WEB特集
米中首脳会談が問いかけるもの
6月10日 22時00分
今や太平洋を挟んで向き合う「世界の巨人」となったアメリカと中国。
オバマ大統領と習近平国家主席の初めての首脳会談が先週、2日間にわたって行われ、世界が両首脳の一言一句に注目しました。
会談をきっかけに米中関係はどこに向かうのか、習主席に同行取材した中国総局の石井一利記者が解説します。
米中トップの初顔合わせ
アメリカでオバマ大統領が再選を果たし、中国で習近平国家主席が最高権力者となって、初めて実現した首脳会談に世界はくぎづけになりました。
アメリカは依然として世界の中で軍事力、経済力とも突出した大国ですが、同時にもはや世界の安全保障や経済のかじ取りについて、単独でリーダーシップを取れなくなっているのも事実です。
対する中国も、著しい経済成長を背景に軍事力も増強しながらも、日本を含む周辺諸国と領土を巡って対立し、国際社会からはサイバー攻撃の発信源になっているとして非難され、さまざまな課題に直面しています。
2人の首脳の会談は、まさに今後、数年の国際情勢を大きく左右するものとして注目されたのです。
異例ずくめの会談
会談は、そんな首脳たちの意気込みを反映して、異例ずくめのものとなりました。
何より異例だったのが会談の場所です。
オバマ大統領は首都ワシントンではなく、西部のロサンゼルスから200キロほどの所にあるリゾート地・パームスプリングスの保養施設に習主席を招きました。
この場所は過去に歴代のアメリカ大統領やイギリスのエリザベス女王など多くの政治家や有名人が滞在したことで知られています。
オバマ大統領としては、ワシントンから遠く離れた静かな環境でリラックスした雰囲気のなか、習主席と信頼関係を築きたいという思惑があったものとみられます。
中国側の対応も異例のものでした。
習国家主席が就任したのはことし3月。
これまで中国の首脳が就任からこれほど間もない時期にアメリカを訪れ、首脳会談に臨んだことはありません。
習主席に同行した中国外務省の高官は、「両国のトップが、共にできるだけ早く会って今後の米中関係について意思疎通することを希望した」と説明しています。
「巨人」としての強い自覚とともに、さまざまな危機感を抱く両首脳が、互いに引かれ合うようにして異例の首脳会談にこぎ着けたわけです。
演出された協調
2日間でおよそ8時間にわたった首脳会談。
両首脳はさまざまな分野で対立点があることを認めつつ、共通の利益を見いだして協調する新しい関係を築くことで一致したと、会談の成果を強くアピールしました。
すぐ手が届くほどの狭い机を挟んで、首脳を含め双方7人だけの代表がノーネクタイ姿で会談する様子や、オバマ大統領と習主席が通訳を交えず2人だけで散策する映像が公開されたのも、「協調」を演出するものでした。
さらにオバマ大統領は習主席とそろって座ったというアメリカ杉でできた2人掛けのベンチをプレゼント。
会談終了後には、習主席と彭麗媛夫人とも面会し、個人的にも良好な関係を築いていく姿勢を印象づけました。
埋めがたい溝も
それでも個別のテーマでは、米中の立場の違いも浮き彫りになりました。
アメリカ側が主張している中国からのサイバー攻撃について、習主席は「いかに速やかに解決するか研究していく」と述べる一方で、「中国もサイバー攻撃の被害者だ」とする従来の立場を繰り返し、具体的な対策は今後の実務者協議に持ち越されました。
また、沖縄県の尖閣諸島について、オバマ大統領が「日中は話し合いを通して緊張の緩和に努めるべきだ」と呼びかけたのに対し、習主席は改めて中国の領有権を主張したうえで、名指しは避けながらも「挑発的な行為をやめ、対話による解決の道に戻るよう希望する」と日本をけん制したということです。
このほか会談では、中国の人権問題や米中の経済摩擦、台湾問題なども取り上げられたということですが、双方ともこれまでの主張を繰り返すにとどまり、具体的な歩み寄りはありませんでした。
米中のはざまで日本は
「広い太平洋には、中国とアメリカという2つの大国を受け入れる空間がある」。
習主席は会談でこう述べ、今後、中国がアメリカと共に大国として太平洋地域に進出し、秩序の構築に積極的に関わっていく姿勢を示したといいます。
一方のオバマ大統領も「両国の新しい形の協力関係を構築したい」と述べ、個別の問題で立場の違いは認めながらも、両国が戦略的に協調していく姿勢を示しました。
米中が対立を避け共通の利益を追求すること自体、太平洋地域の安定につながるもので、日本も歓迎すべきだと思います。
ただ、米中の友好や協調が進み、両国が太平洋地域の秩序の主導権を握っていくことがそのまま日本に利益をもたらすのか、日本が直面する尖閣諸島の問題や北朝鮮との関係の改善につながるのかは、予断を許さないのも事実です。
アメリカとの同盟関係を外交の柱としながら、中国とも隣人としての長い歴史を持つ日本。
米中の関係をしっかり見つめながら、日本としてもそれぞれとどのような関係を築いていくのか、戦略を練り直すときが来ていると、取材を通して感じました。