち、硬い音を立てて床に転がる。
「・・・空の果てすら貫く光が・・・」
「・・・その輝きを失い・・・力を奪われ・・・」
「・・・囚われる重力の沼の色・・・」
「・・・永遠の安息の地の色・・・」
「・・・その魂の輝き・・・我に委ねよ・・・」
「・・・その理性の閃きを・・・我に委ねよ・・・」
「・・・心の壁・・・常識のくびき・・・汝を縛る全てのものを・・・全て外して・・・」
「・・・その安らかな闇に全てを委ねよ・・・」
「・・・全てを包み込む・・・温かき闇へと・・・」
「・・・契約せよ・・・」
「・・・契約せよ・・・」
「・・・契約せよ・・・」
 ルピアがゆっくりと立ち上がり、ダリアの目を上から下へと撫でると、ダリアの瞳は何ら抗うことなく閉じられる。
 カーネリアが肩をゆっくりと抑えて、ダリアの身体をドアの方に向ける。
 ルピアはドアの鍵を開け、扉を開く。
 外から、シモンがゆっくりと入ってきた。
「・・・ダリア・・・契約の時間だ・・・瞳をゆっくり開けよ・・・」
 ダリアはゆっくりと瞳を開ける。輝きを喪った瞳がシモンの方に向けられる。
「ダリア・・・胸の鼓動を両手で感じろ・・・」
 ダリアの両手が緩慢に動き、心臓の上で組まれる。
「・・・・・・お前の心が・・・お前の魂が・・・お前の意思が・・・今その胸に集まっている。・・・今からその魂は・・・お前の胸から・・・首を通って・・・お前の口にあがってくる・・・そう・・・今お前の口の中に・・・お前の魂の全てがある・・・。」
 ダリアの手がゆっくりと首筋を経由して口元へと動く。
「・・・ダリア・・・契約だ・・・。お前の魂を・・・俺に委ねろ・・・、全てを・・・俺に委ねろ・・・そして・・・温かい闇へ堕ちてゆけ・・・」
 ダリアは口元をおさえたままふらふらとシモンの前に歩み出る。シモンは少しかがみこむ。ダリアはシモンを見つめる。輝きを失った瞳。しかし口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。ダリアは背伸びして、シモンの顔に手をかけると、眼を閉じて、当たり前のようにシモンに口付けをした。
 シモンはしばらくそのキスを受け入れていたが、やがてダリアの唇を割り、無抵抗な舌を嬲り、口腔を蹂躙する。彼女の柔らかく小さな身体を抱き締める。ダリアの腕は反射的にシモンの頭を一層つよく抱きかかえる。唾液が二人の間を行き来する。
 1分ほど・・・長く激しい接吻を終え、シモンはダリアの顔を見た。荒く息をついて、目を閉じている。
「・・・ダリア・・・目を開けろ・・・」
 ダリアはゆっくりと眼を開ける。
「・・・お前の心は・・・今どこにある」
「・・・ここ・・・」
 ダリアはゆっくりシモンの胸を指差す。
「そう・・・お前は俺の言うがまま動く・・・人形だ・・・。俺の心は・・・お前の心・・・。俺の声は・・・お前の意思だ・・・。そうだな?」
「・・・はい・・・」
「・・・ではお前は俺の合図があればいつでも今のような人形に戻る・・・。いいな?」
「・・・はい・・・」
「よし、今から3つ数えるが・・・そうしたら意識は元に戻る。ただし身体は自由に動かない・・・3・・・2・・・1・・・ゼロ!」
 ダリアの目がはっと見開かれる。
「シ、シモン、お前、いつの間に・・・」
 ダリアはあたりを見回そうとするが、身体の自由が利かない。仕方なく目だけ動かす。自分の身体が動かないこと、ヴァルキリー3人ととサファイアが洗脳状態にあるのを見て、ダリアは現状を理解したようだ。
「やられたよ、ダリア。しりとりにした理由・・・、ローズを選んだ理由・・・・・・。まさか、そんな罠を仕組んでいるとは思ってなかったぜ。完全にひっかかったよ」
