ケルト神話は元々口承で伝わったものが、
文字で書き表されたために、様々なヴァージョンが存在します。
そんな中で、私が初心者にお勧めしたいのは
井村君江「ケルトの神話-女神と英雄と妖精と」(ちくま文庫)です。
この本は、アイルランドの神話に限定していますが、
まず、神話に登場するドルイドやオガム文字について解説して、
「ダーナ神族の神話群」「アルスター神話群」「フィアナ神話群」に分類して書かれています。
「ダーナ神話群」では、トアッハ・デ・ダナン(母神ダヌの子である神々)や鬼神フォモール(フォウォレ)の特徴が
分かりやすく解説されています。
フィル・ボルグ(雷族)との戦いで片腕を失ったヌアザ(ヌアドゥ)に
銀の義手を作った医神ディアン・ケヒト、
更にヌアザの腕を元通りにしたミアハの話は面白い。
巨体で、太鼓腹で力持ちのダグダ(ダグザ)は、巨大な棍棒を使って死者を生き返らせるという、
どこか北欧神話のトールを髣髴させる。
また、ダグダは大食漢で、多くの女神との間に子どもをもうけている。
サウィンはダグダとモリガン(モリグー)が結ばれる時である。
ダグダは、ボイン河の女神ボアーン(ボアンド)と横恋慕をしてオイングス(アンガス)をもうけた。
「アルスター神話群」では、光の神ルグ(ルー)の血を受けた天才的な若武者ク・ホリン(ク・フリン、クーコラン)が
メイヴ(メドヴ)女王率いるコナハト(コノート)と戦う話が中心に書かれている。
ク・ホリンが異界で女神から武術(もしくは妖術)を習う話は面白い。
「フィアナ神話群」では、英雄フィンが知恵の鮭を食べて、世界のあらゆる知識を身につけた話、
子鹿に変身した妖精サヴァ(サドヴ)との間にオシーン(子鹿という意味)をもうけた話などが書かれている。
それに比べると、フランク・ディレーニー・鶴岡真弓訳「ケルトの神話・伝説」(創元者)は、
トアッハ・デ・ダナンやフォモールなどの特徴が充分に述べられていないし、
ディアン・ケヒトについても書かれていない。
フィル・ボルグがアイルランドに上陸した8月1日(ルーナッサ)を「記念日」と書いているが、
これは記念日というよりも季節の節目(日本で言えば立秋)の祭りである。
ダグダについては、「エーダインへの求婚」で、冒頭のオイングスの誕生の箇所に
「エオヒド(・オラテル)」と書かれ、ボアーンは「エトネ」と書かれている。
しかし、これでは、人間に生まれ変わったエーダインの夫であるエオヒド(・アレウ)と紛らわしい。
その代わり、ロイガレ、コナル、ク・ホリンを争わせるブリクリウの話、
妻子を異界の戦士に連れ去られたコルマク・マク・アルトの話が載っている。
ケルト語は方言が多く、時代によっても発音やスペルが色々とあるので、カタカナ表記が難しい。
また、同じ人物がいくつかの名前で呼ばれたり、同じ名前の人物が何人か登場する。
そのために、一緒に見ていただくのにお勧めなのが、
ジャン・マルカル、金光仁三郎/渡辺浩司訳「ケルト文化事典」(大修館書店)だ。
巻末には、訳者の概説や登場人物の系図も掲載されているので、
神話を読みながら合わせて見て頂くと一層分かりやすい。
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少しイギリス地方の話は読んだのですが、
神話はどの本を借りようか迷っていたのでこの2冊探してみます^^