武雄市図書館のTカード番号で「本人が特定されない」のは本当か(2)

前回述べた *1 流れでは、「ID紐付登録」によって得られる「変換表」は図書館が持つとした。 しかしCCCの規約には、紐付はCCCの作業とある。

(7)「ID 紐付登録」とは、CCC が T 会員に割り当てるTカード番号と図書館 ID とを紐付ける登録をいいます。
Tカードでの武雄市図書館利用に関する規約

CCCが紐付けをするなら下のようになる。

貸出の流れ(変換表をCCCが持つ場合)

f:id:dechnostick:20130614033455p:plain

しかしこれだとCCCはTカード番号以外に図書館IDも保有していることになる。
また何らかの事情でCCCへ接続できなかった場合、図書館は利用者の図書館IDを確認できず、貸出業務を行えなくなる。

前回述べた方式は変換表を図書館が持つからCCCへ接続できなくとも図書館IDを得ることができ、滞るのはポイント付与のみだ。 業務の継続性の観点からも変換表は図書館が持つべきであり、ID紐付登録は図書館の業務とすべきだろう。


*1 武雄市図書館のTカード番号で「本人が特定されない」のは本当か

武雄市図書館利用に関する規約
Tカードでの武雄市図書館利用に関する規約

武雄市図書館のTカード番号で「本人が特定されない」のは本当か

keikuma さんのブログ *1 にもある通り、古賀教育部長は武雄市図書館がCCCへ利用者のTカード番号を渡したとしても「本人が特定をされない」と答弁し、よって「個人情報についてはしっかり守られる」と述べているが、本当だろうか。

6 図書館が取り扱う個人情報の類型と義務規定の適用
 図書館が取り扱う「利用者情報」は、生存する個人に関する情報であって特定の個人を識別できる場合には、個人情報保護法に基づく取扱いを行うことが義務づけられる。
 「利用情報」は、入退館記録や貸出記録など、その情報だけでは特定の個人を識別できない場合であっても、IDなど利用者に付された番号と照合することで特定の個人を識別できる場合は、当該記録も個人情報として取り扱わなければならない。なお、当該IDの付与者に関する情報を他の図書館へ照会しなければならないなど、図書館内部において「容易に」照合できない場合は個人情報とはならない。
新保史生『情報管理と法 ー情報の利用と保護のバランスー』勉誠出版株式会社, 2010年, P.61

武雄市図書館で本を借り、かつTポイントをもらうためには次の手続きが必要だ。

申し込み

  • 武雄市図書館利用に関する規約に同意する(図書館の規約)
  • Tカードでの武雄市図書館利用に関する規約に同意する(CCCの規約)
  • 図書館およびCCCへ個人情報を預ける

上記により図書館から「図書館ID」、CCCからは「Tカード番号」が付与される。
申請者に交付されるのはTカードであり、券面に記載されるのはTカード番号だ。
ここで図書館IDとTカード番号を「紐付け」る必要が生じるため、「ID紐付登録」を行う(CCC規約)。 ID紐付登録を行うと、申請者は「ID紐付会員」になる。

これで貸出が受けられるようになる。
本を選んで自動貸出機で貸出処理を行うと、内部的にはおそらく次のような手続きがなされるはずだ。

貸出処理

  • 自動貸出機はTカードからTカード番号を読み取る
  • 図書館のデータベースと照合し、図書館IDを得る
  • 図書館IDで貸出処理を行う

ポイント付与

  • 図書館システムはCCCのシステムへ接続し、Tカード番号、処理年月、処理時刻、付与ポイント数を渡す
  • CCCのシステムは受け取ったTカード番号の利用者に対し、指定されたポイントを付与する

これを絵にすると下のようになる。

貸出の流れ

f:id:dechnostick:20130613044439p:plain

ここで注目したいのは、ポイント付与対象の利用者は必ず「ID紐付会員」である点だ。これにより図書館IDとTカード番号は一対一で対応することになる。つまりTカード番号 T-1234 と図書館ID L-5678 が特定の個人に割り当てられたとして、どちらの番号からも当該個人を識別でき、かつどちらの番号からも、もう一方の番号を得られるということになる。

図書館は自身の業務を図書館IDで行うはずだから、Tカードの利用者についてはTカード番号を図書館IDへ変換する操作が必要になる。この変換で必要になる表は図書館のみが保持していなければならない。なぜならこれがCCCにあるとすると、CCCが図書館IDとの対応を知っているということになるからだ。