「・・・貴様・・・何を・・・」
「・・・彼女達の心の奥底までお前が探ろうとした時に初めて発動する暗示をしかけておいた。要するに、お前さんは地雷処理に失敗したわけだ。ご苦労様」
「・・・・・・・・・だったらさっさと洗脳すればいい」
 ダリアは吐き捨てるような口調で言った。
「急かすなよ、お前も納得いかないところがあるだろ。説明してやるよ」
 ダリアはシモンを睨んでいたが、やがて質問をし始めた。
「・・・ローズはどうした・・・」
「向こうでぐっすり寝てるよ・・・。なんとか洗脳薬を嗅がせる事に成功してな・・・。本当に死ぬかとおもったがな・・・・・・」
 よくよく見ると、シモンの顔にはいたるところに擦り傷がある。
「・・・・・・私は・・・洗脳薬は効かないはずだ。なんで・・・」
「・・・なんでルピアがお前に暗示をかけられたのか、か・・・。答えは簡単。『彼女は暗示をかけていない』」
「な・・・!」
「彼女がお前に嗅がせたのは、ただのクロロホルム系の薬剤さ・・・。これなら解毒剤は関係ない。お前はただ眠ってただけ。眠っているお前にルピアは話し掛けていただけだ」
「・・・」
「でも、お前は疑ったわけだ。『自分に何か暗示がかけられているかもしれない』ってな」
「・・・それに何の意味がある?」
「・・・意味はあったさ。その証拠に、お前はカーネリアとルピアを徹底的に調べただろ?俺がお前にかけた暗示の方法・・・そしてその内容を掴むために・・・」
「・・・」
「表面的に暗示をかけるだけなら、お前も冷静に処理できただろうが、より深く、より慎重に相手の心の奥底まで調べようとすると、術師の側も一種のラポールに陥りやすくなる。お前の心の壁が緩んだ瞬間にカーネリアとルピアに仕込んだ地雷が爆発した。それだけだ」
「・・・バカな・・・!もし、私が彼女たちを調べなかったら・・・お前は丸裸であのゲームに参加したってことになるんだぞ!」
「・・・まぁ、そうだねぇ」
「もしお前が負けたら即座に洗脳されただろうし・・・私に勝っても私に暗示がかかってないんだから、私を支配できなかったんだぞ!!」
「・・・うーむ。言われてみればそうだったな・・・。あんまり考えてなかった」
 シモンは腕組みをして唸った。
「・・・言われてみれば・・・って・・・」
「・・・・・・お前なら絶対に調べる、と思ってた。お前は慎重だし、ちょっとの隙も許さないからな。・・・本当は残り15文字になったときの休憩時間に調べると思ったんだが・・・結果オーライだ。・・・要するに、俺はゲームはどんなものでもよかった。お前が俺を疑って、彼女達の地雷処理さえしてくれれば、な」
「・・・それでも・・・万が一のことは考えなかったのか?私が地雷を解除できることも・・・あるだろう・・・」
「うーん・・・、まぁ・・・精一杯やって駄目なら仕方ないし・・・、お前に洗脳されるなら、まあいいかな、と思ってたからな」
 ダリアがしばらく呆然としていたが、やがて笑いはじめた。
「・・・・・・くくく、無欲の勝利か・・・。・・・私は・・・結局お前のことも・・・自分のことも信じてなかったんだな・・・」
「・・・俺はお前を信頼してるからな。・・・今までも・・・そしてこれからも・・・」
 シモンはダリアの目をゆっくりと撫でて瞼を下ろした。ダリアの意識は消え、彼女は再び人形となった。その表情は不思議と安らかだった。
 シモンは彼女を抱きかかえるようにして、隣の部屋に移動した。・・・意外に柔らかい彼女の身体を感じながら。



 シモンはダリアをベッドの上に座らせた。白衣の下からは赤いニット地のセーターが見える。白い靴下を履いた足は、片方は無造作に投げ出され、片方は膝を立てた状態だ。フレアスカートの奥の暗闇には、切り取るように白いデルタ状の下着が見える。
