洗脳戦隊


 

 
第6話 罰


 アジトに着くと、シモンはカーネリアを連れてダリアの部屋を訪ねた。
「ダリア・・・済まないが・・・」
「ほれ」
 ダリアはシモンに薬瓶を二つ投げつける。
「・・・何だこれは?」
「右が強壮剤、左が亜鉛の錠剤だ」
「・・・強壮剤はともかくとして・・・、お前、俺が何をやってきたと思ってるんだ?」
「違うのか?」
「・・・・・・違わない」
 シモンはその場で亜鉛錠剤を強壮剤で流し込み、一息つく。
「・・・こう毎日じゃ身がもたん・・・」
「洗脳だけすればよいのであって、いちいち犯ってくる必要は無いのだぞ」
「ダリアちゃん・・・女の子なのにヤるだなんて・・・はしたない・・・」
「あ、さっきの薬、青酸カリだった」
「!!」
「嘘だ」
 ダリアと話しているほうが身体に悪い。シモンが汗を拭っていると、ダリアがカーネリアを一瞥して言った。
「ここで調教しよう、というのか?」
「いや・・・とりあえずおっかない上司に証拠付きで中間報告しておこうと思ってな」
 シモンは今日起きたことをかいつまんで話した。
「・・・というわけで、カーネリアもルピアも俺の術中に堕ちた。もう決定的な勝利と言っていいだろう?3日でだめなら処刑、といわれた時は正直どうなるかと思ったがな」
 ダリアは少し指を口にあてて考え込む。ダリアの癖だ。
「・・・まだもう一人残ってるだろう?」
「ああ・・・ローズか。確かに手ごわいだろうが、この薬と二人を使えば絶対大丈夫だろう。ローズはこの二人が洗脳されていることを知らないわけだしな」
「・・・何にせよ油断は禁物だ・・・それよりも」
 ダリアがじっとシモンを睨む。
「ルピアのことだが・・・なんでヴァルキリーの使命をもたせたまま、恋愛感情など抱かせた?単純に洗脳すればよかっただろうに・・・」
「うーむ、確かにそうしたら楽だったろうけど・・・カーネリアはあっさり堕としてしまったから少しひねってみたかったしな・・・。ダリアにとっても、色々な洗脳方法で実験したほうが、実験サンプルがたくさんとれていいだろう?本来の使命と、洗脳で植え付けれた愛情、彼女が信じるべき真実とはなにか、ああ教えてロミオ、あなたはなぜロミオなの・・・、怒涛の次回、乞う御期待・・・」
「・・・・・・・・昼メロの見過ぎだ。チキュウの文化に毒されてるぞ、シモン」
「・・・すまん」
「・・・・・・まあ確かに実験サンプルが多いには越したことはないが・・・、お前のやり方を見てると危うくてな・・・」
 ダリアの歯切れが悪い。
「というと?」
 少しためらった後、ダリアは指摘した。
「お前にとって、洗脳は手段ではなく、目的になっている」
「・・・結果的には別に問題ないだろう?」
「今はな・・・、だが、勝てる時には最短距離で勝つべきだ。美しく勝とう、とか美味しく味わおう、だなんて思わないほうがいい」
「・・・わかった」
「それともう一つ・・・。お前はネメシスの組織にいるんだ。だから、ゆめゆめ、その薬をネメシスの人間に使おうだなんて思うなよ」
 シモンの脳裏に、最初に実験台として犬になったサファイアの姿が思い起こされた。とはいえ、今彼女らを堕とす理由もない。
「なんで俺がサファイア将軍やベリル総帥を洗脳しなきゃならないんだ?理由がないだろ?」
「・・・その気になれば、お前がこのネメシスをのっとることもできなくはないからな。警戒するのは当たり前だ」
 ダリアが物騒なことを言う。
「おいおい、勘弁してくれよ。俺は元々人を怒鳴り散らしたり、人の上に立ってあれこれ指示するのは趣味じゃないんだよ・・・。そりゃ、サファイア様に怒鳴られたり、ベリル様に神経すり減らしたり、しんどいことは一杯だけど、俺には今のこれくらいの地位が丁度いい」
 しばらくダリアはシモンの本音を推し量るようにシモンの目を見ていたが、ふぅと小さく溜息を一つついた。
「確かに。・・・志が低いというか・・・悲しい下っ端根性ってやつだな・・・」
「うるさい」
「・・・まあそれならいい」
「じゃあ俺はこれからサファイア様とベリル様に報告に行ってくる」
「シモン・・・裏切るなよ」
 ダリアがシモンを見つめる。シモンはダリアを見つめかえす。
「・・・ああ」
 シモンとカーネリアはダリアの部屋から出た。
「しかし、サファイア様が・・・そう簡単にお許しになるかな?」
 閉じる扉をみながらダリアはぼそっとつぶやいた。


 シモンはカーネリアを連れて謁見の間に入る。一応、見かけが大事なので、カーネリアの手足には鎖をつけておく。カーネリアには余計な行動は一切しないように暗示をかけた上で謁見に望んだ。
 謁見の間にはサファイアとベリルがいる。シモンは手早く今日の戦果を報告した。

「・・・で?」
「・・・は?」
「それで、だから何だ?ときいているのだ」
 サファイアが苛立たしげな声をあげる。
「いや、ですから、見てのとおりカーネリアは私の下僕となりました。ルピアも私のいいなりです。従って彼女たちを利用してローズを陥れることは簡単であり、もはやネメシスの勝利は決定的になったと言えるでしょう!」
「・・・貴様・・・そんな卑怯な手段をとって勝つつもりなのか!それでもネメシスの端くれか!」
 ・・・しまった、サファイアは武士道を重んじるんだった。すっかり忘れていた。
「・・・お、おそれながら・・・しかし、策を為して勝つは戦いにおいて卑怯ではありません。御一考のほどを・・・」
「論ずるまでもない!そのような妖しげな術で勝っては、わが家系の名を汚すことになる!」
 駄目だ、頭の固いサファイアでは埒が開かない。
「ベ、ベリル様、いかがお考えですか?」
 シモンに呼びかけられたベリルはゆっくりと玉座から立ち上がり、シモンとカーネリアに近づいていく。ボディラインを強調した黒いドレスの間には深いスリットが入っており、凝った模様の織り込まれたストッキングに包まれた足が見え隠れする。

