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気鋭の労務専門弁護士である向井蘭氏に、労働法と労務トラブルの「経営者のための」ポイントを解説してもらう連載の第3回。経営者が絶対に知っておかなくてはならない「解雇」を取り上げる。労働者への退職勧奨は自由にできるが、解雇には予想外に大きなリスクがあることはあまり知られていない。

今回の記事で解説した「二重払い」について、読者の方から質問をいただきましたので、新たに第3頁にその根拠を追加しました(2012年3月30日18時40分)。

解雇→仮処分→敗訴のフルコースの代金は数千万円

 労働契約法が制定される前から、裁判例などにより使用者の解雇権は大幅に規制されています。労働者を解雇するには相当な覚悟が必要です。

 最悪のケースを考えてみましょう。労働者Aを2011年10月1日付けで解雇したところ、Aは弁護士に相談を持ちかけて賃金仮払いの仮処分を申し立てました。仮処分とは裁判所の命令で行なわれる暫定的な処置のことです。有名なのは賃金仮払いの仮処分で、労働者が解雇の無効を主張して復職を求める場合、裁判中の生活費を確保するために賃金仮払い仮処分の申し立てを行ないます。仮処分の決定が下されるまでには、早くても3~6ヵ月かかります。

 たとえば12年3月1日に仮処分命令が出されたとしましょう。すると会社はその日から給料を支払わなくてはならなくなります。そして裁判中の生活費を確保したAはいよいよ本裁判を起こすわけですが、急ぐ理由はなくなりますので、ゆっくり裁判を進めるでしょう。

 仮に5月1日に本裁判を提起すると、判決が下されるまでに1年くらいかかりますから、会社は12年3月1日から13年5月1日までの1年2ヵ月分、給料を支払い続けることになります。Aの給料が30万円だとすれば、30万×14ヵ月=420万円もの給料を支払うわけです。

 会社側とすれば、これだけでも大きな痛手でしょう。しかし、これだけでは終わりません。会社側が敗訴した場合、裁判所はAに労働者としての地位があったのに会社が働かせなかったとして、解雇を言い渡した11年10月以降の給料の支払いを判決で命じるのです。

 すると11年10月から13年5月までの19ヵ月分の給料、つまり30万×19ヵ月=570万円を支払うことになります。

 こう説明すると、すでに420万円支払っているから差額の150万円を支払えばいいと思うでしょう。しかし残念ながら420万円は控除されません。二重払いを命じられ、合計で990万円もの給料を支払わなくてはならないのです。

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向井 蘭(むかい らん)

 

弁護士。1975年山形県生まれ。東北大学法学部卒業。2003年に弁護士登録。狩野・岡・向井法律事務所所属。経営法曹会議会員。労働法務を専門とし、解雇、雇止め、未払い残業代、団体交渉、労災など、使用者側の労働事件を数多く取り扱う。企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務めるほか、『ビジネスガイド』(日本法令)、『労政時報』(労務行政研究所)、『企業実務』(日本実業出版社)など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
著書に、『時間外労働と、残業代請求をめぐる諸問題』(共著、産労総合研究所)、『人事・労務担当者のための 労働法のしくみと仕事がわかる本』(日本実業出版社)がある。


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