 その整った顔立ちと小柄な身体のせいか、ダリアが目を閉じて座っている姿は、等身大の人形のようだ。
「ダリア・・・、目を開け・・・、ただし、まだお前の意識は眠ったままだ・・・」
 ダリアは目をゆっくり開いた。ぼんやりとシモンを見つめる。弛緩した口元はほんのり開いている。
「・・・白衣を脱げ」
 ダリアの腕が緩慢に動き、白衣を脱いだ。たたんでベッドの上に置くと、再びシモンを見つめる。
 普段はだぶだぶの白衣を着ているのでよくわからなかったが、さっきダリアの身体に触れたときに、意外とダリアの身体は大人びていることに気がついた。こうしてニット地の上着を着ていると、その胸のふくらみがはっきりわかる。もちろんルピアやローズのように大きいとはいえないが、身体が小柄な分、そのふくらみは目立つ。太腿の肉付きも悪くない。その一方で、きめこまやかで弾力のある白い肌や、大きな瞳、柔らかい髪の毛が、妙に幼さを感じさせる。
 シモンはそっと彼女の頬に触れ、その手をそのまま伝わせて彼女の胸のふくらみに触れた。シモンの手のひらに丁度いいサイズの胸が、柔らかな弾力を返してくる。
 ダリアはその様子を虚ろな目で見ている。シモンは妙な罪悪感に駆られ、手を離した。
 自分から闇に取り込まれた彼女の魂は、完全にシモンの支配下にある。
 ・・・シモンは、普段のダリアではやらないようなことをやらせてみたくなった。
「ダリア、俺の指を見ろ・・・」
 ダリアの瞳孔が見開かれ、シモンの指先に集中する。
「ダリア・・・お前の仕事は?」
「・・・ネメシスの研究者です・・・」
「・・・ダリア・・・俺がいまから数字を数える。その数字が増えるごとに・・・お前の年は若くなっていく・・・いいな」
「・・・はい・・・」
「じゃあ、数えるぞ・・・1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・6・・・7・・・もう随分ちいちゃくなってきた・・・8・・・9・・・10・・・ダリア・・・お前の仕事は?」
「・・・・・けんきゅうちゃ・・・」
 舌が回らなくなっている。
「・・・違う。今、お前は俺のちっちゃい妹だ。俺のことは『お兄ちゃん』と呼べ」
「おにぃちゃん・・・」
「・・・そうだ。お前はシモンお兄ちゃんが大好きだ。いいな」
「うん・・・」
「お兄ちゃんと遊んでもらえると嬉しいし、お兄ちゃんの側にいられるだけで楽しい。そうだな?」
「うん・・・」
 頷くダリアは、それだけで幸せそうな顔になっている。
「逆にシモンお兄ちゃんに嫌われたくない・・・そうだな?」
「・・・うん・・・」
「でもシモンお兄ちゃんのいうことをきいてれば、シモンお兄ちゃんはダリアのことは大好きでいてくれるから、大好きなシモンお兄ちゃんのいうことは何でも聞くんだぞ。いいな?」
「うん・・・」
「よし・・・ダリアはいい子だな・・・」
 シモンはダリアの頭を撫でた。ダリアは心底幸せそうな顔をしている。
「よし・・・じゃあ今から3つ数える・・・。そうしたら、ダリアはシモンお兄ちゃんのちっちゃな妹だぞ・・・。3・・・2・・・1・・・ゼロ!」
 ダリアは、ぱち、っと目を開けた。きょろきょろと辺りを見回す。目をしばしば瞬かせると、シモンを見つめてくる・・・と思った瞬間、
「おにぃちゃん!」
 とシモンに抱きついてきた。
「な!」
 そのまま引きずられる形でシモンもベットに倒れこんだ。
「シモンお兄ちゃん!ダリアにあいにきてくれたんだね!」
「・・・ああ、うん」
 ダリアはシモンに頬擦りする。