 ベリルはカーネリアの顔を覗き込む。カーネリアの瞳には深い霞がかかっており、焦点があっていない。
「・・・なるほど、確かに深く洗脳されているようですね」
「ええ、任せてください」
 シモンが胸をはる。
「しかし・・・これでは決定的とは言えません・・・」
「・・・え?」
「ローズを倒し、ヴァルキリーを一人の残らず根絶やしにすることこそが、決定的な勝利。違いますか?シモン」
「・・・・・・いや、確かに完全な勝利は、そうですが・・・」
「私はそれを求めているのです・・・、他のことなど、勝利の名に値しません・・・」
 ベリルが静かな、しかし冷たい声で言う。
「シモン・・・あと2日ですよ・・・。手段は問いません。ローズを含めてヴァルキリー全員を倒してくるのです・・・。期待しています・・・」
「・・・は・・・ご期待には、必ず・・・」
 脂汗を垂らしながらシモンはそう答えるしかなかった。
 サファイアは不満そうに腕を組んでいたが、一言言った。
「シモン・・・もう一人のヴァルキリー・・・ルピアもお前の下僕なのだな?」
「は・・・左様ですが・・・」
「ならば、この娘は必要あるまい・・・もう一人の娘だけでも策は十分に練れる・・・違うか?」
「いや・・・まあ確かに出来ないこともないと思いますが・・・なぜですか?」
「この娘は、即刻処刑する」
「な!なんでまた?」
「なんで、だと?この娘は私の父である前将軍の仇だ!!それだけで万死に値する!!」
 サファイアはカーネリアを鞭でピシャリと叩いた。
「あぁ!!」
 悲鳴を上げてカーネリアが膝から倒れる。
 ・・・しまった、サファイアはカーネリアに父を殺されていて、彼女にすさまじい敵意をもっていたんだった。せめてルピアを連れてくるべきだった・・・と思うが後の祭りだ。
 更にカーネリアを叩くサファイア。赤く腫れていくカーネリアの肌。
「お、お待ちください・・・!」
 サファイアとカーネリアとの間に入って止めるシモン。
「貴様!!邪魔するか!!!」
 サファイアはシモンを立て続けに叩く。1発、2発、3発・・・普段なら倒れてしまうところだが、シモンは仁王立ちになってカーネリアを庇う。
 6発目でシモンの頬が裂け、血しぶきが跳ねた。片膝をつくシモン。それを見てサファイアは鞭を止めた。サファイア自身も荒い息をしている。
「貴様!なぜ邪魔立てする!!お前も死にたいのか?」
「・・・お、恐れながら・・・ただこの娘を殺すのはいささか勿体無いのではございませんか?サファイア様・・・」
「・・・どういうことだ?」
「・・・折角ですから・・・たっぷり拷問を加え、生き地獄を見せてから処刑するのが、亡き父上の魂にもかなうことかと思います・・・。ここは一つおさえていただき・・・あとから、ごゆるりと・・・」
「・・・フン・・・。それもそうだな・・・。よろしい、ならば処刑は夜の10時だ。それまでに拷問部屋の準備をしておけ。わかったな、シモン」
「・・・・・・・御意」
 血の味をかみ締めながらシモンは頭を深々と下げた。

 シモンはカーネリアを連れて外に出た。なんとか歩いて自分の部屋に入るとそのまま倒れこんだ。目を閉じるとさっきの鞭の痛みが一斉に襲い掛かってくる。いくら慣れた鞭とはいえ、今日の怒りに燃えるサファイアの鞭はいささかこたえた。床に触れた部分がヒリヒリ痛む。
 ふと頬に温かいものを感じる。目を開けるとカーネリアが頬の傷を舐めている。
「・・・カーネリア・・・?」
「・・・ご主人様・・・申し訳ありません。私をかばってくださったばっかりにあんな目に・・・」
 カーネリアが泣き出しそうな顔をしている。
「・・・気にするな。お前は悪くない・・・。あんな命令はむちゃくちゃだ・・・」
「いえ、シモン様の上司であるサファイア様の命令は、私にとってシモン様の命令と同じ・・・。私の命はシモン様に捧げておりますから、死ぬことは怖くありません」
 きっぱりと言うカーネリア。
「・・・馬鹿なこと言うな。死ぬことが怖くない、なんて簡単にいうものじゃない。死ぬな。これは命令だ、カーネリア」
「・・・わかりました・・・。しかし、それではシモン様が・・・」
 たしかに、このままカーネリアをかばい続けていれば、シモンが処刑されかねない。かといってカーネリアを処刑させてしまったら、ローズを倒すため方法が難しくなる。ローズが手強い以上、手駒は多いほうがいいに決まっている。
 ・・・どうするべきか・・・。
 シモンは少し考え込んだ。いや、正確には考え込んでいたのではなく、自分のこれからとる行動を正当化する理由を補強していただけのことだった。
 事ここに至っては、やるべきことは一つ。自明な結論だった。
 さっきしたばかりの約束をもう破ることになる、か。でも、理由が出来てしまったのだから、仕方ない。そうだろう?ダリア。
 シモンは心の中でそうつぶやくと、準備を始めた。
 