CCCは図書館から送られてきたTカード番号に対してポイントを付与するわけだが、そのTカード番号が「誰」なのかは、Tカード作成時に申請者から預かった情報から特定できる。 つまり武雄市図書館がCCCへ利用者のTカード番号を渡すと、CCCはその番号を元に個人を特定できるはずである。


*1 シリーズ武雄市TSUTAYA図書館(16) - 武雄市議会 平成25年3月定例会 石丸定議員一般質問
武雄市図書館利用に関する規約
Tカードでの武雄市図書館利用に関する規約

電子書籍が普及しないのは図書館のせいではなく、権利処理の問題だろう

話題の「電子書籍の仇敵は図書館」 *1 が大幅に「付記」されている。「バカ発見器」によって発見される側のバカとして、バカなりの考えをまとめたい。

筆者は電子書籍が普及しないのは図書館のせいだと言っている。

なぜなら図書館は:

  • 読みやすい紙の本をタダで貸し出している
  • 電子書籍より高コストの本をタダで貸し出しているのは経済的に不公正

だという。つまり電子書籍は紙の本より読みづらいのに、これが無料だったら電子書籍は普及しないよね、という話。でもそれは図書館の貸出が無料であることを否定する理由にはならないだろう。電子書籍の読み易さは図書館云々以前の話だ(ところで一部のマンガではスマホやケータイに特化した表現が生まれつつあり、紙とは違う「読書体験」を確立しつつある。電子書籍の読書体験が紙と比べて一律劣るとは言いがたい状況になってきている)。

読み易い紙の本をタダで貸している限り電子書籍は普及しないから、図書館は本来の姿に戻るべきだと論は続く。筆者の「そもそも論」は「図書館=書庫」のイメージが強いのだろう。アーカイブに値するものだけを蓄えろ、という話。
しかし著者は一方で、有料の情報をタダでばらまくなとも言っていて、一般庶民が購入を躊躇する高級単行本のみを所蔵すべきとの主張と整合しない。著者の立場なら、高級単行本もまたコストがかけられた商品であるはずだから、皆がお金を出して買うべきとなるはずだ。

また再販制度について筆者はこうも言っている。

文化普及を名目に出版側には再販制度によってむりやり全国一律の定価維持を強制しておきながら、血税で建てた図書館では地元民の御機嫌取りに無料でそれをばらまき、きちんと本を自前で購入する善意善良な読者にはその定価のみならず消費税まで追加請求する、ということが、文化的に、また、政治的、経済的に「公正」か。こんな正直者がバカを見るようなしくみは、正規の本の読者を愚弄していないか。

定価で買っている読者がバカを見ている、ということだろう。再販制度って出版社側が強制させられているという意識なの?と思って見てみると、日本書籍出版協会にはこうあった。

出版物再販制度は全国の読者に多種多様な出版物を同一価格で提供していくために不可欠なものであり、また文字・活字文化の振興上、書籍・雑誌は基本的な文化資産であり、自国の文化水準を維持するために、重要な役割を果たしています。
再販制度 | 一般社団法人 日本書籍出版協会

Q&Aもあり、見てみると次のようにある。

Q.なぜ出版物に再販制度が必要なのでしょうか?
A.出版物には一般商品と著しく異なる特性があります。
…書店での立ち読み 風景に見られるように、出版物は読者が手に取って見てから購入されることが多いのはご存知のとおりです。
再販制度によって価格が安定しているからこそこうしたことが可能になるのです。

Q.再販制度がなくなればどうなるのでしょうか?
A.読者の皆さんが不利益を受けることになります。
再販制度がなくなって安売り競争が行なわれるようになると、書店が仕入れる出版物は売行き予測の立てやすいベストセラーものに偏りがちになり、みせかけの価格が高くなります。
また、専門書や個性的な出版物を仕入れることのできる書店が今よりも大幅に減少します。
同上

「むりやり全国一律の定価維持を強制」されているようには見えない。

また電子書籍の図書館での扱いについて、筆者は次のように述べている。

しかし、いまの日本のような、遅れた著作権法の下で、図書館が電子書籍を「購入」し、これを不特定多数に貸与したとき、どうなるのか。

電子書籍が普及しないのは、貸与等権利関係の処理が進んでいないからではないのか?