「うれしい!今日はダリアと遊んでくれるんだよね?」
「・・・あ、ああ、うん」
 ダリアは身体を起こして座りなおす。元々童顔だが、いつもの大人びた表情は消え、すっかり幼い子供の表情になっている。
「約束だよ?おにぃちゃん、いつもどっかに逃げちゃうんだもん。はい、指きり」
「ゆ、ゆびきり?」
「もぅ、ゆびきり知らないの?こうやるの」
 と、ダリアは自分の小指とシモンの小指を絡める。・・・確かこの星の子供の作法だった気がする。
「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!」
 ダリアはぶんぶん指を振って指切りをした。
「そしたらそしたら、ダリア、おままごとしたい!」
 ダリアはシモンに詰め寄ってくる。
「オママゴト?」
「そう!ダリアがね、お母さん。で、おにぃちゃんはお父さんなの!お父さんがお仕事から帰ってきたら、お母さんはね『お風呂?ご飯?それとも・わ・た・し?』っていうの。お父さんは好きなの選んでいいんだよ?」
「・・・『わたし』を選ぶとどうなるんだ?」
「それは選んでからのお楽しみで〜す!」
「なんなんだ・・・これは・・・」
 シモンは頭を抱えた。
「おにぃちゃん?頭いたいの?」
「いや、これは比喩的表現ってやつだ」
「ひゆてきひょうげん?・・・ダリア、むずしいことわかんないよ・・・」
 ダリアは指をくわえて首をかしげた。
 ダリアはこの国の文化をテレビやら本やらで研究していた。多分、これはこの国の『妹』と『兄』のありかたなんだろう。となれば、ここでこの流れを止めるのもまずい。こうなったら流れに身を任せてみよう、とシモンは腹を括った。
 ダリアは腕を組んでう〜ん、と唸っている。
「だったらね、『お医者さんごっこ』しよう?」
「なんだそれ?」
「おにぃちゃんはね、風邪をひいてるの。だから私がお医者さんになっていろいろみてあげるの」
「・・・もうわけがわからんが、それにしようか」
「じゃあ、はじめるよ。・・・次のかんじゃさん、どうぞ〜」
 ダリアは少し大人っぽいしゃべり方になった。
「はい・・・失礼します・・・」
「どうしましたか?」
「えーと、風邪をひいたみたいです」
「それはいけませんね〜。お熱はかりますね〜」
 ダリアはシモンの頭を引き寄せると、自分のおでこをシモンに当てた。あまりに間近にダリアの顔がある。
「うーん、少しあるみたいですねぇ〜。じゃあ、服をぬいでください」
「・・・はぁ・・・」
 シモンは上着を脱いで上半身裸になった。
 ダリアは耳をぴたっとシモンの胸に当てた。
「うーん、どきどきいってますね・・・、大丈夫ですか?」
「はぁ・・・」
「はい、風邪ですね。お薬だしておきますから、お大事に〜」というと、ダリアはコップに入れた水を持ってきてシモンに渡した。仕方なしにその水道水を飲み干すシモン。
「はい、おしまい。これがお医者さんごっこだよ!」
「・・・というかお前医者だろ・・・」
「え?ダリア子供だから、おいしゃさんじゃないよ?」
「・・・・・・うーむ」
「はい、今度はおにぃちゃんがお医者さんだよ!ダリアがかんじゃさんね!」
「え”?俺が?」
 服を着ながら当惑したようにシモンは言う。
「ちゃんとお医者さんの役をやってよ?・・・コンコン、失礼しまーす」
「・・・はい、どうしましたか?」
「あの〜、風邪をひいたみたいなんですけど」
「じゃあ・・・お熱はかりますね・・・」
 シモンは手をダリアの額に当てる。
「うーん、結構高い熱ですね・・・」
「え、そうですか?」
「じゃあ、身体を調べますから・・・服脱いでくださいね・・・」
「はーい」
 ダリアはニット地のセーターを捲り上げた。胸は飾り気の無い白いブラで覆われている。