「サファイア様、準備の方がととのいました」
 シモンはサファイアの部屋のドアをノックして彼女を呼ぶ。
 サファイアが部屋から現れた。
「遅かったな」
 ツインテールにトレードマークの青い戦闘服。膝上までしかないスカートからは黒いストッキングに包まれた足がスラリと伸びている。気が強そうな眉毛と切れ長な目は普段と変わらないが、父の仇を討てるという高揚感からか、機嫌はよい。
「・・・こちらです」
 シモンは拷問室にサファイアを連れて行く。拷問室、というとおどろおどろしいが、ヴァルキリーを捕らえて拷問にかけたことは一度も無く、むしろ作戦に失敗した部下にサファイアが懲罰を与える部屋になっている。無論、シモンがこの部屋の世話になったことは両手の指の数では足りない。
 サファイアが拷問部屋の扉を押し開ける。すえた臭いのする部屋には無造作にいくつかの道具が並んでいる・・・。どれも使い方は良く分からないが、ネメシス伝来の拷問具らしい。
 部屋の中央には薄いマットがしかれており、そこに両手両足を縛られたカーネリアが大の字になっている。足が無造作に投げ出され、短いスカートは捲くれて白いパンツが薄暗い部屋に浮かび上がっている。カーネリアの胸は静かに上下しているが、それ以外の動きはない。
「・・・お前、まさかこの娘に手出ししていないだろうな」
「め、め、滅相もございません。自分からは何もしておりません!」
「・・・何か引っかかる言い方だな」
「いや、自分は潔白であります」
 なぜか反射的に直立不動で敬礼をするシモン。
「・・・ふん、まあいい・・・、シモン、鞭を取れ」
「はっ、こちらに」
 シモンが差し出したのは先がバラけた鞭だ。サファイアはその鞭を手に持ち、カーネリアに近づく。眠っているようだが薄暗いのでよくわからない。サファイアはカーネリアの顎をつまんで自分の目の前に持ってくる。カーネリアは目を閉じており、全く反応しない。普段は戦場で戦いあっているのでまじまじと顔を見ることは無いが、こうして改めて見ると、なかなかととのった顔立ちだ・・・。もっとも私の方がはるかに美人だが。
「眠らせているのか?」
「は、左様で」
「眠らせたままでは意味が無い・・・。起こせ!」
「は。では・・・」
 シモンがカーネリアの耳元で何かを囁くと、カーネリアの目がぱっちりと開く。暗示を解いたようだ。
「・・・あ・・・ここは・・・」
 混乱しているのかぼんやりとしているカーネリア。
「・・・今から殺される、というのに眠りこけているなんて・・・随分とずぶといのね。カーネリア」
 と言うなり、サファイアはカーネリアにピシャリと鞭をたたきつけた。
「いっ、いたい!」
 悲鳴を上げるカーネリア。
「ふふっ・・・目が覚めたようね・・・」
 サファイアは残忍な笑みを浮かべる。カーネリアは逃げ出そうとするが、手足の自由が利かない。
「いや・・・やめて・・・」
 後ずさりをするが、すぐに鎖が彼女のそれ以上の逃亡を阻む。
「今日こそ、お父様の仇を取らせてもらうわ・・・」
 ヒュン!パシン!鞭が唸りをあげてカーネリアの身体に打ち据えられる。
「いっ!ああっ!!」
 立て続けにカーネリアの白い腕や足を鞭で叩くサファイア。
「あぁ!!いやっ!やめてぇぇ・・・!あぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
 濁った声で叫ぶカーネリア。サファイアはその声こそ甘美とばかりに夢中で打ちすえていく。やがてカーネリアはがっくりとうな垂れてピクリとも動かなくなり、鞭になされるがままになっていく。
「サファイア様!おやめください!」
 サファイアを止めるシモンをサファイアは睨みつける。
「邪魔する気か!」
「・・・いえ、違います。少し様子がおかしいので、少々お待ちください」
 シモンはうなだれたカーネリアに近づいていく。瞳孔を確認したり、脈をとるシモン。 シモンは重々しくサファイアに告げる。
「サファイア様・・・少しやりすぎたようです・・・」
「・・・まさか、この程度で死んだのか?」
「いえ・・・仮死状態です。しかしもともと洗脳薬で少し心臓が弱っておりました故・・・。少々お待ちください。今からいくつか気つけのツボを試します。サファイア様、カーネリアの表情を見てもらえますか?反応があるかどうか見てもらいたいので」
「ふん・・・この程度で気絶するとは情けない奴だ・・・。・・・早くしろ、シモン」
 サファイアはカーネリアの前に顔を寄せ、表情を確認する。青ざめて血色が無い。
・・・この程度で楽にしてなるものか、戻って来い、カーネリア。サファイアはカーネリアの顔をねめつける。
「では・・・はっ!」
 シモンはカーネリアの背中に回り、ツボを押し始める。しかしカーネリアの首はくらくらゆれるだけで反応が無い。
「うぅむ・・・ではこっちかな?」
 シモンが別のツボをおす。カーネリアの瞼がピクリと動く。
「サファイア様・・・反応はいかがですか?」
「微妙に瞼が動いたような気がするが、暗くてな・・・」
「息も確認してもらえませんか?」
 シモンの言葉を受けてサファイアがカーネリアの唇に顔を近づけたその瞬間。
 カーネリアの身体が突然バネで弾かれたように飛び出し、サファイアの身体をサファイアの両腕ごと抱きしめる。
「なっ・・・!」
