日銀は11日、金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和」を継続することを決めた。決定の発表は午前11時48分と通常と比べて早かった。東京株式市場は前場が11時半まで、後場は午後0時半からなので、昼休みの間で公表となった。前場は決定会合を控えて様子見であったが、後場になって下落し、「決定会合の結果への失望売り」と市場で解説された。
ただ、株式市場はいろいろな思惑で取引される。前日の一部の新聞で、金融機関に対して年0・1%の低利資金を貸し出す「固定金利オペ(公開市場操作)」の期間を現行の最大1年から2年以上に延長する案が検討されると報じられた。
この案自体は実体経済に与える政策として大した話ではないが、思惑で動く投資家にとっては、案が実現するかどうかがポイントとなった。実現する方に賭けた投資家は株価指数先物などを先回りして買っていた。それが実現しなかったわけだから、今度は売りに回る。それを「失望売り」と報道するわけだ。勝手に賭けてそれが実現しないと「失望」になる。検討されると報じた一部の新聞では、市場関係者の声が出ており、思惑に賭ける投資家の「催促」に新聞が応じたのかもしれない。
これは株式、先物市場の話だが、市場は常にこうした話がつきまとっている。これにいちいち金融政策で対応したら、政策として支離滅裂になる。なにより、黒田日銀が採用しているインフレ目標には、株式や地価などの資産市場の「価格」は含まれておらず、一般の財・サービスで構成される「消費者物価指数」が目標対象だ。さらに、その背後にある「実体経済」の動きがどうなるかを日銀は見ている。
4月4日以来の日銀の公表文書で頻繁に使われる言葉がある。「予想物価上昇率」だ。白川日銀時代には使われていなかった言葉だ。これこそ、黒田日銀のキーワードである。
11日の決定会合でも、「予想物価上昇率については、上昇を示唆する指標がみられる」、金融政策は「実体経済や金融市場における前向きな動きを後押しするとともに、予想物価上昇率を上昇させ、日本経済を15年近く続いたデフレからの脱却に導くものと考えている」と、4月4日と同じ表現ぶりだった。
予想物価上昇率は、様々な指標でチェックできるが、その一例として物価連動国債から算出するブレーク・イーブン・インフレ率がある。それは最近2週間くらいは低下している。筆者のこれまでの計測では、マネタリーベース(日銀が供給する通貨量)の増加から半年程度後で上昇するのだが、今回はかなり先取りして急ピッチで上昇してきた。このため、その調整があるのだろう。
ただし、半年前、1年前と比較すれば上昇の傾向に変化はない。予想物価上昇率の傾向的な動きに変化がない限り実体経済への影響も少なく、金融政策が大きく変更されることはない。目先の市場の動きで金融政策は左右されたら、かえって実体経済に悪影響になる。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)