改革を求める息吹は脈々と生き続けていた。イランの大統領選挙は、最終候補の中で最も穏健な立場をとるロハニ師が当選した。自由化のうねりが流血の弾圧に終[記事全文]
何のための話し合いか、忘れてしまったのではないか。捜査や公判のあり方を改革する法制審議会の特別部会で、法務省が素案を示した。主眼だったはずの取り調[記事全文]
改革を求める息吹は脈々と生き続けていた。
イランの大統領選挙は、最終候補の中で最も穏健な立場をとるロハニ師が当選した。
自由化のうねりが流血の弾圧に終わった前回選挙から4年。抑え込まれた民意が改めて結集し、劇的な勝利を導いた。
投票率は70%を超え、得票率も50%を上回る完勝である。国際通のロハニ師は自国の苦境を認識しているはずだ。イランを孤立から脱却させてほしい。
この国では宗教の指導者たちが実権をにぎる。事前の審査で「改革派」候補は失格とされ、イスラム体制を厳守する「保守派」だけが立候補できた。
それでも最終候補たちの主張は争点を描いた。アフマディネジャド現大統領の流れをくんで米欧との対決路線を続けるか、ハタミ前大統領らが唱えるように対外融和を探るか――。
近年、米欧との対立がこじれた一因は現大統領の強硬姿勢だった。イスラエルを「地図から抹消すべきだ」「ホロコースト(ユダヤ人虐殺)は神話」と挑発し、対話の機運をそいだ。
ロハニ師は、ハタミ前政権下で核の交渉役だった。今回選挙の討論会で、「思慮に欠け、不勉強な言動」が国益を損ねてきたと現大統領を批判した。
ただし核開発については、民生利用の権利を譲らない構えを崩していない。米国との国交正常化に前向きではあるが、その道筋を明示したことはない。
世界4位の石油産出量を誇る国なのに経済難にあえぐ理由はひとえに核開発だ。4度の国連安保理決議で停止を求められてもウランの濃縮をやめない。
イスラエルはイランの核兵器保有まであと1年程度とみて、空爆も辞さない構えだ。原油の動脈である近隣海域が戦場と化せば世界経済に打撃となる。
その回避のため米欧は一気に制裁を強めてきた。イランの通貨リアルは暴落、原油輸出も減り、国民生活は困窮した。
一方で、流動化する中東情勢に乗じてイランは地域の影響力を伸ばした。米軍撤退後のイラクや、反体制派を弾圧するシリアと関係を深めている。「アラブの春」後の影の勝者は、イランとも言われるゆえんだ。
だが、国民の福祉を犠牲にして地域の覇権を争っても、持続的な勝者になれるはずもない。ロハニ師は、支持してくれた改革派の声に耳を澄ませ、国民の暮らしを優先し、対話に柔軟な指導者になってほしい。
核開発のよろいを脱ぐことは、イランにも世界にも、大きな利益をもたらすのである。
何のための話し合いか、忘れてしまったのではないか。
捜査や公判のあり方を改革する法制審議会の特別部会で、法務省が素案を示した。
主眼だったはずの取り調べの録音・録画(可視化)は、例外を広く認める余地を残した。
「記録したら、弊害が生じるおそれがあるとき」などを例外とし、取調官に裁量の幅を大きく与える内容になっている。
これでは録画するかどうかは捜査側の不透明な都合だけで決まり、骨抜きにされかねない。
法務・検察当局が重い腰を上げたのは、3年前に発覚した大阪地検の不祥事がきっかけだ。
厚生労働省局長の村木厚子さんが冤罪(えんざい)に巻き込まれた。供述の誘導、証拠の改ざん、長びく勾留。刑事司法が抱える問題をあぶり出す事件だった。
冤罪を二度と起こさない。それが改革の使命だったはずだ。
ところが可視化に抜け道を設ける一方で、電話などの通信傍受の対象を広げるという。また新たに、生の会話の傍受や司法取引などの導入も盛り込んだ。いずれも賛否両論あって導入が控えられてきた手法だ。
可視化は捜査当局の足かせになりうるので、ある程度やる代わりに捜査の手段を広げさせろ、というのだ。部会の委員から批判が噴出したのも当然だ。
法務省は来年の通常国会で法制化したい考えだが、これでは国民の広い支持は得られまい。原点から出直す必要がある。
議論で発言力をもつのは、法務・検察、警察、日本弁護士連合会、最高裁である。それぞれの立場で考えや利益は違う。
その中で多様な手法を一括して扱えば、各項目の賛否が取引材料にされかねない。しかも挙げられた項目は、どれも人権やプライバシーとぶつかり合い、市民生活への影響が大きい。
通信の傍受が許されるケースは今は組織的殺人など限定的だが、窃盗や詐欺にも広げれば対象は一気に増える。他人の犯罪を明らかにすれば減刑される司法取引も、無実の人を巻き込むおそれがつきまとう。
新たな捜査手法の導入は、そうした負の側面と、必要性や効果とを厳密に検討し、慎重に論じるべきものだ。捜査当局の信頼失墜から始まった議論で持ち出す筋の話ではない。
部会が議論している間にも、パソコン遠隔操作事件の誤認逮捕があった。逮捕された4人のうち2人が、やっていない犯罪を自白させられた。
可視化の原則をすみやかに実現していれば、自白を導くような取り調べは防げたはずだ。