 なぜだ?手には鎖がかかっていたはずでは・・・。混乱するサファイアがもがくが、カーネリアの腕は万力のようにサファイアを締め上げて離さない。サファイアは目の前にあるカーネリアの顔を見た。目は虚ろで全く意思を感じない。恐怖を感じたその瞬間、サファイアの唇はカーネリアに奪われた。
「・・・んん・・・んんん・・・!!!!!」
 カーネリアは獣のようにサファイアの唇を貪る。あまりのことが続いてサファイアの頭はパニックに陥った。なんとか反撃をしようにも腕の自由は利かず、せいぜい腰をひねったり首を左右に動かしたりするくらいしかできない。カーネリアはサファイアの口の中に舌を潜り込ませ、唾液を流し込む。息ができず、思わずサファイアはカーネリアの唾液をゴクリと飲み込む。喉がカッと焼けるように熱くなり、唾液の香りが口から鼻腔に逆流する。
 そんな時間が1分も続いただろうか。
「カ、カーネリア、止めろ、止めるんだ!」
 シモンの声が響き、ようやくカーネリアはゆっくりとサファイアの唇を解放した。唾液の糸が紅い少女と青い少女の唇にアーチをかける。サファイアは放心状態だったが、すぐさま立ち上がり、シモンを怒鳴りつける。
「シモン!貴様何をやっている!鎖はどうした!」
「はっ・・・実はツボの一つが手首の裏にあるもので、手錠が邪魔でして・・・外してしまいました・・・。我々に害を与えないように暗示をしていたので油断しておりました。申し訳ありません・・・」
 サファイアは口元をぬぐう。べっとりとカーネリアと自分の唾液がついている。怒りのあまり頭がぐらぐらする。
「それにしてもすぐに止められただろうが!!」
「はっ・・・いや、私も・・・そのサファイア様の艶姿に、思わず見とれておりまして・・・」
 ひざまづいて頭を垂れるシモン。
「・・・何をうつけたことを!貴様、そこに直れ!!」
 怒りのせいか、目が霞む。頭が重い。目がチカチカして、サファイアはまばたきを頻繁に繰り返す。
 シモンはそんなサファイアの様子を慎重に観察していたが、
「・・・直れ、といいますと、私に罰として鞭を与えよう、ということでしょうか?」
「当たり前だ!こんな失態を許せるか!」
「・・・失態、ですか。サファイア様、お言葉ですが、失態を為されたのはサファイア様ではございませんか?」
「・・・何だと?」
 シモンは立ち上がり、サファイアをじっと見据える。
「サファイア様・・・、この娘はヴァルキリーの戦士にして、ネメシスの偉大なる前将軍であらせられた、サファイア様の父上を殺害した、正に我らが憎むべき敵です・・・違いますか?」
「・・・あ、当たり前だ!」
「その敵に、サファイア様は唇を許してしまわれたのです」
「・・・な・・・」
「口付けは愛し合う男女の間の神聖なる行為・・・これはチキュウでもネメシスでも変わりありませぬ。そのような行為を、第一に女性同士で、しかも、憎むべき敵と為された・・・。これは、恐れながらサファイア様とは言え見逃すことはできません・・・、違いますか?」
 シモンの言う言葉はサファイアの脳裏にじんわり染み込んでいく。全く、彼の言うとおりだ。私のしたことは許されざる失態だ・・・。
「し、・・・しかし、あれは不可抗力だ・・・」
 サファイアの弱々しい抵抗は、軽々と打ち破られる。
「そのような言い訳をネメシスの将軍ともあろうお方がなさるのですか?」
 シモンは自分の過失は全く棚上げにしてサファイアをなじる。しかし、サファイアはそれ以上の反撃をすることは思いもよらず、ただ、うなだれている。
「・・・わ、私は・・・どうすればよいのだ・・・シモン・・・教えてくれ・・・」
「・・・サファイア様。このような場合は、サファイア様は率先して罰をうけるべきです・・・いうなればお仕置きです」
「・・・お仕置き・・・?」
 シモンはサファイアに近づく。ぼんやりとした表情でシモンを見るサファイア。もちろんサファイアは自分がいつもとは全く異なる思考状態に陥っていることには気づかない。シモンは薄く笑いながら言う。
「そう・・・、この場にベリル様がいらっしゃらない以上、部下である私が、僭越ながらサファイア様にお仕置きをしなければなりません。上司が部下から処罰されることで、組織の秩序が保たれる、というものです」
「・・・私が・・・シモンに・・・お仕置きされるのか・・・」
「そうです・・・。ただ、私はサファイア様の忠実な部下ですから、サファイア様の命令無しには動くことができません。サファイア様。私に自らのお仕置きを命じてください・・・」
 頭が重くて、ぼんやりする。サファイアの瞳は霞みがかって、シモンの瞳だけを虚ろに映し出している。シモンの言葉だけが頭の中でこだまする。おしおき・・・おしおきしてもらわなくちゃ・・・。
 シモンはサファイアが逡巡する様子を見ながら心の中で薄ら笑いを浮かべた。カーネリアには鞭を激しく与えられると一時的に死んだようになる暗示をかけておいた。さっきサファイアとキスをしたときにカーネリアの口からサファイアに流し込まれたのは、毒性が無い程度に十分に薄めた洗脳薬だ。もともと粘膜で摂取させれば効くのだから、飲ませても有効だ。・・・むしろ効き目は強い。
 サファイアの目はもう光を失い、曇りガラスのようにくすんでいる。
「・・・わかった。・・・シモン・・・、すまないが・・・私にお仕置きをしてくれ・・・頼む・・・」