*1 電子書籍の仇敵は図書館

無料貸出という広告と有料書籍

武雄市長が ad:tech Kyushu 2013 のパネルディスカッション *1 で図書館に関して言及した部分について、要約すると次のようになると思う。

  • 居心地が良ければアクセスも増える
  • (前図書館は)オペレーションが悪くて居心地が悪い空間だった
    • CCCのオペレーションを持ち込んで改善
  • 代官山は狙ってない
  • 貸出にポイント付けるのはCCCが嫌がった(「いくつか地雷を置いたんですよ」)
    • 「僕は納めますから」といったが余計騒ぎになった
  • 良い本というのは買っていく
    • 人は居心地の良い環境だと買う

居心地が良い空間だと本が売れないのではないかとの問いに対し、市長は次のように答えている。

樋渡:ものすごく重要な論点で、人は居心地の良い環境だと買うんですよ。…本についても見放題なんですけど、良い本というのは買っていくんですね。ここで買っていくという気持ちを大切にしないといけないなあと思っています。図書館だからこそ売れなくなるというのは違うと思う。

市長は前図書館を否定(居心地が悪い空間)し、新図書館を「居心地の良い空間」と定義した上で、「人は居心地の良い空間だと買うんですよ」と言っている。

当然、ad:tech という場で「拡散するコンテンツ」について語る以上、「貸出が増えました」は聴衆の聴きたいところではないだろう。どのように買わせるのかという視点になるのは自然だ。

しかしこれは単なるリップサービスとは思えない。市長の普段の言動とも整合する話だ。つまり新武雄市図書館というのは、Tポイントで注目を集め、居心地の良さで本を買わせる装置ということだ。ここには福祉の観点はない。市長は「良い本というのは借りられていく」「人は居心地の良い環境だと借りる」とは言っていない

市民の福祉という観点からは、「本が読める」ことが大切だと考える。そのための補助として「借りる」ことができる機能が具備されることが望ましいからこそ、図書館が必要とされるのだろう。「本が買える」のは福祉ではなく商活動だ。

商活動としての新武雄市図書館が貸出にTポイントという「地雷」を用意したのは興味深い点だ。新武雄市図書館は無料の貸出にTポイントというadを付けたことになる。これは地雷級の破壊力で周囲の耳目を集め、集客し、有料の商品への導線となっている。だからこそスタバの売上げが「6位くらい」で、ツタヤについても「売り上げは言えませんが、ものすごい数字を叩き出している」のだ。

仮に商業の活性化が必要だとしても、福祉の文脈とは異なるはずだ。新図書館構想というのは、福祉の部分を商業活動に置き換えていく行為だったのだろう。


*1 予定調和では人は集まらない、武雄市長が考える「拡散するコンテンツ」とは

武雄市図書館 5/23 22時頃の予約ランキング(ジャンル別含む)