 シモンは何食わぬ顔で腹部をさわりはじめた。
「・・・なんか・・・くすぐったいよ・・・お兄ちゃん・・・」
「お兄ちゃんじゃない。今はお医者さんだ」
「う・・・ごめんなさい・・・」
 シモンは背中のホックを外して、ブラジャーを剥ぎ取った。ダリアは何の抵抗もしない。白い乳房の頂点に薄紅色をした小さな乳首が見える。
 シモンはその乳房をやわやわと揉み始めた。
「・・・・・・ん・・・」
 ダリアはシモンの手の動きを見つめながら鼻を鳴らした。
 シモンは乳輪を指先でなでまわすと、ダリアはびくっと反応する。
「お、お医者さんって・・・そんなところさわるの?」
「これはね・・・風邪かどうかをしらべてるんですよ〜」
「・・・そうなの・・・?」
 シモンはペロっと乳首を舐めた。
「ひゃ!」
「うーん。汗の味もちょっと変ですね・・・」
「え?かぜをひくと汗もへんになるの?」
 シモンは悪乗りをし始めた。
「そうですよ〜、うーん、これは大変かもしれませんね〜」
「え?え?え?」
 ごっこということを忘れて不安がるダリア。
 シモンはさらにダリアの胸を両手でもんでいく。ダリアの頬が上気して、シモンの指がダリアの乳首を摘むたびに「あん・・・」と甘い声を漏らす。
「・・・じゃあ、今度は唾の味をみますね・・・」
「え・・・?」
 シモンは、とろんとした目をしたダリアの顔を両手で挟むと、唇を奪った。
「・・・・・・!」
 初めはびっくりしてもがいていたダリアだが、シモンの舌が丹念にダリアの柔らかな唇を舐めまわすうちに、その抵抗は小さくなっていき、やがて、唇を自分から開いてシモンの舌を受け入れる。
 シモンの蛇のような舌がダリアの舌に絡まると、ダリアの舌はそれを待ち構えていたかのように反応する。・・・ダリアは無意識的にやっているのだが、その動きは幼子のものではなく娼婦のそれであった。
 互いの唾液を行き来させている間にも、シモンの両手はダリアの胸や乳房を捏ねまわす。ダリアは腰を無意識のうちにうねらせ、腿をもじもじさせ、シーツに自分のアソコを擦り付けている・・・。
 ごく、ごく・・・シモンの唾液をダリアは喉を鳴らして飲んでいる。唾液が唇から溢れ、シーツに落ちる。
 シモンはダリアの唇をようやく解放した。
「・・・・・・はふぅ・・・」
 ダリアは熱っぽい息を吐いた。
「・・・うーん・・・これはいけませんね・・・。重態です」
「え・・・そうなの・・・」
 ダリアの目が涙で滲む。
「おにぃちゃん・・・ダリア、まだ死にたくないよ・・・助けてよ・・・」
「うーぬ。じゃあお薬上げようか?」
「うん!」
 シモンはズボンを下ろすと、自分のそそり立つ肉棒をダリアのほっぺたにつきつけた。「この先からちょっとねばねばした液が出てるだろ?この棒をもう少しマッサージするんだ。そうしたら白いお薬が出てくるから、それを飲めば直るよ?」
「マッサージって・・・こうやるの?」
 ダリアは小さい手でシモンのものを大事そうに包み込むと、さわさわと撫で始めた。シモンのモノはそれを受け一層大きくそそり立つ。
「うわ・・・大きくなった・・・」
「そう。だけど、手でやるよりも舌で舐めたほうがお薬が出やすいからね・・・、ちょっと頑張ってみて」
「うん・・・わかった・・・」
 ダリアは口を開いて舌を精一杯伸ばすと、シモンの亀頭をペロっと舐め、カウパーを掬い取った。最初はおずおずとしていたが、やがて舌全体でシモンの亀頭を舐めていく。
「そう、アイスキャンディーみたいに舐めるんだ・・・もっと口の中に入れてちゅぱちゅぱするんだ・・・、歯は当てないようにするんだぞ・・・」
「うん、わかった・・・、はむ・・・」