 何かが・・・何かがおかしい・・・。サファイアは、そんな気がしていた。しかし、自分から紡いだ言葉はサファイアの心を完全に縛り尽くし、サファイアの心からシモンの言葉を疑う余地は、この瞬間に消えた。
「・・・御意・・・」
 シモンはうやうやしく礼をした。

「では・・・サファイア様。そこの壁に両手をついて頂きますか?」
「・・・ん・・・こうか・・・」
 サファイアは壁に両手をつく。
 シモンはわざとらしく肩をすくめる。
「サファイア様・・・私はこれからお仕置きをしようとしているのですよ・・・。それではお仕置きできないじゃないですか・・・」
「え・・・どんなお仕置きをするつもりなのだ・・・?」
「決まっています。お尻叩きです」
「・・・そうか。そうだな」
 サファイアは両腕を腰の高さまで落とし、お尻をシモンの方に突き出す。短い青いスカートの裾が上がり、黒いストッキング越しに白い下着の一部が見え隠れする。
「・・・これでいいか・・・」
「結構です。では、サファイア様。私に命令してください」
「あ・・・あぁ。シ、シモン・・・私のお尻を叩いてくれ・・・」
「承知しました。それではいきますよ・・・」
 シモンはサファイアの横に立つと、右手をふりあげ、平手でサファイアの尻を叩いた。
 パシーーン!
「ああ!」
 サファイアの身体が跳ねる。シモンはそのまま立て続けに3発、スカート越しにサファイアの尻を叩く。
「あぁ・・・」
 サファイアが荒い息をする。
「・・・サファイア様、お仕置きが利いているかどうか確認したいのですが、よろしいでしょうか?」
「か、確認・・・?」
 霞みがかった瞳をシモンに向けるサファイア。
「そうです。ちゃんとお仕置きになってるか、パンツをめくって確かめなくてはいけません。よろしいでしょうか」
「・・・あ・・・ああ・・・もちろんだ・・・。シモン、すまないが私のパンツを脱がして・・・確認してくれ・・・」
「了解です。それでは失礼して・・・」
 シモンはサファイアの腰からストッキングをずり落とす。光沢のあるストッキングがサファイアの足首に到達する。次に白いパンツを脱がす。シモンはわざと彼女の秘部をパンツ越しに触れてみる。やや濡れているのだろうか、しっとりとした感じがする。シモンはパンツをうやうやしく、ゆっくりとずり下げていく。・・・彼女の白い臀部と、匂い立つような陰部が露わになる。スカートは穿いたままだが、それがかえっていかがわしさを醸し出している。
 シモンはサファイアの尻を撫でさする。さっき叩いたところがうっすらと赤くなっている。
「シ・・・シモン・・・どうだ・・・。お仕置きは、きちんとできているか・・・」
「・・・ええ・・・一応は・・・。しかし、まだ足りませんね・・・」
「そ・・・そうか・・・じゃあ、もう少し頼む・・・」
 陶然とした表情でお仕置きを乞うサファイア。
「では、もう少し・・・」
 パン、パン、パン、パン!!立て続けに、高い音が立つようにシモンはサファイアの臀部を叩く。
「ああ!あっ・・・っく・・・」
 サファイアは悲鳴を懸命にこらえる。サファイアのお尻がほんのり赤く染まる。
「サファイア様・・・、私のような下賎の者に、高貴な血筋である貴方様のお尻とアソコをさらけ出して、恥ずかしくはないのですか?」
 シモンが言葉でサファイアを嬲り始める。
「・・・あぁ・・・で、でも・・・これはお仕置きだから・・・仕方なくて・・・」
「でも・・・あなたの大事な部分が私のような下っ端の部下に見られてしまっているのですよ・・・貴方の恋人にしか見せないような部分がね・・・」
 シモンは指先でサファイアの敏感な部分に触れる。
「あぁっ!!こ、こら・・・変なところを触るな!」
 サファイアが息を荒げて抗議する。
「・・・そうですよね。・・・ですが、まさか、叩かれて感じてしまったりはしてませんよねぇ・・・」
「ば、ばかもの・・・・・・そんな・・・そんなはずは・・・ない・・・」
「じゃあ、確認させていただきます。ちょっと失礼・・・」
 シモンはサファイアの足元に回りこみ、指で茂みをかきわけてアソコを広げる。尻と秘部を露出させて部下に尻を叩かれるという倒錯した状況がサファイアを興奮させたのか、陰部は充血して、じんわりと愛液で潤みはじめている。
「・・・あ・・・見るな・・・」
「サファイア様。これはお仕置きが達成されているかどうかの確認です。お仕置きで感じていたらお話になりませんからね・・・。ですから、あなたは『見るな』ではなく、じっくり観察するように私に命令しなくてはいけないのですよ。そうでしょう?」
「・・・た、確かに・・・、シ、シモン・・・すまないが、わたしのアソコを確認してくれ・・・じっくりだぞ・・・」
 そういった途端、カーネリアは羞恥で腰をふるわせる。自分の言った言葉に感じてしまい、ますます花弁が潤う。
「おおせのままに・・・」
 シモンは触らずにただ見ている。しかし、見られているという事実がサファイアの敏感になった官能を刺激する。ときどきシモンはわざとらしく大きな鼻息をする。その刺激すら、今のサファイアをゆさぶるには十分すぎるものだった。サファイアの花弁から、あたかもこらえきれなくなったかのように液が流れ落ちる。シモンはそれを掬い取る。
「サファイア様・・・いけませんね・・・これはひどい・・・」
 シモンはサファイアの頬に濡れた指をすりつける。
「あぁ・・・」
「私の指があなたの液で汚れてしまいました・・・舐めて綺麗にしてください・・・」
 シモンは指をサファイアの唇に、そして口の中に入れる。サファイアは羞恥のあまり腿を擦り合わせる。シモンが唇から指を抜くと、唾液にまみれた指がぬらぬらと光る。サファイアはそれを陶然と見ながら唇を半開きにして甘い吐息をつく。愛液がさらにあふれ、白い太腿をつつっと流れる。
「・・・さて、サファイア様」
 シモンはサファイアを立たせて背中から抱き寄せる。
「サファイア様は、お仕置きを私に頼まれました。そうですよね?」
「そ、そのとおりだ・・・」
「しかし、サファイア様はお仕置き中に気持ちよくなってしまいました・・・そうですね・・・」
「そ、そうだ・・・」
「それはいいことですか?いけないことですか?」
「・・・い、いけないことだ・・・アン・・・」
 シモンはサファイアの柔らかな乳房を服の上から揉みしだき、乳首の周りをさする。しかし、そんな動きにサファイアはもう気が回らない。ただ、羞恥と罪悪感にさいなまされている。
「・・・サファイア様・・・。私はあなたを敬愛しております。しかし、心を鬼にして罰を与えました。・・・サファイア様のお尻を叩いていた時に、私がいかに苦しんでいたかわかりますでしょうか?」
「・・・す、すまない・・・シモン・・・」
「いえ・・・多くは言いますまい・・・。ですが、サファイア様、カーネリアとの口づけの罪は先ほどのお尻叩きで終わりましたが、そのお仕置きで感じてしまった罪が新たに生まれました・・・。どうしますか?」
「・・・いうまでも無い・・・。シモン・・・私にお仕置きをしてくれ・・・」
 サファイアが甘い吐息でシモンに囁く。潤んだ目と上気した頬が艶かしい。
「・・・わかりました。私も本当に心苦しいのですが。おっしゃる通りにしましょう・・・。カーネリア、起きろ」