武雄市図書館 5/23 22時頃の予約ランキング

すべて

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 海賊とよばれた男 上 百田 尚樹/著 2 10
2 聞く力 阿川 佐和子/著 8 2
3 舟を編む 三浦 しをん/著 11 0
4 永遠の0 百田 尚樹/著 2 8
5 ビブリア古書堂の事件手帖 4 三上 延/[著] 1 4
6 海賊とよばれた男 下 百田 尚樹/著 2 2
7 手のひらの砂漠 唯川 恵/著 1 5
8 姜 尚中/著 1 6
9 64 横山 秀夫/著 6 1
10 わりなき恋 岸 惠子/著 1 6
11 空飛ぶ広報室 有川 浩/著 9 0
12 モンスター 百田 尚樹/著 1 4
13 プラチナデータ 東野 圭吾/著 11 1
14 桜ほうさら 宮部 みゆき/著 1 4
15 禁断の魔術 東野 圭吾/著 6 1
16 ビブリア古書堂の事件手帖 三上 延/〔著〕 7 1
17 三匹のおっさん ふたたび 有川 浩/著 8 0
18 首長パンチ 樋渡 啓祐/著 4 0
19 こびとづかん なばた としたか/さく 7 4
20 藁の楯 木内 一裕/著 1 2
21 お金の話を13歳でもわかるように一流のプロに聞いたら超カッキ的な経済本ができちゃいました! 佐々木 かをり/編著 1 1
22 さきちゃんたちの夜 よしもと ばなな/著 1 1
23 鳥と雲と薬草袋 梨木 香歩/[著] 1 0
24 使いきる。 有元 葉子/著 1 0
25 新種発見!こびと大研究 なばた としたか/さく 1 2
26 謎解きはディナーのあとで 3 東川 篤哉/著 6 0
27 夢をかなえるゾウ 2 水野 敬也/〔著〕 6 2
28 冷血 下 高村 薫/著 6 1
29 ブルーマーダー 誉田 哲也/著 2 0
30 ソロモンの偽証 第3部 宮部 みゆき/著 7 0
31 水のかたち 下 宮本 輝/著 1 1
32 水のかたち 上 宮本 輝/著 1 2
33 入門者のExcel VBA 立山 秀利/著 1 0
34 心霊探偵八雲 9 神永 学/著 4 0
35 蜩ノ記 葉室 麟/著 1 1
36 なぜ、「これ」は健康にいいのか? 小林 弘幸/著 2 2
37 冷えとりガールのスタイルブック 1 1
38 嘔吐 ジャン‐ポール・サルトル/著 1 0
39 るるぶ長崎 ’11 2 0
40 失われし食と日本人の尊厳 弓田 亨/著 1 1
41 ちか100かいだてのいえ いわい としお/〔作〕 11 1
42 1Q84 BOOK2 村上 春樹/著 6 0
43 1Q84 BOOK1 村上 春樹/著 7 0
44 RDG 荻原 規子/〔著〕 3 0
45 ザ・シークレット ロンダ・バーン/著 1 1
46 図書館戦争 有川 浩/著 4 1
47 幻夜 東野 圭吾/著 2 0
48 看護のための最新医学講座 第12巻 日野原 重明/監修 1 0
49 ぞうのあかちゃんへのプレゼント 宗方 あゆむ/作 2 0
50 ノルウェイの森 村上 春樹/〔著〕 1 0

PC

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 入門者のExcel VBA 立山 秀利/著 1 0

コミック なし

デザイン・アート なし


ビジネス

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 夢をかなえるゾウ 2 水野 敬也/〔著〕 6 2

医療・看護福祉

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 なぜ、「これ」は健康にいいのか? 小林 弘幸/著 2 2
2 看護のための最新医学講座 第12巻 日野原 重明/監修 1 0

技術

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 オンリーワン 野口 聡一/著 1 1

教育

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 行儀よくしろ。 清水 義範/著 1 0

経済

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 お金の話を13歳でもわかるように一流のプロに聞いたら超カッキ的な経済本ができちゃいました! 佐々木 かをり/編著 1 1

建築 なし

語学・参考書 なし

産業 なし

自然科学 なし


社会

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 精神保健福祉士の仕事 住友 雄資/編 1 0

人文

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 ザ・シークレット ロンダ・バーン/著 1 1

政治・国際

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 首長パンチ 樋渡 啓祐/著 4 0

生活・趣味実用

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 使いきる。 有元 葉子/著 1 0
2 冷えとりガールのスタイルブック 1 1

文学・文芸書

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 海賊とよばれた男 上 百田 尚樹/著 2 10
2 聞く力 阿川 佐和子/著 8 2
3 舟を編む 三浦 しをん/著 11 0
4 永遠の0 百田 尚樹/著 2 8
5 ビブリア古書堂の事件手帖 4 三上 延/[著] 1 4
6 海賊とよばれた男 下 百田 尚樹/著 2 2
7 手のひらの砂漠 唯川 恵/著 1 5
8 姜 尚中/著 1 6
9 64 横山 秀夫/著 6 1
10 わりなき恋 岸 惠子/著 1 6
11 空飛ぶ広報室 有川 浩/著 9 0
12 モンスター 百田 尚樹/著 1 4

法律 なし


旅行

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 るるぶ長崎 ’11 2 0

料理

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 失われし食と日本人の尊厳 弓田 亨/著 1 1

歴史・郷土

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 世界大地図館 1 0

児童書

順位 タイトル 著者 所蔵 予約
1 こびとづかん なばた としたか/さく 7 4
2 新種発見!こびと大研究 なばた としたか/さく 1 2
3 ちか100かいだてのいえ いわい としお/〔作〕 11 1
4 RDG 荻原 規子/〔著〕 3 0
5 ぞうのあかちゃんへのプレゼント 宗方 あゆむ/作 2 0

