米大統領から大変な「宿題」を持ち帰った習近平の憂鬱
WEDGE 6月13日(木)10時15分配信
■中国にとっての北朝鮮の存在価値
北朝鮮の核問題についても同様である。そもそも今まで、北朝鮮の核開発が進んでいる中で、中国はなかなか北朝鮮に対して思い切った制裁措置をとることが出来なかったのは、中国側の切実な理由があってのことである。
本来、北朝鮮の存在と一定の範囲内での暴走は中国にとってむしろ好都合である。というのも、北朝鮮が暴れると、アメリカは結局中国の力を借りてそれを押さえつけるしかないため、アメリカに対する中国の立場はその分強くなる(実際、今回の米中首脳会談で習主席がアメリカからあれほどの厚遇を受けた理由の一つもやはり北朝鮮問題があるからである)。そういう意味においても北朝鮮は中国にとって価値のある存在だから、思い切った制裁措置で完全に切り捨てるようなことは当然したくはない。
しかも、北朝鮮をあまりに追い詰めて体制の崩壊や軍事的大暴発を誘発してしまえば、様々な面で直接的な被害を受けるのもやはり領土を接する中国自身であろう。そして、もし北朝鮮が崩壊して朝鮮半島が米国の同盟国である韓国によって統一されるようなこととなれば、それこそが中国にとっての悪夢なのである。
したがって中国は結局、北朝鮮に致命傷を与えるような制裁措置に踏み切ることがなかなか難しいし、一方の北朝鮮は、どんなことがあっても核の開発を放棄せずに最後まで踏ん張るのであろう。そうなると、北朝鮮の核開発阻止のための「具体的措置」を取ることをオバマ大統領に約束したはずの習主席は今後、自らの「準同盟国」であるはずの北朝鮮との戦いを始めなければならないが、その戦い自体はむしろ中国の国益を損なうものであり、しかもそれはまったく勝算のない長丁場の戦いとなるはずだ。
言ってみれば、オバマ大統領を喜ばせて首脳会談を成功させるためには、習主席は実に大変な「宿題」を持ち帰ったということである。
■習近平の抱える「ジレンマ」
場合によって中国はまた、前述したサイバー攻撃対応の「誤魔化し策」と同様、北朝鮮にお灸を据える程度の「制裁措置」をとることで米大統領との約束を果たしたこととして、基本的に北朝鮮の体制温存の道を選ぶ可能性も大であろうが、しかしそれでは、オバマ大統領との信頼関係作りも「新型大国関係の構築」もまったく無理であることは明らかだ。
言ってみれば、自分の力では解決できそうもない宿題を中国に持ち帰った習近平国家主席は、今や深刻なジレンマに陥っているのであり、カリフォルニア州の保養施設で大変な厚遇と歓待を楽しんできた彼は今後、自らの抱えるジレンマの中で苦しんでいかなければならないのである。
そして一旦、習主席は持ち帰った宿題を満足に解決できなくなってオバマ大統領を失望させてアメリカからの信頼を失ってしまうようなこととなれば、アメリカを相手にした中国の「大国外交」は結局失敗に終わってしまうことは明らかである。
さて習主席は一体どうするのか、まさにこれからの見どころである。
石 平 (中国問題・日中問題評論家)
最終更新:6月13日(木)10時15分
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