 シモンの声に今まで眠っていたカーネリアがむくりと起きて、シモンとサファイアをぼんやりと見る。
「サファイア様・・・、あなたはこれからカーネリアとエッチしてもらいます・・・」
「な・・・なに・・・?」
「仇であるカーネリアと抱き合う・・・。お仕置きに感じてしまった以上、このくらいの罰は受けなくてはいけません・・・。よろしいですね?」
「・・・わ、わかった・・・。よろしくたのむ・・・」
 サファイアはこくりとうなずいた。
「御意・・・。ではカーネリア。サファイア様を気持ちよくさせてあげなさい・・・」
「・・・はい・・・わかりました・・・」
 カーネリアはゆらりと動いてサファイアの前まで進み出でると、ひざまずいて、サファイアのスカートの中に頭を潜らせた。・・・サファイアはスカートの下には何も穿いていない。
「あ・・・何を・・・!」
 逃げようとするサファイアをシモンは背中から軽く抱きしめて囁く。
「サファイア様・・・、これは罰なのですから・・・受けてください・・・」
 シモンはサファイアのうなじを舐める。それだけでサファイアの身体から力が抜けてしまう。カーネリアの舌がサファイアのクリトリスを刺激しはじめる。
「あうん!・・・や・・・はぁ・・・あ・・・あん!」
 サファイアは激しい喘ぎ声をあげる。その声を聞いてカーネリアは一層激しく舌を動かす。カーネリアの左手は自分のアソコを刺激している。「んん・・・」という鼻にかかった声をカーネリアはあげる。シモンは器用にサファイアの上着のボタンを片手で外し、胸をはだけさせ、乳房を直に揉みはじめる。乳首をコリコリとつまむと、「はぁ!!」とサファイアは甲高い声を上げて首を振る。薄紅色の乳首がピンと立つ。
「サファイア様・・・、わかってますか?これはお仕置きなんですよ・・・?」
「ふわぁ・・・はん・・・あぁ・・・・・・はあ・・・」
 サファイアはもう返事ができない。シモンはサファイアと一緒にマットの上に座り込む。カーネリアは猫のようにぺちゃぺちゃとサファイアの陰部を丹念に舐めまわす。舐めても舐めてもサファイアの愛液はとめどもなく溢れてくる。虚ろな目をしたカーネリアは、虚ろな目をしたサファイアの顔に頬を寄せ、その頬を舐め始める。始めは為されるがままだったサファイアだったが、やがて応えるようにカーネリアの頬を舐め始める。やがて、互いの舌は絡み合い、唇と唇が合わさる。くちゅ・・・ぷちゅ・・・ちゅ・・・。音を立てて互いの唇を貪りあう様は、さながらまたたびに酔った仔猫同士がじゃれあうかのようだった。
「サファイア様・・・こっちを向いて・・・」
「ふわぁ?」
 サファイアは潤んだ瞳でシモンを見つめる。シモンがサファイアの鼻を舐める。サファイアはシモンの首に腕を回し、自分からシモンの唇を舐める。シモンが舌を伸ばす。サファイアの舌が蛇のようにシモンの舌に絡みつく。レロ・・・ペチョ・・・。音を立てて互いの唇を吸い尽くす。そんな間にカーネリアはサファイアの乳首をちゅーちゅーと、仔猫がミルクをせがむように吸っている。
 あぁ・・・わたし・・・お仕置きなのに・・・こんなに気持ちよくなってる・・・。私は将軍なのに・・・部下に威厳を示さなくてはいけないのに・・・こんなことでは・・・だめ・・・。
 サファイアは千々に乱れる思考の中でぼんやりと考えていた。しかし、ちょっと考えた瞬間に、シモンの愛撫や、カーネリアのキスの嵐が与えられて、サファイアの理性は消し飛んでしまう。
「・・・さて・・・こんなところでいいでしょう・・・。カーネリア、ストップだ」
「・・・・・・はい・・・」
 カーネリアはもう少し続けていたそうだったが、しぶしぶとサファイアの身体から離れた。シモンもサファイアから離れる。
「あ・・・」
「サファイア様・・・。サファイア様へのお仕置きはこれで終わりです。・・・もちろん、感じたりしませんでしたよね・・・」
「・・・あ、・・・あぁ・・・もちろんだ・・・。感じたりしていない・・・」
 下を向いてぼそぼそと答えるサファイア。
 それを見てシモンはにやにやしていたが、やがて、
「では・・・これからカーネリアには、サファイア様にキスをした罰を与えますから、サファイア様はそこで見ていてください」
「・・・え・・・?」
 驚くサファイアの前で、シモンはカーネリアを抱きすくめる。
「あぁ・・・シモン様・・・。カーネリア・・・もう我慢できない・・・」
 幸せそうな表情をしてシモンの顔を擦り付けるカーネリア。
「くくく・・・お前、お仕置きなんだから、少しは辛そうな顔をしろよ・・・」
「え・・・だって・・・今まで我慢してたから・・・それがお仕置きだったよぅ・・・」
「ふふ・・・そうだったな・・・じゃあ、お仕置きの仕上げ、ってことだな・・・」
 シモンが指をカーネリアの秘部につぷりと突き立てる。
「はっ・・・はぁ・・・!」
 それだけで背筋をびくんと弓なりに伸ばしてしまうカーネリア。
「ふふ・・・このままイッてしまうかな?」
 シモンは指をさらにもう一本入れる。ぬぷぷっという音を立てて吸い込まれていくシモンの指。マットにカーネリアの液がぼたぼた垂れる。
「あぁ・・・!ふわぁ・・・シモン様・・・シモン様・・・」
 うわ言のように繰り返すカーネリア。
「お前は本当に可愛い俺の僕だ。俺の言うことならなんでもきいてくれる・・・そうだな・・・」
「はい・・・カーネリアの心も身体も・・・シモン様の・・・はぁ・・・!・・・シモン様のモノです・・・」
 シモンがずぷずぷと二本の指をグラインドさせ、カーネリアの蜜壷を掻き回す。そのたびにカーネリアが喘ぐ。
 サファイアはその光景から目をそらすことができない。ごくり、と唾を飲み込む。あの、カーネリアが、私の父の命を奪ったカーネリアが、シモンに悦びを与えられてる・・・。羨ましい・・・。サファイアは手は無意識のうちに自分の胸と陰部に伸びていく。
「くくく・・・どうだ・・・カーネリア・・・イきそうか・・・」
「は・・・はん・・・うん・・・カーネリア・・・カーネリア・・・いっちゃうよ・・・」
「そうか・・・いいぞカーネリア、そのままイけ・・・!」
「ふ、ふわっ、は・・・あ、あ、あーーーーーーーーーーーー!」
 カーネリアの身体がビクンとのけぞり、そのまま脱力して倒れこんだ。
 カーネリアの身体から指を抜き取るシモン。シモンの指はカーネリアのエキスでベトベトになっている。
「さて・・・、おやおや、サファイア様。感じてるカーネリアを見て、その気になってしまわれたのですか?」
「あ、・・・これは違う・・・」
 右手で乳房と乳首をこねまわし、左手で茂みの中の敏感な部分をさすっていたサファイアは、慌てて胸を隠し、足をととのえる。しかし上気した頬と潤んだ瞳は隠せない。
「・・・サファイア様・・・先ほど、あなたはカーネリアに舐められるお仕置きの時に感じていなかった、とおっしゃられてましたよね」
「・・・・・・」
 沈黙するサファイアをシモンは舐めるように見る。
「・・・もし、それが嘘だったとしたら・・・あなたは、お仕置きの時に感じていた罰に加え・・・、嘘をついた罰も受けないといけませんね・・・」
「もし・・・もし・・・嘘をついていたとしたら・・・私は・・・お仕置きを受けられるのか?」