AV資料 なし

その他 なし


館長とエポカル武雄フレンズの話

『図書館が街を創る。』*1から、館長とエポカル武雄フレンズの話

館長

CCCが運営に加わることには、私自身、懸念や不安もありました。民間企業というのは、基本的には利潤の追求がその存在意義ですから、市立図書館の "公共性" が、ないがしろにされてしまう部分が出てくるのではないかと

前武雄市図書館時代からの館長は、3年契約の終了を機に退任するつもりだった。
しかし留任の要請があり、新図書館館長として残った。新図書館は大人(館長の世代)をターゲットにするとしているが、館長自身はこの図書館を未来の子どもたちのために引き継ぎたいと考えている。

エポカル武雄・フレンズ

公共性がなければいかに多くの蔵書を有していても、それは図書館ではなく書店になってしまいます。公共図書館とは、ただ本を貸し出す機能があればいいというものではなく、市民が集う場となる必要があると思いますし、そこからボランティア活動などの市民の運動が発生していくのだと思います。

エポカル武雄・フレンズは「図書館サポーター」。本文に登場しているのは音訳・点訳のメンバー。

出典:
*1 株式会社 楽園計画 編『図書館が街を創る。「武雄市図書館」という挑戦 Challenge of The Takeo City Library』ネコ・パブリッシング, 2013

『首長パンチ--最年少市長GABBA奮戦記--』を読んだ

『首長パンチ--最年少市長GABBA奮戦記--』*1を読んだ

市長、もともと首長になりたいという気持ちはあったものの、定年過ぎてから立候補するものだと漠然と思っていたところ、無投票だからと担がれて市長選に立候補した(結果として無投票にはならなかった)。

病院問題は市長に当選するまで知らなかった(高槻にいたから)。赤字が膨らんでこのままではまずいとレクを受けても「そもそも市民病院の責任者は誰なんですか」「あんたでしょうが」「あんた、バカじゃなかね」と言われる状況だった。民間移譲に関する説明会で看護師さんから「サンドバッグ状態」にされるなか、看護師さん当人から雇用に関するメッセージがないから問題がこじれていると「口パク」で「こ・よ・う」と指摘されて初めて気づき、その場で雇用を保障すると言うものの、「それなら、どうしてもっと早く、雇用のことを話してくれなかったのですか」と言われてしまう。

市長はうっかりのひと言で沖縄にトバされたり武雄の政治家に「太い」と思われて市長に担がれるきっかけになったり、思ったことを口にすることで人生を回していっている感じがある。

市長の「スピード感」というのは、沖縄にトバされてからの言わば「出たとこ勝負」的なところから出発しているように思う。武雄市長になるのも周囲に担がれてのことで、当人の中では高槻市長になる選択肢もあった(担ぐ動きもあったらしい)。「武雄市を良くしたい」よりも「首長になれたらいいな」が近いのだと思う。とは言え選挙および当選後の活動を通じて武雄の問題点に触れ、これを改善しようとする中で「武雄市を良くしたい」という気持ちは募っていったのだとは思う。しかし出発点は違うのではないか、というのを本を読んで感じた。

市長になる前は高槻市にいて、そこは沖縄から本省に戻された後で自ら志願して行った先。
沖縄にトバされてからの「出たとこ勝負」が性に合っていたということなのだと思う。書類と格闘するのではなく、人と向き合っていたいとのことで、当時人手を求めていた高槻市に行くことになった。

だから高槻市に関する事前知識はなくて、着いてから色々とやることになる。つまり問題意識を出発点とするのではなく、ここでもやはり「出たとこ勝負」。ここでやったことは言わばアイデアマン的なもので、別な本でも触れられているけれど、既存のアイデアと自分の趣味を掛け合わせて新しいことをやっていくというもの。この手法は武雄市長になってからも続いている。

市長のスピードは、理念型の政治家ではないことの裏返しでもあると思う。
大きな理念があってそこに向けてひとつずつ実績を積み上げていくようなタイプではなく、見えている問題を最速で解いていくやり方。だからハコをゼロから作るような大きなことをやるのではなく、既存のものに手を加えたり再定義することで新しさを出していく。この手法で合併前の旧庁舎を「有効活用」したりしている。図書館もその延長にあると考えてよいのかもしれない。

参考:
*1 樋渡啓祐『首長パンチ--最年少市長GABBA奮戦記--』講談社, 2010年