 ダリアは唇を大きく開くと、シモンのサオを咥えこんで、唇、舌、口腔の全てを使ってシモンのモノをマッサージしはじめる。ダリアの小さい唇が違う生き物のようにシモンのモノを包み込み、温かい唾液が潤滑油となる。
 人形のように整った、それでいて幼い顔立ち・・・それでいて、膨らむべきところは膨らんでいる。その容姿は控えめに見ても上等の部類に入るだろう。しかも、幼女返りして、胸をはだけ、顔を紅潮させてイチモツをくわえ込んでいる・・・。それだけでも十分に過ぎるくらいだが、いつもの理知的で研究者然としたダリアのことを知っているだけに、目の前の光景は不思議な興奮をシモンに与え、それがまたモノを大きくする。
「上手だな・・・ダリア・・・」
 シモンはダリアの髪の毛を柔らかく撫でまわす。ダリアはうっとりした顔をしてそのシモンの手を受け入れている。
「ダリア・・・少し激しく動かすから我慢しろよ」
「あむ・・・んん・・・」
 シモンは初めはゆっくりと、やがて激しく腰をグラインドさせていく。ダリアは一生懸命それに応えようとする。じゅぷ、じゅぷ、じゅぷ・・・唾液とカウパーで溢れ返るダリアの口のねっとりとした感触が、シモンの背筋にぶるっと快感を走らせていく。
「いくぞ・・・お薬だ・・・ダリア・・・」
「んふ・・・」
 どくどく・・・とシモンの先から精が飛び出し、ダリアの喉奥を犯していく・・・。 ダリアはシモンのモノを口からにゅぽん・・・と取り出して、ごくり、と飲み干す・・・。
「けは・・・苦いよ・・・」
「・・・そりゃ・・・お薬だからな。全部飲むんだぞ」
「・・・うん・・・」
 涙目になりながら、ダリアはシモンのザーメンを嚥下する。
 シモンはダリアの前にしゃがみこむと、ショーツ越しに秘部に触れる。
「んあ・・・やだよ・・・おにぃちゃんのえっち・・・」
 ダリアは逃げようとするが、シモンがぷちゅ・・・と花芯を摘むと「んぁぁ・・・」と鼻にかかった甘い声をあげてシモンにしなだれかかる。
 シモンは手を取り出してダリアの鼻先に突きつけた。
「・・・ダリア・・・お前・・・ぐしゃぐしゃに濡れてるな・・・。おもらしか?」
「え・・・ち、違うよ・・・ダリア、おしっこなんか漏らしてないよ・・・」
「へぇ・・・そうなの・・・。じゃあこのぐちょぐちょは何?」
「・・・わかんないよ・・・」
「じゃぁ・・・こっちも診察しないとねぇ・・・」
 シモンはダリアのショーツを引き剥がす。粘液がべっとりとついた下着はダリアの足首に丸まった。
 ピンク色をした花弁はシモンが顔近づけると、とろりと愛液を流しはじめる。
「・・・ふぅ〜ん。ダリア、結構えっちなんだね」
「そんなことない!エッチなのはおにぃちゃんだよ!」
「そうだね。お兄ちゃんはエッチだよ。で、ダリア。エッチなお兄ちゃんは嫌い?」

「え・・・、それは・・・」
「ダリアもね・・・本当はエッチなんだよ・・・。その証拠にね・・・」
 シモンは指を淫裂の中に入れる。ぐちゅぐちゅになった密壷から液がどろどろと垂れてくる。
「ここがこんなに濡れてるでしょ・・・これはエッチな女の子の証拠なの・・・」
「いや・・・いや・・・おにぃちゃん・・・」
 首を嫌々と振っているが、腰は無意識のうちにシモンの指から与えられる刺激を増やそうとうねっている。
「そして、ここを擦るとね・・・」
 シモンはダリアの淫豆をコリコリと摘み、舌で舐めあげる。
「んあああああ!!」
「・・・どう・・・ダリア・・・どんな気分?」
「あ、あ、あたまが・・・真っ白になって・・・ふわ・・・っとして・・・なんか変、変だよ・・・おにぃちゃん・・・」
 ダリアはとろんとした表情でシモンに訴えてくる。