 上目遣いにサファイアがシモンを見る。その瞳が犯されることを望む牝の獣欲で潤んでいることに、サファイア自身は気づかない。
「もちろん・・・。さっきのカーネリアよりも、もっとすさまじい罰を受けてもらいますよ・・・。ですが、まさかサファイア様とあろうものが、そんな嘘をつくはずがないですよね・・・」
 サファイアの心の中で葛藤が生まれる。が、それはほんの一瞬のことだった。
「シ・・・シモン・・・。私は・・・嘘をついていた・・・。さっき・・・私はカーネリアに舐めまわされて・・・感じてしまった・・・。お仕置きなのに・・・、しかも父の仇のカーネリアにキスされて・・・」
 サファイアは身体を淫靡に震わせて告白をする。
 ふぅ、とシモンは溜息をついた。
「なるほど・・・。では、サファイア様。あなたは私にどうして欲しいんですか・・・?」

 サファイアは四つん這いのままシモンの足元ににじり寄って、言った。
「わたしに・・・カーネリアよりひどい罰を・・・お仕置きを与えて・・・お願い・・・」
「そうですか・・・では、サファイア様。まず私の足をなめてもいただきたいのですが」
 もう、サファイアは完全にシモンの言いなりだった。サファイアはシモンの前にのろのろと這い出ると、シモンの靴と靴下を脱がし、親指から口に入れて丹念にしゃぶりはじめる。指と指の間、かかと、くるぶしと念入りに舌を這わせる。
「では、私の身体から服を脱がしてください・・・」
 サファイアはもどかしそうにシモンのスーツを脱がせる。男の肌が剥き出しになる。前が膨らんだトランクスを見て、サファイアはごくりと唾を飲み込む。両手でそっとトランクスを引きずり落とす。サファイアの鼻先にシモンのモノが飛び出し、つんとした匂いを醸し出す。
「では、足から舐めはじめて、そのままゆっくり上半身の方に移動してください・・・汗をかいてしまった私の身体を綺麗にしてください・・・」
 サファイアの顔はシモンの体を舐めながらゆっくりと移動する。脛毛のザラザラした感覚が彼女を刺激する。シモンの体はうっすらと汗をかいており、塩の味がする。その汗と粘液の混じった匂いがサファイアの被虐の心をうずかせる。彼女の舌が通った後はかたつむりが這ったかのように濡れていく。やがて屹立したシモンのモノを横目に見ながら、サファイアはシモンの乳首に到達する。しばし、シモンの乳頭を舐めまわす。シモンはそんなサファイアの頭をなでてやる。ツインテールが揺れる。光を喪ったサファイアの目がシモンの顔を見つめる。サファイアはそのままシモンの首筋を舐め上げる。白い手袋につつまれた端正な指がいとおしげにシモンの体を撫でる。
 はぁ、と熱い溜息をつくサファイア。青い戦闘用の上着、サテン地のスカートを穿き、白いブーツと手袋はつけているものの、乳房は剥き出し、黒いストッキングと白いパンツを足首にひっかかった状態、陰部と尻を曝け出して男の身体を一心不乱に舐めているサファイアの姿は、普段の冷酷無比なサファイアを知っているものが見たら仰天するしかないだろう。
「サファイア様・・・いかがですか?私の身体の味は・・・」
「・・・あぁ・・・シモンの体・・・おいしぃ・・・」
 よだれをたらしながら虚ろな目でサファイアは応える。
「ネメシスの将軍なのにそんなはしたない格好で、そんな淫らなことをして、恥ずかしくはありませんか?」
「・・・え・・・だって・・・これは・・・お仕置きだから・・・」
「・・・まだ、お仕置きが足りない・・・そんなかんじですねぇ・・・サファイア様。ここからいやらしい液が止まらないようですが・・・」
 シモンが足の親指でサファイアの敏感な部分を刺激する。サファイアは首をぶるぶる振って叫ぶ。
「あああ!・・・うん・・・足らない・・・足らない・・・もっと・・・もっと・・・お仕置きして・・・!」
「では、仕方ありません・・・究極のお仕置きをするとしますか・・・」
 シモンは仰向けになりサファイアを手招きする。
「サファイア様・・・自分で私の棒を自分の恥ずかしいところに入れてください・・・串刺しの刑です・・・」
「・・・はい・・・」
 サファイアは腰を浮かせて、シモンのモノをそっと手で掴むと、自分のアソコに誘導して、一気に腰を落とした。
「ああぁ!あん・・・ふぁぁわ・・・」
 入っただけでサファイアは感極まる。
「自分から腰を動かしてください・・・」
「ああ・・・ふわ・・・はぁ・・・」
 にゅぷ、じゅぷ、じゅぷ、じゅ・・・。
 いやらしい音が部屋に響く。上下運動するサファイアの影が部屋の壁に映し出される。
「サファイア様・・・自分の今の状態を解説してください・・・これもお仕置きです・・・」
「ふあ・・・ん・・・私は・・・サ・・・サファイアは・・・シモンの・・・シモンのおち○ちんを・・・アソコに入れて・・・うんん・・串刺し・・・に・・・されてる・・・。お仕置き・・・されてる・・・」
「サファイア様・・・感じてますか?感じていませんか・・・」
「・・・・・・・・・・・ふぁ・・・ん・・・」
 自分の指を口にいれて甘噛みするサファイア。明らかに感じているが、言うわけにはいかない、と頑張っているようだ。
「正直にいいなさい・・・正直に・・・これもお仕置きです・・・サファイア様・・・」
「・・・ふわ・・・気持ちいい・・・気持ちいいよ・・・シモン・・・私・・・おしおきなのに・・・かんじちゃってるよぅ・・・」
「仕方ありません。サファイア様。今日は仕方ないので気持ちよくなってください・・・」
 シモンが腰をグラインドさせ、横の動きをつける。
「あぁあ!!!す、すごい・・・シモン・・・あぁ・・・わたし・・・いっちゃう・・・いっちゃうの・・・」
「どうぞ・・・いって下さい・・・私も一緒に・・・うぅ・・・」
「シ、シモン・・・一緒に・・・一緒に来て・・・あぁあああああああ!!!」
 サファイアが頂点に達すると同時に、シモンも放出した。


 シモンはカーネリアにティッシュを持ってこさせると自分とサファイアの身体を拭かせた。サファイアはまだ身体の奥底が火照っているのか、敏感なところを触られるたびに「あぁ・・・」とつぶやく。
 さて・・・仕上げといこうか・・・。
 シモンは改めて薬を布に含ませて、サファイアに軽く嗅がせる。
「サファイア・・・起きるんだ」
 様、を省いたのは洗脳状態にあるかどうかを確認するためだ。サファイアはその言葉をとがめることもなく、ゆらりと起き上がる。
 シモンはライターを取り出すと、火をつけてサファイアの眼前に持ってくる。
「サファイア・・・この炎を見るんだ・・・」
 サファイアが意思の無い目で炎を見る。
「お前はこの炎と俺の声だけが聞こえる・・・、俺の声だけが頭に響く・・・他のことは気にならない・・・俺の声だけが全てだ・・・」
 サファイアは口をぼんやりと開いた弛緩した表情で炎を見ている。
「サファイア・・・、今日起こったことは俺とお前の間だけの秘密だ・・・、部下にお仕置きされるなんて恥ずかしいことはベリル様には言えない・・・、秘密にするんだ・・・いいな・・・」
「・・・はい・・・」
 こっくりとうなずくサファイア。
「そうしたら・・・とりあえず服装をもとにもどそう・・・。サファイア、ブラジャーとシャツをきちんとして、あとパンツとストッキングも元通りにするんだ・・・」
 サファイアはゆっくりと服装を整える。
「そう・・・そして、お前は昼間は今までどおり、ネメシスの将軍としてふさわしい立ち振る舞いをしろ・・・俺に鞭を与えることも容赦しないいつもの自分に戻れ・・・、ただし・・・お前は今日俺にされたお仕置きの気持ちよさが忘れられない・・・。だからまた何かあれば、俺に自分からお仕置きをねだるようになる・・・いいな・・・」
「・・・はい・・・」
「それともう一つ・・・、お前は俺にキーワードを言われると・・・、お前は今の様に、俺の言うことに何もかも従う、いいなりの人形になる・・・。そのキーワードは『囚われのサファイア』だ・・・いいか・・・」
「・・・はい・・・」
「よし・・・、では今から俺は10数える・・・そうするとお前は目を覚ます・・・だが暗示を与えられたことは全て忘れている・・・いいな・・・、10、9、・・・目が覚めてくる・・・、8、7、キーワードを言われたら俺の人形になる・・・、6、5、・・・4・・・ただ目覚めだ時はいつもどおりのサファイアだ・・・3,2・・・暗示されたことは忘れているが、暗示のことはよく覚えたまま・・・1・・・0!」
 サファイアがはっと目を覚ます。
「あ・・・な・・・」
「お目覚めですか、サファイア様・・・」
「・・・ん・・・いつの間に眠ったのか・・・」
 頭をおさえるサファイア。
「少しお疲れのようです・・・。もう休まれたらいかがですか?」
「・・・し、しかし・・・まだカーネリアの処刑が・・・」
「・・・まだ、カーネリアの処刑をなさるおつもりで?」
「無論だ!」
「『囚われのサファイア』」
 途端、サファイアの表情から意思が欠落する。
 シモンはサファイアの後ろに回り、肩に手をよせてゆっくりと揺さぶる。
「サファイア、聞こえるな・・・」
「・・・はい・・・」
「よくきけ・・・お前はカーネリアを憎んでいたが・・・もう、その憎しみは消えた・・・、カーネリアを殺さなくてもよいと思えるようになる・・・、いいか・・・」
「はい・・・」
「そうか・・・じゃあその証拠に・・・カーネリアに口付けをしてこい・・・」
「はい・・・」
 サファイアは緩慢に動くと、横たわっているカーネリアの顔に近づき、唇を合わせた。「よし・・・これでおまえはもうカーネリアに対する恨みは無い・・・、その度量の広さこそ将軍の証だ・・・そうだな・・・」
「はい・・・」
「よし、じゃあ目を覚ますぞ・・・今暗示を与えられたことは忘れている・・・1、2、3!」
 サファイアは再び目を覚ます。
「・・・サファイア様、いかがしましょうか?」
「な、何だ、いきなり?」
「いえ、さきほどお尋ねした続きですよ・・・。カーネリアの処刑ですが、いかがいたしますか?」
「・・・何を馬鹿なことをいっている」
「・・・と申しますと?」
 サファイアは苛立たしそうに腕を組む。
「カーネリアはローズを攻略するための重要な駒だぞ!それを今処刑するなんて、そんな馬鹿なことできるか!!」
「・・・はぁ」
「少しは頭を使って考えろ!!」
「・・・申し訳ございません」
 シモンは素直に頭を下げる。とりあえずは感謝しておこう。
「では・・・私はもう少しカーネリアに暗示を与えて帰しますので・・・ここはお帰りください」
 サファイアを部屋から追い出し、シモンはカーネリアにいくつかの暗示を与えた後、帰宅させた。



「・・・もうよい、止めよ」
「はい」
 薄暗い部屋の中に二人の人物がいる。そのうちの一人−−背の低い白衣の人物−−がスピーカーのスイッチを切る。もう一人は瀟洒な黒いドレスを着てきらびやかな椅子に座っている。二人は拷問室での一部始終を盗聴していた。
「・・・お前の薬の出来が素晴らしいとはいえ・・・シモンは予想以上に凄腕ですね。ダリア」
「・・・正直ここまでとは予想しておりませんでした」
「あの薬は最後の手段だったのですが・・・彼に渡したのは軽率だったかもしれませんね」
「申し訳ありません。私の判断が甘かったようです・・・」
「よい。気に病まないように」
 黒い長身の女性−−ベリル−−は立ち上がった。
「ヴァルキリーを相手にしている間は多少のことは大目に見ていようと思っていましたが・・・おそらく、彼はサファイアだけではやめられないでしょう・・・。洗脳の甘美さを知ってしまった以上、私に向かってくるのも時間の問題ですね・・・」
 ダリアはうつむいたまま、
「・・・彼を消せとおっしゃるのでしょうか?」
「・・・まだです。少なくともローズは彼の手で落とさせましょう。その後は・・・然るべき処置をする必要があるでしょう・・・。ダリア、準備しておきなさい」
「・・・・・・承知しました」
 ダリアは答え、ベリルの部屋から出て行った。
「・・・シモン・・・この世界の支配者が誰なのか・・・教えてあげるわ・・・」
 ベリルは薄く笑った。

 
 


 

戻る

戻る