「・・・ダリア、おにいちゃんのこと、好き?」
「・・・好き・・・大好き・・・」
「えっちでも?」
「・・・うん・・・えっちでも・・・おにいちゃんはおにいちゃんだもん・・・」
「じゃあ・・・ダリアにもっとえっちなことしていい?」
「え・・・」
 シモンはもう一度花芯を舐める。
「んふぅ・・・!」
「・・・そうするとね・・・ダリアはもっと気持ちよくなれるし・・・おにいちゃんも気持ちよくなれる・・・」
「お、おにぃちゃんも・・・気持ちよくなれるの・・・?」
「ああ・・・」
 ダリアはシモンの頭を抱きつくようにして言った。
「おにぃちゃん・・・が気持ちよくなるなら・・・私・・・えっちなことされてもいいよ・・・」

「・・・そうか・・・」
 シモンはダリアの耳を舐めた。ダリアは「ん・・・」とこそばゆい顔をする。
「じゃあ・・・ダリア・・・。今、自分が濡れている場所・・・そこを思い切り指で開いて・・・」
「え・・・こう・・・?」
 ダリアは指で自分の花弁を開く。愛液が後から後から湧き出る泉に、シモンは自分の肉棒を突き刺した。
「んんあ!!」
 流石にきつい。しかし、少し動かすにつれて、愛液のぬめりのおかげでシモンのモノは少しずつダリアの奥に入っていく。
「ダリア・・・少し痛いかもしれないけど・・・我慢して・・・」
「うん・・・ダリア・・・おにぃちゃんのためだったら・・・我慢するよ・・・」
 ダリアは少し涙目で、シモンの腕をぎゅっと掴んだ。
 シモンはゆっくりストロークをしはじめる。液の量が多いのだろうか、じゅ、じゅ、じゅ・・・音を立てて動き始めるのにそれほどの時間はかからなかった。
 最初は苦しそうな表情だったダリアの顔にも、次第に快楽の色が浮かんできている。
「ん、あ、あ・・・お、おにいちゃん・・・へん・・・へんだよ・・・ダリア・・・なんか・・・きもちいいよ・・・」
「いいんだ・・・ダリア・・・これは気持ちよくなることだから・・・もっと気持ちよくなっていいんだぞ・・・」
「お、おにいちゃん・・・おにいちゃんも・・・きもちいいの・・・?」
「ああ・・・」
 ダリアがぎゅっとシモンに抱きついてきた。
「嬉しい・・・おにいちゃん・・・あん・・・ダリア・・・ダリアね・・・好き・・・おにいちゃんのこと・・・大好き・・・あ・・・んん・・・いやぁ・・・」
 少ない語彙で懸命に愛を伝えようとするダリア。シモンはダリアの頬を舐めると、ダリアもシモンの頬をぺろぺろと舐めてくる。
 ダリアの蜜壷がきついせいか、シモンは既に限界に近づいている。シモンは一層激しく腰を動かし始める。じゅ、じゅ、じゅ、じゅ、・・・ダリアの表情にもう苦痛は無い。その幼い顔には、性の悦びに満ち溢れた淫婦の表情が浮かんでいる。淫乱に濡れた瞳、艶かしく男を誘う舌、精液と唾液が光る唇、頬を伝う汗・・・。その清らかさと艶かしさが同居する肢体を犯している感覚は、シモンに今までに無い恍惚感を与えている。
「ダリア・・・いくぞ・・・」
「お、おにぃちゃん・・・おにぃちゃん・・・すき・・・すき・・・あ、あ、あ、ああああぁ!!」
 シモンの最後のストロークがダリアを貫くと、ダリアも絶頂に達した。





 すやすやと眠るダリアの頭を撫でながら、シモンはぼんやりとしていた。
 いよいよ・・・次は最後の決戦だ・・・。
 その道は、厳しい道になる。しかし、全てを引き受ける決断をした以上、くぐらねばならない道だった。
「ここまで来たらやるしかないか・・・」
 シモンは次の戦いの作戦を、既に頭の中で考えつつあった・・・。

 
 


 

 

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